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5.マグナズイレブン1


男は、自分の境遇を不幸だとは思っていなかった。

大学までは特に失敗する事無く進んでこられた。ランクが高いとは言い難いが、最終学歴の大卒は、まだまだ日本では就職の武器になった。


のちに入った会社の先輩に聞いた事だが、日本の会社の多くはまだまだ学歴社会なのだという。

ただ、大学の名前までは気にしない事が多いらしい。

人事のお偉いさんだって、かつては普通の子供だったのだ。


子供が勉強を嫌いな事くらい理解している。

だから、学歴というのは、その嫌な事を我慢してきちんとやってきた証明になるのだという。


勿論、高卒が悪い訳でも、大卒が絶対な訳でもない。

しかし、筆記試験と面接だけでは、その人材の本当の実力はわからない。

即戦力も欲しいが、伸びしろがないならどのみち大して役に立たない。


それならば、真面目で従順な新入りが欲しい。

それが企業の、少なくとも、男の入った会社のグループの本音だと言う。


ただし、と先輩は続けた。


会社に入ってからは、学歴ではなく、どこの大学を出ているかが重要だと言う。


学閥というやつだ。


仕事をするだけなら問題が無い。ある程度なら出世もできる。


しかし、社内の人事に影響を与えるようなところへ登るには、学閥に入れなければ不可能なのだと言う。


男は自分の境遇を不幸だとは思っていなかった。


社内を牛耳る学閥に入れなかったので出世は無理。

しかし、そもそも男は自分がそこまで上に行けるような人間だとは思っていなかった。


それこそ、会社によっては存在しない、平社員に毛が生えた程度の役職までだろう、と思っていた。

何かの偶然が重なれば、『長』がつく役職の下の方にはなれるかもしれない。


その程度の認識だった。


男は自分の境遇を不幸だとは思っていなかった。


仕事はしているし普通に食べていける。忙しい時もあるが、ブラック企業という訳ではない。

彼女こそいないが友達はそれなり。

貯金も少しずつはしているので、会社が潰れでもしない限りは、このままの給料でも問題無く生きていける。


インドア系ではあるが趣味もある。

充実しているとは言い難いが、乾燥している訳でもない私生活。


男は自分の境遇を不幸だとは思っていなかった。

しかし、幸福だとも思っていなかった。


だから男は、今の世界を捨てる事に何の躊躇いも無かった。


「うわー、マジかー……」


寝る前の暇つぶしにとまとめサイト巡回中に見つけた怪しげなサイト。

そこに書かれていた怪しい文言。

『新しい世界で新しい自分を見つけてみませんか?』


好奇心から先へと進み、そして男は躊躇なく異世界へ行く事を選んだ。

無味乾燥だった自分の人生に、こんな転機が訪れるとは思っていなかった。

最後のGOを選択するまでは期待に胸を膨らませていた。こんなに興奮したのはいつ以来だろう。


そして今、その興奮はやや収まり、同時に後悔が押し寄せて来ていた。


「まぁ、今更悔やんでも仕方ないな。あのサイトが本物だったって事は、元の世界に戻れないのも本当なんだろうし」


ならば折角なら楽しむべきだ。

男は前向きにそう考えた。


「チートこそ無いけど、ちょっとは自分でも妄想してた異世界転生だ。しかも、外見だけは超絶イケメンになれるときた」


しかもチートは無いとは言え、男は勇者だ。

勇者ストーリーLV1は魔王のクランを全滅させろ、というものだった。


サイトの設定を思い出せば、恐らくこの先に待っているのは自分と同じく転生した元日本人。魔属側を選んだ者達だ。


「いや、日本人とは限らないのか。ともかく、一人で複数人を相手にしろって事は、こっちはそれだけ強いって事だ」


チートと言う程ではないかもしれない。けれど、少し体を動かしてみれば、男が元の世界で有していた身体能力を遥かに超える性能を持っている事はわかった。


「勇者で強くて超絶イケメンとか、これはもうこの世界の勝ち組確定だろ。うん、実際に異世界に来ちゃった事を実感してちょっと後悔したけど、やっぱりこっちに来た事を選んだのは間違いじゃなかった。俺の人生、宝くじにでも当たらない限り、勝ち組確定の道は用意されてなかったはずだからな」


しかしそのバラ色の未来を掴むためには、この【最初の試練】を乗り越えなければならない。

チュートリアルが終わり、眩い光に包まれたと思ったら、男は薄暗い石造りの通路に居た。

背後の扉はびくともしない。暗闇の先に進んで魔王を倒さなければならないのはわかった。


生き残らなければ、折角掴みかけてるイージーモード人生が無駄になる。


「よし!」


一つ、気合いを入れて男は歩き出す。


「む……!?」


暫く進むと、豪奢な装飾が施された、巨大な扉が見えて来た。

二対一枚の扉。レバーのようなノブが二枚の間近くにつられていている事から、両開き、蝶番がこちら側から見えないので、押し開くタイプの扉だとわかる。


その前の通路と壁、扉のノブと天井が、淡く光っているのが見えた。


「なんだ……? あ、『罠感知』か」


男の職業はヒーロー。しかし、人間の種族スキル、『副業』により、もう一つ職業を獲得していた。

それによって獲得したのはレンジャー。


ちょっと勇者っぽくないなとは思ったが、異世界転生ものでは、この手の裏方の職業はチートに繋がる事が多い。

ダンジョン探索などがあった場合、もしも自分一人だったらまずいと思ったのも理由だ。


いきなり魔王のダンジョンに挑戦させられるとは思っていなかったが。


しかし、通路一本に、明らかにこの先にボスがいるらしい扉、というシンプルな作りのダンジョン。


「やっぱり予想通りに、俺と同じ、転生したばかりの奴らなんだろうな」


侵入者を撃退するためにダンジョンを作り込む暇が無かったという事だろう。


「ダンジョン経営的なものなら、ちょっとそっちもやってみたかった気もするな。そういう要素がなくて、ダンジョンを拡張するなら自力でやらないといけないっていうなら御免だけど……」


とりあえず、通路のと壁の罠は回避が可能だ。天井とノブの罠だけ『罠解除』のスキルで無効化する。


ノブを下げてゆっくりと扉を開ける。


「ち、なんだよ、トラップひっかからねぇじゃん!」


扉を開けると、広い部屋があった。その部屋の奥、玉座に座った男が、そのように毒吐くのが聞こえた。


様々なタイプのモンスターの中に、一人、人間とあまり変わらない外見をした、黒衣の美青年が座っている。

あれが魔王だ、と直感的に理解する。


「俺は勇者マグナだ。多分、お前らもそうなんだろ? なら、用件はわかってるよな?」


言って、魔王へと近付きながら、男――マグナは剣を抜いた。


「ふん、バカめ。言わなければ俺達と同じく、この世界に来たばかりだとバレなかったのにな。それでは強くてもたかが知れてるだろ」


「言わなきゃお前がこの世界に来たばかりだってバレなかったのにな」


「ぐ……う、うるさい! 生意気な奴め! 勇者と言いながらただの人間だろ!? 折角土下座でもすれば俺のクランに入れて命だけは助けてやろうと思ってたのに、もう許さんぞ!」


中身は子供なのかな? マグナは喚く魔王を見てそう思った。

周囲のモンスター達の反応は冷ややかだ。

普通に考えれば、魔王も他のモンスターも地球から転生してきた元人間。


そして、この反応を見れば、ほぼ初対面なのだろう。


つまり、忠誠や信頼は勿論、連携も碌にないはず。

烏合の衆だ。数の多さに恐れるな。


自分にそう言い聞かせて、更に前に出る。

すると、一人のモンスターがその進路に割り込むように前に出て来た。


黒い鎧兜に身を包み、盾と剣を持った、二メートルを超える身長のスケルトン。


「スケルトンとは種族が違うけど、多分スケルトンより上位のアンデッドだよな」


「よ、よし、行け! おい、お前らもわかってるんだろうな!? 俺が死んだらどうせお前らも死ぬんだ! 死ぬ気であいつを殺せよ!」


魔王にそう命じられて、渋々という感じで他のモンスターも前に出る。


やはり、信頼関係は築けていない。それどころか、嫌われてさえいるように見える。


「まぁ、この世界で好き勝手に生きるって決めたのは、お互い様か!」


そしてマグナは走り出した。デスナイトが反応するが、やはり、マグナの方がステータスが高いらしく、それより速く、マグナの剣が巨体のスケルトン――デスナイトを斬りつける。


サイトの種族設定に、デスナイト存在していなかった。

ランダム設定で転生可能な種族だろうとあたりをつける。


その想像は正しく、デスナイトは種族をランダムにすると転生可能であり、ミノタウロスやケンタウロス、ヴァンパイアといった辺りと同じく、一段階他のモンスターと比べて上の種族だ。

更にデスナイトは種族スキルで『物理耐性』を保有している。

いくら勇者のステータスが高くても、一撃で倒せる可能性は低いだろう。


しかし、剣が命中した瞬間、マグナはその切先が一瞬青く輝いたのを見た。そして、それで勝利を確信した。


剣を振り抜くと、デスナイトは砕けるように散って、光の粒子へと還っていった。


「なっ……!?」


「う、嘘だろ……!?」


「ブシンさんが一撃……!?」


魔王と、魔物たちがそれを見て驚く。


マグナのステータスは確かに高いが、しかしこれは、マグナの持つスキル、否、マグナの持つ、剣のスキルだった。


勇者に与えられる剣、『刈り取る者』。

比較対象が無いからわからないが、恐らく剣自体の性能も破格だろう、とマグナは考えていた。

しかしそれ以上に、この武器にはLVが存在し、所有者と同じように成長する。

そして何より、スキルを獲得できる。


チュートリアルでこの剣を与えられた時、任意で一つのスキルを獲得させる事ができた。

そこでマグナが選んだのが、『一撃死』のスキルだ。


一定確率で、ダメージが通った相手を一撃で殺すスキル。

確率は、自分の『器用』と相手の『幸運』の差。

当然、自分の方が高ければ高いほど、発動確率は上がる。


勇者であるマグナのステータスはこの場の誰よりも高い。それは、相手と自分の強さを比べて、どちらが上かどうかを漠然と判断できるヒーローの職業スキル『致死予測』によってわかっていた。

そして、サイトの設定で見た限り、細かい数字こそ書かれていなかったが、スケルトンの幸運はE評価。EからSSまでの七段階評価で最低のE。

スケルトンを始め、アンデッド系の種族は軒並み幸運が低かったので、デスナイトもそうだろうと推測する事ができる。

だから、成功する確率は高いと思っていた。


(『一撃死』自体は汎用スキルだから、この中の奴らも持っていたり知ってたりするかもしれないから、カラクリはわかるかもしれないけど、けどそれは、スキルの発動条件もわかってるってことだからな)


マグナのステータスの高さが、より際立つだけだ。


「さて、勇者の専用職業ヒーローには、『英雄の器』っていうスキルがある。これは、対象をスキル所有者のクランに入れるスキルだ。勇者ストーリーのLV1の内容はお前達の全滅だ。けれど、俺のクランに入ればその対象から外れる」


マグナの言葉に魔物たちがざわつく。

自分達の中で最もステータスの高かったデスナイトが一撃で倒された事で、彼らの心は完全に折れていた。

それ以上に、姿が異形とは言え、目の前で他人が死んだ事に、恐怖していた。


「ストーリーの詳細を見ると、魔王クランの全滅は、魔王を倒すだけでも達成できるそうだ。てっきり、『英雄の器』を使った場合に配慮した条件なのかと思ったが、さっきの魔王の言葉を聞いて、この条件の真の意味がわかったよ。お前達、魔王が死ぬと一緒に死ぬんじゃないか?」


マグナの言葉に驚いた魔王たちの反応が、真実であると告げていた。


(まぁ、でないと出会ったばかりの魔王様のために命を懸けて勇者と戦えるわけがないよな)


「魔王が死ぬと一緒に死ぬのは、魔王のクランに登録されている者だけ。あなたのクランに入れば魔王のクランから抜けられるの? それとも、兼任になる?」


尋ねたのは、バニーガールにしか見えない魔物だった。ただ、モンスターである事を考えると、頭から生えた耳は本物なんだろうと推測できる。


「クランの兼任はできないそうだ。つまり、こっちのクランに入ったら、自動的に元のクランからは抜ける事になる」


「入るわ」


マグナがそう説明すると、バニーガールは即答した。


「いいのか? 俺より魔王の方が強いかもしれないぞ?」


「かもしれないけど、どっちが強いか私達にはわからないわ。決着がついてからじゃ遅いでしょう? それなら私は、私の付きたい方に私を預けるわ」


「言っておくけど、俺は優しさとかでお前達をクランに勧誘してる訳じゃないぞ。俺の顔を見ればわかるだろうけど、俺はこの世界で好き勝手に生きるつもりだ。早い話が、異世界転生チーレム物語をこれから開始するつもりだぞ?」


「こっちの魔王も似たようなものだから構わないわ。命令権と命が連動しているのを盾に、仲間を捨て駒にするような奴よりはまだマシだわ」


「俺も魔王だったら同じ事をしていたかもしれないぜ?」


「でも今のアナタは勇者でしょう?」


バニーガールの言葉にマグナは苦笑した。そして右腕を差し出す。


「ならば俺の仲間になれ」


「承知、でいいのかしら?」


言いながらバニーガールがマグナの手を取ると、そこを中心に青白く、眩い光が発せられた。

光が収まった時、バニーガールは自分の姿形こそ変わっていないが、中身が変化した事を悟った。


これまでは、ただ整っているな、としか思わなかったマグナの外見が、非常に魅力的に見えたからだ。


「なるほど、同じクランに入ると、勇者のビジュアル設定がちゃんと機能するようになるのね。わざわざ設定値100にしてたでしょ?」


「それを言うなら、君だって、今まで見て来たどんな女性より綺麗でセクシーだよ」


マグナがバニーガールの手を取ったまま引き寄せ、腰を抱く。


「俺はマグナ。君は?」


「さざんか、よ。種族はヴォーパルバニー。職業はエグゼキューショナー」


「物騒過ぎない? ていうか、俺一応職業とか種族全部確認したつもりだったけど、そんな職業も種族も見なかったな」


「ランダム設定よ。任意で選べないものも選択されるみたいね」


「あ、あのう……」


かなり近い距離で見つめ合ったまま自己紹介をしていると、一つ目の魔物が横から割って入った。


「お楽しみ中のところすみません、私もクランに入れて頂けないでしょうか? ビジュアル値65じゃ駄目ですかね?」


「いや、構わないよ。他にも入りたいって奴はそこに並びな」


すると、数名の魔物が近寄って来た。

全員が女性、というより、クラン内の女性が全員マグナ側についた。


「恋愛できるのが同じ種族か魔王しかないのよ。クランに入ればアナタとも恋愛できるのなら、魔王よりはアナタを選ぶわ」


「くそ、お前ら、ふざけやがって……!」


魔王が憤るが、玉座に座ったままでは威厳も何もない。

勇者が女性陣を勧誘している間、何もできなかったところが二人の器の差を如実に表していた。

それを見てから、魔王を見限った女性魔物もいたくらいだ。


勇者と魔王、同じく傲慢な二人だが、こと行動力という点ではマグナが圧倒的に勝っていた。

『致死予測』を知らない魔物たちからすれば、この世界に来て初めての戦闘だというのに、憶する事無くデスナイトに立ち向かい、倒してみせたマグナ。

対して、明らかに隙だらけにも関わらず、勇者を攻撃できない臆病な魔王。


どちらが頼もしいかは言うまでもない。

臆病なだけなら、女性陣の母性本能を刺激できたかもしれないが、魔王はそのうえで、尊大で傲慢だった。


「お、男でもいいのかな?」


遂に、男性の魔物までマグナのクラン入りを熱望し始める。


「いいけど、このストーリー終わって外に出れたら、リリースするぞ?」


「まぁ、それならそれで……」


そもそも魔物たちを結束させているのは、クランの縛りによる一蓮托生が原因だ。

そうしたしがらみから解き放たれるというなら、一人で放り出されるもの悪くないと思えた。


そして、一人が動き出すと、あとは雪だるま式に、マグナのクラン入りを望む者が増えていく。


マグナ自身が言った通り、魔王と勇者ではどちらが強いかわからない。

勇者についた結果、マグナが魔王に敗れて自分達も死ぬ可能性がある。

それ故に、マグナの美形に惹かれなかった女性や、男性陣は最初動かなかった。


しかし、似たような性格だと思われた魔王と勇者の差が明らかになるにつれ、マグナ側につく魔物が増え、数が拮抗し始めると、更にその勢いは加速。

人数が逆転すると、最早魔王側に残るのはデメリットしかない、と全員がマグナ側へと移動してしまった。


「お、お前ら、お前ら!!」


「あ、先に言っておくぞ、魔王。この『英雄の器』、クランの盟主は対象に取れないんだ」


それが真実かどうかは、魔王には判断できなかった。

しかし、自分をクランに入れる気が無い事だけは理解できた。

そして魔王も、頭を下げてまで、マグナのクランに入れて貰おうなどとは思わなかった。


自分をクランに入れるなら、向こうが頭を下げて頼んでくるべきだ、と考えていた。


「後悔させてやる、後悔させてやるぞ、お前らぁっ!!」


そこでようやっと魔王が腰を上げた。

その瞬間、マグナは魔王との距離を詰めていた。


「なっ!?」


「ここに入った当初は、お前と俺のステータスにはそれほど差が無かったよ。それは俺のスキルでわかった。けど、お前のクランからメンバーが抜けていくたびに、お前のステータスは下がっていったぞ。気付かなかったのか?」


魔王の種族スキルには『王気』というものがあり、これは主従の関係にある人数分だけステータスが上昇するという効果だ。

しかし、マグナも気付かなかったが、マグナのクランに入った事で、本来は主側からしか関係を破棄できなかった主従の関係が自動的に破棄されていた。

魔王の職業である、ダンジョンマスターの職業スキルに『玉座の主』というものがある。これは、ダンジョンの『玉座の間』に自分が居る時、同じく『玉座の間』に居る、自分が盟主のクランメンバー一人につき、ステータスが上昇するという効果だ。


マグナが魔王のクランメンバーのほぼ全員を奪った結果、魔王のステータスは大きく弱体化していたのだ。


「ってことは、結局他の魔物を捨て駒にして俺のHPを削っても、その過程で魔物が全滅していたら、お前は俺に勝てなかったかもしれないな」


理屈まではわからなかったが、クランメンバーが減った事で魔王が弱体化した事を理解したマグナは、そう結論付けた。

そして同時に、魔属を選ばなくて良かった、とも考えていた。


魔王になれればまだいいが、他の魔物だとリスクが大き過ぎる。

更にその魔王ですら、例え生き残ったとしても、相当上手く立ち回らないと、この【最初の試練】で多くの仲間か、仲間からの信頼、あるいはその両方を失う事になる。


「結局、こう(・・)なる運命は変えられなかったって事だろうな」


「がはっ……!」


魔王の口から青い血が吐き出される。

マグナが魔王との距離を詰めたその時、既に『刈り取る者』が魔王の体に突き立てられていた。

正直、手応えとしてはデスナイトより防御力が低いように感じられた。


「一撃じゃ無理だったか」


魔王の体から剣を引き抜きながらマグナは呟く。

とは言え、魔王は瀕死だ。このまま放っておいても死ぬだろう。


それでも、マグナは止めを刺すべく剣を大上段に振りかぶった。


はっきりと、自分の手で殺さないといけない、とマグナは思ったのだ。


そして『刈り取る者』が振り下ろされると、断ち割られたその部分から、魔王の体が光の粒子となって虚空へと消えていった。


『勇者ストーリーLV1:【最初の試練】のクリア条件が満たされました。勇者ストーリーLV1を終了します。クリア報酬として、英雄ポイント100と、クランメンバーへ500経験値を付与します』


魔物たちから安堵の溜息が漏れる。

本当に、勇者のクランに入れば死なずに済むのか半信半疑だったのだ。

システム的にも、マグナの実力的にも。


『勇者ストーリーの基本クリア条件【魔王軍の殲滅】が満たされませんでした。条件未達成ペナルティとして、クリア報酬の配布経験値が10%となります』


「あ……」


「「「あ……」」」


そのアナウンスと勇者の呟きに、魔物たちも思わず呟く。


「まぁ、魔王を倒した分と、お前らの勧誘に成功した分で経験値は大量に入ったから、いいか」


マグナの言葉に魔物たちは安心したように体の硬直を解く。


『勇者ストーリーLV1が終了しました。続いて、勇者ストーリーLV2:【新たなる仲間】を開始します。これから、他の勇者ストーリーLV1達成者らと合流し、指定された場所にある魔王のダンジョンを目指し、そのダンジョンを支配する魔王を撃破してください』


「他の勇者との合流か。ああ、皆の事なんか言われたら、ちゃんと庇うから安心してよ。男性陣はその前に解放した方がいいかな?」


「女性陣には選択肢はないの?」


「できれば」


「……サイテー」


その呟きは誰のものか。しかし、言葉ほどに嫌悪感は含まれていなかった。

イケメン無罪は、多くの場合に通用するらしい。


『それでは、勇者ストーリーLV2の待機場所に転送させていただきます』


「え?」


「「「あ……!」」」


そして彼らの視界は、眩い光に包まれ、真っ白に染まった。


とりあえず、主人公とは関係の無いキャラクターの話です。

今のところは。

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