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蓮姫降臨外伝ー西ノ京の少女

作者: Roppu

県立病院の個室病室で、その少女は夢中になっていた。たった数ページに書かれた、この街の伝説。


自ら縫い上げた装束で様々に変幻し、その五色に輝く姿で、アヤカシからこの街を一千年守り続けた伝説の戦姫。


その脚は千里をかけ、息を切らすこともなく。


その舞は、日の力を夜に届け、闇の眷属たちを一蹴のもとに天に返す。


そして、25の慈悲の力で、迷えるものに永遠の癒しを施す。


添えられた小さな挿絵は、姫の後ろ姿なのだろう。墨絵で描かれた、巫女のような姿、その背には弓、その手には龍笛を携え、月明かりに佇む。


彼女は、その民話集を閉じ目を閉じた。


命に輝く、伝説の姫。全身に広がる疼痛に震えながら、彼女は何度も、想い描く。


夜の帳が下りて、濃紺の空が御蓋山の稜線を描く頃、どこかで鳴った鐘の音が届く。窓に近づいて、じっと目を凝らす。

(今もいるのかしら、この街に)

満月に近い今夜は、少し明るい夜になりそうだ。


別の伝説には、こう言う。その姫は、薄幸ながらも、美しいこころで仏道に帰依し、ある晩、奇跡のように、仏たちの姿を曼荼羅に織り上げ、人々に祝福されつつ、生きながら昇天したと言う。


違う。

私にとって、彼女は、夢幻のような存在ではない。その類稀な力で変幻し、古都を舞い飛ぶ正義のミカタ。


そこで私は激しく咳き込む。全身に広がる疼痛、そして、視力が失われていく。学校に行っていれば、来年は小学校を卒業していたであろう、彼女の人生の最後のページがめくられていく。


前回の手術を終えてから、薬も点滴もあまりしなくなった。いつも部屋にいてくれた母も、時々何かに耐えるように、病室の外へでる時間が増えた。今も。


こわいよ

こわいよ


「そうでもない」

何かが私の体に流れこんだ。五感が一気に回復、最高に高められる。病院着を脱ぎ捨てる私。そして、病院の窓から飛び出した!


(いい絵だ)

私に手には一枚の絵。

枕元に彼女が描き散らした、姫戦士の姿の一枚。


(最大舞装、紫檀金剛流衣!改!)


衝撃もなしに三階の窓から着地した私の手が、地面置かれた2つのかばんから色とりどりの天平衣を夜空に投げ上げる。

同時に跳躍、両手が霞むように動く。次々と縫いとめられる天平衣たち。


螺鈿紫檀

金色流砂

宝相華乱舞


こめかみに最後に縫いとめられる長布が風になびく時、私の声で、姫が叫ぶ。

「蓮姫降臨」

(おぬしのアイデアを外装に縫い止めた。どうじゃ)


体を見回すと、全身に描き上げられた伝説の花々。関節部は切り込みで下の黄金の衣が漏れ輝く。

「私の描いた戦姫・・・」


旧市街の家々を跳躍し、蓮姫は、私は、歌う。太古の調べ。その倍音に眼下の祠たちが反応し、各種武具を射出する。右に左に、舞に回転を加えながら、それを受け取り装備する。


炎龍笛

白銀長弓

丹生銀双竜刀


これほどの武装でも、体が軽い。何度も何度も、走り、跳ぶ。みるみる春日の山々が近づいてくる。


息は全く切れない。太古の生命力。イキルことのヨロコビ。


(それがイブキだ)


無数の縦回転で舞い、五重塔の最上部に着地する私ー蓮姫。


横笛を奏でる。

2条の涙が頬を伝う。私の涙と蓮姫の涙。哀しくも美しい調べが、どこまでも古都の夜空に響いていった。


ーーーーーーーーーーーーーーーー

その少女はその晩ちょっと苦しんで、静かに息を引き取った。その右手首に、小さくあでやかに縫いあげられた天平衣。優しき戦姫の鎮魂歌・・・


(了)

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