行くべきして行く
2本目です。何とか書けました。ですが、なかなか展開が進みませんね。4話目あたりからどんどん進み始めるのでご期待下さい!
(3,4話は明日の投稿予定です。)
「ここは、どこ、だ?」
秀は気づくと、真っ白で何も無い空間にいた。地面がないように見えるが、足にはしっかりとした感触がある。
「うぉっ、」
「やぁ!片桐秀くんだよね?初めまして、だよね。」
いきなり目の前に現れた男?が、親しげに話しかけてくる。
「うん、初めまして。っじゃない!それどころじゃないっ!えっなになに、何なの?どこ、ここ?誰、君?ってか俺、死ななかったっけ?」
頭の中で次々と疑問が湧き、ぐるぐると回っている。言葉にしようとしても、口の動きが頭に追いついて来ない。
「うん、そうだね。混乱するよね。僕も思ったよりだいぶ君が来るのが早くて驚いたところだよ。でもこのままじゃ話が進まないからな〜。ちょっとごめんね。」
男は秀に向かって何かを囁いた。
「うぉぉぉっ」
秀は自分の口から自然に叫び声が出たことに驚くと同時に、頭の中はスッキリとクリアになった。
「どう、落ち着いた?」
「何とか、」
「良かった。まぁ順番に説明しようか。僕は創造神。」
いきなり創造神と言われてもどう反応したらいいのか分からない、この意味不明な状況で冗談言うか?
「君は確かに死んじゃった。肉体的にはね。でも魂は大丈夫。ここ、分かる?」
秀は人並みに幽霊とかを信じていたが、生前のそんなことなんか関係無しで全然理解出来ない。
「不満そうだね。じゃあこれに触れる?」
男はリンゴを差し出してきた。
「ん?今どこからリンゴを出した?」
男はリンゴを取り出すような行動は何もしてなかったはず。
「今創り出したんだよ。創造神だからね。それよりも早く触って。」
男は当然とばかりに答える。マジかよ。いや、手品か?そのように秀は一瞬信じかけたが、すぐに冷静になる。
「もーじゃあ、投げるから取ってね。」
シビレを切らした男がリンゴをほいっと放る。
慌てて取ろうと両手を出すが下に落ちてしまった。
あれっ、おかしいな。取れなかったか。
秀としてはタイミングを外した感じはしなかった。続けて秀はリンゴを拾おうとするが、
「あれっ、取れない。ってゆうか、触れないっ!」
先程も秀が取れなかったのではなく、触れなかったのだ。このことは秀も理解せざるを得なかった。なにせ自分の手とリンゴが重なっているのを見ているのだから。
「触れないのは君が純粋な魂だからだよ。どう?分かった?」
「何となくだけど、でも君ほんとうに神様なんだな。」
「君疑ってたの?心外だな。こんな美しいのに。」
落ち着いて見れば創造神は、銀色に輝く髪が特徴的な美しい顔だちをしていた。美しいことと神がどう結びつくかは知らないがその美しさは本物だ。そんじょそこらの芸能人とはワケが違う。なぜ今まで気づかなかったのが不思議なくらいだ。
「まあ、いいけど。それよりもこの状況なんだけど何かしら心当たりない?君の両親とかから何か言われたことない?」
「そんなことは…」
いや、あった。秀が父親からの武術指導を受けるとき、必ず父親は"おそらくお前があちらへ行くことになるだろう。そのときにこれが使えるから。"と言っていた。当時はあちらってとか思って聞き流していた秀だが、このことだったのか?と今は思う。
「その顔は心当たりあったようだね。」
「ああ、親父からあちらへ行くことになると聞いたことがあった。」
「それじゃあ話が早い。行ってらっしゃい。」
何も早くないからな。
「ちょっと待って、行くってどこへ?」
「うーんとね、君から言うと異世界さ。ちなみに君は行くべきして行くのだから拒否権はないよ。」
異世界だって?
「異世界ってあの異世界?」
「あのって言われても分からないけど行く気はあるみたいだね。」
秀はもともと漫画やら、アニメやらもよく見る人だったため少しテンションが上がったのはしょうがない。
少し後の秀からすれば今の自分をぶん殴りたいと思うだろうが。
「では、送るよ。異世界用の身体はサービスしとくから目が覚めたらビックリするよ。ばいばーい。」
バイバイ、この一言で秀の目は閉じられた。
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次に秀の目が開いたとき、映ったのは秀の期待とは裏腹の光景だった。
上を見れば灰色に霞んだ空、下を見れば灰色をした砂、周囲を見渡してもそれが広がっているばかりだ。
秀は昭和の白黒テレビを見ているような気分になった。
「俺が思ってた異世界となんか違う!」
秀は思わず叫んでしまった。それくらい期待と現実の落差があったのだ。
しかし、これが命取りとなる。ここに何がいるのか、それを知らなかった秀に罪はないだろう。
「新しいやつか。何百年ぶりだ?」
秀には確かにそう聞こえた。何かが秀の隣を通り過ぎたときに。
それを確認しようと首を動かそうとしたが、出来ない。次の瞬間、何故か地面の砂が顔にかかった。正確には地面の砂に秀の頭が落ちた、と言うべきだろう。
「まだ動けるだろ。俺の名はアマイモンだ。俺の配下になりたいならならせてやるぞ。どうだ?」
秀はワケもわからず、混乱しているためアマイモンの言葉は断片的にしか聞き取れておらず、ろくに返事も出来ない。
それどころか、意識が遠のいていっている。
「チッ。生まれたばかりの奴はこれだから。まぁいい。お前程度なら復活も早いだろう、復活したら俺の配下になりにくるがいい。このアマイモンのな。」
アマイモンはそう言って去り、秀の意識も途絶えた。