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31.ガールズトーク

腐食耐性の無い方は、その手の話が始まったら最後の方まで飛ばす事をお勧めします。


ポラリス達サザンクロスはダンジョンのある森の探索を続けながら、今日も拠点の作成に勤しんでいた。


とは言え、一つの拠点セットで必要なソウルが5000近くにも及ぶため、進捗状況は芳しくない。

また森自体が広大であるので、全域をカバーするとなるとかなりの数の拠点が必要となっていた。


現在、サザンクロスの一日の収益は、『魔力炉』の60。これに『狩場』と『漁場LV2』で倒したモンスターの分が加わる。

周辺探索のついでに倒した魔物や獣の分を合わせても、500ににさえ届くかどうかといったところ。

『食料』は完全に『狩場』と『漁場LV2』、更にダンジョン内に設置すると、一日につき10の『食料』が発生する『迷宮畑』で賄えるようになっているのでこちらにソウルを回さなくて良いのは助かっていた。

それでも必要な施設は足りていないし、ダンジョンの防衛に関しても一つ手を加えると、連鎖的に他の場所もいじりたくなってしまうため、ソウルがどれだけあっても足りない。


今は一日に使用するソウルの量を200と決め、残りは貯蓄。

拠点分のソウルが貯まり次第順次設置、という方針が取られていた。


「鉱石の類はマイガとの交易で安定供給されるようになったから、探索の優先順位が下がったのは有り難いわね」


周辺の探索を続けていた三つ目のエリが何気なく呟く。


「その代わり、衣服、紙用の植物の素材が大量に必要になったがな」


それを聞いたケンタウロスのドーテイが苦笑いを浮かべながら応じた。


(しかも生産班の方々は余計に忙しくなっていますよ)


エリに『装着』された状態で、ヘルアーマーのミリエラが彼女と念話を交わす。


(魔王様がきちんとシフトを組んでるからその辺の心配はないわよ。勤務中が忙しいってだけで)


(はんぺんさんなんかはよくサービス残業や休日出勤をしていますよね)


「魔王様が休めって言っても聞かないからね。趣味、って言われたら強く否定できないし。対価で返そうにも、私達お給料貰ってないからね」


「ん? ミリエラ君と会話していたのか? すまんな」


「ああ、いいのよ。聞こえて困る事なら頭の中だけで済ますから」


「それはそれで裏で何を言われているか心配になるな」


言ってドーテイが豪快に笑った。

現在の性別は男性だが、転生前が女性だったせいか、彼はどちらかと言うと、女性陣との方が会話が弾んだ。

特に、男性(・・)の話をする時が一番楽しそうだった。


「カードゲームなんかの娯楽はありますけどぉ、基本休みでもする事ないですもんねぇ」


頭上から声が割り込んで来る。

樹上の探索を行っていた、土蜘蛛のよりこーだ。


「しかしそうだな、例えばエリ君、このクランに足りないものはなんだと思う?」


「え? ロマンス」


即答だった。

しかも彼女の思考の表層を知る事ができるミリエラには、『ボーイズラブ』が省略された事が伝わっている。


(わざとだ)


ミリエラは確信していた。

ヘルアーマーに表情があれば、頬が赤く染まっていただろう。


大分腐食が進んでいる。エリは内心でほくそ笑んだ。

基本的にミリエラを『装着』する事の多いエリは、どのくらいの思考の深さならミリエラに伝わるかをある程度感覚で把握できるようになっていた。

これはポラリスにもできない。

する必要が無いから試していないだけとも言えるが。


「ロマンスか。確かにそうだな。同じ種族以外ではポラリス様以外にそういう感情が湧かない訳だしな」


「人間的に好き、とかそういう信頼や友情といった感情なら成立するんですけど~」


(ドーテイさんは今は男性なのだから、ポラリスさんにもそういう感情は湧かないのでは?)


「エリ君はどうなのだ? ポラリス様とそういう関係になりたいと思うか?」


「求められたら吝かではないけれど、自分から積極的にってのは無いわね」


「カッコイイとは思うんですけど~。いい人だとは思うんですけど~。なんとなく重そうですよね~」


言いたい放題だった。

ミリエラが呆れている気配を出す。


「いっそ全員で魔王様のハーレムに入ってみるってのもアリかもね。魔王様は拒絶するでしょうけど」


「受け入れたら受け入れたで、ポラリス様は真面目だからな。仕事に加えてドーテイ達の相手も全力でこなそうとするから、間違いなく過労死するぞ」


「魔王様死んじゃったらアタシたちも死ぬから、上手く管理しないとね」


「それってお仕事のスケジュールですか~? ハーレムの順番ですか~? それとも、一日の回数ですか~?」


「勿論、全部よ」


そして三人で笑い合う。


(笑えません)


しかし今度は呆れているというより、恥ずかしさや照れの感情が強かった。


(あと、ドーテイさんがさりげなくハーレムに入ろうとしているけど、誰も突っ込まないのかしら……)


「けれどいいんですか~? 主様とそういう関係になると、この世界でやれる事が制限されちゃうと思うんですけど~?」


「まぁ、アタシはこの世界に逃げて来たようなもんだからね。特別やりたい事がある訳じゃないのよ。ちょっと闇の深い言い方をすると、居場所があって必要とされるなら、なんでもいいわ」


「確かに、一歩間違えるとヤンデレのようなセリフだ。そういう意味で言うならドーテイも特にこの世界でやりたい事がある訳ではないのだよな」


「でもわざわざ性別を変えてるって事は、何か思う所あったんじゃないの? あ、言いたくないなら言わなくていいからね」


尋ねるエリだが、ある事に思い至って慌ててそう付け加えた。


「心配するな。別に性別の不一致に苦しんでいた訳じゃない。どちらかというと性癖の問題だ」


「性癖?」


聞き返すエリ。

しかし、ミリエラはここで話を終わらせて欲しかった。

ドーテイの普段の言動から、次に来る言葉がなんとなく予想できてしまったからだ。


「うむ。わかっていると思うがドーテイは転生前は腐っていた。読み専ではあったが、いや、読み専だったからこそその業は深く、欲望は果てしなく、そして歪んでしまったのだ」


「まさか……」


「うむ。自分でも掘ってみたいと思うようになっていたのだ」


「「あうと~~~~!!」」


エリとよりこーの叫びが重なる。

しかし笑いが混じっていた。

二人が引いていない事に、ミリエラが引く。


「あれ? という事は、ポ×ド(ポド)じゃなくてド×ポ(ドポ)って事?」


「うむ。まぁドーテイはリバシOKだからどちらでも問題無い。シチュエーションとしては、最初の切っ掛けはドーテイからだが、『いつまでも好きにできると思わないことです』とか言って逆転するのが良いかな?」


「下剋上×下剋上で元の立場に戻るとか、確かに業が深いわね」


苦笑いと浮かべるエリ。呆れる事も引く事もせず、愛すべきバカを優しく見守っている。


「勿論、普通に女性と恋愛してみたいとも思うがな。幸恵さちえ君やおんたま君を可愛いとは思うし」


「おんたま君はおんたま君でドーテイさんと掛け合わせちゃうと業が深くなるけどね~」


「そう言えば、彼女転生前は男性だったな」


「普段の言動を見ていると、あれも性同一障害とかは関係無さそうだけど、抑圧されてたものが解放された結果ともとれるし、わからないわよね」


「まぁ、話せるようなら雑談の時にでも向こうから話を振ってくるだろう。性別やこの世界に来た理由なんかは、他の皆も知りたがっている事だろうし」


勿論それはおんたまに限らない。

異世界転生に憧れを持っていてもおかしくない言動だったり、会話の端々に前世での闇が見え隠れしているメンバーばかりではないのだ。


「ドーテイさん……」


「方角と人数は?」


そんな雑談を交わしていると、突然声のトーンを抑えてエリがドーテイを読んだ。

その意味をすぐに理解し、ドーテイが尋ねる。


「西に二百メートルくらいね。まだ遠いから人数まではわからないわ。複数」


「隠れて様子を探ろう。よりこー君は近くの拠点に行ってポラリス様達に伝達を頼む」


「お気をつけて~」


ドーテイの指示に従い、よりこーが木々を伝ってその場から離れる。

残された二人も、茂みにその体を隠した。


「マイガかその関係者ならいいのだが……」


「領主の軍が改めてくるだけの時間はあったから、その可能性もあるわね」


「国そのものに動かれていると厄介だ。へたをすると、ストーリーに関係無い勇者が来るかもしれん」


マイガの話では、普通の人間ならばいくら鍛えても、LV2ストーリーで戦った勇者の強さを超える者は殆どいないという。

だが、サザンクロスのメンバーも強くなっているとは言え、普通の兵士相手でも大勢に囲まれたら負ける可能性の方が高い。

更に、冒険者の中には超人的な強さを持つ者もいるのだと言う。


ストーリーに関係無く彼らがやってきたのだとしたら、それはまさしく緊急事態であった。


ドーテイは美丈夫の姿でこの会話をしています。

そして流れる不穏な空気。

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