48.【魔王軍拡大】夜に輝く者
「ふぅ」
ドーテイテイオーの頭を断ち割り、死亡を確認したカムイは一息吐いた。
「モンスターの中には蘇生系統のスキルを持っていたり、頭割ったくらいじゃ死なない奴もいたからなぁ」
なんなら、よくあるゲームのボスのように、第二形態へと変身する者もいた。
「ステータスもそれほど高くないようだったし、装備も普通だ。数が多いだけなのか?」
そうなると、自分は当たりのクランを引いたのかもしれない、と思えた。
合計LV100なんて、魔王のクランが全員生き残っていたら、一人あたり4LVあれば条件を満たす。
ミノタウロスやケンタウロスのような魔物ならともかく、ゴブリンやリリパットのLV4なんて少し鍛えた人間で勝てる程度のステータスだ。
「さっきのモンスターはキャラメイクの時に見なかったな。って言っても、もう全部は覚えてないけど……」
ならばランダム設定で転生した種族なのだろう、とカムイは予想する。
「んん……?」
ストーリーの進捗を確認したカムイは怪訝そうな表情を浮かべる。
LV6ストーリー進捗状況:8/100
「さっきの奴のLVが8? そこまで弱いようには……いや、上位のモンスターならあり得るのか……?」
そこまで考えて、一つの結論にたどり着く。
それはカムイにとって不都合な現実であった。
「たしかモンスターはLVを上げると進化できるようになるはず……。まさか、進化するとLVが1に戻る? そして、進行に必要な合計LVは現在のLVであって、進化前のLVは加算されない……!?」
そのカムイの予想は正解だった。
そしてそれが意味するところは、何度も進化を繰り返したモンスターで構成されたクランの場合、ストーリー達成に必要なLVを稼ぐのが非常に困難になるということだ。
「いやいや、奇襲の先陣を任されたんだ。さっきの奴が一番か、そうでなくてもトップレベルの戦闘力を有しているはず……!」
そうポジティブに考え、自分に言い聞かせようとしているカムイの耳に、王子軍の本陣から悲鳴と怒号が聞こえてきた。
「囮……!? いや、奇襲部隊が他にもいたのか!」
すぐに本陣が攻撃を受けていると判断し、カムイはその場を離れようとした。
それはつまり、倒した相手は、敵クランの中では何ら特別な存在ではないという事になる。
今倒した相手と少なくとも同レベルの敵が複数存在しているという事になる。
そして、カムイ以外にこのレベルの敵を相手にする事はできない。
数を頼れば可能だろうが、それでは少なくない被害が出る。
被害が出るという事は、ルーカスがその対象になる可能性もあるということだ。
「!?」
本陣へと戻ろうと走り出したカムイの目の前を、魔力の衝撃波が通り過ぎた。
「今のを躱すか……。ドーテイでは荷が勝ちすぎる訳だ」
魔力の波動を感じて足を止めていなければ、直撃していた。
そして、今の一撃は自分にダメージを与えるのに十分な威力を持っていた。
攻撃の飛んできた方から声がする。
木々の暗闇の向こうから、黒い鎧に身を包みんだ美丈夫が姿を現す。
地面と平行に差すようになった夕日に照らされ、銀色の髪が輝く。
「奇襲を読み、待ち構えていたのは流石だ。だが、こちらが動くまで待っていたのは悪手だったな」
姿を現したのは吸血鬼のゲオルグだった。
見に纏っているのはゾンビ勇者が身に着けていた勇者の鎧。
手にしているのは同じく勇者が持っていた宝剣『刈り取る者』。
「夜に愛された者もいるのだよ」
「夜以外は碌に戦えないだけだろう」
この世界に転生する前に、カムイも魔属の各種族の説明を見ている。
吸血鬼のような有名な種族は当然チェック済みだ。
だから、吸血鬼が日の光に弱い事を知っている。
しかし、カムイがそのように煽るような事を言ったのは、ただ事実を指摘したかったからだけではない。
恐怖に震えそうになる自らを鼓舞するためでもあった。
『致死予測』が、決して油断して良い相手ではない事を教えていたからだ。




