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32.遭遇戦


「冒険者……かな?」


森への侵入者を確認したエリはそう判断した。


武装した五人の男女。

その装備はバラバラで、正規の軍人でない事を示していた。


「勇者だろうか?」


「鎧や佩いている武器からすると違うと思うけど、どうかしらね……」


色と若干デザインに違いはあったが、これまでに見た勇者達が身に着けている鎧は基本的に同じものだった。

武器に関しても、一目で強力な魔法の武器だとわかるものだったが、彼らが身に着けているのは何の変哲もない普通の武器のように見えた。


「彼らの目的が知りたいな。捕らえるか。エリ君、他に敵は?」


「他にはいない……いえ、待って、東の方向に同じような気配がある!」


ドーテイに尋ねられて、『千里眼』と『気配探知』を組み合わせて周囲を探る。


エリ達のもとへ近付いている一団とは、別に、森に侵入してきた相手を感知した。


「無関係とは考えにくいわね。複数のパーティが同時に入ってきている、という事かしら?」


「少人数でグループを作ってバラバラに動いているという事は、偵察が目的なのかもしれん。目的は我々だと思うか?」


「九割そうでしょうね。残り一割が森そのものかしら」


「じゃあやっぱり、彼らを捕えて……」


「待って!」


今度の制止は切羽詰まっていた。


「見られてる! 相手にもアタシと同じようなスキルの持ち主がいる!」


「この世界の人間はスキルやレベルを認識できないはず……。ならば、やはり勇者か!?」


「スキルだと知らずにスキルを使っている可能性の方が高いと思う。真っ直ぐにこっちに向かってるわ!」


「先に仕掛ける! エリは近くの拠点に逃げ込め!」


「一人より二人……いえ、三人いた方が時間を稼げるでしょ?」


「……無理はするなよ!」


そしてドーテイが茂みから飛び出す。


「来るぞ!」


侵入者達の中で、先頭を歩いていた軽装の男が仲間に忠告していた。

警告しながら、パーティの後列へと移動する。


「お前か!」


ドーテイの狙いは探索役だろうその男になった。

一気に近付き、手にしていた槍で突きを繰り出す。


「させるか!」


隊列を素早く変更し、先頭を斥候役と交代した男が、盾でその突きを防いだ。

穂先を逸らし、軌道を変えられ、バランスを崩すドーテイ。


「ちっ……!」


「ケンタウロスか!? 武装してるって事は、『魔物の統率者』の部下だな!」


(勇者ではない、冒険者か……?)


勿論、勇者である事を隠して、魔王という表現を避けただけかもしれないが、ドーテイは相手の言葉から正体を推理する。


一度大きく距離を取り、迂回するような動きでUターン。

再び侵入者へと突撃する。


「理力の鎧よ!」


「猫の力!」


盾を持った戦士の後方で、そんな声が聞こえた。

魔法か、と思って身構えるが、何も起こらない。

ただ、目の前の戦士の動きが、明らかに早くなっただけだ。


(『敏捷』を上昇させるスキル……いや、魔法か! つまりもう一つもバフ! 鎧と言う事は『頑強』上昇? 厄介な!)


繰り出された槍を躱すと、戦士はドーテイの懐に素早く飛び込んで来た。

しかしドーテイもそれに反応する。

素早く槍を回転させ、石突によるアッパーを放つ。


ステップして戦士は回避。

だが、続けて放たれた横薙ぎを受けて、槍の射程外へと吹き飛ばされた。


「ゲイン!」


「大丈夫、弾かれただけだ!」


一度地面を転がってから、すぐに立ち上がる。

本人の言うように、ダメージは無いようだった。


「魔物としての高い身体能力に加えて、この技術か……。厄介だな」


「気を付けろ、他にも気配がある……」


斥候が言いかけたところで、先程援護の魔法をかけた女性戦士に向かって矢が飛来した。


「ぐっ……!」


直撃こそ躱したものの、肩に突き刺さる。


「ネイ!」


「バカ、よそ見すんな!」


思わず女性戦士の方を見てしまったゲインと呼ばれた戦士に、もう一人の魔法使いが忠告する。

同時に、槍による薙ぎ払いが彼を捉えた。


「ぐはっ!」


そのまま吹き飛ばされ、木に背中から叩きつけられる。


「この!」


追撃をかけようとするドーテイに向けて、残った女性が矢を放った。


(戦士、盗賊、狩人、それに魔法使いが二人ってところか……。バランス良いな!)


放たれた矢を躱し、距離を取るドーテイ。


「ゲイン、大丈夫か?」


「ああ、お前の魔法がなければ即死だったぜ」


魔法使いの男がゲインに駆け寄り、助け起こす。

ゲインの言葉は、その足取りの確かさから、決して強がりではないとわかる。


「傷を癒せ」


魔法使いが手をかざすと、その両手が発光を始めた。


(回復魔法? つまり僧侶……神官、白魔法使い? 特定の魔法名を口にしないのは、スキルと同じで存在を知らないからか)


魔力を用いて様々な効果を齎す。それが魔法であるとするなら、それぞれの魔法は個人のオリジナルという事になる。

本質的には同じものだとしても、威力に差があれば、別の魔法だと考えても不思議ではなかった。


(戦士の実力は私より一回り低いくらいか。それでも人数と連携が厄介だな)


「何が目的だ」


「喋った……!」


「情報の通りだ、落ち着け」


「もしもかつて我らを襲った人間の軍と関係があるのなら、その時に伝言があった筈だ。我らは人間に危害を加えるつもりがないと」


「……例えそれが本心だとしても、はいそーですか、といかないのが俺達なもんでね」


「伝言を領主が信じず新たに軍が招集されたのか? それとも、国そのものが動いたか?」


「俺達が勝手に様子を見に来ただけとは考えないのか?」


「それなら、はいそーですか、と帰れる筈だろ?」


「ごもっとも……」


そしてゲインが盾と剣を構えてドーテイに向き直る。


後方では、魔法使い二人と、弓使いの女性がドーテイを睨みつける。

斥候の男だけは、周囲を警戒していた。


(時間をかければこっちの援軍が到着するだろうが、相手もその可能性がある。彼らは斥候で、本命の部隊が後方にいると考えるなら、手早く片付けた方が良いか)


ドーテイが駆け出す。

槍を繰り出す直前に、矢が放たれ、突撃の勢いを回避のために殺さなければならなかった。


動きの止まったドーテイとの距離をゲインが詰めて迫る。

振るわれた刃を槍の穂先で受け止める。

力任せに弾き返し、相手の態勢を崩させたところで、狙いを定めて槍を繰り出す。


「三枚の盾!」


しかし、ゲインの胸の手前に出現した魔法の盾が、槍の先端を受け止めた。


(手早く片付けられれば苦労はないか!)


貫通させるのは不可能だと考え、すぐに槍を引いた。

態勢を崩したままのゲインを前足で蹴りつけ、間合いを離す。


「ぐおっ!?」


勇者や魔王を除けば、クランメンバーの中でも一、二を争うほど高いドーテイの『筋力』が、更に『草原の戦士』で強化された一撃だ。

格闘系のスキルを持っていなくても、その威力は十分だった。


そしてドーテイはすぐに方向転換し、エリを回収するとその場から全速力で離脱を始めた。


「どうするの!?」


「倒せないとは思わないが、時間がかかるだろうし、こっちもダメージを負う可能性が高い。その状態で他のパーティが間に合ったら面倒だ。拠点まで下がる!」


「そうね。あそこなら少人数でも多人数を相手にできるし、いざとなったら『遠距離通路』で逃げればいいし」


入口は『落とし穴』なので、侵入者は追って来る事はできないので良い事ずくめだった。


「多分ステータス的には勇者より下だ。だが、戦闘経験豊富は向こうが上だ! 真正面からやり合うのは得策じゃない」


正攻法で勝つのは難しい。そう判断しての撤退だった。


エリもドーテイの背に跨りながら、無言で頷く。


(無敵だと思っていたんですけど、こんな事もあるんですね……)


そしてミリエラはいまいち事態を把握していないようだった。

ただ今は、その暢気さが有り難かった。


あまり悲壮感に酔ってしまうと、自己犠牲に走ってしまいそうだったからだ。


拠点に籠っての防衛戦や奇襲は得意だけど、まともに戦闘するのは若干不得手なメンバー達。

数を頼りに押してくるならともかく、個人の技能が高い相手だと余計です。

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