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44.動き出す悪意


「殿下、これは一体いかな所存でありましょうか!?」


グゥエンメ男爵は、自らの居館において、王国軍によって拘束されていた。

彼の目の前には、完全武装した第三王子のルーカスが男爵を見下ろすようにして佇んでいる。


「貴様には反逆の疑いがかかっている」


「反逆ですと!?」


「『魔物の統率者』と結んで何を企んでいる? 国からの独立か? 他国への寝返りか?」


「そ、そのような事を誰が……!?」


実際、男爵にはルーカスの言葉に心当たりが無かった。

元勇者のマイガの行っている交易は、それほど規模の大きいものではないこともあって、男爵にまで届いていないし、そもそも領内の経済に大きな影響を与えていない。

せいぜいマイガが拠点にしている都市の財政がほんの少し潤ったくらいだ。


精緻なボードゲームを貴族用に販売するという計画も、今はそのツテ作りの最中だ。


勿論、『魔物の統率者』が住んでいると言われる森に出かけて行った馬車が、珍しいものや品質の良い武具を満載して帰って来れば、誰だってそこに気が付く。

しかし彼らと懇意にしている商人も、自分達の利益に繋がるような情報をおいそれとは漏らさない。

それは領民だって同じだ。


だから、男爵はその情報を知らない。


「貴様の気にする事ではない。何か申し開きがあるなら、王都で父上にするが良い。我らはこれから彼の森へと入り、不当に王国の領地を占拠する蛮族を討伐する」


そのようにルーカスは男爵に告げると、彼を拘束している兵士に連れて行くように命じる。


兵士達に引き摺られるように館の外へと向かいながら、男爵は少し安堵していた。


ルーカスの性格であれば、この場での男爵の処刑も有り得た。

しかし王都へわざわざ護送するという事は、今回の事態は国王の許可を得ているという事だ。


王位継承権争いを少しでも有利に進めるために、自らの計画を披露したのだろう。

そして男爵を王都へ連れて来る事は国王からの命令だろう、と男爵は考える。


恐らく、国王はルーカスの計画の成否はどうでもよいことだと考えている。


しかしその結果、王室の権威が揺らぐ事があってはならない。


ルーカスが『魔物の統率者』を討伐できれば問題は無い。

その時は、彼の行動を正当化するために、男爵は適当に罪をでっちあげられ処刑されるだろう。


ルーカスが討伐に失敗した時、男爵が既に処刑されていれば、それは貴族派閥に王室を攻撃する口実を与える事になる。

それを抑えるためにも、男爵は生かしておく必要がある。


だから、暫く自分の身は安全だと、男爵は安堵したのだ。


自分の属する王国の王子の負けを望む事に、些かの罪悪感を抱かなくもなかったが、それでも我が身には代えられなかった。

願わくば、件の魔王が王子の行動に激昂し、森から外に出て来ぬよう……。




「それで王子様、これからどうするんだ?」


男爵邸の執務室にて、男爵の椅子に座ったルーカスに一人の青年が声をかけた。

いかにも王族然とした思考の持ち主である王子に、そのような物言いが許される者は少ない。


事情を知っている護衛の兵達も、いつルーカスの感情が爆発するかと気が気ではなかった。


「まずは森の前に拠点を築く。野営地のようなものではなく、堅牢な砦だ」


魔王の居城の全容は知られていない。

流石のルーカスも、広大な森の奥に居を構える戦力が不明瞭な相手に迂闊な行動は取らなかった。


実際はどうあれ、グゥエンメ男爵の助力要請に従ってサザンクロスを攻めた前回とは違う。

今回の失敗は誰にも責任をおしつけられないのだ。


「持久戦か……。大丈夫なのか?」


「男爵の領地はそれなりに栄えているようだからな」


青年の質問にルーカスはそのように答えた。

それは略奪の示唆か、それとも強制徴収か。

どのみち、長引けば領地はひどい事になるだろうと推測できた。


しかしルーカスは気にしている様子はない。

元々自分の領地ではないのだから当然と言えた。

サザンクロスの攻略に成功したら、恐らくこの領地はルーカスに与えられるだろう。

その時、荒れ果てた領地を前に彼は何を思うのだろうか。


領地を荒らした張本人を前に、領民達は何を思うのだろうか。


しかしそれを気にするルーカスではない。

未来の事を気にかけて、今に全力を尽くせないでは本末転倒だ。


先を見据える事のできない王族に、些か国の未来が不安になった青年だが、それを今ここで指摘しても意味がない事も理解していた。


「まぁ、ここまでは上手くいったんだ。後はいくらでも時間をかけられるんだろう? なら、確実にしっかりと準備するのも悪くないな」


青年がルーカスの方針を肯定すると、彼は目に見えて上機嫌になった。


「じゃあ俺はちょっと街の様子を見て来るぜ」


「ああ。明日の日の出前にはここを発つ。それまでには準備しておくのだぞ」


「かしこまりました」


ルーカスの忠告に、青年は言葉こそ平坦だが深々と頭を下げて応えると、執務室を後にした。


「もうすっかり諦めてたんだけどなぁ……」


部屋を出て薄暗い廊下を歩きながら、青年は一人ごちた。


「まさかこういう形で巻き込まれるとはね……。やっぱり、俺達を監視してる奴らがいるんだろうなぁ」


そしてそれは、ただの人間に抗えるような矮小な存在でないのだろう。

それを思うと、自然と青年の口から溜息がこぼれる。


青年の名前はカムイ。

LV6ストーリー進行中の勇者である。


そのストーリー内容は、合計LV100以上の魔王のクランを撃滅させるというもの。

低LVストーリーのように、どこに魔王のクランが存在しているかがわからなかったため、絶賛放置中だった。


そしてすっかり異世界生活を満喫していたある日。

彼はルーカスと出会った。


王族と勇者ではなく、昼行燈の冒険者と世間知らずのおぼっちゃんとして出会った二人は、その日のうちに意気投合し、友人同士となった。


時に共に冒険に出かけ、時に依頼主と冒険者として行動し、二年間で関係を深めた。


そして先日。


貴族の務めを果たしてくると言って遠征に出かけたルーカスが、憤怒の形相でカムイの前に現れた。

身分を明かし、王族としてカムイに今回の作戦への同行を命じたのだ。


その時に逃げる事もできた。

友人ではあったが、貴族らしい傲慢さをルーカスが持ち合わせている事も知っていたから、これ(・・)に正当性などない事も理解していた。

だがカムイは逃げなかった。ルーカスを見捨てなかった。


もしも自分のそんな感情まで織り込み済みでこのイベントが用意されたのならば。

そんなものに抗うのは無駄だと悟ったからだ。


「せいぜい楽しませてやって、気分良く過ごしてもらおうか……」


それが気難しい上位存在と接する際のコツだと、カムイはルーカスとの交流で学んでいたのだ。


第三王子帰還。そして別の勇者登場

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