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19.【魔王軍拡大】開始


人間の兵士を撃退した翌日、ひとまず全員で集まって、今後の方針を話し合う事になった。


「とりあえず、特殊条件クリアで手に入った施設を設置しましょうか。『魔力炉』と『防衛司令部』ですね」


「どういう効果なの?」


尋ねたのは一つ目のエリだった。


「『魔力炉』は設置すると、一日にクランメンバー一人につき1ソウルポイントが手に入る施設です」


「おお、ようやくそういうの出て来たか!」


「ダンジョン経営ものなら、一日に自動的に手に入るものがあるのに、全くなかったからなぁ」


「けど一人1ポイントか。『サモン』で喚んだ奴登録すればいいのかな?」


暗い藍色の肌をした、妖しい魅力を湛えた魔物、ブラックアニスのエレと、スケルトンのギリ、スライムのグランドがそれぞれコメントする。


「種族の位階によって手に入るポイントが違うみたいですね。スケルトンやゴブリンだとゼロです」


「ここでも差別されるのか」


ギリががっくりと項垂れる。ゴブリンから進化したエレが、勝ち誇ったような笑みを浮かべて彼を見ていた。


「いや、俺も昨日の戦いでLVが上限に達したから、進化すればいいだけだ!」


「そうですね、進化できるようになった方は大勢いらっしゃると思いますので、そちらの話は後ほどまとめて行いましょう」


「『魔力炉』は設置すれば良いだけ? 他に何も条件はないの?」


「ああ、はい。稼働は基本的に自動です」


エリの質問にポラリスが答えた。


「一応、クランメンバーのLVが上がると入手できるソウルが増えるみたいですね。それと、『魔力炉』の部屋でソウルを獲得する、つまり敵を倒すと、獲得できるソウルが増加するみたいです」


「ブースト系も兼ねてるのかぁ」


「あれ? だとすると、その『魔力炉』って追加型か?」


「そうですね」


エレの言葉を、ポラリスは肯定した。


施設には部屋型と追加型が存在している。

部屋型は『狩場』や『玉座の間』のように、部屋そのものが施設になっているもの。

追加型は、その部屋に設置するタイプのものだ。

部屋型に部屋型を重ねる事はできないが、部屋型に追加型を設置する事はできる。


そして一番大きな違いが、追加側は壊れるという事だ。

勿論、部屋型も壊す事は可能だ。しかし、現在ではポラリスでさえ、部屋型の壁にひび一つ入れる事さえできない。

これに対し追加型は、ソニックスワローのソニックタックルでも破壊できる程度の耐久力しかない。


「つまり、ソウルを獲得するなら『魔力炉』が設置された場所で戦うのが効率が良いけど、戦闘で破壊される可能性もある、と」


「破壊されるとどうなるんだっけ? ロスト?」


「いや、ソウルを支払えば修理が可能だった筈だ。相応の時間もかかるが」


ギリの疑問に答えたのは、ミノタウロスのげんごろーだった。


「まぁ、『玉座の間』に設置しておくのがいいんじゃない? 強い敵ならここで魔王様が迎え撃つのが一番効率が良い訳だし」


「それがですね……」


エリに対し、自分の開いたマジックウインドウをポラリスは見せた。

そこには、『魔力炉』を設置した際のイメージ映像が映し出されている。


「でっか!」


それを見たエリの感想がそれだった。

イメージ図には、『玉座の間』のど真ん中に、巨大なガスタンクのようなものが鎮座している絵姿が映し出されていた。

問題はその大きさで、『玉座の間』の半分以上を塞いでいる。


玉座の位置は、『玉座の間』の入口とは反対の壁際にあり、これは動かす事ができない。

つまり、玉座の前に『魔力炉』が設置される事になる。


「邪魔だな」


「これ、戦うとなるとスペース限られるよな?」


「基本接近戦なのでそれ自体は問題ありませんが、まぁ邪魔ですね」


「生産職が魔王様とお話しできないのは寂しいネ」


「そうだね、終わりの見えない仕事の中での貴重な癒し要素だしね」


ラストイーターの佐藤が言うと、シースルーのはんぺんが同意した。

姿は見えないが、誰もがはんぺんの瞳からハイライトが消えている事を予想した。


「なんだポラリス、モテモテだな」


「忘れてると思うけど、同じ種族以外で恋愛したいと思えるのが魔王様なのよ」


からかうような口調のげんごろーに対し、苦笑いしながらエリが補足した。


「『狩場』や『漁場』には設置できないんですか?」


「縦3マス、横3マス以上の部屋にしか設置できないみたいですね」


ソードフィッシュのダークの質問にポラリスが答える。


実際に部屋の中に入って見ると、設定サイズと広さが一致しない事は多いが、設定上は『狩場』と『漁場』は2×2だ。


「なら、戦闘時に俺が待機する部屋に設置しておくのが一番か? 通路をちょっと変えて、敵が必ず通るようにしておいてさ」


「設置する場所はそれでも良いですが、通路を変えるのは反対したいですね」


「なんでだ?」


「敵が強かったり、数が多かったりした場合、分断する事ができないからです」


「そうか……、確かに危険だな」


ポラリスの説明に、げんごろーは納得したようだった。


「じゃあ『魔力炉』はげんごろーさんの待機部屋に設置するとして、あとは『防衛司令部』ね」


「部屋型の施設ですね。『防衛司令部』があると、クランの盟主がダンジョン内に限り、クランメンバーと通信が可能です」


「おお、いいじゃないか」


「魔王様が中継すれば、疑似的に全員での会話も可能な訳ね」


「ただし、『防衛司令部』にクランメンバー、およびマーセナリー登録されていない者がいると、使用できなくなります」


「敵に制圧されたって事かな?」


「それと、ダンジョン内に限り、『防衛司令部』から好きな場所へ瞬間移動できます」


「おお、奇襲やり放題だな!」


「援軍も簡単にできそうだな。『私室』や『入院施設』の近くに設置しておけば、撤退からの復帰が効率良く行えそうだ」


「ただし、利用するのに、利用者の位階と種族LVに応じたソウルを消費します」


「……緊急時用ね」


エリの言葉に、全員が頷いた。


「じゃあ『防衛司令部』は『入院施設』の近くに設置して、通路を繋げましょう。『入院施設』は『玉座の間』の奥にあるので、『防衛司令部』に敵が入る心配も無くなって一石二鳥ですね」


ポラリスの決定に異議を唱える者は、誰もいなかった。


「じゃあ次はLV4ストーリーの達成について話し合いましょう」


「期限が切られてないから、ゆっくりやっていけばいいんじゃないか?」


「そうだね、折角自由に動けるようになったんだし。森の中に拠点を作って、軍隊を準備しようよ。それで人間の国に攻め込むんだ!」


人型の蝗、サールアームのユーキが興奮した様子で話す。


「いや、魔王は人間の軍を追い返す際に、こちらからは攻めないと約束している」


バードマンのガンゲイルが冷静に指摘した。


「どうせ向こうから攻めて来るよ。それを撃退すれば、もう約束を守らなくても良くないかな?」


「できればこちらから攻めるような真似はしたくないですが……」


「じゃあ魔王さんは何のためにこっちの世界に来たのさ? なんで魔属を選んだのさ。人属を選ばなかった理由なんて、人間相手に好き勝ってする以外にある?」


周囲を見回すユーキ。賛同者こそいないものの、否定する者もいなかった。

そんなつもりではなかったと思っても、明確に反論ができないのだ。


実際に、人間を殺す事に何の躊躇いも無かった。

血や断面図を見て気分を悪くした者は居たが、それは人が魚をさばく場面や、屠殺を見て気分を悪くするようなものだ。

人間が殺されているところを見て、不快感を抱いた訳ではない。


「私はあとで変更できるようなので、とりあえず魔属を選んでおいたら、説明を読んでて面倒臭くなって、全部ランダム設定して、魔属だった事を忘れていただけですけど……」


「だから、魔王さんはそういう考え方なんだね」


唯一明確に反論できるポラリスだが、ユーキは意に介さなかった。


「今までは人間の強さがよくわかってなかったし、勇者に備えないといけなかったから我慢してたけど、もう人間の強さは知れたし、制限も無くなった。ボク達を縛るものは何もないのさ!」


「まぁ、言いたい事はわかる」


「げんごろーさん?」


賛同者は意外なところから出た。

しかし、げんごろー自身は、昨日の戦いで、人間を虐殺する事に喜びを感じた事を覚えている。

思う存分力を振るえる喜びが強かったとは言え、人殺しを楽しんでいたのは事実だ。


「俺がこっちの世界に来たのは、向こうの世界だと力を発揮できなかったからだ。クソみたいなルールとリングに制限されて、好きに戦えなかったからだ」


「げんごろーさん……」


「けど、好き勝手に自分の力を振るいたいだけなら、人属で良かった筈だ。なのに魔属を選んだという事は、人間相手に(・・・・・)力を振るいたかったんだろう」


「あるいは、法の縛りを無意識に嫌ったのかもね」


「かもしれないな。だから俺はユーキの意見を否定はしない。けれど、サザンクロスのメンバーとして、注意はさせてもらう」


「なんだろう?」


「人間の街や国に攻め込むなら、しっかりと準備をしてからにしろ。お前の敗北でクランが危険に晒される事は許さん」


「ボクだって死にたいわけじゃないし、それは大丈夫だよ」


「それと、非戦闘員を快楽のために殺したりするな。人属相手であっても、それは守れ」


「えー……?」


「守れないなら、この場でお前を殺す」


「げんごろーさん!」


げんごろーの言葉にポラリスが非難の声を上げる。しかし、げんごろーはユーキを真っすぐに見据えたまま動かない。


「さっきも言った通り、ボクだって死にたい訳じゃない。約束するよ、げんごろーさん」


「はぁ。まぁいずれは皆さんのこの世界で望む事を聞いて、それが達成できるようにはしたいと思っていましたので、ある程度はユーキ君の意見も尊重します。なので、げんごろーさんの言う通り、勝手には動かないで貰えますか?」


「はーい。結局エレさんか魔王さんの力を借りないと軍を用意できないんだから、それは従うよ」


「んふふ」


「ふふふ」


そんな男達の衝突を見て、多くの者がはらはらしていたが、エリと、ケンタウロスのドーテイは含み笑いを漏らしていた。


「ユーキ、進化してLVも上がって全能感に酔いしれているようだが、今のうちに抑えておけ」


「ガンゲイルさん?」


「車で事故を起こしやすいのは、初心者マークが取れた時だ」


「調子に乗るなって事? まぁ、いいよ。まだげんごろーさんやゲオルグさんに及ばない程度だしね。身の程は弁えているさ」


そう言って肩をすくめるユーキは、まるで信用できなかった。

ガンゲイルとげんごろーが同時に溜息を吐く。


「ええと、人の国と戦争するかどうかは置いておいて、戦力の向上という点では、『サモン』やソウルでの召喚を使って、モンスターを大量に用意する必要があると思います」


「ソウルポイントの10万達成は、累計20万達成と別にある事を考えると、それだけ貯めろって事だよな。つまり、使い続ければストーリークリアを先延ばしにできるわけだ」


ダークマージのシュガーも空気の悪さを感じ取り、ポラリスに合わせて話題を変えようとした。


「ダンジョン外への施設設置は? というか、ダンジョンの外に施設って設置できたっけ?」


「『畑』ですね。あと『果樹園』。『迷宮畑』や『多目的畑』と違って、『種』を使用すれば勝手に『食料』や『素材』、アイテムが手に入るものではなくて、世話は現実同様に行わなければならないみたいですが」


「まぁ、開墾や耕作をしなくていいだけマシね」


エリが苦笑いを浮かべてそうコメントした。


「あとは防衛設備を幾つかと、『遠距離入口』ですね。ダンジョンの外縁部を出入り口に設定し、『遠距離入口』をダンジョンの外に設置すると、ソウルを消費せずに通路を自動で伸ばしてくれる施設です」


「設置は簡単そうだけど、移動は自力なんだね」


「『ゲート』をダンジョンに設置して、外に『ポータル』を設置する事で瞬間移動が可能になりますよ。片道キップですので、往復するにはこちらに『ポータル』、向こうに『ゲート』を設置しないといけませんが」


「でもお高いんでしょう?」


「『ゲート』は1000で設置できます。ダンジョンの外縁部が『ポータル』と接触している場合は『ポータル』も1000です」


「接触していない場合は?」


「10万です」


「はい解散」


「ちなみに、『遠距離入口』を設置して自動的に発生した通路は外縁部扱いにならないみたいです。それと、『遠距離入口』の設置限界は、外縁部からクランの盟主のダンジョンマスターLVで変動するみたいですね。LV×100メートルが限界です」


「今魔王様いくつだっけ?」


「9です」


「微妙……」


「いや、900メートルって結構遠いと思うぞ」


「森の広さを考えろよ」


「ダンジョンが森の中心にあると仮定して、直径500キロだっけ?」


「正確に測った訳じゃないし、ガバガバ計算だけどな。まぁ、相当広いのは間違いない」


「周辺の探索を終える事もどれだけかかるやら……」


探索組のガンゲイルが疲れを滲ませ、愚痴る。


「人手が必要よね。今までは勇者に備えてダンジョンの防衛を優先していたけど、これからは探索にソウルを使用して欲しいな」


「一つ目の大量配置だな」


ドーテイがエリに同意する。


「ソウルは大量に必要ですが、二つ目のダンジョンの創造や、『大部屋』と同じ効果の『休憩所』の設置も考えるべきですね」


「『休憩所』はあると便利ね。水場が中々見つからないと、私つらいし」


リザードマンのぷっちりが、ポラリスの提案に賛同の意を示した。


「防衛施設に『櫓』とかあったはずだから、一緒に設置すれば、簡易的な砦として使えそうね」


エリも同意する。


「外に施設やトラップを設置する場合、私が現地に行かないといけないですから、いずれ同行する必要があるでしょうね」


「なら、ひとまずは外に『休憩所』を含む、拠点の構築だな。一つ目を召喚して配置して見張り。バードマンを配置して連絡係とするか」


「知能が高いからか召喚に必要なソウルが多いのよね」


「なら俺が『サモン』で喚ぼうか?」


「そうですね、施設にかかる費用を考えたら、その方が良いかもしれませんね」


「拠点を作っていけば、ダンジョンの外に施設を五個以上設置する事は簡単に達成できそうだな。それにしても、森の探索は長くかかりそうだ。残念だったな、ユーキ。お前の野望はまだまだ達成されそうにないぞ」


「気長に待つよ。一人じゃどうしようもないしね」


げんごろーが皮肉を口にするが、ユーキは柳に風と流した。


「さて、細かい事は実際に設置させてからという事で、次は進化について話しましょうか」


ポラリスがそう言うと、全員の目が怪しく光る。

思わず、ポラリスが引いてしまう程の迫力だった。


余裕ができる+制限がなくなる→様々な意見が出て来る

組織運営って大変ですね

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