夢に逢う
※修正してなかったので修正しておきます
初めての方ははじめまして!またそううでない方は久しぶりです!
これは前作の「実験室the game」を改変(加筆ではなく改めて変えています)した作品です。
ホラーとありますが幽霊や怪物等は登場しません。
人間の怖さを追求できたら幸いだと考えています。
ではご覧ください!
彼女の美しさといったらそれは天上の美……なんて
言葉で表せるものじゃない。
少なくともそれに魅入られた人たちは一目を置いて
同性でも異性でも告白する者が後を絶たなかった。
それでも彼女は断りずっと一人の男の隣にいた。
みんなは羨ましがった…だが相手も彼女同様に
一目を置かれる美青年…とは言い過ぎかな?
まあかっこいい部類には入っていて彼は彼女と共にいた。
でも彼と彼女は付き合ってはいなかった。
友達のような関係でいて他人のような関係で
そして一括りにはできない家族のような関係。
毎日朝起きれば見れる笑顔、幼いころ他界した彼女の両親が
死ぬ間際に頼った俺の家族。
今は単身赴任や仕事の関係で会う日も少ないが
確かに繋がった絆でこうして毎日を過ごしている。
ステータス……ゲームや漫画で人物が持つ特徴を挙げるなら
彼は主に文武両道の武を取り彼女は文を取った。
彼は誰よりも運動神経が良く彼女は誰よりも頭が良かった。
だからこそ他人から一目置かれる要因にもつながるのだが
彼と彼女はお互いがひとつ屋根の下で住んでいることを
家族以外誰にも話さなかった。
後をつければ分かることなのだろうが彼の強さで護られる
彼女の誇りを誰も傷つけようとはしないし追うような奴は
誰一人としていない。
だからこそその後及んだ関係性もバレずに行ったのだろうが
でもお互い成人するまでその身を清潔にしようとそう決めている。
これからは違う視点から家族としていられる。
彼女は微笑み彼も微笑んだ。
でも
楽しい記憶は悲しい記憶よりも忘れやすいという。
それは悲しい記憶の方が楽しい記憶よりも、
「良い出来事」よりも
「嫌な出来事」の方が感情を大きく刺激するからだ。
日ごろから楽しい、「良い出来事」を反復して反復して反復して思い出して
悲しい、「嫌な出来事」を噛みしめればそういったことは薄れるのだろうが
到底自分にそれは出来そうになかった。
消毒用のアルコールが充満した独特な部屋の中で
彼女はそっと瞼を閉じて寝ている。
中くらいの高さの胸が上下に、呼吸だけが動いていた。
白いベッドに白い掛け布団、白い肌と黒にも似たこげ茶色の長い髪…
染めてもいないのに自然とそうなって生まれた髪。
だがその長さがここにいる月日そのものを表していた。
白い肌が薄っすらとした光に包まれる
その姿はまるで天使のようだと
笑えない冗談をクラスの誰かが言っていた気がする。
ガラガラと音を立て靴をカツカツと鳴らして彼は彼女を見る。
左肩から右にかけて持ったバックから
手土産のようなアクセサリーを取り出し
彼女の枕元にそっと置く。
「健康成就のお守りだ。効くと良いな美粋。」
そう呟いた黒髪の彼の名は岸谷龍牙。
黒縁のメガネの位置を調整しながら龍牙は横たわる彼女の枕元に
その手土産という名のお守りを置くとその横で
そっと座って美粋を眺めた。
あるとき彼女は不慮の事故という名目の上で死にかけた。
―――今はどうしているのか、生死を彷徨っているのか
もしくはもう既に
あの世にいるのかはよく分からないまま
こうして横たわっている。
いわゆる植物状態と言うやつで彼女はその不慮の事故から
ずっと起きずにずっと寝ている。
不慮の事故は彼女が起こしたものじゃない。
そのときはたまたま帰る時間が遅くなり
彼女と帰る時間にはできなかった。
彼女はいつも歩く道を一人で歩きそしてバスの前で待って
仲のいいクラスメイトとお喋りをして
―そこで違うクラスメイトか違う学校の異性の生徒か、
分からない奴に告白をされたそうだった。
当然彼がいたこともあり彼女はすぐに断った。
それなのに懇願するように必死に頼み込むのも断り
光が見えたバスに乗ろうと定期を取り出したところで
その生徒は
おもむろに、
彼女を
突き飛ばして
バスに当て殺そうとした。
なんで自分が認められないのかを必死に叫んだ
生徒はそのまま車が走る車線を通るように
撥ねられそのまま生徒も意識不明の重体となったそうだった。
ただこれは一見すると不慮の事故とはなるはずもない。
人間の勝手な嫉妬深さが招いた結果だ。
だがなぜ不慮の事故と呼ばれたのか。
答えはその生徒が起きた後の話だった。
意識が目覚めたあとその生徒は記憶が欠落し
コミュニケーションを取るのにも数か月かかり
やっと喋れたとしても記憶喪失のために事件の記憶も
自身の名前すら憶えていない状況になってしまったのだった。
その後その場に居合わせた証人の意見を合致させたが
どういう科学的根拠なのかは知らないが生徒の身体は
間違ってかつ謝って女子生徒に当たったものであり
悪意はなくむしろ善意があったというよく分からない
結末で事件は幕を閉じ、一気に彼女の批判は高まるも
彼女は一向に起きない。
だからこそそれ以上のことを取材されることは無くなったが
撥ねさせた生徒の味方はむしろ多くなっていった。
次第にその規模は大きくなりやがては訴訟を起こすのか否か。
そう唱えるやつも現れ、厳密にいえば
告白を断る彼女が法的に悪いという何でもかんでも
法だの規律だのルールだの暗黙だのでっち上げの
皮肉を唱えるやつまで現れてその件については、
ネットでも大きく騒がれた。
でも当事者の彼…俺の立場はそんなことはどうでも良かった。
「―なんでこいつが生きてるんだよ」
俺は生徒の名前が記載された新聞を握り締める。
相沢芳次と書かれた名前を顔を
ぐしゃっとゆがめさせて眠る彼女を涙を絡めて見つめる。
生徒…相沢芳次はこの件に自分がやったことは覚えていない、
だから罪に問われることができない…僕は悲しいです。
彼女の関係者も身内の方々にも謝りたい。
どうして記憶を失ってしまったのか、真実は闇の中に…
絶対記憶を取り戻します。どんな罰でも受けます。
だからこそ僕と彼女のことでどうか何も
騒ぎ立てないでください!
「―ふざけるなよ。」
俺はその言葉を皮切りに新聞を縦に斜めに横に
四方八方に切り裂いて切り裂いて叫ぶ。
ここが個室の病室であっていても叫んだ。
声はこの個室に響き渡って反響した。
「なんでお前が"被害者"みたいな顔して!!
声して!!!言葉持って!!!!
てめぇが殺った事実には変わりねぇんだよ!!!!!
なんで…なんで……美粋が…悪いみたいに扱われなくちゃ
…いけないんだよ…喋らないからか…寝ているからか
…意味分んねぇよ…くそ……」
なんで相沢芳次は彼女なんて言葉を使う?
まるで彼氏みたいに自分のモノになったかのように
なったみたいじゃないか。
最初からこれが狙いでやったみたいじゃないか。
どうして失った?お前が車に突っ込んだからだろ?
真実を闇に葬ったやつもお前だよ。
どんな罰でも受ける?
―――――本当に悪いことしたって言う自覚が
あるなら受けれるのか?
今すぐ死ねと言われたら死ぬのか?
じゃあなんで絶対記憶を取り戻しますって言ってるんだよ。
矛盾に矛盾を重ね疑惑というスパイスをくみ上げた演説に
意味を分からない視聴者たちは応援し、意味を汲んだ世間は
その記事を見出しに正義の行動だと揶揄し…
もうそれから美粋のところに
昔いつものように来たクラスメイトもいつしか来なくなり
俺とあのとき近くにいた2人のクラスメイトだけが残っていた。
長い黒髪の坂代麗華、
ウルフヘアーに灰色の髪を上げる折川彪
そして美粋と俺…龍牙の4人でいつも行動していた。
何をするでもなく時には話し笑い怒り悲しみ色々なことがあった。
幼少期からの付き合いは美粋だけだったが
中学から付き合いを始めた他2人は
どうしてか昔から知っていたかのような安心感があった。
だから美粋も俺も安心して2人と一緒に過ごした。
高校に入ってあの事件が起きる前も
一緒に旅行しようと予定を立てていたものだ。
年月の流れは確かにまだ少ないのかもしれない。
まだお互いすべてを知り尽くしているものでもない。
だがそれでも仲良くできたしすべてを知る必要もなかった。
相手のことを知り尽くすっていうことは
相手を侵害することにも繋がる。
それが赤の他人ならまだしも仲良くなった
あの2人にそういうことはしたくなかった。
だけれどそんなときに起きた事件。
俺は自分を呪った。自分の軽い身の行動と
その結果によって俺は最愛の友人であり
家族であり隣人である美粋を失いかける羽目になった。
そのときばかりは彪や麗華も疑った。
だがそれを打ち明けることはできない。
信じた仲間に疑念を抱くのは裏切り行為だと考えたからだ。
でも予想は遥かにそれを超えた、
あの2人は俺の前で悩みがないかを打ち明けてくれて
と頼んできたのだった。
いつもの目とはいつもの表情とは違う部分を見抜いた
のがそれを聴いた証拠だという。
俺はそれにすべてを打ち明けそして信頼を棒に振ろうとした。
『俺はお前らが美粋をどうかしたのかと考えた。
考えてしまった。
それが!どんなに悪いことなんだって…
一瞬でも親友である2人を疑った俺が
…俺はそんな俺を許すことができない…』
『―ふっ…なんだよそんなことかよ!
別に俺も麗華の責めないさ、それによく打ち明けてくれた。
ありがとうな龍牙。疑心暗鬼になるのも仕方ない。
でも麗華もアリバイがあるってことだけは言っておくよ。』
少し後ろめいた言葉を出す彪の頭に麗華はチョップを入れる。
そして何するんだと麗華になおる彪に
『それじゃあ私たちがさもやったみたいじゃん!
私は大好きな美粋ちゃんのためなら何だってする。
そんな私が大好きな人を
傷つけることなんて絶対しないもの!!』
『それお前も同じようなもんじゃねぇか…』
彪の言葉に笑う龍牙はぷくっと
頬を膨らませた麗華の頭を撫でるように
軽くポンポンと叩くとそれに落ち着いたのか
もしくは照れたのかは分からないが
すぐに頭から手をどかす。
それに龍牙はすまんと謝りながら
2人をそっと見つめて感慨にふける。
―――もし、この2人が嘘をついていたときはそのときは…
いや、考えるのはよそう。俺がやらなくちゃいけないのは―――
そうして回想は終わる。
場面は病室へと移る。
「…失礼します。
美粋ちゃんお見舞いに―ってどうしたの?!」
「坂代…」
「うわっこりゃ酷ぇなぁ…」
「折川…」
2人を前に龍牙は涙を流し怒号を飛ばしたその直後だった。
龍牙は涙を拭いながら自分がびりびりに割いた記事を集める。
見舞いに来た2人も何も言わずに
それが何であるかも言わずに拾いゴミ箱へと一点に集めた。
ありがとうとお礼する龍牙に対し2人は全然と言った感じで
椅子に座り美粋の方を見る。
「もうすぐで3年…が経つんだね。
もう高校生も卒業だよ」
「4人で卒業したかったのになぁ…」
「…」
無反応な龍牙に飽きもせずに2人は続ける。
「美粋ちゃんはやっぱ大学志望だったのかな?
希望進路聞くの忘れちゃってたよ。」
「大学志望だろ?だって一番頭が良かったし
必死に何か勉強してたしな」
「…」
気まずい状況下で彪は思い出したかのように呟く。
「そういや中学のころ4人でパーッと
何かでかいことしたいって言って
色んな人巻き込んでゲームだったり色んなことしたよな―」
「それだ。」
彪のつぶやきに乗じるかのように龍牙は呟く。
それに何が?という顔で彪は龍牙を見つめる。
だが龍牙はどんな顔をしているのか分からない。
俯いて何故かしきりに何かを呟いていた。
そして顔を上げると龍牙は何かが決まったような決意の目で
彪と麗華を見つめる。そして小さく呟く。
―――やっとやりたいことが固まった、と。
本当は16日掲載だったのですが予約投稿の期日を間違えて先ほど載った次第です。
次回は16日掲載です。どうぞお楽しみに(^^♪