i-won
「改めまして、百合野様、ユーザー登録を御願い致します。」
ホログラムのメイドは、笑みを絶やさずにそう言った。
(闇金の受付かよ!こんな怪しい営業スマイルって、今時、逆に清々しいかも。)
そうこの時までは、理性でも、<カン>でも、答えはNOだった。
「NOよ!絶対にイヤ!」
銃を構えたまま、シオンは言い放った。
ホログラムのメイドは、変わらずの笑顔で、少しも残念そうでなく。
「そうですかぁ、大変残念ですが、登録して頂けないなら、私はこのまま消えさせて頂きます。」
ホログラムのメイドが、また頭を下げた。
ホッ シオンから少し緊張が抜けた。
「でも、よろしいのですか?このまま私が消えると、百合野様の復讐の機会も、今夜の宿も無くなりますよ?」
メイドは、さらに清々しいほど怪しい笑顔で、シオンに問うた。
「え!」
「なぜ・・」
「なぜ、そのことを知ってんの?」と、シオンは言いかけてやめた。
そして、言葉を飲み込みながら、悟った。
(すでに、こいつ等の掌の上、嵌められた!やられた!)
(こいつ等、”YES"しか選べない様に、私を調べ上げている。)
事実、”復讐”のキーワードは、理性も<カン>も真っ黒と判断したものから、徐々に色を抜いていった。
「あんたに一体何が出来るわけ?たかが、高い携帯じゃん。」
「そうですね。まずは、私の性能を御紹介しますね。」
コホンと咳払いをして、胸に手を置き、
「"i-won" インテリジェンス、ワンド、オブ、ネメシスの略ですが、意味は特に無いです。」
「製作者が語呂合わせで某有名携帯に似せました。」
(何それ。身も蓋も無いオチ。)
「あ、ちなみにネメシスとは、ギリシャ神話の女神で、ワンドは魔法の杖という意味です。」
「防水、防塵、防弾、耐圧..」
「防弾?」
「ハイ!防弾です。結界を纏っているので、マグナムの直撃でも大丈夫ですから、シオン様の銃では弾の無駄です。」
(なんで、携帯のくせに防弾?)
「ええと、まあとりあえず、世界トップレベルの丈夫さです。」
(誰も携帯に防弾装備つけないだろ!胸まで張って言う事か!)
「魔法をデータにてダウンロードして、特殊ホログラムプロジェクターにて、任意の場所に魔法陣、呪文等を照射。某メーカー特注のスピーカーで呪文を詠唱。誰でも魔法使いになれる”マギカプリ”搭載!」
「お金と魔力と引き換えで、先ほどの女性と同等の力を手に入れられます。」
「お金?」
「はい、”マギカプリ”は全て有料です。」
「使用者には、命と財産を削って頂きます。」
また、清々しいほどの営業スマイルで、メイドが微笑む。
「チョイ待ち!フツー魔力って生命力じゃないの?魔力使い過ぎると、死んじゃうみたいな。あと、お金もとるの?さらに?」
「まあ、確かに魔法を使い過ぎると死んじゃうですけど、その辺は、まだ完全に解明されてないんです。」
「けれど、百合野様には、魔力がある方だと思いますよ。」
「ぶっちゃけ、不確定要素が多いので、使い過ぎない様、お金を目安の一つとして設定してます。」
「ぶっちゃけられも、私、お金ないし...」
「あー、大丈夫です。御登録後、まずチュートリアルを行ってある程度の資金をゲットして頂きます。」
(ゲームみたい。)
シオンの感想が顔に出たのか、メイドは営業スマイルに磨きをかけて
「その通りです。命と財産を賭けて行うゲームです。ま、人生も同じですね。」
シオンは、もう決断していた。やつらに復讐出来るなら、命を賭けるなど安いものだと。取引相手が悪魔でも、構わない。これは、チャンスだ。この先の人生で、2度と無いチャンスだ!さきほどまで、真っ黒だった疑念が白くなって行くのが判る。ただ、それはシオン自身が白く見たいと思っで見るもので、外からみれば真っ黒のままなのだが。
「本当に力が手に入るの?本当にお金無いよ!臓器とかのブローカーじゃないの?」
「...本当にあいつらを殺せるの?」
「力は手に入ります。お金もこれから手に入ります。ブローカーじゃありません!」
「あと、確実にあなたを苦しめたやつらを殺せます。」
「改めまして、百合野様、ユーザー登録を御願い致します。そうすれば、あなたの復讐は達成されます。」
「OK、登録するわ。」
シオンは、銃を下ろしながら、そう答えた。
「何をすればいいの?指紋認証?声紋?顔?」
「私に名前を付けて下さい。それだけです。」
「え?それだけ?」
「ええ、それだけです。それだけで全て済みます。」
「OK.じゃあ、メイドなんで”メイ”でどう?」
「安直ですが良いです。では登録名”メイ”でユーザー登録します。」
「完了しました。では、早速チュートリアルを始めましょう。シオン様。」
今夜、シオンは、6つ目の武器を手に入れた。