始まる日々[4]
「ここがシャータ姫の居る部屋か」
熊のような大きな体をした男が部屋の中にいた。
「そして奥にいるの間抜け面がバルスだな」
熊男はバルスを睨み笑った。
「なんだとっ。構わん殺せ」
部下の二人が切りかかったが、熊男の丸太のような腕に握られた大剣が横一線に振り切られ、あまりの勢いにクルートは大剣によって起こされた風圧を感じた。
「・・・やるな」
あっけに取られたバルスはそう答えるしかなかった。
バルス以外すべて倒されてしまい、今はバルスのみとなってしまっていた。
「次はお前だが、俺は雑魚を倒して勲章を誇りたくないんでね」
その一言がバルスの癪にさわった。
「この俺を雑魚と?」
「へへっ、違うのかよ」
熊男はまるで悪餓鬼のように人差し指を鼻と口の間を拭った。
「ならばお前から先に片づけてやる」
バルスは真っすぐ突きかかった。
熊男は大剣を先ほどと同じく横に切り付けた。
しかしバルスの姿はそこにはなく、大剣は空を切ったのみだった。
「貴様の大剣が大きすぎて室内では天井に当たる。よって横のみしか剣を振れない」
バルスは剣が自身の胴を目掛けてくる手前で下に伏せ、大剣を凌いでいた。
(もらった)
熊男の腹部目掛け一線に剣を繰り出す。
しかし、バルスの顔に目掛けて飛んできた岩に顔面を殴打する。
後ろによろめきながらバルスが見たのは熊男の肘だった。
熊男は大剣が空振りなのを感じ、とっさに肘を出したのだった。通常であればバルスの剣が先に熊男の腹部へ突き刺さるのだが、あまりの体格に肘部でも常人よりリーチが長いため、バルスの攻撃は届かなかった。
「おのれ熊男め」
あふれ出る鼻血を抑えながらバルスは言い放った。
「誰が熊男だとっ、とっ捕まえてやる」
近寄る熊男、背後には熊男が敵か味方か判断の付かないクルートに挟まれ、今度ははバルスが追い込まれていた。
その時、衣装棚のドアが開き、マリンが倒れこんできた。
それを見たバルスはこの機会とばかりにマリンに向け剣を投げ込んだ。
「あっこの」
熊男は体を傾け手を伸ばし、その刃の部分握りしめた。
「痛っ」
熊男の顔がゆがんだ。
「逃がすかっ」
クルートが切り付けた剣は、間髪バルスの背を掠め、そのまま熊男の横をすり抜けていった。
クルートは一瞬追うことを考えたが、今はシャータの身の安全が先だった。