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46.【魔王軍拡大】開戦

大変お待たせいたしました


フォルスナ王国僻地にある小さな領地。

グゥエンメ男爵領はそのような評価だった。

領地の半分以上を手付かずの森が占めており、その発展性は高いように思われた。

しかし、小さく貧しい領地では、そこを開拓するための人手も資材も足りていなかった。


そんな森の外縁部に現在、ロイヤルマネーで砦の建設が始まっていた。


王国第三王子のルーカスが率いる魔王討伐軍。

その上層部が拠点とする居館を中心に、幾つもの軍事施設が造られ、それらを強固な城塞で囲む。


そういう計画だった。


「きた! またきやがった!」


「退避、退避!」


「建物の中に逃げるな! 縄張りを出ろ!」


よく晴れた日中、王国軍の建設作業中、空の向こうから何かが近づいてくるのを物見の兵が発見した。

すぐさま警告が飛び、作業員たちが一斉に逃げ始める。


影が近づいてくると、その姿がはっきりと見えるようになる。

それは一見すると燕の群れのように見えた。


しかしその速度は音速に迫り、それぞれが人間の拳大の石をぶら下げている。


燕に酷似した外見の魔物、ソニックスワローだ。


王国軍の兵士たちが弓や魔法で迎撃を試みるが、亜音速で飛ぶソニックスワローをまともに捉える事ができず、目に見えた効果は出ない。

魔物たちは建設現場の上空にさしかかると、一斉に足で掴んでいた石を離す。


亜音速で飛行してきた運動エネルギーを受けて、石は高速で飛び、建設途中の建物に直撃する。

ただの石でもこれだけのエネルギーを有していれば、分厚い石材を粉砕する兵器となる。

石自体も砕け散るが、小さく割れた破片が散弾となって周囲に被害をもたらす。


石や煉瓦には小さな穴が開く程度だが、木材や人にはその程度の傷でも致命傷になり得る。


当然、この爆撃はサザンクロスからの妨害行動だった。

ソニックスワローが持てる程度の石では、建設速度を遅らせるくらいしかできないが、今のところはそれで充分だった。


侵攻側である王国軍の物資は有限だ。

対して、サザンクロスは一日の生産量こそ限界があるものの、実質的には無限大だ。


しかも食料などの消耗品なら節約することで枯渇までの期間を延ばす事ができるが、建設資材となるとそうはいかない。


「とは言え、王族がそう何度も面子を潰されるわけにはいかない事くらい、向こうもわかってるだろう……」


建設現場から少し離れた野営地で、ルーカスのいる本陣への爆撃を警戒していたカムイが呟く。


「砦が完成したら、そこを拠点にジリジリと削られる事もわかっているだろう。だってのに、この程度の嫌がらせしかしてこないのは……」


勿論、相手がその辺りを理解しておらず、妨害行動を続けていればいずれ撤退するだろう、と考えている可能性もゼロではない。


「その程度の相手なら、砦が完成して王国軍が優勢に立てるから、随分と樂なんだが……」


同じ重量でも石ではなく爆弾をソニックスワローに持たせれば、王国側が被る損害は何倍にも膨れ上がるだろう。


「火薬を作れないのか、作る方法を知らないのか……」


カムイは魔王側の事情を殆ど知らない勇者だ。

それでも、こんな嫌がらせしかできないのなら、それは向こうに存在しないものとして考えて問題ない。


王国側の戦意を挫く事が目的なら、火薬があれば初手で使っているだろうからだ。


「つまり、爆撃じゃあこれ以上のものは出てこないってことだな……」


王国軍は砦が完成するまで積極的に動く事ができない。

それはルーカスの護衛も任務に含まれているカムイも同じこと。


そして、カムイの存在を知らない魔王側であれば、そろそろ頃合いだ。


数日に一度の爆撃。

最初は受けた王国軍は混乱するが、何度も繰り返すうちに慣れるのが人間だ。


そして慣れは意識の弛みを産む。


爆撃が過ぎれば、もうその日は敵は来ないだろうと考えてしまう。

もうその日は爆撃はないと考えてしまう。


仮に、数日に一度が毎日に変わるかもしれないと警戒する人間が出ても。

一日に一度が、数回に変わるかもしれないと警戒する人間が出ても。


彼は爆撃を警戒する事しかしない。


空を見張り、異常がなければ問題ないと考えるようになる。


その意識の間隙を突く。


そろそろ頃合いだ。


「!?」


森の外縁部。陣地から少し離れた場所。

そこでカムイは一体のケンタウロスと相対した。


相手はサザンクロスのドーテイだった。

意識を空襲に向けさせての地上からの奇襲。

しかし、敵を攻撃しにきたはずのドーテイは、敵を発見して驚いた表情を浮かべて動きを止めてしまった。


まるで待ち構えられている(・・・・・・・・・)事が(・・)想定外だった(・・・・・・)かのように……。


既にカムイは抜刀している。


「魔剣!? 勇者か!」


「遅い!」


横薙ぎに振るわれる『打ち勝つ者』。

槍での防御が間に合ったが、しかし魔剣は、その槍をいともたやすく断ち割った。


槍を離して後方へ跳躍。刃が胸元を掠める。

それだけで、着込んだ鉄の鎧はパックリと裂けた。


ドーテイはそれだけで目の前の勇者との力の差を感じていた。

それはステータスが相手の方が高いというだけではない。

装備の質が良いというだけでもない。


彼の戦闘技術は、間違いなく実戦の中で磨かれたそれだ。


カムイはドーテイと比べて、文字通り経験値が、レベルが違う。

それをドーテイは、自らの首にかけられた死の予感とともに感じていたのだった。


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