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28.マグナズイレブン3 中編


トゥトゥリューと名乗ったエルフに手伝ってもらい、冒険者の遺体とシックスハウンドの死骸を街まで運ぶ事になった。


マグナがこの世界に来て最初に見たエルフは、マグナと同じように転生してきた勇者だった。

設定として作られたエルフに、マグナはあまり興味を抱かなかったが、こうしてこの世界で生まれ育ったエルフを見ると、何とも言えない感動が胸に込み上げて来る。


冒険者ギルドにもエルフはいたが、その時はこれほど感動しなかった覚えがある。


やはり、森の中でいかにもそれらしい姿格好をしたエルフと出会ったというのが大きいのだろう。


「この森では最近魔物の発見報告が増えているのだ」


「なるほど、それで冒険者ギルドに依頼を?」


道中、トゥトゥリューはマグナに彼女達の事情を簡単に説明した。


「うむ。元々この森には三つのエルフの氏族が住んでおり、森の管理も行っていた。人間とは互いに不干渉の取り決めを交わしていたのだ」


領土こそ帝国内にあるが、森の中はほぼ治外法権。

冒険者や猟師が森の浅いところに入り込む事はあるが、基本的にはエルフの縄張りは不可侵の領域だ。


「これまでも若いエルフが外に出る事はあったが、内にエルフ以外の者を入れた事はなかった」


「って事は、今回はそれほどまずい状況なのか?」


「魔物が集落を襲う事に関してはどの氏族も対処できている。だが、生活するためには集落に籠っている訳にもいかん」


「ああ、外に出ると襲われる可能性があるのか」


「というか実際に被害が出ている」


農作業を行う文化を持たない多くのエルフは、狩猟と採取で生活している。

食料や自分達で生活用品として使う素材だけでなく、他の種族との交易を行うための商品を集める者達もいた。

どちらにせよ、集落の外に出なければまとまった数は入手できない。


「確認できる魔物は先程のシックスハウンドの他、ゴブリンなどの亜人系も確認されている」


「ゴブリンがシックスハウンドを従えていたりするのか?」


「ああ、そんな感じだ。我々も長く生きているが、そんな事は初めてらしいが……よくわかったな?」


「気配を感じたんでな……」


そう言ってマグナは足を止め、剣を抜く。

冒険者の二人とトゥトゥリューも遺体と死骸を降ろして武器を構えた。


マグナの『気配探知』は一度探知できた気配であれば、それが誰のものか判断する事ができる。

ゴブリンはこれまでに何度か遭遇していたので気配がわかったのだ。


「……囲まれてるな。前方に二、三体か? 左右と背後にもいるな」


「う、マジか……」


シックスハウンドにいいようにやられた経験緒ある、二人の冒険者、グレンとデューイが声を震わせる。


「背中だけ守っておいて貰えばいいさ。じゃあ、ちょっと前の奴ら蹴散らして来る」


そしてマグナが前方の茂みに向かって走り出す。

それに反応したのか、茂みから二頭のシックスハウンドが飛び出して来た。


「はっ!」


目の前のシックスハウンドを一刀の下に切り伏せると、返す刀で二頭目に向けて横薙ぎに剣を振るう。


「っ!?」


だが、その前に頭上から矢がマグナ目がけて飛来したため、咄嗟に体を逸らすようにして後方に跳んだ。

そこへ、地を蹴り、シックスハウンドが飛び掛かる。


「でぇい!」


特に意識した訳ではなく、がむしゃらに体を動かそうとした結果、下から伸びあがるような蹴りがシックスハウンドの顎を直撃する。


「ギャイン!?」


若干情けない声を上げて吹き飛ばされたシックスハウンドが地面に落ちる。

態勢を建て直したマグナが迫り、その首に剣を突き立てた。


樹上にあった気配が遠ざかっていくのを感じる。


「逃がすか!」


サブウェポンとして購入してあった短剣を抜き放ち投擲。


「ぐぎゃ!?」


茂みの向こうからそんな悲鳴が聞こえた。

気配が消える。


「す、凄ぇ……」


三人の下にマグナが戻ると、冒険者の一人が思わず呟きを漏らした。


「ほ、ほんとに青ランクなのか!? シックスハウンド二匹を瞬殺とか……」


「まだ駆け出しだからな。流石にこれ以上シックスハウンドは持っていけないな。とりあえず埋めるか」


「炎の魔法なら私が使える。穴を掘り、そこに入れて燃やしてしまおう」


「おい、他にも敵がいるんだろ!? 何をのんびりして……」


「いや、俺が二匹目倒した時に周囲の気配も逃げたよ。よく統率されてる……」


(魔王でも近くにいるのかな?)


シックスハウンドとゴブリンが協力し、組織的に人間を襲うというの話は聞かないので、考えられる原因と言えばそのくらいだった。

自分達のような人間がどれだけこの世界にいるのかわからないが、比較的近い位置に魔王の拠点が複数あっても不思議では無かった。


(最近来たばかりの魔王かもしれないしな)


魔物が外に出ているという事はLV1ストーリーはクリアしたという事だろう。

マグナ達がLV2ストーリーで倒した魔王は、ダンジョンも複雑化され、魔王自身も強かった。

これは街にとって脅威になるんじゃないだろうか。


(そうすると近くの街に勇者がいる? ちょっと確認してみたいけど、確証はないしなぁ)


「マグナ、どうかしたか?」


「あ、いや、魔物にしては潔いなぁと思って……」


「そうだな。だから異常なのだ」


「おお、とっとと街に戻ろうぜ。また襲われたらたまんねぇよ」


その後は特に魔物に襲われるような事はなく、マグナ達はエディオムの街に辿り着いた。


マグナは一先ずシックスハウンドの尻尾を提出し、討伐依頼を完了させる。


「相変わらず早いですね」


上気した頬で潤んだ瞳を向けた受付嬢が上機嫌で応対した。

シックスハウンドの死骸もギルドで買い取ってくれるという話になった。

手数料が差し引かれるので自分で買い手を探すより安くなるが、手間暇を考えると問題無いとマグナは判断する。


少しでも金は欲しい現状だが、今はトゥトゥリューの依頼の話を進めた方が得策だ。


冒険者二人は、仲間の遺体を神殿へと運んで行った。


「それで、そちらの方はギルドに依頼をしたいと?」


「ああ。我々の住まう森に多くのゴブリンやシックスハウンドの群れが確認されている。しかも、それぞれが協力し合い、組織的にこちらを襲っている。伝承にある『魔物の統率者』が出現したのかもしれん」


「はぁ」


トゥトゥリューは切迫した様子で説明するが、受付嬢の反応は悪い。

長命のエルフでさえ伝承と言ってしまうほど、『魔物の統率者』つまるところ、魔王はその存在が知られていなかったのだ。


マグナ達が報告した魔王のダンジョンも、ただの迷宮と扱われているので、そこに住みついたネクロマンサーか何かだったのだろうというのが、エディオムの冒険者ギルドの認識だった。


「とりあえず詳しい話を聞きましょう。ギルドマスターを呼んでまいりますので、二階の奥の部屋でお待ちください」


「わかった。マグナはどうする?」


「折角だ。話を聞かせて貰うさ」


というよりも、マグナとしてはこのチャンスを逃す訳にはいかなかった。

トゥトゥリューの話をギルドが十割信じた場合、間違いなく青ランクでは依頼を受けられないだろう。

しかし、トゥトゥリュー自身がマグナに依頼したなら別だ。


マグナ自身の力は彼女にしっかりと見せてあるし、マグナが一緒にいれば指名される可能性は高い。


三つの氏族による依頼ともなれば、報酬はかなりのものになるだろうし、多少は食料などの物資も相手が用意してくれるだろう。

しかもこれで名前を売る事ができれば、ランクを飛び越えて指名依頼が入るようになる可能性があった。


何よりも、ここまで理想的なエルフの女性をハーレムに加えないという選択肢はマグナには無かった。


「待たせたね」


指定された部屋で待っていると、体格の良い男性が姿を現した。


(おお、強い)


思わず『致死予測』で確認すると、マグナより強いらしかった。

ちなみに、トゥトゥリューはマグナよりも弱いという結果が出ている。


四角い輪郭に雄々しいパーツが大雑把に散りばめられた、いかにも歴戦の戦士たる風貌をした中年の男性だった。

元ベテラン冒険者といったところだろう。


彼こそがエディオムの街の冒険者ギルドのギルドマスターである、ガルドだった。


「それで、依頼とは? はぐれ(・・・)でないエルフが外に出て来るとは珍しいな」


二人の前に座ったガルドはそう切り出した。

不躾というより、エルフに対して嫌悪感のようなものを抱いているように感じられた。


(こういう世界でも人種差別ってあるんだな)


元々マグナの周りにいる魔物にはそうした目線や感情が向けられていたので、他の種族に対する感情に関しては鈍いところがあった。


「うむ。我々としても外の者の手を借りるのは本意ではないのだが、必要とあれば仕方ないと判断したのだ」


対するトゥトゥリューはあまり気にしていないようだった。


「我々の森に多数の魔物が発生している。組織的に集落を襲い、集落の外で狩りをしている者が度々犠牲になっている」


「その討伐を頼みたいと?」


「その通りだ。金は勿論だが、森の奥、エルフの領域でしか採れぬ植物や鉱石も報酬として支払う準備がある」


「ふむ、すまんが簡単には受けられんな」


「何故だ?」


「まずは相手の規模と質の偵察からだ。どのくらいの強さの魔物がどのくらいいるのかわからねば、こちらも冒険者を募る事ができん」


「道理だな。足手纏いばかりでは徒に犠牲を増やすだけだ」


ギルドマスターも仕事の事となると私的な感情は挟まないようだった。

そして、トゥトゥリューも彼の言葉を冷静に受け止めている。


「だからまずは調査依頼をギルドは冒険者に出す事になる。それで得られた情報をもとに、必要なランクと数を産出し、改めて討伐依頼を出す事になるだろう。当然、どちらの報酬もそちら持ちになるわけだが……?」


「構わない」


「即答してしまっていいのか? エルフは長老の権限が強いはずだろう?」


それともトゥトゥリューは見た目とは裏腹にそれなりに高齢なのだろうか。

思わず、マグナも彼女を見た。


「問題無い。この件に関しては、長老会議より私に一任されている」


彼女が長老の一人という事ではないらしかった。


「そうか。ならまずは調査依頼の話だな。森の規模から言って、四、五人を一組で十組程度。シックスハウンドが出るとなると赤ランク以上は必須だな。パーティの半分以上が赤ランクなら、青以下の冒険者も参加可能とするか。期限は一週間。目的は相手の戦力の算定。可能なら塒を突き止めたい。この場合は特別ボーナスを出すか。報酬は一組辺りこのくらいだな」


ガルドはてきぱきと話を進めていく。


「彼と彼の仲間は無条件で参加できるようにして欲しいのだが……」


その中で、トゥトゥリューが口を挟んだ。

ガルドはマグナをじっと見て、眉を顰める。


「実力は確かだろうし、魔物使いとしても類稀な才能を持っている事は間違いない。なんだ? エルフは魔物だったのか?」


マグナ自身、自分のビジュアルのせいで男性から嫉妬の感情を抱かれているのは知っていた。

上位の冒険者に絡まれた事も一度や二度ではない。

しかし、それらを悉く返り討ちにしてきたので、マグナの実力は黒か、少なくとも紫に匹敵すると考えられていた。


女性冒険者や街の女性達にも言い寄られているマグナだが、彼女達に手を出したと言う話は聞かないので、魔物相手じゃないと欲情しないなどと噂されていた。

それを踏まえての、トゥトゥリューへの皮肉であった。


「そうだ。森の中で彼の実力は見せて貰った。我々の誰よりも強い彼を使わない事は間違いなく損失だ。冒険者のランクというものについて、道中で説明を受けた。だから、ランクの関係で彼が参加できないのも理解している。故に、彼には個人的に依頼したいのだ」


「まぁ、そちらがそう言うならこっちも構わないが、それでも依頼失敗はギルドの信用にも関わる。特別参加を許すのはマグナを含めて五人まで、一組だけだ」


トゥトゥリューがマグナを見たので、彼は無言で頷く。


「わかった。それで構わない」


「あいよ、それじゃ依頼を貼りだしておくぜ。討伐依頼を出すのは二週間後くらいだな」


「ああ、よろしく頼む」


そして二人は立ち上がり、握手を交わしたのだった。


「仲間達の到着を待って、それから出発したい」


すぐに森に向かいたいトゥトゥリューを、マグナはそう言って引き留めた。


「俺のパーティは今複数に部隊を分けて別個にクエストをこなしている最中だ。明日の朝になれば、何人か戻って来る。調査に有用な能力を持っている者もいるから、出発はその後でいいか? 準備もしたいし」


「ああ、頼りになる味方はどれだけいても邪魔になるものではない。お前が信じる仲間なら、信頼に足るだろう」


「見た目は普通の魔物だから、驚かないようにな」


「魔物使いだというのは聞いているからな、その辺りは大丈夫だ」


どのみち、赤ランク以上の冒険者十組となると簡単に集まるものではない。

マグナ達だけ急いでもあまり意味が無かった。


調査のための準備に街に繰り出すと、トゥトゥリューもマグナについてきた。


「人気なのだな」


歩いていると女性から声をかけられる。マグナがそれに応えているとトゥトゥリューがポツリと呟いた。


「魔物使いが珍しいだけさ」


などとマグナは韜晦して見せた。


「人間の冒険者はお前のように強い者もいれば、先に襲われていた者達のように弱い者もいる。どちらが本当だ?」


「どっちも本当だよ。数は彼らの方が多いかな」


「ならば、私は運が良かったという事だろうか」


「間違いなくそうだぜ」


肩越しに振り返り、ウィンク一つ。

トゥトゥリューの頬が赤く染まったのをマグナは見逃さなかった。

色が白いせいで、目立つ。


「五人で一週間となると食料と水だな。特別なアイテムなんかは必要ないかな? 森の中ってどんな感じ?」


「起伏は殆ど無いので、特別な道具は必要ないだろう。念のためロープと松明、薪用の木材くらいだろうか」


「現地ではお前が案内してくれるんだよな?」


「ああ。そのつもりだ」


既に使いは出しており、改めて、エルフの集落から案内役がエディオムの街に来る事になっていた。

彼らは森の中の案内役であると同時に監視役でもある。

適当な調査をされては意味が無いし、勝手に領域内を歩き回られてはたまらない。

調査個所ができるだけ被らないようにするためにも、土地勘のあるエルフの案内は必要だった。


「そう言えば、エルフはゴブリン達の襲撃を防いでいるんだよな」


「ああ、その通りだ」


「それは全員でなんとかって感じなのか? それとも、エルフ一人一人が強いからか?」


「どちらでもあるしどちらでもない。私はシックスハウンドを一人で狩る事ができるが、集落には複数で囲まなければゴブリン一匹満足に狩れぬ者もいる」


トゥトゥリューの説明を聞いてマグナは考える。

これまでの生活で、この世界の人間がLVや職業、スキルを認識していないのは理解していた。

また、無意識にスキルを使っていうような事もないようだった。


そのため、マグナ達はLVやステータス、スキルは自分達だけの特徴だと考えていたのだ。

しかし、トゥトゥリューの説明を聞く限り、エルフはそうではないのだろうか。

いや、エルフだからと全員が戦えるという事じゃないだろう。


人間だって素手で熊を殺せる空手家もいれば、チワワに泣かされる大人もいる。

エルフ同士で個体差が激しくても不思議じゃない筈だ。


「魔法を使えるのはトゥトゥリューだけ?」


「狩人階級ならそうだな。魔法を使える者の多くは祭祀階級となる」


聞けば、トゥトゥリューは彼女の所属する氏族の中でもまだまだ若手なのだと言う。

子供が成人すると、まずは例外なく狩人階級となる。その後、適正によって戦士、祭祀、生活補佐に分けられる。

だが、魔法の才能は生まれつきである事が殆どであるため、魔法が使える者は狩人を飛ばして最初から祭祀階級見習いとして教育を受ける。


トゥトゥリューは類まれな弓と森林散策の才能があったため、魔法の才能がありながら狩人階級に分けられていた。


「十年もすれば戦士となり、更に三十年もすれば戦士長として長老会議に参加できるようになるだろうと言われている。そうなれば、我が氏族最年少の長老の誕生だ」


どうやらエルフには謙遜という文化がないらしかった。


「そうか、優秀なんだな」


「うむ、百年に一人の才能だと言われている」


胸を張るでもなく、淡々と答えるトゥトゥリュー。

アピールという訳でもないのが、マグナにカルチャーショックを齎した。


「戦士階級と祭祀階級は集落の防衛から離れる訳にはいかない。若い狩猟階級の者と、戦闘が不得手な生活補佐階級の者の中にはシックスハウンドとまともに戦えない者もいるからな」


「成る程。しかもそれがそれなりの数で、組織的に襲って来るから更に厳しいって事か」


「ああ、そういう事だ」


トゥトゥリューの所属する氏族は三つの中でも最も大きく、それ故に、食料、生活用品も大量に必要だった。

そのため、現在最も大きな被害が出ているのが彼女の氏族でもあった。


「それでお前がギルドに依頼に来たのか」


「そういう事だな」


一番被害が出ている氏族のエルフであり、一人でも森を抜けられる実力を持っているトゥトゥリューが依頼を出しに行くのは当然の帰結であった。

一人で、という条件がついたのは、多くのエルフが森を出たがらなかったせいだ。


氏族が危険に晒されている時にそんな事で、とマグナは思ったが、それが文化というか種族の差だと考え、口には出さなかった。


そして翌日朝。

ギルドにやって来たのはヴォーパルバニーのさざんか、ゴーゴンのふふふ、ガーゴイルのアズマリアの三人だった。

四羽鳶という、名前の通りに二対四枚の翼を持つ鳶の魔物を五羽狩猟してくるという内容を終わらせての帰還だった。


「人数的に丁度良いけど、調査となると不安になるメンバーだな……」


「そうは言っても、他のメンバーだと、いつ戻ってくるかわからないでしょう?」


「エルフの案内人も今日の昼前には到着するそうだからな。依頼の期限は今日からという事になるぞ」


「うーん、まぁそうか……」


さざんかの言葉にトゥトゥリューが同意し、マグナも渋々ながら納得する。


色んな意味で、自分の職業をレンジャーにしていて良かったと思った瞬間だった。


「さて改めて、私はリール村のフェレィが娘、トゥトゥリューだ。マグナ殿共々よろしく頼む」


そう言って頭を下げると、トゥトゥリューは三人に向けて手を差し出す。

丁度目の前に立っていたふふふが何気なくその手を握ろうとした時、横から物凄い勢いで手が伸び、トゥトゥリューの右手を握った。


「さざんかよ。よろしくお願いするわ」


握られた右手と目、そして声に込められた力は強く、何かを訴えているようだった。


「そうか、さざんか。よろしく頼む」


しかし、トゥトゥリューはそれを柳に風と受け流す。


「ふふふだ。さざんか、いい加減手を離せ。握手ができない」


「アズマリアです。よろしくお願いしますね」


二人も苦笑いを浮かべつつ挨拶を交わす。


「嫉妬かな?」


「嫉妬よ」


そして、難聴でも鈍感でもないマグナはさざんかの行動の理由を言い当て、彼女の頬を紅潮させる。


「彼女、狙っているの?」


「まぁ、できれば」


「…………」


「嫌だと言うなら諦めるよ。勿論、わかっていると思うけど……」


クランメンバーの中で比較的ハーレム入りに積極的であるさざんかだが、決定的な関係には至っていない。

そのため彼女には、他の女性のハーレム入りを反対する資格も権利も無かった。


けれど、彼女がハーレムに入ってしまえば事情は一転する。


「……元々あなたは異世界チーレムを作りたいって言ってたから、特に反対する理由は無いわよ。ただ、独占するようなら許さないってだけ」


「だったらさぁ……」


「いいの?」


「なにが?」


できれば早いところ一線を超えたいマグナにしてみれば、煮え切らない態度のさざんかに思う所があった。


「多分、今誰かとそういう関係になると、他の娘が頑なになるわよ?」


「う……」


それは、マグナも何となく感じていた。

だから彼は、多少は口説きながらも、強引に関係を迫るような真似をしていなかったのだ。


「現地の女性なら、愛人とか側室とかに多少は理解があるから大丈夫だとは思うけれど、まぁ、やっぱり人属が良いって言うなら、それでもいいかもね」


「いや、できればお前達全員とそういう関係になりたい」


真っ直ぐに目を見て、真っ直ぐな言葉を投げかけられては、さざんかも茶化す事はできない。

再び頬を赤く染め、思わず目を逸らしながら、ぶっきらぼうに言い放つ羽目になった。


「そ、それなら、もうちょっと我慢しなさい」


やはり前、中、後の三編構成になってしまいましたね。

ただし、後編で終わるかどうかは作者にもわかっていません。

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