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27.マグナズイレブン3 前編

勇者マグナの話です。


エディオムの街から少し離れた草原に、マグナと女性モンスターが集まっていた。


「金が無い……」


車座になって座り、雑談をしている中で、マグナが溜息と共にそう呟いた。


「この人数の食事と宿代を毎日払っていたら当然よね」


「野営をするにも食料はいる。毎回狩りが上手くいく訳じゃないからな」


マグナの嘆きに、ヴォーパルバニーのさざんかとゴーゴンのふふふが応じる。


マグナを含めて八人、更に依頼で必要なら男性魔物とも行動を共にする事がある彼らは、はっきり言ってかなり燃費が悪い。

彼らが主に資金を稼ぐ方法は冒険者ギルドの依頼をこなす事なのだが、冒険者ギルドは明確にランクで受けられる仕事が決められている。

最低ランクの白であるマグナ達が受けられる依頼は、簡単だがその分報酬も安い。


マグナ達は確かにステータスは高いのだが、だからと言ってランクを超えて仕事を受けられる事もないし、特別な推薦などが無ければ、飛び級でランクを上げる事もできない。

そして、マグナ達が高いのはステータスだけであり、冒険者の仕事に必要な経験がまるで足りない。

そのため、一足飛びに高いランクに上がっても、仕事に失敗してしまうだろう事は容易に想像できた。


冒険者ギルドはどこの支部であっても、一番ランクが低い者が一番多い。

そのため、簡単で短期で稼げる仕事、というものは奪い合いになり、競争率が高い。

しかもマグナ達は経験に乏しいうえ、基本的にできる事とできない事がはっきりとしている。

一人一人が依頼を受けて、それぞれが金を稼いでくるという事ができないのだ。


当然、複数人でパーティを組む事になる。

それ自体は他の初心者冒険者と条件は同じなのだが、マグナ達には位階というハンディがあった。

勿論、本来はLVの上がりにくさと引き換えに、初期値と成長率が高いというメリットがある。

しかし、この位階の高さはLVが上がりにくいのと同時に、必要なカロリーの高さにも直結していた。


彼女達は文字通り、燃費が悪いのである。


人間であるマグナは通常のハイティーンの男性と必要な摂取カロリーは変わらないため、これは人属の魔物、あるいは勇者に服従した魔物固有の制限だった。


ならば一日の食費を削れば良いかと言うとそうでもない。

なまじ、彼女達には空腹、飢餓、疲労といったバッドステータスが目に見えるため、感覚的に食事を減らす事ができなかった。


「魔王のダンジョンもお金になりませんでしたしね」


一つ目のユリアも会話に混ざる。


そもそも魔王が、『魔物の統率者』と呼ばれるようなお伽噺の住人でしか無かった。

しかも、魔王が死んだ事でダンジョンの全ての機能が失われ、ただの迷宮になってしまった。

つまり、価値無し、と判断されたのだ。


拠点とするにも街から遠いので、今のところ放置しているのが現状だ。


「ユリアの『鑑定』と私の『商品鑑定』で素材や魔物の部位を買いたたかれる事もないと思ったのにね」


ファフニールのトゥスが溜息と共に呟いた。


「商業ギルドを通さないと売買はできない。ギルドを通すと手数料で利益が減る」


「そして、それでも十分な資金が得られるような希少なものは、エディオムの街では取り扱えないから買い取って貰えない」


フロストマンのまいが呟き、マグナがその後を繋いだ。


「何か大きな依頼でもあればいいんですけど、そうそう上手くいかないですよね」


「マグナさんは先日、青ランクに昇格したので、少しは報酬が良くなったんですけどね……」


ダークマージの雪風ゆきかぜとガーゴイルのアズマリアも愚痴を溢す。


白から青に昇格するには、五連続で依頼を達成するか、成功数が失敗数を上回り、かつ十回以上依頼を達成する必要がある。

そのうえで、昇格金を支払うと、昇格が可能だ。


しかしマグナ以外は白ランクであるので、青ランクの依頼を受けられるのはマグナだけだ。

勿論、マグナが受けたあとで他の者に手伝って貰う事は可能だ。

だが、一組の冒険者が受けられる依頼は一つまでであるし、本来は受けられない依頼を手伝った冒険者はクエスト成功数にカウントされない。


マグナ一人でこなせる仕事には限りがあるし、マグナの仕事をパーティメンバーが手伝うと、手伝った者のランク昇格が遅れる事になる。


「やっぱりレア素材を売買できるような大きな街に行くべきですよね」


「でもそういう所って出入りの制限が厳しいって話だったでしょう? 魔物ならせめて紫冒険者になるか、紫以上の冒険者に率いられてないと入れない可能性が高いって」


「そうでないなら大金を払って門番を買収するか都市長、あるいはその街を領地に持つ領地の許可を貰わないといけない、だっけ?」


金を稼ぐために大金が必要、とは本末転倒というか、世知辛い話だ。


「一番良いのは、その街を目的地にした隊商の護衛を引き受ける事なんだけど……」


「青ランクじゃ中々無いし、個人依頼も来ないしね」


「有名ではあるんだけどね。二十体以上の魔物を引き連れた冒険者なんて帝国でも唯一無二って話だし」


しかし、そもそもがギャンブル要素の強い行商人が、物珍しさだけで護衛を指名する事はまずない。

冒険者ギルドが示すランクは、そのまま冒険者ギルドによる保証でもある。


ギルドの外から持ち込まれた依頼は、多くの場合、依頼料と依頼内容から、ギルドが独自にランクを決めている。

隊商の護衛は拘束時間が長い事もあって、依頼を達成した際の報酬がかなり高い。

その分、依頼を受けるのに必要なランクも高く設定される。

隊商護衛のランクを低く設定して、護衛に失敗してしまっては、ギルドの信用に関わるし、何より、行商人が寄り付かなくなれば街の経済そのものが打撃を受けるからだ。


当然、青ランクの冒険者が受けられるような護衛だと、そんな大きな街へは行かない事が多いし、そんな大きな街に行く行商人は、わざわざ青ランク冒険者を指名しない。

荷物を奪われるだけならまだしも、死んでしまう可能性がある以上、行商人は護衛費用をケチるような事はしないのだ。


「結局コツコツ実績を積み重ねていかないといけないのか……」


「そうだな。ストーリーは紫冒険者になれってだけだから、特別なイベントなんかは起きないだろうし」


「基本的にステータスが高いだけの勇者に、この世界で生きるための技術を覚えさせるストーリーなのかもね」


この世界にやって来る勇者は、元の世界では一般人でしかなかった者が殆どだ。

簡単な狩りや採取依頼ですら、マグナ達は最初満足に行えなかった。


ダンジョンという拠点のある魔王と違い、基本根無し草である勇者が生きていくためには、冒険者としての仕事を覚える必要がある。


「魔王を討伐する伝説の勇者として、国が保護してくれればいいのに」


「悪用されるに1000ペリカ」


「じゃあゲームみたいに、魔物を倒せば自動的に金が貰えるとか」


「経済やばい事にならない? 勇者だけならそこまで影響力ないのかな」


「このくらいの文明なら、間違いなく貨幣は足りてないだろうから、大丈夫だと思うわよ」


文句を言いながらも続けるのは、そのゲームにハマっている証拠だと言う。

どこか非現実めいたこの世界で、生活費に困るという、ある意味現実的な苦労を前にした事で、彼らはこの世界にハマってしまったのかもしれない。


明けて翌日。

マグナはエディオムの冒険者ギルドに来ていた。


緊急性のあるものを除けば、前日までに依頼されたクエストは、翌日の朝に掲示板に張り出される。

当然、効率の良い仕事は早くに無くなってしまうため、それを逃さないためにはギルドの開店と同時に訪れる必要がある。


しかし、やはり冒険者になるような人間はどこか自堕落なところがあるようで、日の出前に起きてその足でギルドに来るような人間は少なく、ここ数日、マグナは一番乗りを続けていた。


「今日も早いですね」


「養う相手が多いからな。こういう細かい事を続けないといけないのさ」


掲示板に依頼票を張りながら、ギルドの受付嬢が話しかけて来た。

人間からすれば絶世の美男子であり、実力も高いマグナは街の女性陣から相当な人気を誇る。

男性からはやっかみの視線を向けられる事が多いが、時折熱のある視線が送られると、尻の穴がむず痒くなった。

そういう時にトゥスと舞がひそひそ話している事には触れないようにしている。


その気になれば街の女性陣を片っ端からものにできるマグナだが、今のところ手を出してはいない。

まずは自分のクランメンバーから、と思っているからだ。

街の女性陣に手を出して、女性メンバーから嫌われたら目も当てられない。


折角さざんかといい感じになっているし、ユリアやアズマリアもこちらから迫ればハーレムを受け入れるだろう。

ふふふはまだ距離がある感じなので、ここで心の壁を強固にする必要は無い。


正直なところ、街の女性陣の多くは、クランメンバーに手を出してからでも問題無く堕とせるとも思っていた。

慌てるな、まだ焦るような時間じゃない。


「鼻の下を伸ばしている暇があったら依頼を吟味しなさい」


舞に肘で脇腹をつつかれた。


ギルドに来ているのはマグナだけではなかった。

女性メンバーは舞とさざんか。それと手が空いている男性メンバーも二人やって来ている。


一組の冒険者につき受けられる依頼は一つだけ。

パーティ登録されているなら代理で複数受けられるとは言え、その数には流石に限度があった。


「日数の少ない奴は基本だよな。あとは討伐依頼なんかのシンプルな奴……」


「青でもあまり依頼内容変わらないわね。むしろ必要日数多くなってる分、単価が下がってる?」


「けど、青をこなしていかないと、次の昇格基準を満たさないからなぁ」


青ランクから赤ランクへの昇格に必要なのは、青以上の依頼を十回連続で成功するか、依頼の達成数が失敗数を上回り、青以上の依頼を三十回達成しなければならない。

紫以上の冒険者をはじめとした、有力者による推薦があればこれらの条件を満たさなくても昇格可能だが、マグナ達にはそのコネが無い。


幾つかの依頼を受けてマグナ達はギルドをあとにする。


「じゃあこの青ランクの討伐依頼は俺が一人でやってくるから、こっちの採取依頼をユリアとトゥス。狩猟依頼をさざんかとふふふとアズマリア。舞と雪風はタロジロを連れてこっちの狩猟依頼な」


「わかったわ」


「マグナも気を付けてね」


「んで男性メンバーだけど、イズルとヨミ、タスクでこっちの採取依頼。O81(オパーイ)柳刃やなぎば、けせらら、アンディはこの狩猟依頼」


他にも現在手の空いている男性メンバーに依頼を割り振る。

最終的にはリリースしたいと考えているとは言え、そのためにも、自立できる環境を整えてやる必要がある。


「ハチマン達の調査依頼は?」


「進んでいるけど、夜しか動けないからなぁ」


「あれは期限が長いからゆっくりやってくれればいいよ」


それから現在遂行中の依頼の進捗状況を確認する。

魔王のダンジョンの報告をした際、特別依頼として、その周辺の調査を依頼されていた。

期限は二年で特に範囲などは決められていない。依頼を終えると、依頼を受けた際に登録した参加メンバーのランクが赤までなら一ランク自動的に上がるという特別なクエストだった。


とは言え、その間は報酬も出ないので、日中活動できないアンデッド系のモンスターに任せていた。


マグナが受けたのはエディオムの近くの森で最近確認されているシックスハウンドの討伐。

足が六本あるという狼の魔物だ。


女性メンバーとの関係を深めるためにも、一人でのクエストはできる限りやりたくないマグナだったが、女性メンバー達を青ランクに昇格させるためには、白ランクと青ランクで行うクエストを分けるのが効率的だった。

また、少しでも多くの金を稼がなければならないという現実的な理由もあった。


「副業がレンジャーだから、単独行動が可能なのも原因だよな」


森の中を探索しながら、マグナは呟く。

ファイターなどの戦う事しかできない職業なら、ユリアあたりの探索職を連れて行く理由ができるが、自身が探索職であるマグナはその理由が無かった。


「お……」


注意深く森の中を観察していると、ある不思議な足跡に気付いた。

二本足や四本足ではあり得ない足跡だ。


「これがわかるのも『足跡追跡』のお陰だな」


レンジャーのスキルを持つ前のマグナだったなら、その足跡が複数によるものか、単独のものなのかの判断の前に、足跡に気付く事さえできなかっただろう。


「足跡の感じからすると、通過して一日も経ってないな。これは案外近くにいそうだ」


依頼の想定日数は二十日となっていたが、その十分の一程度で済みそうだ、とマグナはほくそ笑む。

ちなみに、シックスハウンドは青ランクの討伐依頼とは言え、青ランクの平均的な実力の冒険者単独で挑む事を想定されていない。


当然の話で、青ランク冒険者複数人が事前準備をしたうえで討伐が可能と判断された魔物だ。


「ん?」


足跡を追っていると争っているような声と音が聞こえて来た。


「先を越された? いや、依頼を受けたのは俺だけだから、他の依頼を受けた冒険者が鉢合わせしたのか?」


白や青ランクの冒険者なら獲物を横取りされる事は無いが、赤ランク以上の冒険者だとその危険性があった。

ちなみに、このような場合は実際に依頼を受けた冒険者も、偶々居合わせた冒険者も、どちらにも報酬は出ない。

依頼を受けた冒険者が失敗扱いにならないだけまだ良心的だと言えるだろう。


しかし、現場に到着して依頼を横取りされる可能性が低い事をマグナは悟った。


三メートルを超える巨体に、灰色の毛並み。六本足の魔物、シックスハウンドと相対しているのは一人の冒険者だ。

革の鎧と鉄の剣。木製の盾を装備したいかにも初心者冒険者然とした出で立ち。


単独でシックスハウンドに立ち向かっている事を考えると、相当な実力者のように思えるが、その動きはお世辞にも洗練されているとは言い難い。

盾でシックスハウンドの攻撃を防ぎながら、なんとか凌いでいるようだった。


周囲に目線を向けると、二人の冒険者が倒れているのが見えた。一人は血溜まりの中に沈んでいて、明らかに手遅れだとわかる。

もう一人は気絶しているだけなのか、既にこと切れているのか判断できない。


三人がかりでシックスハウンドを倒すどころか、まともなダメージさえ与えているようには見えない。

プレートは見えないが恐らく白ランク。例え青だったとしても実力的には下位クラスだろうと判断できた。


このまま見ていてもいいが、折角なら助けて恩を売ろう。

そう考えてマグナは叢から飛び出す。


「!?」


先に反応したのはシックスハウンドだった。


実力的に大した事無いと理解したのか、先程まで攻め立てていた冒険者を放って、マグナに向けて吠える。


「ち!?」


体にビリビリとした感覚が走る。

確かに大声だったが、それでも、顔を顰めるようなものではない。

明らかに、何らかの効果が付与された、絶叫系のスキルだ。


「けど!」


効果が発揮されないなら気にしても意味がない。

そのままシックスハウンドに肉薄し、魔剣『刈り取る者』を振るう。


「浅い!」


その直前にシックスハウンドが回避行動を取り、刃は相手の皮膚を軽く切り裂いた程度だった。


「あ、アンタは……」


「下がってろ!」


声をかけて来た冒険者を無視して、マグナはシックスハウンドへ突撃する。

シックスハウンドも軽く左右にステップしたのち、マグナへ飛び掛かって来た。

大口を開け、マグナの首筋を狙う。


「ここだ!」


マグナは思わず躱しそうになる本能を押さえ、そのまま真正面からシックスハウンドへ突きを繰り出した。

刃がシックスハウンドの口から頭部へと突き刺さり、貫く。


「ふぅ……」


右腕の殆どが口の中に入り込んだが、その鋭い牙が突き立てられる事はなく、シックスハウンドは力なくぶら下がった。

溜息一つ吐き、シックスハウンドを地面に落としながら刃を引き抜く。


「す、すまん、助かった」


「いいよ。ギルドから討伐依頼を受けてたしな」


討伐の証拠になる尻尾を切り取りながら、マグナは答えた。


「シックスハウンドの皮とか肉って売り物になる?」


「毛皮なら、多分……」


「じゃあ丸ごと持ってくか。助けたお礼って事で、運ぶの手伝ってくれる?」


「あ、ああいいぜ。けどその前に……」


冒険者は倒れている二人をちらりと見た。


「どっちもやられたのか?」


「トマスは頭食われたから多分……。グレンは吹っ飛ばされただけだけど……」


この世界では埋葬という文化が無い。

遺体をそのままに埋めるとアンデッドになる可能性があるからだ。

基本的には火葬。魂がゴーストになってしまわないよう、祈りを捧げて葬送とするのが通例だ。


「遺体を街まで運ぶのは難しいな。かと言って、人を呼びに行ってる間にアンデッド化されても困るし……」


「ならば、我々に手伝わせて貰おう」


どうするか、とマグナが考え込んでいると、頭上からそんな声が聞こえた。

続いて、木の上から一人の人間が飛び降りて来た。


「私はリール村のフェレィが娘、トゥトゥリュー。葬送も獲物の運搬も手伝おう。その代わり、改めて冒険者ギルドに依頼したい」


木漏れ日を受けて輝く、流れるような金色の長髪。

面長のほっそりとした輪郭に、やや吊り上がった怜悧な目。

通った鼻筋に色は薄いがぷっくりとして瑞々しい唇。


手足はスラリと長く、凹凸はあまりないが引き締まったシャープな体型。


そして特徴的な長い耳。


まさに絵に描いたようなエルフがそこにいた。


ちなみにマグナがこの世界で最初に出会ったエルフは、勇者シキナ。冒険者ギルドにもエルフはいました。


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