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30.マグナズイレブン3 後編(下)


一週間の調査を終えて、マグナ達と他の冒険者の情報を受け取った冒険者ギルドは、マグナ達の発見した拠点が敵の本拠地だと断定した。

そして当然のように拠点の襲撃は大規模クエストに認定され、三ヶ月の準備期間ののち、冒険者や国の騎士団の混成部隊でこれの撃滅にあたる事が決定された。


マグナはクランメンバー全員を参加させるべく、期間に合わせて配分するクエストを調整する。

森林内での討伐依頼は継続される事となり、それとは別にトゥトゥリューからマグナに指名依頼が出された。


青ランクの冒険者に対する依頼としては破格の報酬が設定されたその依頼は、間違いなくトゥトゥリューの個人的な感情が混じっていた。

依頼内容は彼女の住む村に常駐し、狩猟や採取を行うエルフの護衛をするというもの。


元々、エルフが暮らす森にゴブリンやブラックハウンドが数多く出没するようになり、村の外で活動するエルフに被害が出ているので、これを解決して欲しい、というものだった。

三ヶ月の間、エルフの犠牲を看過する訳にはいかなかった。


冒険者のランクのシステムを理解したトゥトゥリューは、依頼を複数に分けてギルドに申請し、それら全てでマグナのクランを指名する事で、彼らの昇格を手助けするようになっていた。


「金持ちなんだな……」


「エルフの領域でしか採れないものはそれなりに価値がある。特に使い道が無くても、エルフの森で採れた、というだけで値段がつくそうだぞ」


それだけの依頼を申請すれば、当然報酬の額も莫大なものになる。

それを気にせず支払うばかりか、クエスト中のクランメンバーの食費も受け持つというトゥトゥリューに、マグナは驚かされた。


そうして依頼をこなす日々が続くと、エディオムの街には徐々に見知らぬ冒険者が増えて来た。

周辺の街や帝国各地から大規模クエストのために集まって来た者達だ。


中には赤や紫だけでなく、黒のプレートを下げている冒険者もちらほら確認できた。


「マグナ、というのは君かな?」


状況の確認に街にやって来ていたマグナは、ギルド近くでそう声をかけられた。


「そうだけど、あんたは?」


そこに居たのは長身の男性だった。

黒髪に整った顔立ち。涼し気な印象を与える美形。

プレートを下げていないので、冒険者ではないとわかる。


「私は今回の大規模クエストの総司令を任された者だよ。ジェファーソン神国という国で騎士団長をやっている」


「他国の人間が総司令を務めるのか?」


「信頼と実績が違う、と言いたいところだけど、今回は我々が強引にねじ込んだのだ」


マグナの疑問はもっともだった。彼が冒険者というならともかく、帝国の騎士団も参加するクエストの、総司令が他国の人間と言うのはおかしな話だった。

治安や安全上の問題は勿論、国の面子という意味でも有り得ない。


「『魔王』あるいは、それに関係する可能性があるからね」


「!?」


その言葉にマグナは反応した。表情が引き締まる。

この国の人間は『魔王』の事を『魔物の統率者』と呼ぶ。

それは、他国でも同じであるというのは、他の冒険者の話を聞いてわかっていた。

ならば、『魔王』と呼ぶこの男性は……。


「転生者か……?」


「ご名答。ついでに言えば、ジェファーソン神国は転生者の存在を知っている国だ」


「それはつまり、普通の国はトップでもその存在を知らない?」


「伝承で魔物の統率者と、それを討伐する英雄の話くらいは伝わっているだろうけれど、魔王と勇者、ましてや転生者の話は知らないだろうね」


「…………」


「そう構えないでくれたまえよ。今回の大規模クエストに関してこちらでも独自に調査をしたところ、『勇者』かもしれない存在が浮かび上がってきたからこうして挨拶に来ただけだ。君が転生者だからって、何かをするつもりはないよ。まぁ、一応スカウトくらいはしたいけれどね」


油断なく男を睨むマグナを見て、彼は肩を竦めた。


「スカウト?」


「ああ。ジェファーソン神国は勇者やその仲間を国に引き入れているんだ。まぁ、転生者の事を知っていれば、その力を取り込みたいと思うのは当然だからね」


「もし断ったら?」


「どうもしないからそんなに緊張しないでくれないか? 私がこの国にやって来たのは、大規模クエストの指揮を執るためで、君と出会ったのは偶々なんだから」


しかし、マグナはいまいちこの男を信頼できなかった。


「時に、君は今ストーリーいくつだい?」


「!?」


「転生者の事を知っていると言っただろう? ちなみに私は現在LV6ストーリーを進行中だよ」


「あんたも、転生者!?」


「俄然興味が湧いて来たようだね。知りたいだろう? この後、自分にどのようなストーリーが用意されているかを」


「……ああ、まぁな」


「あまり我が国の者以外にぺらぺら喋るのもアレだからね。興味があるなら我が国に来てくれたまえ」


そう言って男は、懐から一枚の木片を取り出し、マグナに差し出した。


「我が国への入国手形だ。残念ながら、ジェファーソン神国はグリンデル帝国と国境を接していないから、道中の国への入国手形は自分で用意して貰わないといけないが……」


「……わかった」


わざとだろうな、とマグナは理解した。

転生者だからと誰も彼も受け入れるのではなく、そこまで自力で辿り着けるかどうかで振るいにかけているのだろう。


「私はシンドラーと名乗っている(・・・・・・)。今回のクエストでは、頼りにさせて貰うよ」


「ああ、任せてくれ」


そしてシンドラーと名乗った男はその場から立ち去った。


「…………」


自分達以外の転生者はこれまでにも出会っていた。

しかしそれらは、自分と直接関わりのある相手だった。

自分の知らないところで活動し、自分より先を行く転生者に出会ったのは初めてだった。


多くの転生者を見ていながら、どこかでこれは(・・・)自分の物語だと思っていたマグナにとって、それは衝撃的な邂逅だった。

自分より圧倒的に強い、自分と同じ立場の相手。

その存在は否が応にも、あくまで自分はこの世界を綴った物語の登場人物に過ぎないのだと認識させた。




「考えてみれば、そういう相手もいるわよね」


エルフの集落に戻る途中、他のメンバーと合流したマグナは、シンドラーと名乗った転生者の話をした。

ヴォーパルバニーのさざんかが、納得した様子で頷く。


「となると、今度攻める拠点が魔王のものではないか、という予想が俄然真実味を帯びてきましたわね」


ファフニールのトゥスが、髪をかきあげるような仕草をしながらそう口を挟む。


「それで、どうするんだ?」


最後尾を浮かんでついてくる、全長二メートルもの巨大な青龍刀がそう尋ねた。

魔剣族のフライングソードである柳刃やなぎば邦兆ほうちょうだ。

クランの男性メンバーであり、そろそろクエスト開始という事もあって、集落へ移動している最中だった。

魔剣族なので職業は剣での戦闘が得意なライトセイバーを選んだのだが、ライトセイバーは剣を(・・)使用した(・・・・)戦闘(・・)が得意なだけで、武器を持てない魔剣族ではあまり意味が無かった。

彼の戦闘力を向上させるなら、グラップラーなどが該当しただろう。


「まぁ、色々知りたいから行ってもいいかな、とは思ってる」


質問の意味を誤解しなかったマグナが答えた。


「ストーリーを進めるうえでも、皆と暮らしていくうえでも、大きな街に移動しなきゃいけない訳だしな。それならいっそ、色んな場所を見て回るのも面白いかもしれない」


「確かに、折角異世界に来たんだから色々見たいって言うのはあるわね」


マグナの言葉に、さざんかも同意する。


「まぁ、ともかくこのクエストが終わってからの話だよ」


「そうね、トゥトゥリューとの関係がどうなるかもわからないしね」


「むぅ……」


「はぁ……」


さざんかにからわかれ、マグナは口を噤む。そんな彼を見て、複雑な感情の混じった溜息を、トゥスは吐いたのだった。




エルフの集落を集積拠点として物資を運び込む。

作戦の開始と同時に、攻略目標周辺の小拠点へ部隊を分けて進撃。


中には索敵の途中に壊滅させた拠点もあるが、相手が再び入っていたならこれを殲滅して占拠。

集落から物資を運び込んで中継拠点兼包囲陣地とし、そののちに総攻撃を仕掛けるという戦略だった。


参加する冒険者はランクによって従事する作戦に制限がかけられた。

本拠地襲撃は赤以上の冒険者。これはチームで赤だったとしても、赤未満の冒険者は参加できない。


彼らは小拠点の制圧と維持、物資運搬の護衛などを務める。

また、襲撃部隊が拠点内に入ったのち、包囲に参加する事は許可された。


マグナのクランで拠点襲撃への参加が許されたのはマグナとトゥスだけ。

冒険者のランクで言えばどちらも参加できないのだが、依頼主であるエルフの指名と、総司令であるシンドラーの推薦により特別に参加が許された。


ゴブリンやシックスハウンドだけなら、他のクランメンバーも問題無く戦えるが、それより強力な敵がいないとも限らない以上、マグナとしても文句は無かった。


作戦開始から拠点の襲撃まで、特にハプニングも無く順調に進んだ。

拠点内にいたのもゴブリンやシックスハウンドばかりであり、多少レベルが上がっているようには思えるが、誤差程度の感覚でしかなかった。


「これなら他のメンバーが参加しても大丈夫だったんじゃないかしら?」


「あくまで結果論だよ」


マグナもトゥスと同じ事を思っていたが、自分の言葉も本心だった。


「どうやら当たりであり、外れだったみたいだね」


拠点を外側から虱潰しに探索し、殲滅している途中、マグナはシンドラーと遭遇した。

LV6ストーリーに挑戦中と言うだけあって、彼の戦闘力は彼と同じくジェファーソン神国から来訪した騎士団と比べても図抜けていた。


白を基調に華美な装飾が施された鎧を見につけ、実用性など欠片も見いだせない指揮杖を手にしている姿は、いかにも貴族の司令官といった出で立ちなのだが、その実、彼はこの場の誰よりも強かった。


「それはどういう意味だ?」


「この拠点は間違いなく、魔王やその関係者が関与しているものだ。ゴブリンとシックスハウンドが協調しているというだけでも状況証拠としては十分だけど、使っている武器防具、施設に保管されていた道具などは、他の種族から奪ったものではなく、明らかに新たに作られたものだった」


しかし、この拠点には生産施設が存在しなかった。

それはつまり、どこかで製作された物資をこの拠点に運び込んだ者がいるという事だ。


「エルフや君達に問答無用で攻撃を仕掛けていた事からも、人属が協力していたとも考えられない。なら、彼らの支援者は魔属側の者達だ」


「それで当たりか……。外れってのは?」


「転生者が一人もいなかった。ソウルで生み出したか『サモン』で呼び出したモンスターばかりだよ。テイマー系の職業持ちがいなければ、野生の魔物を手懐ける事はできないから、転生者がいなくても拠点が稼働している以上、彼らは何かしらの方法によって生み出された存在だ」


「なるほど……」


「とは言え色々謎ではあるね。ダンジョンの外に拠点を築くなら、普通は転生者を、つまり自分の部下を何人か配置するものなんだけど……」


偶々いなかった、という事も考えにくい。

大規模クエストの招集が開始されてからでも三ヶ月、拠点の周囲ではゴブリンとシックスハウンドが狩られていた。

転生者がいれば何か対処した筈だし、それだけ長い間、転生者が留守にするというのもおかしな話だ。


「放棄された拠点って事かな? それも、自主的にじゃなくて何かそうせざるを得ない理由があって……」


自主的に放棄したのなら、ゴブリンやシックスハウンドも連れて行く筈だからだ。


「それとも単純にグリンデル帝国への嫌がらせが目的とか? それにしてはお粗末だしなぁ……」


「あの、とりあえず俺達、他の敵倒しに行くぞ?」


「ああ、ごめんごめん。経験値、大事だもんね」


手を振って見送ってくれたので、マグナはトゥスを連れてシンドラーから離れた。


「なんだか、あの方から逃げたような感じですが……?」


「ああ、逃げたんだと思う。色んな意味で、あの人は怖いよ」


自分より強いというのは勿論ある。

だがそれとは別に、何か得体の知れない恐怖を感じていた。


その後、一時間程度で拠点は殲滅され、二日かけて残党狩りを行い、クエストは終了した。


今回のクエスト参加の功績をもって、マグナは赤ランクへ昇格。他のクランメンバーも青ランクへの昇格を果たした。


更に、クランメンバーがエルフの村に居住する許可まで与えられたのである。

これは間違いなく特別扱いだったが、あくまで依頼の報酬とは別に、エルフが個別に感謝を示しただけ、と言われれば文句を言う事ができる者はいなかった。


「今後、どんどん厳しくなるけど、頑張ってね」


シンドラーはそんな言葉を残してジェファーソン神国へと帰って行った。


そしてマグナ達は、今回得た報酬で旅支度を整え、更に高い依頼を受けるべく、エディオムより大きな街を目指して移動を開始した。


「ふむ、木々を通さぬ風というのも良いものだな」


そんなマグナ一向に、トゥトゥリューが同行していた。

今回の作戦に関し、エルフの中で最も貢献した者として、トゥトゥリューが当然の如く選ばれた。

長老会議で与える報酬を議論していたところへ、見聞を広め更に強くなるために旅に出る許可を本人が願い出たため、これを了承したのだ。


「まぁ、一緒に旅ができるのは嬉しいけどさ、本当に良かったのか? 俺だって別にずっと旅をする訳じゃないんだから……」


「待っている間にお前達の関係が進んだら勿体無いじゃないか」


トゥトゥリューの言葉を聞いた女性メンバーの反応は様々だった。


「お前達に先んじるつもりは毛頭無い。ただ、私の番が来た時にすぐに行動に移りたい。勿論、見聞を広めるためというのも、武者修行というのも嘘ではないぞ」


「いや、うん、まぁ、いいけどさ……」


とは言うものの、マグナはあまり嬉しそうではなかった。

既にマグナのハーレムに入ってもいい、と思っているメンバーならともかく、迷いが生じているメンバーとの関係を進める時、彼女は逆風にも追い風にもなり得る。


後ろを一度振り返って女性メンバーの反応を確認し、溜息を吐くマグナ。

彼のハーレムを作るという野望は、まだ成就されないようだった。


大規模戦闘を期待していた方には肩透かしかもしれません。

一応、今回はこれでマグナズイレブン3は終了です。

次回からはまたポラリスの話に戻ります。

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