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29.マグナズイレブン3 後編(上)

サブタイトルへのツッコミはご勘弁を。


マグナはさざんか、ふふふ、アズマリアと共に、トゥトゥリューの案内で再び森へとやって来た。

帝国ではエルドの森という名前だが、エルフたちはただ森、とだけ呼んでいた。


端から端まで真っ直ぐに歩くだけで二日はかかるというから、その森の広さが窺える。


「やっぱり、文明が進んでいない世界だと、森とか山は基本手付かずなのね」


森の中を歩きながら、トゥトゥリューには聞こえないように、さざんかがそう呟いた。


「人が入るにしても、狩猟や採取で少し入るだけ。森を切り拓いたりする事はあまりないようだな」


ふふふも同意する。

特にこの世界は野生の獣の他に、魔物が森や山などには棲息しているため、地球と比べて危険度が高い。

隠れ住むような者達でなければ、好き好んでそのような場所に住もうとは思わないのだった。


勿論、木材などの資源を採取していく過程で、森や山を侵食する事はあるだろうが。


マグナ達は一旦、トゥトゥリューの集落へと向かい、そこから魔物との遭遇報告が多い場所へと向かう手筈になっていた。


「止まれ」


その途中、マグナが静かな声で、しかし鋭くメンバーに警告を発した。 


「敵か?」


「ああ。多分シックスハウンドだ。二体かな? ゴブリンも二体いる……」


トゥトゥリューも声を潜めてマグナに確認する。

どちらも声を抑えているため、自然と顔が近付く。

それを見て、さざんかは不機嫌さを露にした。更にそんなさざんかを見て、ふふふは肩を竦めた。


「俺達の役目は偵察だけど、どうする?」


「これまでの動きからして、ゴブリンも一緒にいるなら、シックスハウンドを倒せば逃げる可能性が高い」


「なるほど。それを追いかけて相手のアジトを突き止めるのか」


「うむ」


ならば、とマグナは剣を鞘から抜いて構える。

相手はまだこちらに気付いていない。

奇襲でシックスハウンドを撃破すれば、撤退し易くなるだろうという判断だ。


「相手が逃げ始めたら合図をするから、そうしたら追いかけて来てくれ」


「わかった」


さざんか達に周囲を警戒するよう伝え、マグナが音も無く走り出す。


木々を避け、幾つかの茂みを飛び越えた先に、それはいた。


二頭のシックスハウンドを先行させ、前方を警戒しながら進む二体のゴブリン。

側面に飛び出したところで、シックスハウンドの一頭が気付いた。

警戒のために短く一つ吠えるが、その瞬間にマグナが剣を振るう。


一刀のもとに首を断ち切られ、絶命するシックスハウンド。

もう一頭がマグナに向かって吠える。

ちらりとマグナがゴブリンに視線を送ると、二体は混乱しているようで特に対応する素振りを見せなかった。


仕方なく、飛び込んで来た勢いを止め、シックスハウンドに切先を向ける形で剣を構えて対峙する。

シックスハウンドも低く唸りながら、飛び掛かる機会を窺うように、マグナの後方へ回り込もうとじりじりと動く。


マグナは一定の距離を保ったまま、シックスハウンドを正面に捉え続けた。


お互いの立ち位置が90度変化した時、ゴブリンがマグナから背を向け逃げ始める。


「今だ!」


それを見たマグナが声の限り叫ぶと、後方の茂みが揺れ、頭上から木の葉が舞い降りて来た。

地上をさざんかが、樹上をトゥトゥリューがゴブリンを追った証拠だった。


「さて、俺も早いとこ追いかけないとな」


マグナの持つ『気配探知』『気配感知』は有効範囲に限りがある。

あまり離され過ぎると、見失ってしまう可能性があった。


マグナの目の前のシックスハウンドは殿軍よろしく、マグナに向かって吠えかかるものの、向かってこようとはしない。


「時間稼ぎに付き合ってやる義理はないんでな!」


剣を構えたまま、マグナがシックスハウンドへ向かって走る。

一瞬戸惑うものの、シックスハウンドも一度横に小さくステップしたのち、マグナに向かって飛び掛かった。


「はっ!」


剣の切先から微妙にずれた場所からの突撃。

しかしマグナは、素早く反応し、剣を振るってシックスハウンドを空中で撃墜してみせた。


「ギャイン!?」


一撃では倒せなかったものの、落下したシックスハウンドが短く鳴いた。

そこへ、容赦なくマグナが剣を突き立て、止めを刺す。


「ふふふ、アズマリア追えるか!?」


「ああ、ついていくくらいならできるさ」


「が、頑張ります!」


その時、丁度マグナの下にやって来たふふふが、少し息を荒げながらも親指を立てて答えた。

アズマリアは空中を浮遊しているが、高度が上がるほど移動速度が遅くなる事が確認されている。

地上から大体150cmを超えると極端に速度が下がる。


元の世界の身長がそのくらいだったそうなので、それを基準にしているのかもしれない、とマグナ達は推測していた。

ちなみに、150cmより下がっても、その速度が下がる事が確認されている。


当然、速度を上げれば人が走るのと同じように疲れるため、基本的に追跡には向いていない。


「よし、二人を追うぞ。ただし、ゴブリンに気付かれないようにな」


「ああ、わかった」


そしてマグナ達も、さざんか達に遅れて、ゴブリンの追跡を開始した。


その後、マグナ達は度々ゴブリンとシックスハウンドによる哨戒部隊による接触を受けた。

これに対処している間に、すっかりさざんか達を見失ってしまった。


一応、はぐれた場合、日が落ちる前にエルフの集落へ戻る事になっているので、そこまで大きな問題ではなかった。


「折角だから、ある程度敵の数を減らしてから集落へ向かうか」


「わかりました」


「そうだな。私達の経験値を稼ぐ意味でも重要だな」


「シックスハウンドは俺からすればそれほど強くないけど、ゴブリンとかに比べればそれなりに上位の魔物みたいだから、そこそこ経験値が貰えるんだよな」


具体的な数値ではなく、経験値バーを満たしていく形で所有経験値が増えていくため、あくまで体感の話でしかないが、それでも間違いなく、ゴブリンよりシックスハウンドの方が獲得経験値が多かった。


「流石に、この数は肉や毛皮を回収できないがな」


「討伐の証拠のゴブリンの鼻とシックスハウンドの尻尾を持って行けば、一応報奨金は出るみたいだし」


とは言え、その金額はまさに雀の涙程度でしかない。

良い依頼が無い時に冒険者はゴブリンなどの弱い魔物を自主的に狩って日銭を稼ぐ事もあるが、多くは拠点となる街の傍で狩りを行うため、ライバルが多く、遭遇数はそれほど多くない。

今回のように森や山奥にいけば別だが、そうした奥地に出没するような魔物は、その日暮らしの冒険者では対処できないような強力な魔物である事が多い。


この日、マグナ達は8組の哨戒部隊を倒して、集落へと戻った。


夜、トゥトゥリューとさざんかが戻ったので、他の冒険者と共に情報の交換を行う。


エルフの住居は、大木のウロや根の間などを利用した自然のものと、木材と植物で作られたものの二種類があった。

マグナ達の寝泊まりに宛がわれたのは後者のもので、どうやらエルフ的にできるだけ自然を利用した住居の方が価値が高いらしかった。


「相手の塒のような場所は見つけたが、どうも中継拠点のような場所のようだな」


「と言うと?」


「ある程度の数のゴブリンとシックスハウンドが群れいてる場所は見つけた。しかし、マグナ達が倒した魔物や、他の者達が遭遇した魔物の数を考えれば、些か小さいと思われる」


「つまり本拠地は別にあると?」


「ああ。ヘタをすると、あのような拠点が幾つもある、巨大勢力であるかもしれん」


そもそもから、まるで別の種族の魔物が協力して行動している事自体が異常だ。

であるだけでなく、砦のような場所まで作っているとなると、そんな事例は今まで聞いた事がなかった。


「一体何が起こってるんだ?」


「これってもうさ、一つの街の冒険者だけの問題じゃないだろう」


「その判断をギルドがするためにも、俺達はできるだけ調査しないといけないんだよ」


「本拠地の場所さえ確認できれば、これまでに確認できた敵の規模から言って、ランク関係無い大規模クエストになる事は間違いないな」


「他の支部からも応援呼ぶ事になるだろうな。結構良い感じの報酬になりそうだ」


「大規模クエストは聞いた事がないな。そんなのがあるのか」


「まぁ、滅多にある事じゃねぇしな」


冒険者達の話を聞いていたマグナの呟きに、別の冒険者が反応する。

実力は高くても、やはり素人、という嘲りが滲んでいた。


「青ランク以下の奴らも後詰や後方支援でできる事はあるからな。むしろ、危険が少なくて報酬はそれなりだから、ランクの低い奴の方が有り難いかもしれないぜ」


「なるほど……」


それならその時手の空いている、他のクランメンバーも参加させよう、とマグナはその説明を聞いて思った。


「安心して欲しい。その時でも、我々エルフが、マグナの参加を要請しよう」


考え込んだマグナの反応を誤解したトゥトゥリューが、見当違いのフォローを行う。


「ああ、ありがとう」


とは言え、それ自体は悪い話ではないので、マグナは素直にそうお礼を口にするのだった。




「あれが本拠地かな?」


偵察を始めて四日目。マグナ達は遂にそれと思しき場所を発見した。

木々はそのまま残っており、葉っぱなどで偽装されているが、あきらかに人工の建築物だと思われる物体が密集した場所。

その数は十や二十ではきかない。

ここにくるまでに、幾つも茨を利用した柵や、侵入者警戒用のトラップなどを確認している。


「少なくとも、他の拠点よりは重要な場所だろうな」


茂みに身を隠しつつマグナとトゥトゥリューは油断なくその集落群を観察する。

シックスハウンドやゴブリンがその間を歩き回っているのが見える。


「ゴブリン達だけかな? 他の種族は見えない?」


「今のところは確認できていないな。他の種族はおらず、規模が大きいだけならこちらも数を投入すれば良いだけだから簡単なのだが」


「とりあえず今日一日観察してみるか。可能なら明日は侵入してみたいが……」


しかしマグナの持つレンジャースキルに、侵入、潜入に適したスキルはなかった。

勿論、LVが上がって新たにスキルを覚えられればまた変わってくるが。

スキルが無ければ、マグナ達の技術は素人に毛が生えた程度でしかない。


「エルフの中にもそうした技術の持ち主はいないな。他の氏族も似たようなものだろう。冒険者達にも確認してみるか」


獲物に気付かれないように森林を移動したり、罠に獲物がかかるのを何日も息を潜んで待つ技術はあるが、潜入調査の技能となると、それはエルフの領分ではなかった。


「これは、本当に大きな依頼になってきたな……」


だが、その方がランクが上がりやすいのは確かだ。

ランクを上げて実入りの良い仕事をこなすことで経済状態を良くする狙いもあったが、LV3ストーリーの条件達成にも近付く。

とは言え、このままストーリーだけ進んでも、目的と自分達の戦力が乖離した状況になりかねない。

できれば時間をかけてゆっくりと行いたいところだった。


「しかし、本当になんなんだ、この状況は? ゴブリンが洞窟や森の開けた場所に集落をつくる事はよく聞くが、ここまで大規模に、そして強固な陣地を築くなど聞いた事がないぞ」


(もしも新しい魔王だったとしたら、洞窟のような場所があるかと思っていたけど、これは予想外だな。それとも、森の中の魔王のダンジョンは最初からこんな感じなんだろうか?)


何度見ても目の前の光景が信じられないようで、トゥトゥリューが戦慄している。

その横で、マグナもこの拠点の正体について考えを巡らせていた。


こしもこの拠点が、魔王によるものなのだとしたら、相手はLV2、もしくはLV3さえクリアした強力な魔王の可能性がある。


(そうなると、外に出ているゴブリンはともかく、中にいるゴブリンは強化されている可能性があるな。何より、元人間のゴブリンもいるかもしれない。そうなると、手強いぞ……)


勿論、転生組が全員現地の冒険者達より賢いとは限らない。

それでも、ゴブリンより賢い事は間違いないだろう。


ちょっと通常のゴブリンより知能が高い程度だと思い込んでいる所に、人間の知能で行動されたら、罠に簡単にかかってしまうかもしれない。

少なくとも、戸惑う事は確かだ。


「どうだ?」


「シックスハウンドとゴブリン以外は今のところ見えないな」


暫く観察を続けたマグナとトゥトゥリューは、交代で見張りをするようになっていた。

今はマグナが見張る後ろで、トゥトゥリューが干し肉を齧っている。

エルフが肉を食う事に少々驚かされたが、むしろ、森で狩猟生活をしているエルフだからこそ、肉食であって当然だと思い直した。


「その二種類の魔物が協力しあう事さえ稀だからな、これ以上驚かされてたまるものか」


「ああ、そうだな……」


返事をしつつも、マグナとしては他の魔物がいてくれた方が良かったと思っている。

複数の魔物が集まっているなら、そういう現象もあるのだろう、で納得する事もできる。


だが、ゴブリンとシックスハウンドだけ。

すなわち、特定の魔物だけで形成された組織など、まるで拠点運営ゲームで、コスパの良いユニットだけを配置しているような印象を受けるからだ。


そしてそれは、魔王の行動と類似する。


(LV2の魔王であの強さだ。LV3、LV4の魔王に今の俺が勝てるか?)


勿論、この拠点への襲撃が本格的に依頼されたなら、赤級冒険者でしかないマグナが魔王と戦う可能性は低いだろう。

だが、万が一の事もある。


二人は、日が落ちる頃まで監視を続け、その後に情報を持ち帰った。

確認できたゴブリンは千を超え、シックスハウンドも三百に近い数が確認できた。

細かい違いがわからないので、延べ人数になっている可能性があるが、それでも、相当な規模である事は間違いない。


そんなものが自分達の住んでいる近くに出現した事にトゥトゥリューは戦慄しながら、集落に戻った後、他の者に話して聞かせた。

マグナの恐怖と緊張に満ちた表情が、聞く者に危機感を覚えさせた事もあって、その晩のうちに冒険者ギルドに情報が伝えられる事になった。


だが彼らは知らない。

マグナが危惧しているのは、もっと恐ろしい何かの存在であるという事を。


やっぱり後編で終わらなかった。

果たして次が後編(下)になってくれるのか。

ポラリス達の話はもう少しお待ちください。

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