最後の日
初めての投稿です。楽しく読んで頂ければな、と思ってます。
今日中にもう1、2話更新できたらいいな。
昼下がりの教室。いつものように片桐秀が友達と弁当を食べていると教室の扉が音を立てて開いた。
「秀!てめぇ俺を差し置いてまたかよ!今度という今度こそ一発殴らせろ!」
丸刈りの頭が目立つ大輔が近づいてくる。
「なんだ秀?何したんだ?」
隣に座っていた御門龍馬がにやにやしながら聞いてくる。お前委員長なんだから物騒な発言を注意しろよ、と秀は思ったがこいつに期待するだけ無駄だとすぐに思い直した。
「いつものことだよ。ねっ、しゅ〜う〜くんっ。今度は三組の女子に告られたんだよね。」
大輔に続いて教室に入ってきた智が代わりに答えた。
「智も乗ってくるなよ。大輔だって、野球部のエースなんだし告白もたくさんされてるんだろ!この前見たからな、お前が二組の鈴木さん?に告白されてるところ。」
「ちょっ、お前なんで見てんだよ!智、これはな、 違うんだ、いや違うくはないけど …」
智が裏切られたっ、といわんばかりの目で睨んでいたので慌てて弁解を始める。
「っちがうんだよ。そういうことが言いたいんじゃないんだよ。俺はなぁさっき、お前に告った凜奈ちゃんに告白したんだよ!そしたらなんて言われたか、分かるか?『一昨日、片桐君に振られたばっかりでまだ気持ちの整理がついてないからごめん。』だってさ。この野郎!」
大輔が目に涙を浮かべて秀に殴りかかってくる。こうゆうときは毎回最後に殴ってくるので秀は、慣れた手つきで軽くいなす。
「大輔、少し落ち着けよ。」
「落ち着いてられるかよ!何で毎回、俺が好きになる人と秀に告る人が被るんだよ」
大輔が床から立ち上がりながらそう答えたが、龍馬は続ける。
「よく考えてみろ、まだ振られたわけじゃないだろ。気持ちの整理がついてないから答えられないってだけだろ。」
「いや、だってごめんって言われたし。」
「だから、それは返事が出来ないことへのごめんだろ。すなわち、もう少し時間を空けて思いを伝えれば付き合ってもらえるかもしれないってことさ!」
「それは、本当、なのか?」
大輔は涙を拭う。
「俺が言える立場じゃないけど、可能性あると思うよ。」
秀も若干の後ろめたさを感じながら賛同した。
「もし、不安だったら俺んところの神社に拝みに来な。縁結びのご利益もあるからピッタリだぞ。」
「ありがとうな、龍馬、秀。俺、元気でたよ。頑張ってみる。秀、殴ってごめんな。」
大輔は目を輝かせて言った。
「いつものことだから、気にしてねーよ。」
実際、殴られてないから気にしようがないというのは、空気を読んで心にしまった。
「じゃあ俺、他のやつにも言ってくるわ。」
そうして大輔は扉を開ける音を教室に響かせて出て行った。
####################
その後は、たいしたことも起きず午後の授業が淡々と行われ一日の日程が終わった。
大輔は部活をサボリ龍馬と一緒に神社へ向かった。智が監督に言いつけてやる、と職員室に走って行ったため明日は学校中に怒号が鳴り響くだろうなと思い、苦笑いを浮かべて帰る準備をする。
「秀、帰ろうぜ。」
「あれっ、珍しいね薬師寺。部活は?」
「昨日が大会だったから、今日は休み。」
「へぇ、どうだった?」
秀と薬師寺は、何気ない会話をしながら帰っていた。秀は、薬師寺とはあまり多く話したことはなかったため、一緒に帰ろうと誘われたときは驚いたが会話のネタもあったので気まづい沈黙が流れるという場面は無かった。
「そういや、昼すごかったな。」
「ああ、大輔のこと?」
「それも面白かったが、殴られそうになったときの秀の反応だよ。なにか武道でもやってたのか?」
「少しね。なんか古武術みたいなのをやってたよ。まあ、親から教えられただけどね。うち結構変わってる習慣が多いんだ。」
龍馬の家の神社とも結構交流あるみたいだし、そこらへんとか関係あるのかなとつぶやくと薬師寺はに納得した顔をしているように見えた。どうしたの?と聞こうとしたとき、大通りの方から悲鳴が上がった。
悲鳴はどんどん拡散していき、これでもかというぐらいの甲高い声が響いてくる。秀と薬師寺は急いで大通りへと向かう。
そこで目にしたのは、ガードレールを湾曲させ、電柱を抉りながら猛スピードで向かってくる暴走車だった。暴走車は餌を見つけた、といわんばかりの勢いで秀たちの方へ突っ込んでくる。逃げようとしても足がすくんで動かない。
動けよ、足!頼む動いてくれ!
いくら祈っても一歩も動かない。暴走車とぶつかる寸前、とっさに薬師寺を守るように腕がでた。なぜでたかは分からない。昨日見た漫画にでも影響されたか?腕一本じゃ何にも変わらないのに。
その日のニュースより
「今日十七時○○県△△市で乗用車が暴走し男子高校生二人を撥ねる事故がありました。高校生二人のうち一人は一命を取り留めました。なお、車には不自然に抉り取られたような痕がありました。」
こうして秀の十七年の人生は幕を閉じた。
この一瞬は。
####################
「予定外だったが、幸いした。準備も終えていたようだし。これで私の役目も終わりか。迎えが来るまでゆっくりして行こうか。」
男は揺られながら、誰にも聞こえない小さな声でそう呟いた。