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2.チュートリアル

投稿初日、連続投稿二話目です2/4


眩い光に包まれて、男は思わず目を瞑る。

やがて、光が薄れ。目も慣れたところで、男は恐る恐る目を開いた。


「うわぁっ!?」


そして飛び込んで来た光景に、男は悲鳴を上げた。

飛び退こうとして、背もたれに阻まれ、肘を打ち付ける結果になる。


蜥蜴人間、頭が牛の人間、下半身が馬の人間、骸骨、目が一つしかない人間、蟻を直立させたような存在、巨大な蜘蛛……。

言ってしまえば怪物たちが、自分を取り巻いていたならば、誰だって驚くだろう。


「おお、その反応、エレの時と同じだな」


「や、まぁ普通に驚きますよ」


「だからもうちょっと離れていようって言ったのに」


「あ、え……?」


「まぁまぁみんな、一度に喋っても混乱するだけでしょ? みんなの時もそうだったじゃない」


「ああ、すまん」


一つ目の女性らしき人物が、男の周りで騒ぐ怪物達をなだめる。


「ええっと、突然で驚いてるかもしれないけど、貴方もあのページから飛んで来たんだよね?」


あのページ、と言われて、男の脳裏にネットカフェで見た、怪しいサイトを思い出す。


「あ、はい……」


「改めて確認する事もないとおもうけど、あっちの世界から逃れたくて、こっちに来たんだよね?」


「!」


その言葉に、男の表情が引き締まる。

男は元の世界で仕事に行き詰まり、そしてこの世界へ誘う文言に惹かれた。

そして、他はランダム設定したが、所属する勢力だけは、魔属を選んだはずだ。


後で選択し直せるだろうと考え、とりあえず魔属のまま設定を進めていたが、すっかりそれを忘れてそのまま決定してしまっただけだが。


それでも、自分で選んだ唯一の設定だ。


魔属。

その手のものに詳しくない男でも、なんとなくどういう存在かはわかる。

そして目の前にいる彼らは、まさしくそのイメージに即した異形達だ。


そしてこれまでの会話を思い出せば、彼らも自分と同じだとわかる。


「はい。自分は、自分で選んでこの世界に来ました」


「そっかそっか。いや、割と来ちゃった事を後悔してる人もいるもんでね。これから一緒にやっていくのに、そのあたりの認識の差があると難しいからさ」


「一緒に?」


「所属勢力の説明読んでない? まぁ、そもそも情報が少ない説明ではあったけど。魔王の配下になって人属と戦うってやつ」


「はい、そういえば……」


そんな説明があったな、と男は漠然と考える。


「まぁすぐにチュートリアルが始まると思うから、自己紹介とかはその後でも……」


一つ目の女性が言いかけた時、どこからか、チャイムのような音が聞こえて来た。


『クランの盟主である魔王の到着が確認されました。これより、魔王側クランのストーリーを始めさせていただきます』


「「「魔王!?」」」


どこからか響いたその言葉に、多くの者が驚き、声を上げた。

男だけは、きょとんとした顔で座ったままだ。


「確かに、玉座に現れたんだから、その可能性は高かったけど……」


「そもそも魔王って、種族や職業の中に無かったから、別にいるんだと思ってた……」


「おい、どうやって魔王になった!? 何か知っていたのか!? それとも、お前はこれを仕組んだ側の人間なのか!?」


「い、いや、自分にも何がなんだか……」


そこで、男は一つの可能性に思い至る。


「あ、種族や職業はよくわからなかったんで、ランダムにしましたからそれが良かったのかも……?」


「あれか!」


「まさか、折角異世界転生できるチャンスだって言うのに、ランダムに委ねる勇者がいたなんて……!」


「いや、勇者は敵側だろう」


「よくわからなかったってことは、オタク属性が薄いって事か? まさに無欲の勝利だな」


「いや私もオタクじゃないんだけど?」


『魔王のチュートリアル終了後、魔王クランストーリーを開始いたします。これより魔王のチュートリアルを始めさせていただきます』


「チュートリアル……?」


「とりあえず、言われた通りにすればいいから」


「あ、はい……」


『まずはセルフアナライズ、と仰ってください』


「…………」


男は無言のまま、周囲を見回す。

周囲の魔物たちは、何かを期待するような目をして無言で頷いた。


「せ、セルフアナライズ」


男が呟いた瞬間、目の前に半透明のディスプレイが出現した。


「う、うわ!」


突然の事態に驚く男。周囲の魔物たちは、やっぱりな、という表情をしている。


『それが貴方の設定を表示するマジックウィンドウです。ウィンドウ右上に表示されているのが、貴方の名前です』


「名前……」


「そう言えば、名前はなんていうんだ?」


「えっと……ポラリス?」


「なんで疑問形なんだよ。自分でつけたんだろ?」


「あ、いえ、これもランダムにしたので」


「そこもかよ!」


「これが非オタの感覚なのか……!?」


「俺もオタクじゃないんだが」


「なんか聞いた事あるな、なんか意味あるんだっけか?」


「あれだ、確か北極星がどうとか」


「へぇー、厨二乙」


『名前の下に表示されているのが貴方の種族名です。/で区切られた名称はその種族が所属している種類を表しています』


「魔王/魔帝族……?」


「種族が魔王!?」


「魔王って職業じゃないのかよ!?」


「確かに、他の魔物っぽくない外見ではあるけどな」


「カッコイイな、畜生」


「いや、だったらなんでビジュアル100にしなかったんだよ」


「え? じゃあ職業って何になるんだ? 特別感ある奴だろ、絶対」


「え? 多分この下にある奴ですよね? ダンジョン……」


「あ、駄目!」


男――ポラリスが答えようすると、一つ目の女性が慌てて制止しようとした。


「……マスターって、え?」


しかし遅かった。女性は額を抑えて天を仰ぐ。


「あー、やっちゃった」


「やっちゃったな」


「結構重要な職業だったはずなのに、やっちゃった感が凄くて素直に驚けない」


「仲間仲間」


『チュートリアル中に別の行動が行われました。経験者とみなし、チュートリアルを終了します』


「え? え?」


ポラリスも、自分がなにか間違えてしまった事は理解して、狼狽える。


『魔王のチュートリアルが終了しましたので、ダンジョンマスターのチュートリアルを開始します』


「お、助かった」


「言っても、俺らがあとで教えてやればいいんだし、そこまで致命傷じゃなくね?」


「バカ言うな! ダンジョンマスターってどう考えてもかなり重要な職業だろうが! この殺風景な部屋を変えてくれるのなんて、間違いなくそれしかないぞ!」


言われてポラリスは周囲を見渡す。

かなり広い長方形の部屋。土の床に石の壁と天井。

壁際に置かれた、今ポラリスが座っている玉座以外には何もない、確かに殺風景な部屋だ。

玉座の反対側の壁には、観音開きの扉が一枚ついている。


『セルフアナライズを唱えてください』


「せ、セルフアナライズ」


しかし今度は何も起きなかった。当然だ。その呪文によって開かれるマジックウィンドウは、さっきからポラリスの目の前で開いたままなのだから。


「まぁ、私達も静かにしましょう。今度反応されてチュートリアルが中断されたら目も当てられないわ」


一つ目の女性の言葉に、周囲の魔物が無言で頷く。


『スキル一覧の下にある、【ダンジョン】の項目をタッチしてください』


「スキル一覧……これか……」


言われた通りにポラリスはダンジョンの項目をタッチすると、表示が切り替わった。

マジックウィンドウが表示されているとはいえ、虚空を指で叩くのは若干緊張した。

手ごたえは無かったが、ウィンドウに触れた瞬間、淡い光が発生する。


『【ダンジョン】はダンジョンの生成、増改築を行うための項目です。今映し出されているのは、現在のダンジョンの全体図です』


「はぁー……」


全体図と言っても、長方形の部屋が一つと、そこから繋がる細長い通路が一本あるだけだ。通路はどうやら外に繋がっているらしい。


『ダンジョンはダンジョンマスターのみが生成、増改築を行えます。ダンジョンマスターはダンジョンに自らをマスターとして登録する事で、この操作を行えるようになります。一つのダンジョンに登録できるマスターは一人だけです』


「つまり、他のダンジョンマスターが勝手にダンジョンを作り変える事はできないって事か」


誰かの呟きに、なるほど、とポラリスは頷く。


「ていうか他にダンジョンマスターっているの?」


「そりゃいるだろ? 俺達を選ばれた25人だとでも思ってるのか?」


「というか、チュートリアルの説明の中で、他にもクランがあるっぽい事は示唆されてたじゃない」


「飛ばした俺でもわかるのに」


「お前は他の奴のチュートリアル聞いてたからだろ」


『ダンジョンマスターと主従の関係にある、もしくはマーセナリーとして登録されている存在が、ダンジョンマスターと主従の関係にない、もしくはマーセナリーとして登録されていない存在を撃破した時、ソウルが手に入ります。ダンジョンの生成、増改築にはこのソウルを使用します』


「……どういう事?」


「敵を倒せばダンジョンポイントゲット」


「マーセナリーって何?」


「傭兵でしょ? つまり魔王様の部下か、仲間が倒せばオッケーって事。ただし、魔王様の部下か、仲間を倒してもポイントは入らない」


「弱いモンスター呼び出してそれを倒して無限ポイントゲットはできないって事ね」


「呼び出すのにもポイント使うんじゃねーの?」


「いや、俺のスキルにサモンあるから」


ポラリスは無言で聞いているが、周囲の魔物がひそひそ話し合っている。


『ダンジョン生成はソウルを消費して新しいダンジョンを誕生させます。一定以上の広さが必要となり、その範囲内に、一定以上のソウルを持つ生物が存在していてはいけません』


「どういう事?」


「多分、ダンジョンを作ろうとしている範囲に生物がいちゃいけないって事だと思う。でもそれだけだと虫とか動物とかそれこそ微生物も含まれちゃうから、一定以上のソウルを持つ生物、って限定してるんでしょ?」


『また、既に存在している人工物などをダンジョンにする場合はこの限りではありません』


「城とか街をダンジョンにできるって事か?」


「え? それ強過ぎね? 魔王が一人で敵の陣地に乗り込んでダンジョン化させちゃえば勝ちって事だろ?」


「勝ちにはならないだろ? 陣地がダンジョンになるだけなんだから。ダンジョン化されたあとで魔王フルボッコで終わりだろ」


『ダンジョンの増改築の説明を行います、増改築の項目をタッチしてください』


「……」


無言で言われた通りの場所をタッチするポラリス。


『増改築は、新しい施設を追加するか設置済みの施設を強化する事ができます。また、施設の中にトラップを仕掛けたり、モンスターを配置するのもこの項目から行います。各種施設の説明はのちほどご自身でご確認ください』


「施設か。箱庭内政的なやつかな」


「ダンジョン経営はもう一ジャンルと言っていいだろ」


『ダンジョンマスターはソウルを消費してトラップを設置したり、モンスターを呼び出す事ができます。トラップ/モンスター設置の項目をタッチしてください』


「おお、モンスター配置!」


「これって俺達とは何か違うのかな?」


「自我が無いとか?」


「使いにくくね?」


「簡単な命令しか聞かないとかじゃない?」


『リストの中から召喚したいモンスターを選んで、モンスターごとに設定されたソウルを消費して呼び出す事ができます。モンスター名の下に表示されているタスクバーを使用して、一度に複数体を呼び出す事も可能です』


「やっぱり基本はゴブリンかな」


「対策が必要になるからスケルトンの方が有用かもしれん」


『呼び出したモンスターを削除する場合は、登録されているマスターが、対象のモンスターに触れてデリートと唱えてください。召喚に必要なソウルの一割と、成長していた場合、それに応じたソウルが手に入ります』


「フレンドリーファイアはできないけど、ブリーダー的に稼ぐ事はできるのね」


「けど、成長って事は普通に考えれば戦闘させるんだよな? 弱いモンスターだと厳しくね?」


「パーティ設定されていれば、直接戦わなくても経験値が入るってチュートリアルで言ってたろ」


「しかし、成長分のキャッシュバックがどれくらいかによって効率が変わるぞ。最悪、1LVで1%とかだったら……」


「LV上限って言われてたっけ?」


「明言されてない」


「ポラリス、質問って言え」


「え? し、質問」


突然話を振られて一瞬戸惑ったものの、ポラリスは素直にそう口に出した。


『質問を受け付けます』


「モンスターをデリートした場合に手に入るソウルの成長分の詳細を聞け」


「え? え? あー、えっと、召喚したモンスターを削除した際に手に入るソウルの詳細な内訳を教えて」


音声認識に質問するような聞き方になった。


『対象のモンスターを召喚するのに必要なソウルの一割と、成長分です』


「成長分の詳細を教えて」


『1LV上昇しているごとに、召喚するのに必要なソウルの1%を入手できます』


周囲の魔物から嘆息が漏れる。


『新しいスキル一つにつき、召喚するのに必要なソウルの1%を入手できます』


続いたアナウンスに、魔族たちが顔を上げる。


「レベルの上限を教えて」


「おお!」


『種族によって異なります。貴方の種族は100です』


ポラリスが魔物たちを見る。


「ゴブリン」


その行動の意味を理解した、一人の魔物がそう言った。頷く、ポラリス。


「ゴブリンのLVの上限を教えて」


『15です』


種族名を提案した魔物が崩れ落ちた。

おそらく、ゴブリンなんだろうな、とポラリスは理解する。


「これはブリーダー的な方法は非効率だな」


「へたしたら、魔王以外は全員100未満の可能性があるぞ」


「LV上限の上げ方を教えて」


『進化によって上昇します』


崩れ落ちたゴブリンが顔を上げる。


「進化の仕方を教えて」


『一定以上のLVに到達し、かつ必要なステータスとスキルを備えている、あるいは特定の職業に就いていると進化できます』


「ゴブリンの進化先を教えて」


『チュートリアルの適用範囲外です』


それを聞いた瞬間、ポラリスはしまった、と思ったが、どうやら中断はされなかったようだ。


『質問の受付時間が過ぎました。質問の受付を終了します。リキャストタイムは三十分です。チュートリアルに戻ります』


「え?」


ポラリスが一つ目の女性を見る。


「質問する時間が限られていて、それが終了すると、再び質問できるようになるまで三十分かかるって事よ」


無言で頷き、ありがとう、とハンドサインを送る。


「LV上限は俺らのチュートリアルの時に聞いとくべきだったなぁ」


「LV上限って単語が出なかったからね。発想に至れなかった」


『召喚するモンスターは、スタンダードかユニークかを選べます。スタンダードモンスターは設定されている職業、ステータス、保有スキルで召喚されます。ユニークモンスターは必要なソウルを支払う事で、職業の変更、ステータスの増減、スキルの追加と削除が行えます』


「おお、これは良い情報」


「物理に弱いスライムを作れたりする訳か」


「もっと有益な例を出そうぜ」


「スケルトンから『光弱点』を抜いたりできる訳か。ユニークモンスターとして産まれたかったぜ」


骸骨姿の魔物が肩を落とした。

スケルトンなんだろうな、とポラリスは理解した。


『なお、変更できる範囲は種族によって異なります』


「あ、これスケルトンから『光弱点』抜けないやつだ」


「そもそも君の『アンデッド』とか、私の『吸血鬼』とかって、抜いたら逆にユニークじゃなくなるスキルだろうに」


『以上でダンジョンマスターのチュートリアルを終了します。質問を受け付けます。質問がリキャストタイム中です。リキャストタイムをスキップします。質問を受け付けます』


「そういやあったな、そんな機能」


ポラリスが魔物たちを見る。


「さすがに全員のLV上限を聞いてたら時間が足りないだろうな」


「そもそもチュートリアルの適用範囲内だと、碌な事聞けないだろ」


「え? 何か聞く事あるか? 正直あとはやって覚えろって感じだが……」


「主従の関係について教えて」


「あー、あったあった」


『スキル『覇権』所有者と主従の関係を結びます。主従の関係にある者同士では、主から従への攻撃は許されますが、従から主への攻撃は許されません』


「敵を捕虜にした時に使うスキルか?」


「あ、でもボクのスキル『従属の喜び』が、主従の関係にあるとステータスアップだって」


「スキル名的にお前従の方だけど、いいのか?」


「魔王様とは一蓮托生だろうし、いいんじゃないかな?」


「まぁ、そういう考えもあるか……」


『また主から従への命令には強制力があります。絶対的ではなく抵抗可能です』


「やっぱりやめようかな……」


「関係の結び方を教えて」


『スキル『覇権』所有者が対象に触れながら、汝しもべとなれ、と唱え、対象が、承知、と唱えると主従の関係が成立します』


「合意が必要なタイプか」


「敵を強引に味方にするのは不可能ってこと?」


「脅して言わせればいける」


「けどさ、ソウルを獲得するには主従の関係に無いといけないんじゃなかった?」


「マーセナリー登録でいいだろ」


「マーセナリー登録について教えて」


『ダンジョンマスターと主従の関係になくてもソウルを獲得できるようにする機能です。マーセナリーに登録された者をダンジョンマスターが攻撃する事はできますが、マーセナリー登録された者はダンジョンマスターへ攻撃できません』


「ん?」


「『覇権』を持たないダンジョンマスターへの救済措置か?」


『マスターからマーセナリーへの命令には強制力がありません』


「命令断れるんだな」


「うーん、傭兵っぽい」


「それ絶対裏切るやつ」


「これなら主従の関係結ぶよりマーセナリー登録の方がいいのか、俺達の場合」


「登録の仕方を教えて」


『登録可能数に空きがある場合、対象にマーセナリー登録依頼を出せます。対象者が受諾すれば登録完了です』


「ん?」


「今ちょっと聞き捨てならない言葉があったような……」


「登録数の上限を教えて」


ポラリスもそれはひっかかったようで、すぐに質問した。


『マスターのダンジョンマスターLVと同数です。貴方の現在LVは1です』


「あー……」


「ソウル獲得しないとダンジョンの拡張ができない。ソウル獲得するためには主従の関係が必要……」


「詰んだな」


「いや、普通に結べばいいだけだろ」


「でも命令に強制力があるんじゃな……」


「こう言っちゃなんだけど、どんな人かもわかってないしね」


そして視線がポラリスに集中した。

居心地の悪さを感じて、ポラリスがすぐに質問をする。


「れ、LVの上昇以外でマーセナリー登録の上限を上げる方法を教えて」


『チュートリアルの適用範囲外です』


「LVの上昇以外でマーセナリー登録の上限を上げる方法はある?」


『チュートリアルの適用範囲外です』


「ええっと……」


『質問の受付時間が過ぎました。質問の受付を終了します。ダンジョンマスターのチュートリアルを終了します。続いてクランのチュートリアルに移ります』


「そう言えば、魔王側のクランとかなんとか言ってたな」


「クランってなんだっけ?」


「あれだ、白人至上主義」


「クークラックスクランな。集合体とか共同体とか、そんな意味じゃなかった?」


『クランは魔王を盟主として、配下の魔物および、魔属側の人類で構成された組織です。クランに登録されている者は、強制的に盟主と主従の関係を結びます』


「あ」


「おい、なんだったんだ、さっきの時間は?」


「え、つまりもう俺達、こいつの下僕になってるって事?」


「普通に考えればそうだな」


『クランへの入団は、盟主へ入団希望者が入団希望を出す、あるいは、盟主が入団希望者へ入団要請を出し、対象が受諾した場合、入団する事ができます』


「ん?」


「魔王から頼むか、魔王に頼むか、って事でしょ」


「説明が回りくどいんだよな」


『クランからの脱退は、盟主から退団勧告を出した場合に限り可能です。退団勧告は主従の関係にある相手には出す事ができません』


「こっちは一方通行か」


「追い出す事はできるけど、出て行く事はできないと」


「できるだろ、主従の関係続いたままだけど」


『クランに登録されている者は、盟主が死亡すると全員死亡します』


「え?」


「本当に一蓮托生だったねぇ……」


『クランに登録されている者が死亡した場合、盟主は死亡しません』


「だろうな!」


「え? これ誰得の設定? 魔王らしいっちゃらしいけど」


「裏切り防止だろ」


「いや元々攻撃できないじゃん」


「主従の関係に無い相手を呼び込んで殺させないためだろ? 自分が死んでもいいから殺したいほど憎んでたら別だが」


「ああ、なるほど」


『クランに登録されていない者は、クランストーリーを達成した際の報酬を受け取れません』


「そういやそんなのがあるって言ってたな」


『クランに登録されている場合、盟主の種族LVに応じたボーナスが得られます。ステータス上昇、獲得経験値上昇、獲得ソウル上昇などに効果があります』


「一応わかりやすいメリットもあるのね」


「けど魔王死ぬと俺らも死亡でしょ? 育てにくくね?」


「後衛で置物だな」


「支援魔法くらい撃って貰おうぜ」


『以上で説明は終了です。質問を受け付けます』


「主従関係の破棄の仕方を教えて」


即座にポラリスが質問する。

クランに所属している限り強制だったり、クランに所属しているとメリットがある事で、多少は主従の関係への忌避感が薄れているようだが、それでも、聞いておかなければならなかった。

ポラリスが魔王であり、この世界で生きていく以上、彼らの協力は必要だからだ。


『主からの破棄勧告によってのみ行えます』


ある意味最悪の結果が出た。


「よ、要請があれば、出しますから……」


無言の視線に耐えられず、ポラリスはそう言った。

チュートリアルの中断条件を満たさないだろう言葉だったから、というのもある。


「クランストーリーについて教えて」


『クランごとに設定されたストーリーです。設定された条件を達成すると報酬が貰えます』


「設定されたストーリーの詳細を教えて」


『チュートリアルの適用範囲外です』


「だろうな」


「達成すると貰える報酬について教えて」


『チュートリアルの適用範囲外です』


「でしょうね」


無言でポラリスは魔物たちを見る。見られた魔物たちも、無言でそれぞれを見る。

どうやら質問が思いつかないらしい。誰も声を上げなかった。


『質問の受付時間を過ぎました。質問の受付を終了します。クランのチュートリアルを終了します。最後に、クランに名前をつけてください』


「ええっと、自分はこういうの苦手なんだけど、誰か案、ある?」


「ポラリスと愉快な仲間たち!」


「絶対言う奴いると思った!」


即座に一つ目の女性が反応し、牛頭の魔物が突っ込みを入れると、笑いが起きた。

悪くなっていた空気が、若干緩和される。


「いや、流石に真面目に考えるとなると、中二の俺が心を刺して来る……」


「かと言って、適当なのは嫌だしな」


「適当でもよくない? どうせあとで変えられるでしょ?」


「俺達の名前は変えられないのに?」


「自称でいいでしょ」


「アナウンスで流れるかもしんないだろ!?」


そして様々な意見が噴出し始める。

大抵はふざけた名前だったが、中には真面目なものもあった。

しかし、こういう時にネタに走らない名前、というのはそれはそれで気恥ずかしいものがあった。

その手のものは、却下も賛同もされずに保留される。


「サザンクロス」


「南十字星だっけ? 理由は?」


一つ目の女性が提案し、蜥蜴人間が尋ねる。


「魔王がポラリスで星系統だから?」


「あー、いいんじゃないか?」


「まぁ、これだって名前も思いつかないしなぁ」


「魔王が良いと思う名前でいいんじゃない?」


「どう? 魔王様?」


「そう、ですね。いいと思います。では、サザンクロスで登録しますね」


『クラン名がサザンクロスに決定しました』


そうアナウンスが流れると、拍手が起こった。

熱狂的なものではなく、おざなりなものだ。こういう時に拍手をしてしまう国民性だと、全員日本人なのだろうか、とポラリスは考えた。


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