''今は''魔法が使えない①
遅くなってすみません。
「これで一先ずスッキリしたな。」
アマイモンを倒したシュウはどかっと腰を下ろし、魔力の抑えを緩める。
「チッ、お前そんなに強かったんだな。」
「それで、まだ生きてるのかよ。」
「もうすぐ消えるだろうよ。チッ、俺も強くなったと思ったんだけどな。」
シュウはアマイモンの頭と対面する場所へ移動する。
「いや、中々強かったよ。久しぶりの実戦だったとはいえ、手こずった。二つの魔法を使った時は焦ったよ。」
「チッ、その割には簡単にいなしたよな。」
「それはそれ、だ。魔法をまだ使えない俺には羨ましいってことだ。」
「お前その魔力量で魔法使えないのかよ!魔力寄越せよ!勿体無い。」
「誰が渡すか。まだ、使えないだけだからな。お前がくたばったらこいつから教わる。」
「ええっ⁉︎」
ぼうっとしている所にいきなり話を振られザールはビクッとした。
えっ今、何の話?
「ふんっ、精々頑張るんだな。俺はそろそろだ。最後に悪魔になったばかりのお前にいいことを教えてやる。」
「何だ?」
「悪魔は精神生命体だ。死んでも魂が自体が無事なら、この玄命の砂から蘇る。死んでから蘇るまでの期間は生まれてからの年数で決まる。当然だろ?長く生きるほど身につくもの、覚えているものが多くなるから復元にも時間がかかる。」
「驚いたな、お前がそんな理屈っぽく喋れたんだな。」
「当たり前だ。悪魔は知能の高いからな。」
「てっきり、チッ、しか喋れないと思ったんだが。」
「んなわけねぇだろ!じゃあ何で今まで会話出来てたんだよ!」
「さぁな。」
「チッ、クソが!」
「ほら、チッだって。ザール君。また言ったよ。」
「はぁ、」
「黙れ!俺が言いたいのはなぁ!まだ若いうちに無茶しろってことだ。今ならいくら死んでもすぐに蘇る。つまり、死ぬなら今のうちってことだよ!
狂気の者よ!その歪な欲望に支配された願い、叫び給え!闇魔法''狂者の咆哮''(クレイジー・ブラスト)」
アマイモンの衝撃を伴った咆哮がシュウに一直線に襲いかかる。
「そんな長い詠唱じゃ、不意打ちにならねぇよ!''古式ぃ 撃流し''!」
シュウは思い切り受け流す。
「お礼に俺からも一つ言っておこう。」
シュウはしたり顔で言い放つ。
「蘇ったら、俺の配下になりに来るがいい!」
「チッ、有難き幸せ、とでも答えようか…」
シュウは''切断''スキルでとどめを刺した。
『レベルが21に上がった。』
「おっ、レベルが上がったか。」
「あんだけの数の悪魔を倒したんですから、結構上がったでしょうレベルアップ酔いしませんか?」
言われてみれば確かに力が入りにくい感じと気怠さを感じる。
ザール云はく、急にレベルが上がると身体の変化に脳がついていかないから起こるらしい。
「少し休めば治りますよ。」
ザールの言う通り少し休むことにした。
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「主人様、起きて下さい!早く!」
いつの間にか眠っていたようだった。
悪魔って寝るんだな。なんて思いながら目を開ける。
「何だ?そんないそいで?…うおっ!」
てっきりザールが居るもんだと思い起き上がると、目の前には馬がいた。正確には頭だけ馬で体はヒト。執事服を纏っている。
「今までで一番悪魔っぽいな。で、どちらさん?」
「高位悪魔のオロバス様ですよ!」
ザールがオロバスの後ろからひょっこり顔を出した。
「高位悪魔?」
階級、か?とシュウは考えた。
「ええ、貴殿は悪魔に階級があることをまだご存知ないのですね。悪魔には階級があります。下から順に下
位、中位、上位、高位です。ここにいるザールは中位悪魔ですね。」
「ん?確か俺は…」
「貴殿は、最高位悪魔ですね。先程、スキルで拝見しました。最高位悪魔は、高位悪魔に含まれます。含まれます。高位悪魔を複数支配下に置いた者が最高位となれます。」
「配下?俺はそいつぐらいしかいないと思うが?」
ザールを指差す。
「それは後々分かりますよ。」
オロバスは不敵に笑った。…ように見えた。
「…で、その高位悪魔さんが何の用だ?」
「先程の戦闘を見させて頂きました。貴殿は、魔法が使えないのですね?」
「ああ、使えない。今は、だがな。」
「そこで、私がお教えしましょう。」
「は?」
シュウは元々ザールから教えてもらうつもりだった。
「何で、よく知らないお前に教わるんだ?なぜ教えてくれるんだ?」
その質問に答えたのはオロバスではなくザールだった。
「主人様、オロバス様に教えて貰いましょう。その方が絶対にいいです。オロバス様は叡智の悪魔と呼ばれています。ですから私よりも断然、魔法の扱いが上手いですし、教えるのも上手いです。それに…」
「それに?何だ?」
「オロバス様が来たということは、悪魔の王の一人、最高位悪魔サタン様が関わっています。」
サタン。シュウの元の世界でも有名な悪魔である。悪魔の代名詞とも言える存在である。
「ご明察です。私の現主人、サタン様より貴殿を連れてくるように申し付けられました。」
「何でだ?」
「悪魔として生まれたばかりの貴殿が、最高位悪魔であることが関係しています。おそらく、サタン様は貴殿と戦うでしょう。その時に殺されない為に、私が魔法をお教えします。これは、私の為にもなります。」
「殺されることがダメなのか?」
むざむざ殺される気は無いが、死んだとしても俺はすぐに蘇るはずだ。
「ダメですよ。サタン様は魂を破壊できます。魂が壊れてしまえば、復活できないのは知っているでしょう。」
先程、アマイモンから聞いていた。
「どうですか?私から教わる気になりましたか?」
シュウは頷くしかなかった。
「よろしく、頼み、ます。」