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38.彼女の事情

内政回です。


第三王子と領主の軍を退けはした後、ポラリス達は今後について話し合っていた。


「今回は交渉で撤退させる事ができましたが、今後もそうなるとは限りません」


「まぁ、あの王子様の感じだと、すぐにまた来そうだよな」


「それが条件を携えての停戦交渉だといいんだけどね」


げんごろーとエリの言葉に全員が頷く。

男爵はポラリス達とできれば争いたくないようだったが、ルーカスは野心に加え、ひどくプライドを傷つけられたようだった。

エリの予想は全員の希望ではあったが、その可能性が低い事がわかっているからこその言葉でもあった。


「こうなると、森の入口付近に大きな拠点を作るべきですかね?」


「そうだな。森の中を少人数の部隊で動き回られると捕捉が困難だ」


ポラリスの言葉に、ドーテイが同意する。


「今ある拠点はあくまで連絡用と、野生の動物や魔獣の警戒用っスからね。人間の軍隊相手だとキツイっスよ」


ステータス的に低いリリパットでも、矢を射かければ、獣や魔物は逃げていく。

夜に出現するメガアォウルのような強力な魔物も、拠点をわざわざ攻撃するような凶暴性は持ち合わせていない。


そもそも森の中は肉食獣、草食獣ともに食料が豊富であるので、拠点のような場所を破壊してまで食料を探す必要が無いのだ。

拠点が縄張りに入っている事もあるが、そうした相手はドーテイ達によってあらかじめ刈られている。


「この間の人間の侵攻で、森の外へソニックスワローが出ましたからね。外観だけなら全容が判明しました」


ケビンの言葉通り、これまでは空を飛ぶ魔物ですら、森の外周部へは向かわせていなかった。

それが今回、別の目的があったとは言え、外周部の観測が成った。


「王子の軍が布陣していた事もあり、人間の国がどの方向にあるのかも判明しましたからね。見当違いの方向を向いた拠点をつくる恐れがなくなったわけです」


少人数の冒険者なら、街からの最短距離ではなく、侵入のしやすい位置に回り込む事もあるだろう。

だが、二千を超える大軍を布陣させるのに、わざわざ行軍距離を伸ばす利点が無い。

間違いなく、彼らが布陣していた場所が、最寄りの街からの最短距離だろう。


少なくとも、大軍を通すならば最も効率の良い場所の筈だ。


「とは言え、ソウルの貯蓄がまだ少ないですし、彼らとの本格的な交渉前にそのような拠点を作ってしまうと、態度を硬化させてしまう恐れがあります」


先の防衛では、人間を殆ど殺す事が無かった。

戦闘結果で経験値は獲得できるが、ソウルは殺さないと入手できない。

周囲の警戒用の拠点でさえ大量のソウルを消費するので、大軍に対する備えを目的とした拠点など、どれだけ高価か想像もつかない。


「まぁ、でかいだけで基本は今の拠点と似たような造りでいいんじゃないか? 罠を上手く使えば、ソウルを節約しながら防衛施設造れるだろうし」


ギリの発言に、ポラリスをはじめ、多くのメンバーが頷く。

例えば落とし穴を用いた、絶対に開ける事のできない地下への入口など、拠点やダンジョンにはトラップを利用した工夫が多い。


「という訳で、さっさと次の議題に移ろうぜ」


「わかってますけどちょっと待ってください。他にも報告はあるんですから。というかギリさんも関係者でしょう」


「言っても生産班のリーダーははんぺんだしなぁ」


ポラリスははんぺんをリーダーに指名した記憶も無ければ、はんぺんにも、指名された記憶も無いし、リーダーになると宣言した記憶も推薦された記憶も無い。

それでも、生産班は全員そういう認識だった。


自然物をスキルで加工するための『素材』にするには、はんぺんの職業である『アルケミスト』の持つ『錬成』が必要不可欠であるため、彼女がいなければ生産班は稼働しないという意味で、はんぺんがリーダーに祭り上げられていた。


それは、仕事の量を自分で決められるという事でもあるのだが、前世の癖か、元々の性根か。

彼女は今日できる仕事を明日に回す事に非常に大きなストレスを感じる性格だった。


ポラリスがサザンクロスをブラックにしないようにと気を付けているのだが、社畜根性が染みついていたり生真面目な性格だったりすると、勝手に自分で自分を追い込んでしまいがちだ。


「まぁ、鉱石、繊維共にある程度の量は確保できてるわ。鉱石を用いて佐藤さんに武器も作って貰ってるから、『狩場』や巡回に行く人は確認しておいて。防具はオーダーメイドになっちゃうから、それぞれ佐藤さんと相談してね」


先に報告自体はポラリスも受けているが、メンバーに周知させる意味でも、会議の場で生産班に報告させていた。

交易用の布や服。自分達で使う用の武器。そして娯楽用品。

サザンクロスを色んな意味で豊かにするための鍵は彼女達が握っている。


「という訳でポラリス君、私インヴィジブルに進化するから」


どうやら、待ちきれなかったのははんぺんも同じらしかった。

これまでの地道な生産活動に加え、先の人間軍の襲撃に際しては、透明化してあちこちの戦場を回って経験値を稼いでいた。


「あ、はい。それじゃ、議題を次に進めましょうか」


溜息一つ吐き、ポラリスは諦めた。


「今回進化できるのは、ドーテイさん、はんぺんさん、佐藤さん、シュガーさん、ああああさんの五人ですね」


野戦で大活躍したドーテイに、鉱石が定期的に手に入るようになって『スミス』の経験値を稼ぎやすくなった佐藤。

生産で経験値を獲得したはんぺんと、人間の軍相手に魔法を使って戦闘したシュガー。そして、戦力の底上げのために前線に放置されたああああが遂にレベル上限に達した。


「勿論、レベル上限に達していなくても、他に進化できる方はしていただいて構いませんからね」


現在一度も進化していないメンバーは、色々な意味で経験値が獲得しにくい種族や職業だ。

それならせめて進化して、現状を打破した方が良いのではないか、とポラリスは考えている。


「進化したあとLV1に戻るから、それなら上限まで成長してからじゃないと勿体無い」


おんたまの言葉が彼らの心情を代弁していた。


「じゃあ私はインヴィジブルに進化するわね。隅で進化しておくから、先に進めておいて」


「はい、わかり……」


「待った、はんぺんさん、他に進化先無かったのか?」


「え?」


そそくさと全員の前から退散しようとするはんぺんを、グランドが引き留める。


「皆のこれまでを考えると、二つ三つあるのが普通だよな?」


「う、それは……」


「まぁまぁ、はんぺんさんがその種族に進化したいと仰っている訳ですし……」


「いやぁ、何か見落としていて、それでその種族を選ばなかっただけかもしれないじゃん? 聞くだけ聞いておこうぜ」


何かを察したらしいギリもグランドに味方した。


「いや、何も、無かったし……」


その反応は嘘を吐いている人間のそれだった。

わかりやすい、と誰もが思った。


「他の方の進化の時にも言っていますが、クランにとって有益な種族に進化して貰うのは勿論ありがたいです。けれど、優先して貰いたいのはその方の気持ちです」


「……魔王、何か知ってないか?」


「い、いいえ。あくまでこのクランの盟主として、クランの理念を語っているだけです」


「その反応は嘘を吐いている反応だぜ」


「汗を舐めてからじゃないとわかりにくいだろ」


グランドの指摘に顔を背けるポラリス。半眼でグランドに突っ込むギリ。


「はぁ、いいよ、ポラリス君。ありがとう。君まで悪者になる必要は無い。君が人心を失えば、それはクランの崩壊に繋がるからね」


「しかし……!」


「いいんだ。その気持ちだけで、私はまた頑張れるよ」


「はんぺんさん……」


「なんだこれ」


ぷっちりのツッコミは、多くのメンバーの気持ちを現わしていた。


「ニンジャだよ」


「え?」


「だからニンジャ! 不可視族じゃなくて闇隠族ってのになって、透明じゃなくるの!」


「ニンジャ! ニンジャなんで!?」


「ニンジャ! ニンジャ! は、裸で攻撃したらやっぱ一撃死なのかな!?」


「Oh! ニンジャ! フジヤマゲイシャサメラーイ!!」


ギリとグランドと佐藤のテンションがおかしい。

しかし、周りのメンバーも、明らかに期待した目をはんぺん(被っていると思われる宙に浮いた帽子)に向けている。


「やっぱりこうなりましたね」


「こうなるのはわかっていたよ。それでも私はインヴィジブルを選ぶからね」


「確かに不可視族じゃなくなるのは、戦闘とかでは不便かもだけど、常時透明じゃなくなるのは普段の生活にとっては便利よね」


「う……」


「生産職だから、周りから見えた方がいいだろうしなぁ」


先の三人とは意味合いが違うが、エリとげんごろーもニンジャを推す。


「魔王様、はんぺんさんのビジュアルって幾つ?」


「え?」


「それはセクハラだから!」


エレの質問の真意がわからず首を傾げるポラリス。はんぺんは即座にエレに向かって叫ぶ。

透明で無くなるという事は、その姿が見えるようになるという事だ。

シースルーやインヴィジブルがどのような外見かはわからないが、ニンジャなら少なくとも人型だろう。


となると、ビジュアル値は気になるところだ。

他の人間なら他意の無い質問だが、『異種族交配』を持つエレの質問だと意味が変わって来る。


「答えない方がいいですか?」


「うん、やめてくれると嬉しいな。私は、その、自分の外見にコンプレックスがあったし、あとはほら、ちょっと消えちゃいたいなーみたいな気持ちもあったからシースルーを選んだんだよね」


「…………」


しんみりとした空気に、流石のグランド達も沈黙した。


「消えちゃいたい感じはさ、こっちの世界に来て、ポラリス君とか皆と接して無くなったから、まぁ、別にいいんだ。でも、外見はさ……」


「ビジュアル値高く設定してるんでしょ? それなら……」


「それでもやっぱりね」


エリの反論を、しかしはんぺんは遮る。

そのような空気、態度でそう言われては、最早何も言えない。


「そりゃ私だって、ニンジャになるとどうなるかは興味あるけど、今回は、ごめんね」


「では、はんぺんさんにはインヴィジブルに進化していただきますね」


今度はポラリスの言葉に、反対するメンバーは誰もいなかった。


はんぺんさんが進化しました。

他のメンバーは次回。

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