''今は''魔法が使えない②
今日はもう一話更新する予定です。
「では、始めましょう。」
オロバスは悠然と話し始めた。
「まず、魔法は初級、中級、上級、最上級に分かれます。もちろん、上になる程難易度が高くなります。」
まぁ、定跡だな。
「難易度により詠唱の節の数が異なります。節が無いものが初級、一つが中級、二つ以上が上級か最上級になります。」
アマイモンは上級を使っていたな。
「次に属性です。基本は火、水、風、雷、土、光、闇の七つです。そのほかに神への信仰による神聖魔法やユニークスキルの魔法があります。基本は一つの属性を突き詰めていくのが普通です。しかし、実力者ともなると複数の魔法を操ります。二つ三つはざらですね。もちろん、一つの属性でも強い者はおりますが。」
「属性は好きに選べるのか?」
「火、水、風、雷、土の五つは選べます。光、闇の二つは才能が必要です。悪魔であれば闇属性は使えるので大丈夫です。神聖魔法は神殿に仕えている人間のみ。ユニークは言うまでもないですね。」
火が王道っぽいが風も使い勝手が良さそうだな。
「では、一つずつ試してみましょう。使いながらどれにしようか考えて下さい。」
「分かった。」
火魔法から始めることにした。オロバスが先にお手本を見せ、シュウが真似をする。
「…では、どうぞ。」
「燃えし球よ、火魔法''火球''」
シュウは手を掲げ言い放った。
しかし、魔法が発動しない。
「おかしいですね。もう一度やってみて下さい。」
「燃えし球よ、火魔法''火球''」
やはり発動しない。
「…気分転換に他のをやってみましょう。」
シュウは七属性全ての魔法を試してみたが、全滅だった。
「本当におかしいですね。闇魔法まで使えないとは…」
「いや、まさか…俺もこんなことになるとは思ってなかった。なんか、すまん。」
シュウ達の間に気まずい沈黙が流れた。
「…あ、主人様は魔力を直接放てましたよね。」
最初に沈黙を破ったのはザールだった。
「ああ、」
「''魔力操作''の応用したやつですね。貴殿の魔力操作は類を見ないほど精密でした。スキルは、使えば使うほど質が上がりますが、あの領域に達するには相当の努力が必要です。」
オロバスが空気を読んで話を逸らした。
「ま、まあ。」
シュウが''魔力操作''のスキルを得たのは、''古式 錬気''という気を練るという元の世界にしたらオカルティックな技を使った時である。シュウは気合いを入れる、という程度の認識だったが魔力と気が似通っているものかなと思うようになった。
「…そうです!いっそのこと魔力をそのまま使う魔法を主人様が作っちゃえば良いんじゃないですか?」
「それは良い考えです。無属性魔法といったところですか。」
ザールの提案にオロバスが乗っかってきた。ザールはオロバスに意見が認められて少し嬉しそうである。
シュウは魔法に対して憧れがあったが、しょうがないかと一旦諦めることにした。後々使えるようになるかも知れないし、シュウのユニークスキルが???になっていたのでもしかしたら、と思ったからである。
「分かった。無属性魔法とやらを作ってやろうじゃないか。」
「そのいきです、主人様!。」
「どうしましょうか。…そうですね、こうゆう時は追い込まれるほどインスピレーションが湧くものです。私と闘いましょう。」
こいつ理性的なやつだと思ったが、戦闘狂の気があるな。そうシュウは思ったがそれもそんな気がするなと思い直した。段々とシュウが環境に侵されていっていることは、本人は気づくはずもない。
互いに距離をとり、戦闘開始の準備をする。ザールは見学である。
目的が無属性魔法の開拓である為、シュウの''古式''は禁止である。
「俺は準備いいぞ。」
「私もです。では、行きますよ。始め!」
オロバスの合図と同時にシュウは複数の魔弾を繰り出す。魔弾が次々にオロバスを襲うが難なく避けられる。
「私もお返ししましょう。」
オロバスの詠唱を妨害する為魔弾を次々に放つが、詠唱をしたまま避けられる。
「燃えし弾よ、我が爛々としたる魂に同調せよ!火魔法''豪炎弾''」
''天駆''で上に飛び回避する。そのまま空を駆け、上からオロバスを狙い撃つ。しかし、当たらない。
「単調過ぎるんですよ、攻撃が。もう少し速く出来ませんか?」
「どうやりゃ速くなるんだよ!速く出来たらすでにしてるわ!」
試しに魔力を多く注いで作ってみたが大して速さは変わらず、爆発の範囲が大きくなっただけだった。しかし、急に爆発が大きくなった為オロバスが爆発に巻き込まれた。
「そうきましたか、驚きました。では私も貴殿を驚かせて差し上げましょう。
蜷局を巻きし焔龍が飛び立ち、さらなる強者を迎えゆく!荒ぶる火炎の疾風は、もてなす為に秩序を持つ、火魔法''龍神槍 焔骸''」
オロバスの頭上に龍を模した巨大な槍が浮かぶ。シュウの周りに複数の火柱がのぼる。
巨大な槍がシュウに向かうと同時に火柱がシュウに集まり始める。火柱が一箇所にかたまり、大きな炎柱になる。そこへ槍が突っ込み大炎上となる。
「はて、やりすぎましたかね。」
「ああ、やり過ぎだよ!死ぬかと思ったわ。」
シュウは''縮地''を連用し、何とか生き延びたが服はボロボロになっていた。
「お返し、''魔弾''」
「それは当たりませんよ、もう。」
オロバスは横へ身を翻し躱す。しかし、魔弾もオロバスを追い曲がったのだ。魔弾はオロバスに直撃した。
「速くは出来なかったがこうは出来たぞ。」
火柱が集まるのを見て、もしかしたら放った後の魔弾を動かせるかもと思いやってみたのだ。結果、見事成功した。
そして、これが成功したことにより二つの可能性を見出した。
「まさか、曲がるとは思いませんでした。」
案の定オロバスは無事だった。無傷である。
「そうでないと困る。」
シュウは''縮地''で一気に詰め寄り、''切断''スキルで切断した。古式の手刀じゃないよ、普通の手刀だよ。
「危ないですね。我が盾となれ、火魔法''火盾''」
オロバスは盾を展開させたがすぐに消滅してしまう。
「何⁉︎」
「一つ目、成功。」
シュウはオロバスを切ったが深手にはしなかった。それでよかったのだ。
「二つ目、''開始''。」
そう呟くとオロバスが苦しみ始めた。
「何を…しました…?」
オロバスの指先が消えていく。
「二つ目も成功だな。''停止''。」
指の消滅が止まる。
「私の負けです。どうやったのか教えて頂けませんか?」
本来であれば敵味方の微妙位置にいるオロバスには教えるべきではないが、色々教わったので教えることにした。
「一つ目は、俺がお前の魔力をいじった。」
「へ?」
ザールがすっとんきょうな声を上げる。
「なるほど、魔法を形成している魔力に干渉し魔法を崩したのですね。」
「そんなことが可能なんですか?」
「やってみたら出来た。オロバスが内服している魔力もいじれるかと思ったが無理だった。だから二つ目だ。」
「なるほど。だったら自分の魔力を、ということですか。」
「そうだ。切った時に俺の魔力をお前の体内に送り込んだ。そして俺の魔力は体内に行き渡る。そして
''開始''の合図で魔力が体内から攻撃を始める。実際は全身から一気に行くんだけどな。今回は限定した。
そして''停止''で止まる」
「まさかそのような使い方が、いえ、''貴殿''だからこそ、ですか。」
「俺もまさか成功するとは思わなかった。しかもあんな消滅するとは思わなかった。」
「話に全くついていけないです。」
ザールは困惑するが、誰も気にしていない。
「名付けて、''魔法消去''と''崩壊''というところですか。」
「なんでお前が名前を…いや、いいな。使わせてもらう。」
こうして無属性魔法には、''魔法消去''と''崩壊''が加わった。
「そうですね。予定とは大分異なりますが次へ進みましょう。」
次?
「嫉妬の大罪、レヴィアタンの討伐です。」