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47.【魔王軍拡大】ドーテイテイオー


(さてどうしようか……)


槍を断ち割られ、鎧を切り裂かれたドーテイは慎重にカムイから距離を取る。

サザンクロスの中で最も足が速いのは自分だという自覚はあった。


しかしそれでも、元勇者のアキラとの速度差はそこまで大きくないし、本当の意味でガチ勝負したら魔王ポラリスに勝てると自信をもって断言できない。


ではこの目の前の勇者はどうだろうか。

間違いなくLVはアキラより上だろう。

ならばアキラとの速度差はどのくらいあるだろうか。


LVの上昇に応じて身体能力が上がる事はわかっているが、流石に1LV上昇ごとの速度の上昇率なんて測っていない。

ひょっとしたら上限が存在しているかもしれない。


(そうじゃなかったとしたらまず逃げられないだろうな……)


ここまでの戦いを見れば、目に見えない速度で動くほどではないので、上限はあるとドーテイは考えている。

だが、こちらとの実力差を理解し、全力を出していないだけという可能性があるのだ。


『致死予測』の存在は、アキラから聞いている。


(いや、それなら槍を切り落とした時点で殺しているんじゃないか? 嬲って楽しむ趣味があったのだとしても、それなら鎧ではなくて直接肌が出ている部分を攻撃するんじゃないか?)


どちらにせよ、自分にはもう勝ち目がない。

あとは逃げるかこの場に留まるかの二択。


(まぁ、色々考えてはいるが、逃げるという選択肢はそもそも存在しないんだがな)


ドーテイは単身ここまで踏み込んで来た訳ではない。

彼女のサポートとして、他にも数名のサザンクロスメンバーが近くで待機している。


ドーテイが逃げ出したとして、彼を追いかけてきてくれるならいいが、もしも他のメンバーの存在に気付かれていたら?

今はドーテイしかその存在がバレていなかったとしても、ドーテイを追いかける過程でバレてしまったら?


(逃げたドーテイを援護するために、彼女達が身を挺して庇ってしまったら……?)


ドーテイの種族はサザンクロスメンバーの中でも上位の存在である。

その上で、戦闘職なので経験値が稼ぎやすく、げんごろーと並んで戦力という意味ではクランツートップと言えるだろう。


そんな自分を逃がすために、彼女達が犠牲になる事を決意してしまう可能性は十分にあった。


(むしろこの場面は、少しでも実力が高いドーテイが殿軍をかって出て、皆を逃がす場面だろう)


しかし、それが伝わるかと言えば微妙だ。

普通に、自分達よりドーテイの方が価値が高いから、という理由で彼を優先しかねない。


彼女達に伝える事もできない。

もしも目の前の勇者がドーテイ以外の存在に気付いていなかった場合、わざわざ彼女達の事を知らせてしまう事になる。


(だったらさ……)


ドーテイは断ち切られて半分の長さになった槍を構え直す。


「ふぅん……。ケンタウロスの上位種族ナックラビー……。全力で逃げれば追いつけないかもしれないのに……」


「これだけ身体能力の差を見せつけられて、足の速さだけ上回っていると思えるほど、お気楽じゃないのさ」


逃げないという行動そのものが、この場に他のメンバーがいるかもしれないと気付かせてしまうと、ドーテイは今更ながらに気付いた。


動揺を隠して、つとめて平静を装う。

多少のひや汗や緊張は問題無い。

戦えば確実に負ける相手と相対しているのだから、全く冷静でいる方が不自然だ。


「お前たちの話を色々聞きたいんだけど、お前の身柄の安全とお前の首、どっちを掲げた方が効果的かな?」


「きっと首だろう。臆病者達ばかりだから、転生チートでイキれないと知ったらすぐに降伏するさ」


人質になるのはマズい。自分を見捨てられる冷酷さが、メンバーにあるとは思えなかった。


「なら、試してみるか!」


言ってカムイが踏み込む。

一瞬で距離が詰まり、振るわれた刃がドーテイの右前足を切り裂いた。


「ぐっ!」


痛みに喘ぐが、すぐにドーテイも反撃に移る。

しかし、馬は四本の足があって初めてまともに立てる生き物だ。

それはナックラビーでも同じこと。


体勢が崩れてまともに槍を振るえない。


「ふぅん……」


力ない軌道を描く槍を、しかしカムイは大きく飛んで躱した。

そして周囲を見回す。


「足の一本くらいじゃ出てこないか」


「私を嬲るつもりか……! そのような辱めを受けるくらいなら、くっ、殺せ!」


「まだまだ余裕あるじゃん」


言いながらカムイはドーテイの右腕を切り裂く。


「ぬうぅっ!」


伝承の通りに地面まで届くほど、というほど長くはないものの、馬の半身よりは下まで伸びているため、平均的な成人男性と変わらない背丈のカムイでも、その腕を攻撃すう事は容易だった。


「声を抑えているって事は、やっぱり周囲にいるんだな? そういう自己犠牲的な精神は嫌いじゃないが、悪いが俺は人属なんでな」


刃を振るいドーテイの体を切りつけるたび、カムイは一旦距離を取って間を置いた。

周囲に何の反応もない事を確認して、再びドーテイを攻撃する。


皮膚が存在せず、その下の肉と血管が見えていて遠目には青白く見えていたドーテイは、いつしか全身真っ赤に染まっていた。


「く……殺せ……」


最早ただの息遣い程度にまでか細くなった声で、しかしドーテイはカムイに向けてそう言い放った。


「まぁ、これ以上は仕方ない。自分でなんとかするよ」


溜息と共に大きく頭上に掲げられた魔剣が、ドーテイの頭へと振り下ろされた。


やめて!(中略)次回、ドーテイ死す

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