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41.彼女の事情


「休みが欲しい!!」


『玉座の間』に突如そんな叫びが響き渡った。


「え?」


ポラリスが困惑の声とともに、確認していた書類から顔を上げる。

『玉座の間』にて作業をしていた内政班の手も止まっている。

ポラリスはすぐにその声の正体に気付いた。


「休みは……ありますよね? はんぺんさん……」


姿は見えないが彼女が羽織っているだろう革ジャケットの方を向いて、ポラリスが確認の意味も込めてそう尋ねた。

サザンクロスは休憩ありの一日八時間労働。三日働いたら一日休み、というホワイトな労働環境にあった。

勿論、侵入者の対処などイレギュラーな事態には労働休憩時間休暇関係無しに対応しなくてはならないが。


ただホワイトなのは労働時間という一点においてのみであるのも事実である。


「そういう機械的な休みじゃなくてさぁ!」


逆に言えば、サザンクロスでは強制的な仕事の打ち切りが行われている。


「仕事が残っているのに、やるべき事が残っているのに、休めって言われても気分的に休めないのよ! そして精神的に休めないと、体も休まらないの!!」


つまりはそういう事であった。


「あー……」


ポラリスが納得したように呟く。


「社畜だ……」


ああああが声に恐怖を乗せて呟く。

彼女にしては珍しい感情の発露だ。


「って言っても、はんぺんさんの仕事って素材作りだからなぁ。ある意味無限に続く仕事でしょ」


ギリの言葉は正しかった。

生産職の持つスキルでアイテムを作り出すには『素材』が必要であり、様々な自然物からそうした『素材』を作り出せるのは、アルケミストのはんぺんだけだった。


外回りの探索班が収集してきた自然物やアイテムを全て『錬成』できた時が、その日の仕事の終わりと言えなくもない。

実際、はんぺんは趣味と称して残業や休日出勤を行い、錬成元となるオブジェクトの消費に励んでいた。


「なんだか前も、こんな会話をした気がしますね」


ポラリスの呟きに、生産班が同意するように頷く。

というか定期的に起こる、はんぺんの発作のようなものだった。


しかし逆に言えば、問題が解決されずに放置されているという事でもある。


「『加工所』が設置された分マシになったとは言え、アルケミストの増員は保留中のままだからネ」


「進化してステータスが上昇したから仕事が早くなると思ったんだけどなぁ……」


実際、インヴィジヴルに進化して『錬成』の速度は上がった。

失敗率も下がり、休憩に必要な時間と回数も少なくなったので効率は良くなっている。


しかし、探索班も進化したりレベルアップしたりで強くなっている事と、探索そのものに慣れて採集の効率が上がったため、一日に運びこまれるオブジェクトの量も増えていたのだ。


「うーん、あまりやりたくない方法なんですけど、ノルマでも設定しますか?」


「ノルマ!?」


その言葉にギリが声を裏返して叫んだ。

ああああも、本体を囲む棒状の物質をぴったりと閉じて引きこもりの体勢に移行した。


「一日にこれだけの数を『錬成』する、と決めておきます。それを達成すれば、仕事が残っているとは感じないんじゃないでしょうか?」


「うーん、そうかな? そうかも……?」


ポラリスの提案にしかしはんぺんは納得していないようだった。


ノルマというと、どうしてもネガティブなイメージが湧く。

企業が利益のために一方的に課す代物であるという印象が強いためだ。


しかし、ノルマには利益の確保の他に、適正な仕事量の管理という側面もある。

集中力が持続しない社員などに小目標を持たせるためというのもその一つ。

そして、はんぺんのような社員のオーバーワークを防ぐ目的もあった。


「そ、それよりも、休憩時間の精神的充実を求めたいかなー?」


「精神的充実……ですか?」


ポラリスは気付いていないようだが、その話の誘導の不自然さにエレは気付いた。

彼女から同志の波動を感じたためだ。


「そう。カードゲームやボードゲームもいいんだけど、基本的に休日にやる事がないのよねー」


その抑揚のない口調に、ギリもわざとやっているのか、とツッコミたくなった。

ああああなどは、顔を背けつつもチラチラとポラリスへ視線を送る女性を幻視したほどだ。


「娯楽の充実という事ですか? うーん、でもそれはやはり難しいかもしれませんね……」


「いや、簡単でポラリス君に頼める事があるんだよ!」


一転興奮したように叫ぶはんぺん。

佐藤も手を止めて事の成り行きを見守り始めた。


「私にできる事なら協力しますよ。なんでしょう?」


それは、部下のモチベーション維持に努める上司としての発言だったが、思わずギリは『ん?』と言いそうになった。


「え、ええと……」


しかし言い淀むはんぺん。

護衛として控えていたおんたまが、じれったい、という表情を浮かべて握った拳を上下に振る。


実際、ポラリス以外の全員が気付いているはんぺんの要求は、ここで是非とも通して欲しいものだった。

誰かがその一歩を踏み越えることで、他のメンバーへの解禁のハードルが下がるからだ。


意思の疎通ができないからペットのようにしか思えないだの。

ビジュアル値が低いみたいでその気にならないだの。

相手から求められるならともかく、自分から行くのは違うだの。


どれだけ言い訳を並べたところで、彼らの根底には間違いなく一つの欲望が渦巻いているのだ。


食欲と睡眠欲が個人の生存のための本能だとすれば、それは種族の存続のための本能。

悪だと断じて遠ざける事がそもそもおかしい欲求。


すなわち、性欲。


特に女性陣は、ビジュアル値も低く、意思の疎通も図れない同種族あるいは下位種族で解消するよりは、あらゆる面で優れているポラリスを相手にしたいと考えていた。

性格的には合わないだろうなぁ、と考えている女性も何人かはいるが、性欲処理という点で言えばポラリスは満点の相手だ。


しかし、前世の倫理的にも、今世の情勢的にも、ポラリスに『性欲処理したいから抱いて』などと堂々と言える者はいない。


その壁を、今、はんぺんが崩そうとしている。


「す、ストレス解消のために、ポラリス君に頼みたい事があるんだけど……!」


「はい、なんでしょう?」


傍目にも動転しているように見えるはんぺんと、しかしそれに気付いていないのか、冷静に応じるポラリス。


「鈍感系主人公か?」


「いや、そもそもあれは自己評価が低いか立場的な事を考えてそういう可能性を排除してるせいもあるから一概に主人公が悪いとは言えない」


「そっちの解説は求めてねぇよ」


エレとギリがそんな二人を見てひそひそと囁き合う。


「せ……お……き……」


ポラリス以外の誰もが、顔を真っ赤にして口をパクパクさせている女性をイメージする。


「あ……あ……甘えさせて欲しいな!!」


「……はい?」


「「「「「あーーーーーーーー!!」」」」」


日和ったのか本当にそれが願いだったのか。

『玉座の間』にはそれぞれの感情に基く声が響いたのだった。

ここ最近、作者の他作品で似たような展開が続きますね。勿論偶然なんですが…。

それってつまり引き出しの数が少n……

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