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1.新しい世界で新しい自分を見つけてみませんか?

新作始めました。

基本は三人称視点で描写していきます。

本日書き溜めしていたものを投下します1/4


『新しい世界で新しい自分を見つけてみませんか?』


こんな文言をネットで見かけたならどうするだろうか。

怪しい広告だと流す。宗教の勧誘かと考え無視する。

あるいは、何かしらの求人広告だと考え、いちかばちかクリックしてみる。


どのような対応をするにせよ、胡散臭いものだというのが第一印象だろう。


男も、普段ならそうだっただろう。

男の性格からすれば、一瞥すらせず、スクロールで通り過ぎていた筈だ。

だが、その日の男はいつもと違っていた。


有体に言えば、生きる事に疲れていた。

順調だった仕事が突然行き詰まり、男は人生の岐路に立たされていた。

しかもこのままだと、男が望まない方向へ進まざるを得ない状況にあったのだ。


ある意味現実逃避をするように、男はネットカフェにて様々なまとめサイトを巡っている最中だったのである。


そのような文化に触れた事の無かった男は、その退廃的な娯楽に、背徳感にも似た快楽を覚えつつあった。


そんな時に見つけた件の一文。

この際、転職するのも選択肢かと思い、男はクリックする。

旅行サイトとかならまだいいんだが、とこの時は気楽に考えていた。


『新しい世界で新しい自分を見つけてみませんか?』


『あなたの望むあなたになれる世界にお連れいたします』


『※注意!! この世界に戻ってくることはできません』


そこまで読んで、男は現実に引き戻された思いだった。

西洋の城を中心にした、山と空が描かれたバックに、そのような文字が並んでいるのを見て、ゲームか何かだと考えたからだ。


少しでも期待した自分が情けない。

しかし、と思い直す。

たまにはゲームも良いかもしれない。

勿論、これまでの人生で全く触れた事が無い訳ではない。

だが、基本的には話題の大作RPGや、パーティゲームを周囲との話題作りのために触れていた程度だった。


折角だから、と男は画面を更にスクロールさせる。


『あなたが新しい世界へ向かうと、この世界においてあなたの存在していた記録は全て無くなります』


『記録が抹消されるのではなく、最初からいなかったものとして扱われます』


『戸籍や所属組織の名簿からは勿論、人々の記憶からも消え去ります』


『もしもあなたがいなくなった際、大きな影響が世界に及ぶ存在であったとしても、そのような事は一切起こらず、すぐに世界は矛盾がないように作り替えられます』


『↓あなたの記憶、記録が消え去る人物、団体、記録などです』


しかし、そこまで読んで、男の手が止まる。

画面には、様々な人物の顔とプロフィール、組織の名称と概要が映し出されていた。


そして、その殆どに男は見覚えがあった。


男の両親、祖母、妹、通っていた幼稚園、保育士、クラスメート、小学校、小学校教諭……。

間違いなく、男がこれまでの人生で関わって来た人物や団体だった。


男はコンピュータに詳しい訳ではない。それでも、これが異常である事はわかった。

ここが男の自室で、私物のパソコンを使ってネットに繋がっているなら、それが可能かどうかはともかく、まだ納得できた。


しかしここは、男が数時間前に適当にふらりと入っただけのネットカフェで、来店したのも初めてだ。

しかも特に個人情報を店側に渡した記憶も、パソコンに打ち込んだ覚えもない。


男が忘れかけていた友人や、仕事で少しの間一緒に過ごした人物などもいる。

それより男が戦慄したのは、その選出基準であり、そして、並びだった。


見る限り、男がこの世に生まれてから関わった順に並んでいるようだ。

一番最初に表示されている壮年の男性は、男の知らない人物だったが、プロフィールを見るとその正体がわかった。


××病院産婦人科医


それは男が生まれた病院。つまり、男を取り上げた医者。

男が生まれて、最初に関わった人物だ。


そして、従兄弟やはとこより離れた親戚まで人間関係を網羅しているのに、祖父がいない。

だが理由は簡単にわかる。男が生まれた時、既に他界していたからだ。


これは本物だ。

男は直感した。


仮にこれらの事が本当だったとして、相手の目的はなんだ?

流石にこれが、とてつもない技術とコストがかかっている事はわかる。


だが、男が今すぐブラウザバックしてしまえば、これらは全て無駄になる。

仮に操作が効かなかったとしても店を出てしまえばいいだけだ。


無意識に、男は唾を飲み込んだ。

冷房が効いているはずなのに、じっとりと、背中が汗ばんでいた。


『あなたが望む世界であなたが望むあなたを設定しましょう※最後に確認があり、その時改めて、この世界に残るかどうかを選択できます』


ポインタが指マークに変わる部分をクリックする。

画面が切り替わった。

四つに区切られた風景が映し出される。

トップページにもあった、西洋の城と自然の風景。

惑星と恒星と思われる、宇宙空間。

残りの二つは暗くなっていて、満員、と表示されていた。


なんとなく、西洋の城をクリックする。


『剣と魔法の世界ヴェルダールが選択されました』


『所属する勢力を選んでください』


『人属/魔属』


ファンタジー映画のような世界観だと理解した。

人属を選択する。


『勇者となって魔王と戦います』


『種族を選んでください』


「…………」


漠然とした説明だ。なんとなく、右クリックでページを戻し、魔属を選択する。


『魔王及び、その配下となって人属と戦います』


情報量は殆ど変わらなかった。

選択し直せるようだし、一度最後まで進めてみようと思い、そのまま種族選択画面を開く。


「う……」


表示された情報の多さに、思わずたじろいだ。


並んでいるのはファンタジー世界ではおなじみの種族名だが、そういったものに馴染みの薄かった男は、どうしても目が滑る。

種族名をクリックすると、その種族の一般的なビジュアルと、種族の特徴などが表示されるが、二、三個読んだところで限界がきてしまった。

スクロールでとりあえず種族名だけ確認する。


すると一番下に、ランダム、という表示を見かけた。


『用意された種族の中からランダムで決定します※確認は新しい世界へ移動してからとなります』


クリックするとそんな説明が表示された。

ビジュアルの所は黒で塗りつぶされて、真ん中にハテナマークが描かれている。

本当に運任せのようだ。


他の種族の説明を読んでも、いまいちピンとこなかったので、ランダムを選択する。


『職業を選んでください』


再び表示される大量の名前。

若干面倒臭く感じていた男は、職業の説明を読まずに、画面を下までスクロールさせていく。


すると予想通り、ランダム、という表示を見つける。


『職業をランダム決定しますと、この後のスキル選択も自動的にランダムとなりますよろしいですか?』


『YES/NO』


クリックするとそんな注意書きが表示された。

むしろ、このあとスキルなるものも選択しなければならなかったのか、と軽い疲労感を覚えながら、男はならば丁度良い、とばかりにYESをクリックする。


『名前を入力してください』


自分の名前を打とうとして、止める。

色々運任せにしているとは言え、折角新しい自分に生まれ変わるんだ。

名前をそのまま使うなんて有り得ない。


かと言って、何か好みの名前がある訳でもなかった。

こういう時に、どのような名前をつければいいかも、男はわからない。


種族や職業を任意で選んでいたなら、それに関連した名前を選べたかもしれないが、そもそも、その手のものへの理解が浅い男では、そんな発想もできなかっただろう。


何も入力せずに決定を押してみる。


『何も入力せずに決定すると、ランダムで表示されます。よろしいですか?』


『はい/いいえ』


こういうのって統一されているんじゃないのかな? などと思いながら、はい、を選択する。


『性別を選択してください』


『男/女/両性/無』


後半二つは意味がわからなかった。

折角なので、と男はここでもランダムを選択する。


『ビジュアルの評価を設定してください』


『数値が高い程、その種族において美しいと思う相手が多くなります』


どうやら0~100でビジュアルの美醜を設定できるようだ。

流石にこれもランダムにして、0になったら悲しい。


ここまでの設定はよくわからないものが多かったからランダムにしていたけれど、これは別だ。

折角だから、と100を打ち込んで決定する。


『お疲れさまでした。これで全ての設定が終了しました』


『これで決定してよろしいですか?※この選択肢ではまだ世界移動はしません』


『決定します/設定し直す』


決定します、をクリックする。


画面が切り替わり、真っ暗な画面が映し出される。

そこに、文字が流れ始めた。


『最後になりますが、この後の選択で決定しますと、二度とこの世界に戻って来る事はできません』


『一度深呼吸をして、これまでの人生を思い返してみる事をお勧めします』


『選択肢を表示します』


『新しい世界へ移動しますか?』


『GO/STOP』


男の手が止まる。

これまでの人生は、決して悪いものではなかった。

全てを捨ててやり直したくなる程のものではなかった。


目標もある。

けれど、それは今の仕事を続けなくても達成できるものだ。

むしろ、今の仕事を続けていると、達成できない可能性が高い。


それでも、今の生活を捨てる事にためらいがあった。

新しい事を始める勇気が持てなかった。


本当はわかっていた。


まともな人生を送りたいなら、学生の頃から抱いている目標を達成したいなら、ここでGOを選択するべきではない。

苦しくても、つらくとも、今の人生を歩むべきだとわかっていた。


きっと新しい世界へ行っても、苦労するに決まっている。

楽に生きられる世界なんてあるはずがない。


それは、男もわかっている。


だが。

しかし。

それでも。


「同じ苦労をするなら、俺はこっちに賭けてみたい」


そして一人の男が、世界から消えた。


一話あたりの長さはバラバラです。

よろしくお願いいたします。

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