【画像掲載】22.魔王、外に出る
2018/3/4追記。
本文途中に拠点のイメージ図を追加しました。
「おお、これが異世界の太陽ですか」
こちらの世界にやってきておよそ二ヶ月。
ポラリスは初めての外出に感動していた。
眩い日の光に木々の騒めき。小鳥の囀り、虫の囁き。
香って来る匂いは、都会のそれとは違う自然の香。
そこで初めてポラリスは、ダンジョンが無臭であったと気付いた。
「そっか、魔王様は初めてよね」
そんなテンションの高いポラリスを見て、額にもう一つ目がある女性、三つ目のエリが相好を崩して呟いた。
「生産職にも『狩場』は経験していても、本物の外は未経験の者もいるしな」
人間の体に蝙蝠の頭を翼をもつ、カマソッツのガンゲイルがそう補足する。
「ギリくんなんて、そもそも外に出れないしね」
リザードマンのぷっちりが苦笑しながら言った。
「けれど魔王様、ミリエラちゃん、ほんとに私が着て良かったの?」
『装着』される事で対象のステータスを上昇させる能力を持つ、ヘルアーマーのミリエラは、現在エリが装着していた。
元々、探索組で唯一戦闘職ではないエリが安全のために装着していたのだが、今回はより安全を気にしなければならない、魔王のポラリスが帯同している。
そのポラリスは『サモン』で喚んだダークメイルを装着していた。
「ステータスの差を考えればこれが一番良い配置ですよ」
「そうは言ってもねぇ……」
(いいんですよ、エリさん)
ダークメイルとヘルアーマーで、『装着』のステータス上昇に変化があった。
当然、位階の高いヘルアーマーの方が上昇率は上だった。
死なせるわけにはいかないポラリスに装着させるのが当然のように思えるが、そもそもポラリスは全クランメンバーの中でステータスが最も高い。
そのため、通常のダークメイルで十分だと言うのだった。
「それなら、ドーテイ達のうち三人に装着させるべきだと思うが?」
そう文句を言ったのはケンタウロスのドーテイだ。
ダークメイルは体格の近い人型相手しか『装着』の効果が適用されないが、ミリエラはそのサイズを対象に合わせて変化させる事ができた。
翼のあるガンゲイル、尻尾があるぷっちり、下半身が馬のドーテイは、ミリエラでなければ『装着』の効果が発揮されない。
「それはそれで、誰に装着させるか、という問題が出ちゃうでしょう?」
「それはそうだが……」
「そうなると、水場が少ないと戦闘力が徐々に下がっていく私かな?」
「いやいや、戦闘職とは言っても、ステータスが一番低い私だろう。魔物や動物の素早く正確な察知にも役立つ」
ぷっちりとガンゲイルがそれぞれ主張する。
「ね?」
「うぅむ……」
いらない火種は持ち込むべきではない、とポラリスは考えていた。
三人でミリエラをローテーションさせるという事も考えたが、そうすると今度はミリエラ側の負担が大きくなる。
ミリエラとミリエラを『装着』している者は、思考が繋がるため、考えが筒抜けになるのだ。
表層のごく浅い部分だけとは言え、自分の頭の中を他人に知られるという事はストレス以外の何物でもない。
ブラックアニスのエレがダークメイルを喚べるようになったので、本来ならエリに装着される事さえ断りたいミリエラだった。
(ポラリスさんも、あまり私と思考を繋げていると疲れてしまうでしょうから……)
(健気ね)
(そ、そういう訳では……)
「まぁ、ミリエラちゃんも納得してるみたいだし、今回は許してあげるわ」
「ありがとうございます」
「で、魔王様、ここに拠点を作るのかい?」
尋ねたのはエレだった。
普段は探索組ではないのだが、今回は拠点に『サモン』で戦力を配置するために同行していた。
召喚した後で、その魔物達をエリ達に同行させるという案もあったが、実際に拠点を作ってみてから、必要そうな魔物を喚ぼう、と結論が出た。
「そうですね。『遠距離入口』を守るためにもここに一つ作っておきましょう」
「戦闘があった場合にすぐに回復できるよう『休憩所』も。『診療所』が作れれば良かったんだけど……」
「それは回復スキルか魔法を持つ魔物が、作れるか喚べるようになったら、対応しましょう」
「それと『櫓』。できれば四つ欲しいな。『水堀』と『防壁』も」
「『防壁』の種類はどうします?」
「最も防御力が高いのがアダマンタイトだったか?」
「そうですね。高さ1メートル、幅1メートル、厚さ30センチで1万ソウルですけど」
ポラリスが苦笑いをしながら言った。『防壁』はその種類によって設置に必要なソウルが増減する。
一番防御力の高い『防壁』を設置したいが、現実的な数字ではなかった。
「土でいいでしょ。結局は連絡用の拠点なんだから。野生の動物や魔物に壊されない程度あればいいのよ」
「できれば石は欲しいところだな。通常の拠点ならともかく、『遠距離入口』を守る拠点な訳だし」
「土で10、石で50ですね」
「『休憩所』がおよそ5メートル四方。櫓が1メートル、『水堀』は幅2メートル……」
「『防壁』は『水堀』の内側でいいでしょ。入口と裏口をそれぞれ2メートルずつ空けましょう」
「6メートル×四方向で24メートル。そこから出入り口の4メートルを引いて、20メートル分。石の『防壁』だと1000ソウルですね」
「できれば高さは2~3メートルは欲しいから、二倍か三倍だな」
「『櫓』四つを四方向に置くんじゃなくて、側面の端に二つずつ置けば、縦は5メートルで済むわね」
「と言う事は6×2と5×2で22メートル。そこから4メートルを引くから18メートル。石の『防壁』高さ1メートルで900ポイント……」
「高さ3メートル分なら問題無く設置できますね」
「『水堀』は?」
「長さ10メートルごとに100ソウルですね。幅を50センチ伸ばすごとに100ソウルずつ増えます」
「となると『休憩所』と『櫓』で22メートル。『防壁』の厚さが30センチあるから……?」
「横が6メートル60センチ、縦が5メートル60センチで……」
「いや、そもそも縦にしろ横にしろ、『水堀』の幅分も伸ばさないと、角が削れるぞ」
「え?」
「あ、それだと『防壁』も角がないですよね」
例えば『防壁』を盾に5メートル伸ばした場合、横は『休憩所』の横に『櫓』の幅、更に、『防壁』の厚みを加えた分を伸ばさないといけない。
「『防壁』は真ん中を空けるんだから、その分ずらせばいいでしょ? 『水堀』だけ、横がそれぞれ四メートルずつ増えるわけね」
「という事は、『水堀』は縦9.6メートル、横10.6メートルですか?」
「10メートル単位でしか伸ばせないから、縦を10メートルにして横を……」
「『水堀』は曲げられますから、周囲40.4メートルと考えましょう。40センチ足りませんね」
「10メートルの水堀を四つ作って、10センチずつ隙間を空けよう。『水堀』の内壁は設置場所に依存するのだろう? そのくらいの壁なら簡単に壊せる。その分水位は多少下がるが、誤差だ」
「じゃあそうしましょうか」
「『遠距離入口』が追加型で良かったな。これも囲むとなると更に計算がめんど、もとい、ソウルが必要だった」
ガンゲイルの提案に、ポラリスをはじめ全員が賛成した。
エレが苦笑いとともに呟く。
「崩せなかったとしても、10センチ幅なんて渡れないでしょうしね」
「しかし2メートルって狭くないか? 助走をつけなくても飛び越えられるだろう」
「その先は石の壁だぞ? 『水堀』の深さは5メートルあるから、中に入って『防壁』を攻撃する事はできん」
「『防壁』の入口に『城門』を設置しましょう。これで泳いで渡る事も難しくなるはずです」
「問題は魔法だな。少なくともシュガーの魔法では厚さ30センチの石壁を破壊できなかったわけだが……」
「鉄にするか厚さを増やすか。どちらにせよ、ソウルが大量に必要になるな。幾つも拠点を作る以上、一先ず数を作って、索敵網を構築するべきだ」
「では石の『防壁』18メートルに高さ3メートルで2700ソウル。『休憩所』が300ソウルで『櫓』が一つ100ソウルなので四つで400ソウル。更に10メートルの『水堀』が四つで400ソウル。『城門』が二つで600ソウル。しめて4400ソウルですね」
「一つ拠点を作るのに、LV3ストーリーのクリア報酬分がほぼ飛ぶのか……」
「『遠距離入口』が500なので全部合わせると4900になります。ギリギリ報酬内ですね」
「『遠距離入口』は八つ設置したかったけど、可能?」
「現在のソウルだとこれも含めて三つしか設置できません」
「でも一つだけでLV4ストーリーの条件の一つを満たすんだよなぁ」
「まぁ、順番に作っていきましょう。拠点設置後、一時間周囲を探索したのち、ダンジョンへ戻って次の『遠距離入口』と拠点の設置にいきましょう」
ポラリスの提案に全員が頷く。
「じゃあ俺は見張りと連絡用の魔物、喚んどくぜ。一つ目とバードマンでいいんだよな?」
「飛ぶだけならソニックスワローの方がよくない?」
「敵に見つかったらソニックタックルで逃げればいいわけだからな。確か、射程30メートルだっただろう。効果消滅後、そのまま滑空するだけでも相当距離を稼げる」
「『サモン』で喚ぶ魔物にそんな知能あるかな?」
「無かったとしても、連絡用としてはバードマンより有効よね」
「見張りとして一つ目を四体、連絡用としてソニックスワローを三体、迎撃用にリリパットを四体召喚してください」
「ついでに『城門』を押さえる用にストーンゴーレムを二体設置しよう」
「またソウルがかさむな……」
「ブラックアニスでストーンゴーレムを喚べないのよね。ゴブリン系ってどんだけ位階低いんだろう?」
「ソードフィッシュとサールアームも喚べなかったから、進化後の種族よりは軒並み下なんだろうな」
ちなみに、ミノタウロス、ケンタウロス、ヴァンパイア、ミミックは進化後も召喚できなかった。
他にもメンバーが進化した種族がどれも召喚候補に表示されなかったので、少なくとも彼らより位階が低い事になる。
「レア種族だろうから、オークやホブゴブリンよりは位階が高いと思ったんだがなぁ」
ちなみに、オークもホブゴブリンも召喚できなかった。
仮にゴブリンが1、ホブゴブリンやオークが2だとすると、ブラックアニスは1.5なのでは? というのが大方の予想だった。
ゴブリンの上位種ではなく、亜種なのだろう、と理解しているメンバーは多い。
「くそ、さっさとLVを上げて先の種族に進化してやる……!」
「ゴブリンにコマンダーがやっぱりミスマッチなのよね」
「位階が低い代わりに進化が早い事を活かすなら、素直にホブゴブリンに進化するべきだったな」
「まぁ、エレさんの目的のためにはブラックアニスが一番良かったわけですし」
「今回は魔王様のフォローが沁みるぜ」
(効率を考えると失敗だったと暗に言ってるのでは?)
(それ絶対本人に伝えちゃ駄目よ)
そして彼らは拠点を設置し、魔物を召喚すると、一時間の探索で採取物とソウルを稼いだのち、次の拠点の設置に向かうのだった。
拠点の広さの計算が面倒でした。
そして一つ作るのにかかる莫大な費用。
森全体に綿密な警戒網を構築できるのはいつになるのやら。




