33.嵐の予感
若干短めです。
逃げ出した魔物達を追いかけた冒険者の五人が見たのは、森の中に作られた拠点だった。
「おいおい、マジか……」
「防壁に堀。櫓まであるわよ」
戦士のゲインと、魔法使いのネイが、それを見て驚愕の表情を浮かべる。
「櫓の上にはリリパットがいる。へたに近付くと射られるぞ」
「本当に魔物なのか……?」
斥候のウェスが忠告し、神性術師のドードが呆れたように呟く。
「『魔物の統率者』に率いられた魔物は、知恵を持つという話だからね。おかしなことではないんでしょうけど……」
狩人のララが解説するも、説明する本人が一番信じられていないようだった。
「大きさ的に、あれが本拠地って訳じゃないんだろうけど……」
「丘の麓にとりつけられた扉が本拠地の入口だって言うから、まぁ、違うだろうな」
ゲインの呟きをウェスが補足する。
その時、櫓の上にいたリリパットの一体が、弓に矢を番えているのが見えた。
明らかに、その矢は自分達に向けられている。
「ヤベぇ! バレてる!」
「『矢は当たらぬ』!」
すぐにドードが反応し、飛び道具に対する対抗魔法を発動させる。
直後に放たれた矢が、ウェスに向けて飛来するが、数メートル手前で突然軌道が代わり、近くの木の幹に当たって落ちた。
「逃げるぞ! あれを報告するだけでも仕事としては十分だ!」
そう判断し、即座にゲインはその場から離脱する。
他の四人もそれに続いた。
その背中に向けて、数本の矢が放たれるが、いずれも矢避けの魔法で逸らされ、命中しなかった。
「逃がしたわね……」
「ソニックスワローで見えてるけど、どうする?」
その様子を拠点から見ていたエリが呟く。
よりこーの報告を受けてやってきていた、ブラックアニスのエレが尋ねた。
「追いかけて即座に殲滅、という訳にはいかないからな。今は放っておいて、ポラリス様に判断を仰ごう」
「あの人にそんな判断できるのかなぁ」
「どういう意味?」
「いや、他意はないよ」
割と本気でエリに睨まれて、エレは慌てて弁明する。
「俺達もそうだけど、こんな本格的な戦争なんて経験ないわけじゃん? こういう時どうするのか? なんてわからなくて当然だろ」
「ああ、そういう事ね」
「まぁその辺りは集合知でなんとか。あとはよりこー君に期待かな」
「よりこーさん? なんで?」
「ウォーキャスターの職業が、その辺りに補正でもかからないかと思ってな」
「うーん、どうかしらね……」
言っている間に、開いた落とし穴から一体のソニックスワローが、情報を持ってダンジョンへと飛んで行くのだった。
「と、いうことらしいです~」
ダンジョンの『玉座の間』にて、報告を受けたポラリスは案の定頭を抱えた。
冒険者による同時侵攻。
数は不明。しかも、彼らの背後には国の軍隊がいる可能性さえあるという。
「実際に戦ったドーテイさんの話では、個人の戦闘力はエレさんより少し強いくらい。ただ、明らかに戦闘慣れしていて、連携に長けているそうです~」
「拠点に攻めてくるなら十分撃退は可能ですね。ただ、相手の数がわからないのでは……」
「その撃退も、リリパットとソニックスワローだけじゃ不可能だろうな。せめて俺達のうち誰かがいないと」
ポラリスの言葉に同意しつつも、そう評価するのはミノタウロスのげんごろー。
「冒険者は恐らく偵察が目的でしょうから、他の冒険者も拠点を見てすぐに離れるでしょうね。問題は後方に控えていると思われる相手ですか……」
「あくまで推測でしかないからな。ひょっとしたらここには来てなくて、まだ準備段階の可能性もあるし」
「それなら冒険者をできる限り倒してしまいたいね。情報を持ち帰る数が少なければ、その分相手の準備も遅れるだろうし」
「ソニックスワローを森の外に飛ばしてみようか? 樹上を休み休みなら届くだろうし」
『玉座の間』に集った他のメンバーも、それぞれに意見を口にする。
「そうですね、今は何をするにも情報が足りません。ソニックスワローに偵察させて、冒険者を可能なら捕らえる感じでしょうか?」
シースルーのはんぺんの提案を受けて、ポラリスが頷く。
「じゃあそれ用の部隊でも編制するか? ドーテイ達が冒険者のパーティを逃がしたのは、まともに戦えるのがドーテイだけだったからだろ?」
「そうですね、本格的に侵攻されていない今のうちに動きましょうか」
もしも大勢の兵士が森の中に入って来るようなら、そんな悠長な事をしている余裕はないという判断だった。
「とりあえず、相手と接触した拠点には新しくぷっちりさんとグランドさん、それとシュガーさんに入って貰います」
リザードマンとウーズのぷっちりとグランドは攻撃と防御のバランスが良い、万能型の戦士だ。シュガーはダークマージなので、拠点の中から遠距離攻撃が可能である。
「代わりにドーテイさんを呼び戻して、よりこーさん、コータさん、ガンゲイルさん、ケビンさん、幸恵さんで冒険者のパーティを一つ捕獲して貰いましょう」
屋外での戦闘で強くなるドーテイに、糸による捕縛が可能なよりこー。サキュバスの幸恵のスキルを使えば、男性冒険者を簡単に捕獲できるかもしれない。足が速く長距離を走破できるチキンレッグのコータ、カマソッツのガンゲイルと、マッハイーグルのケビンは上空からの索敵と奇襲が可能だ。
「ソニックスワローに周辺を索敵させ、冒険者が一番近くにいる拠点から出撃して貰いましょう」
「本格的な戦闘は初めてだから、ちょっと緊張しちゃうわね」
普段は『狩場』でしか戦わない幸恵の表情が硬い。
普段から悠々と過ごしているだけに、珍しい光景だった。
「決して皆さん無理はなさらないようにお願いしますね」
「ああ、こんなところで死ぬ気は無いから、命優先でいくとするよ」
「ドーテイさん、それフラグじゃないっスか?」
「不吉な事を言うな」
そんな事を言い合いながら、各拠点に繋がっている『遠距離通路』のある地下へと向かうのだった。
基本的に受け身なのでサザンクロスは毎度情報不足です。




