4.最初の試練
投稿初日連続投稿四話目4/4
「マジックウィンドウの中に、クランの項目があり、その中にクランストーリーの項目がありました。それによると、このLV1でやってくる勇者は一人のようです」
ポラリスの言葉に、安堵する空気が流れる。
「けど、それはつまり勇者は、一人で私達を全滅させられるくらい強いという事じゃないの?」
しかしエリの言葉によって空気が沈む。
「相手も自分達と同じ、この世界に来たばかりの勇者みたいですから、その可能性は高いでしょうね」
「まぁ、じゃないと勇者は最初のイベントで全滅しちゃうもんな」
「強いってどのくらい強いんだろうな? よくあるゲームみたいに、ステータス差が絶対で、相手の防御力よりこっちの攻撃力が上じゃないと、ダメージすら入らないってなったら、俺達役に立たないぞ」
「具体的な数字は見れないからなぁ。ステータスに表示されたバーの長さで優劣はわかるけど、その差がどのくらいかはわからないし」
「じゃあ、俺がげんごろーさん殴ってみるっていうのはどうだ?」
提案したのはエレだった。
「俺の『筋力』のバーの長さはげんごろーさんの『頑強』の半分くらいだし、これでダメージが入らなかったら、そういう事じゃないか?」
「いや、待て待て。人間でも、力が弱い奴が鍛えてる奴殴ってもダメージなんか入らない。鈍器や刃物で試してみないと意味無いぞ」
しかしげんごろーによって反対される。
「鈍器や刃はまずいですね。回復用の魔法やスキルを使える人がいないんですよね?」
「自己修復系すらないからな」
「え? ってことは、戦ってダメージ受けたらどうすればいいんだ? 打撲くらいなら自然治癒でいいんだろうけど、骨折とか切断とか」
「『私室』か『診療所』の施設でその辺りは回復できるみたいですね。ソウルが足りませんけど」
「ちょっと外に出てソウル集めてくる。24時間あるんだろ? 半日くらいそれに使ってもよくないか?」
「それが、LV1ストーリーをクリアしないと外に出れないみたいなんですよ」
「まさかこれも含めてチュートリアルだったりしないよな?」
「ゲームとかだとよくある展開だな。チュートリアルが終わらないと自由に行動できない」
「でも、チュートリアルを終了します、は毎回言ってましたよ」
「あれを信用できるの?」
そして沈黙が支配する。
「み、皆さん、今回の勇者とは私がひとりで戦おうと思うのですが……」
「いや、待て! お前が殺されたら俺達みんな死ぬんだぞ!?」
「だからと言って、殺されるかもしれない勇者相手に戦いを挑めますか?」
「う……」
ポラリスの提案に、げんごろーが異議を唱えるが、反論されて黙ってしまう。
「このストーリーはかなり意地が悪いですよね。自分達はついさっき知り合ったばかりで信頼関係なんか築けていません。にも関わらず、このストーリーは、最初から仲間を犠牲にする事を前提に設定されています」
勿論、勇者が実はそれほど強くない、という結果もあり得るが、その可能性は低いだろう、とポラリスは考えていた。
「しかも忠誠を捧げるべき魔王は、一番最後にやってくる。皆さんが私が来るまでにどれだけ待ったかわかりませんが、信頼を築く時間が更に少なく設定されているんです」
そのうえで、主従の関係の説明や、クランの説明などで、魔王の優遇ぶりに不満を抱きやすいようになっている。
「この世界に来る事を選択した皆さんは、こんなところで死ぬわけにはいかないはずです。仮に全員でかかれば勇者を倒せるとしても、そのうち何人が死ぬでしょうか? 半分だとしても、誰だってその半分には入りたくありませんよね?」
信頼関係が築けていない状態でそうなれば、間違いなく、一番手を譲り合って消極的になる。それでは、勝てるものも勝てないだろう。
仮に勝てたとしても、仲間を犠牲にした魔王に忠誠を抱くのは難しいはずだ。
そのための主従の関係と言っても、出て行かれてしまう可能性だってあるのだ。
だが逆に言えば、ここは他の魔物の忠誠、とまではいかずとも、信頼を獲得するチャンスでもある。
仲間を犠牲にせずに、勇者を倒す。
これができれば一番だし、そして、それ以外の選択肢はないように思えた。
「皆さんと勇者の実力差がどのくらいかがわかりません。へたをすると、一撃で殺されてしまうかもしれない。だから、皆さんに援護をして貰うのもまずい。勇者が先にそっちを狙ったら、危ないですからね」
「それを言ったら、お前だってそうだろうが」
「いえ、それはないと断言できます」
「なんでだ!?」
「私と皆さんのステータス差です。最も皆さんの中で『筋力』のバーが長いげんごろーさんより、私の『筋力』は二割程長い。他のステータスについても同様です。つまり私は、魔王は、他の魔物に比べてただ強いというだけではなく、圧倒的に強いという事。これで、私でさえも手も足も出ないくらい勇者が強いとなれば、それは最早、魔属を選んだ時点で敗北が確定しているようなものです」
勿論、その可能性はあったが、それなら最早どうしようもない。
どうしようもない事は考えず、できる事を考えるべきだ。
「おそらく魔物の中で、唯一魔王だけが、勇者と一対一で戦えるステータスなんだと思います。そして、勇者が一人で乗り込んで来るというなら、魔王の方が少し弱いのでしょう」
「だったら……」
「なのでまずはトラップを仕掛けます。これで勇者にダメージを与え、少しでもその差を埋めます。今保有しているソウルだと、幾つかトラップが設置できます。そして、更にステータス差を埋めるために、ミリエラさんに手伝っていただきます」
「ミリエラ……ダークメイルか?」
げんごろーは、玉座の近くに置かれた鎧に目をやる。兜だけが外されて、ポラリスが被っている。
「ミリエラさんの種族スキル『装着』は、ミリエラさんを装着した対象のステータスを上昇させるというものです。更に、相手からダメージを受けた場合、ある程度装着者のヒットポイントが減れば、強制的に『装着』が解除されるので、ミリエラさんも安全です」
「いや、しかしな……」
「他に、犠牲を出さずに勝つ方法は考えつきません。私は、皆さんの犠牲を前提にした作戦は立てたくありませんし、提案されても却下します」
「…………」
そう言われてしまえば、げんごろーも黙るしかない。
彼だって、死にたいとは思っていないのだ。
魔王が死んだら自分達も死ぬ。だからと言って、魔王の代わりに死ぬなんて事はできない。
自分以外の人間ならいいのか、と言われたら、イエスと答えるだろうが、それをこの場で口にするほど愚かな者はいなかった。
全員が死にたくないと考えている以上、ポラリスの決意を覆す事はできない。
仮にポラリスの代わりに自分が死ぬ、という者が出て来ても、それで勇者を倒せるとは限らない以上、結局ポラリスが戦わなければならない。
そしてポラリスの言葉通り、勇者と自分達の実力差がわからないから、その死は無駄に終わる可能性があるのだ。
ミリエラを『装着』しても瞬殺されて、ポラリスがミリエラを『装着』する時間がないまま、勇者と戦わなくてはならない可能性だってある。
その時間を稼ごうと思えば、更に多くの者が犠牲になる。
全員が死にたくないと思っている以上、ポラリス一人に任せる以外の選択肢は無いのだった。
「……ミリエラは、それでいいのか?」
一縷の望みにかけて、げんごろーがミリエラに尋ねる。
他の魔族と違い、彼女はポラリスとともに危険に晒される事になるからだ。
ポラリスは兜を脱ぎ、げんごろーに被せる。
明らかに頭の大きさも形も違うミノタウロスにもフィットした事に、周囲から感嘆の声が漏れる。
(はい、私は大丈夫です)
兜を被ったげんごろーにはっきりと、強い意志の籠った声が聞こえた。
「そうか、わかった……」
応えて、げんごろーは兜を脱いでポラリスに渡す。
「わかったよ、魔王様。お前に任せる」
「はい、お任せください。必ず全員で生き残りましょう!」
「来ましたね」
そして24時間ののち、ポラリスが開いていたダンジョンマップに、赤い点が現れた。
ポラリス達がいる部屋に繋がる、一本道の狭い通路。その端に、突然出現した。
「アナウンスとかは特になし、か……」
げんごろーが呟く。彼も緊張しているようだ。
「では、皆さん、玉座の後ろに下がってください」
「魔王、お前が殺されそうになったら、俺は前に出るぞ」
「それを止める事はできませんね。誰だって死にたくないんですから」
ポラリスが死ねば確実に死ぬ。勇者の前に出ても、死なない可能性がある以上、どちらを選ぶかは言うまでもなかった。
勿論、いざその時に体が動くかどうかは別問題だが。
赤い点は、暫く止まっていたが、ゆっくりと部屋に向かって移動を始めた。
「近付いて来ます……」
何人かの喉が鳴った。
「え? お前今どうやって喉を鳴らしたの?」
「それならそもそも、そっちはどうやって喋ってるのさ?」
スライムのグランドとミミックのああああがそんな会話をしていた。
赤い点が扉の前で止まる。そして暫くの沈黙ののち……
「ぐあっ!?」
何かが弾けた音と共に、悲痛な叫び声が、扉の向こうから聞こえて来た。
「かかりましたね」
「やったか!?」
「エレ、それフラグだから」
扉に設置されたトラップ、『電流ノブ』に勇者が引っかかったのだ。
しかし赤い点は消えていない。それほど威力が高くないのか、それとも勇者が強いのか。
「トラップの説明だと、威力は『微』でしたからね」
ポラリスの呟きは、周りに説明するというより、自分に言い聞かせているようだった。
そして立ち上がり、玉座から数歩前に出る。
ゆっくりとノブが動き、そして扉が開かれる。
レバータイプの金属のノブがついた、観音開きの扉。
豪奢な装飾が施された、いかにもな雰囲気のある扉。
そして、一人の少年が、緊張した面持ちで姿を現す。
「…………」
「…………」
「あれが……」
「若いな」
「アバター、だよな?」
「人間だからな、どうだろうな」
無言で見つめ合う魔王と勇者。
玉座の後ろから、ボソボソとそんな声が聞こえる。
勇者の様子に、ポラリスは若干安堵していた。
どうやら予想通りに、この世界に来たばかりのようだ。
しかも恐らく、元の世界で荒事とは無縁だったとわかる。
これなら、用意していた手が使えるかもしれない。
そうでなくても、ステータスが同じでも、戦闘経験の差で負ける、という未来は回避できたのは僥倖だ。
例え剣道などの武術を習っていたとしても、試合や練習以外で人を攻撃した経験なんてそうそうないだろう。
仮にその経験があったとしても、人が人を攻撃するには、ある程度のボルテージが必要だ。
緊張して明らかにその熱意が下がっているなら、容赦なく攻撃される事もないだろう。
こちらは、既に覚悟を固めている。
固い動きで、勇者が一歩を踏み出す。
「ぐぅっ!?」
踏み出した足が床についたと同時に、虚空からトラバサミが出現し、勇者の足を挟んだ。
設置型のトラップ、『トラバサミ』。勿論、効果はその名の通りである。
威力は『ほぼ無』というもの。しかし、このトラップには別の効果があった。
「うお……いでっ!?」
突然の痛みに態勢を崩し、床に倒れ込む勇者。手をついたその時、その手にも『トラバサミ』が食らいつく。
ついた手とは逆側に倒れる。そこへ、ポラリスが近付いていく。
「ようこそ、勇者。私は魔王のポラリス。恐らく、君と同じ、別の世界からやって来た者だ」
「ぐ……」
痛みに顔を顰めながらも、顔を上げた勇者の瞳には、困惑の色が見て取れた。
「単刀直入に言おう。私と主従の関係を結んで欲しい。そうすれば、君を殺さなくとも、LV1ストーリーをクリアできる」
膝をつき、ポラリスは勇者に向けて手を差し出す。
「…………」
「私達はここで死ぬわけにはいかない。けれど、君だってそうだろう? だから……」
「それでいいなら、最初から人属を選んでねぇよ!」
叫んで勇者が立ち上がった。
やっぱり素人、ポラリスは心の中で一つ、安心材料を積み重ねた。
もしも実戦経験があるなら、わざわざ立ち上がるのではく、相手の態勢が不完全なうちに攻撃していただろう。
「なら、仕方ない」
言葉と同時に、ポラリスは殴りかかった。
「!? ぐぅ!?」
勇者が反応して右手でガードしようとするが、その動きは、反応速度に対してあまりにも遅かった。
そこには、先程ひっかかった『トラバサミ』のトラップが腕に食らいついてた。
『トラバサミ』は罠が発動した相手の部位に微量ながら『荷重』のバッドステータスを与える。
片足にでもついてくれれば御の字だったが、右腕にもついたのは幸運だった。
ポラリスの右腕が、ミリエラの鎧に身を包んだ事で、ステータスの上昇した右ストレートが、勇者の顔面に突き刺さった。
(よし、動く!)
覚悟は決めていたとはいえ、この一撃が放てるかどうかは賭けだった。
ポラリスだって、実際に他人を殴った経験など、小学生の低学年まで遡らなければ記憶に無い。
それだって、怒りによって感情のままに振るっただけだ。
自分から殴ろうと決めて殴った経験は皆無だった。
だからこそ、最初に勇者を誘った。クランストーリーの詳細を確認すると、勇者の撃破は、別に殺さなくても良い事がわかった。
敵対する勇者という存在が、このダンジョンからいなくなればそれで良かった。
勿論、ストーリーを終えるまで外に出られない状況では、それは殺す以外に選択肢が無いように思える。
しかし、魔王と主従の関係になれば別だ。
そうすると、勇者は敵対者ではなくなる。
クランメンバーに語ったように、ポラリスは彼らを殺したくなかった。
何か元の世界にいたくない理由があってこちらの世界に来た彼ら。
だが、元の世界にいたくないだけなら、他にも選択肢はあった筈だ。
しかし、彼らは怪しいネットのサイトに頼ってでも、こちらの世界に来る事を選んだ。
そして、それは勇者も同じ筈だ。
ならば、殺したくなかった。
(特に強い理由も深い考えもなく、こちらの世界に来てしまってすみません)
(そういう君だからこそ、死ぬわけにはいかないでしょ)
右ストレートが命中。相手の状態を見る。ふらついているが、まだ立っている。
ならば次だ。
相手の動きから、実戦経験が無いだけでなく、武術などの経験も無い事がわかった。
なら、この一撃は躱せない筈。
右の拳を引くと同時に、左の拳を繰り出す。
ボディブローが、勇者の脇腹に突き刺さる。
「がはっ……!」
呻き、体がくの時に曲がる。
そのまま崩れ落ちたら、横に避けて俯せに倒す。
しかし、体が残っているなら、左の手首をとって捻り上げながら、背後に回る。
(こんなチャート式で色々考えないとお仕事ってできないものなんですか?)
(そうでもしないと寝る時間も確保できなかったからね)
背後に回ったポラリスは、勇者の膝の裏を踏むようにして蹴る。
「ぐわ……!」
正座をするような形で勇者は地面に座り込み、倒れた上半身の背にはポラリスの膝が乗せられる。
左腕を背中側に捻りあげられているため、勇者は一切動けなくなってしまう。
「さて、もう一度聞くよ、勇者。私と主従の関係を結んでくれるかい?」
「ぐ……」
「できれば君も殺したくない。けれど、私は魔王だ。君と他の皆なら、君の優先順位が低いのはわかるよね?」
「…………」
「頼むよ。向こうでもこんな経験はないんだ。できれば経験しないでいたいんだけど……?」
「……甘いな」
「だろうね」
「勇者のストーリーは、お前達の全滅だ。どうやら魔王にも似たようなスキルがあるみたいだが、勇者にも、他人を自分のクランに入れるスキルがある」
「なるほど、勇者と魔王はある程度対になっているんだね」
「勇者のクランに入れば、魔王のクランから抜けるし、魔王との主従の関係も無くなる。最初、スキルの説明を読んだ時は意味がわからなかったけど、お前の話でなんとなく理解できたよ」
それはつまり、魔王が殺されても、他の魔物が死ななくて済むという意味でもあった。
「けれど、そのスキルは魔王は対象外だ。わかるか? 勇者には、最初から一人は殺す必要があるんだよ」
「……そうか」
魔王は、勇者を殺す必要は無い。けれど、勇者は必ず魔王だけは殺さなければならない。
今後も、勇者がダンジョンを襲撃するのは予想できる。ではその勇者とはどんな存在だろうか?
決まっている。このLV1ストーリーをクリアした勇者、つまり、人殺しを経験した勇者だ。
「そんな甘い魔王じゃ、童貞を捨てた勇者には敵わないだろうな」
「できれば、そういう相手も仲間に取り込みたいと思っているけれど……無理かな?」
「どうだろうな? けれど少なくとも、甘いだけだと先は知れてる。そんなクランに入りたいとでも?」
「死ぬよりはマシじゃないかな?」
「ああ、そうだな。だから、俺が入ってやる。確かに人殺しこそ経験してないが、人を、人だった相手を殺す事を覚悟した俺がな」
「……ありがとう。それじゃ、この手を握って、承知、と唱えてくれるかい?」
左手は勇者の手首を極めたまま、ポラリスは肩越しに右手を差し出す。
「汝しもべとなれ」
「ああ、俺、勇者アキラは、魔王に忠誠を誓うよ。承知」
差し出された手を取ってそう口にすると、ポラリスと勇者――アキラの胸元が赤く輝く。
光が環となり、互いに干渉しあうように、弾かれ放出されると、その現象は収まった。
ポラリスがマジックウィンドウを呼び出し、主従の関係を確認すると、そこにはアキラの名前があった。
「それじゃよろしく、アキラ君。そしてようこそ、魔王ポラリスのクラン、サザンクロスへ」
「ああ、よろしく頼むよ」
「ていうか、なんか印象変わった?」
「え? ……ああ、鎧が変わってるな」
ポラリスに指摘されて、自分の姿を確認したアキラはそれに気付いた。
胸部と腹部を覆っていた白い鎧が黒く変わっており、その胸元には赤い宝石が妖しい光を放っていた。
「うわ、職業もダークヒーローになってる。ダセェ」
「なるほど、敵対する勇者が居なくなるんじゃなくて、勇者という職業そのものが無くなるのか」
『クランストーリーLV1:【最初の試練】のクリア条件が満たされました。クランストーリーLV1を終了します。クリア報酬として、500ソウルポイントとクランメンバーへ100経験値を付与します』
そんなアナウンスが聞こえると、玉座の向こうから歓声が上がった。
「頼りない同僚たちだな」
「勇者がどのくらい強いかわからなかったからね、仕方ない」
『クランストーリーの特殊クリア条件【勇者の服従】が満たされました。条件クリア報酬として魔王専用装備、『髑髏杖』を配布します』
続いて聞こえたアナウンスに合わせて、魔王の手の中に、灰色がかった一本の杖が出現する。
名前の通り、杖の先には髑髏がとりつけられている。空洞な眼窩の中が、赤く輝いている。
「魔王らしい武器だなぁ……」
『クランストーリーの基本クリア条件【勇者の殺害】が満たされませんでした。条件未達成ペナルティとして、クリア報酬の配布経験値が半分となります』
「ちょ、魔王!!」
「おまえ、貴重な経験値になんて事を……!」
(勇者を服従させたことで、ポラリスさん個人に経験値が入ったなんて、言えない流れですね)
(一応君にも入っているでしょ?)
(だからこれは、二人だけの秘密にしましょう)
(クランメンバーはメンバーなら見れるし、その中にはLV表示もあるから、バレると思うよ)
勇者を服従させた事で、倒した事と同じ扱いになり、ポラリスには経験値が入っていた。そして、ポラリスに装備されていたミリエラにも入っている。
装備している事で同一人物とみなされたのか、それとも、同じ戦闘に参加したとみなされたのかはわからなかった。
二人共LVが上昇するほど経験値を与えられたので、確かにバレバレだった。
『クランストーリーLV1が終了しました。続いて、クランストーリーLV2:【迫りくる脅威】を開始します。これより、およそ一週間後に訪れる、勇者三人を撃破してください』
「「「三人っ!?」」」
そのアナウンスに、多くの者が驚きの声を上げた。
「およそ一週間って、またアバウトだな」
「とりあえず、対策を立てましょう。恐らく相手は勇者のLV1ストーリーをクリアした勇者でしょう。最悪、相手魔王のクランを全滅させた分の経験値が入っている可能性があります」
「そういう意味では、勇者が仲間になったのは大きいな。勇者の情報を色々と知れる」
「俺だってよくわからないぞ。いきなり暗い部屋でチュートリアルをこなしたと思ったら、通路にいたんだからな」
「スキルとかある程度の強さを教えて貰うだけでも助かるさ」
こうしてクランサザンクロスとそのメンバーは、最初の試練を超えた。
だが、次なる脅威はすぐそこまで迫っている。
この間に、できる限りの準備を済ませなければならなかった。
とりあえず、本日の連続投稿はここまでです。
これからよろしくお願いいたします。




