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国旗を再び  作者: 的盧
1/5

始まる日々

 大陸の最西に位置するフォークランド国。ここは山と海の自然に恵まれており、メイル山脈で取れる鉱石など豊富な資源により太平を謳歌していた。この国の首都トリウム市の中心に位置するフォークランド城では国王モラムの即位10年を迎え盛大な記念会が催されていた。その大広間の外に設けられたバルコニーに一人、物思いに沈む青年がいた。歳はまだ二十とここに集まる貴族級の者たちのなかでかなり若く、すらりとした長身に黒い髪が風に揺らいでおり、身にまとう正装の衣服に腰につけた刀剣が力強さを引き立て、優雅な雰囲気をまとっていた。青年はメイル山脈から吹き込む心地よい夜風を受け涼みながら、今朝方に捕えた盗賊団の頭領のことを考えていた。

 盗賊団ここしばらくメイル山脈のふもとを点々としており、神出鬼没に街道を通る貴族級の貴重品を盗んでおり、街道近辺の通行量が落ち込み、街道の出店、宿泊施設の大きな悩みの種となったいた。

 それが今朝の青年も参加する討伐隊によりついに頭領を捕えたのであった。しかしこの頭領の行動が青年には不自然であったのだ。

 捕える間際の出来事である。突き止めた隠れ家へ奇襲を仕掛けた青年らは、熊のような巨体をし、大剣を振る頭領を追い詰めていた。しかし頭領の抵抗というのはしている"ふり"であり、まるで狙いは他の仲間を山へ逃がすよう誘導し、自身を囮としつつ戦っているようであった。事実盗賊団で捕えることが出来たのはこの頭領だけである。

 この頭領は体が大きくまた肌が人よりも濃く日に焼けたような茶色の肌をしており、歳は青年の見立てで三十は超えているだろう。

 その熊が今地下牢へ鎖に繋がれている。

(まるで俺の持つ悪党のイメージとは違うな。なにか重要人物でも匿っていて、そいつを逃がしたのか・・・)

それに青年は一日考え込んでいた。

「何をしているクルート」

 名前を呼ばれた青年は我に返り、背後へ振り返った。

「これは、ヤーク王子」

 クルーとは深く頭を下げ礼をした。

 「クルート、俺たちは親友だ。その礼と王子で呼ぶのはやめてくれ」

クルートは頭を上げ、ヤークから目線を逸らし頭を右手でくしゃくしゃといじりだした。

 「すまない。しかし場が場でな」

 ヤークはクルートの横へ並び、城外へ目をやった。

 このヤークは国王モラムの嫡子であり、次期国王寳保筆頭だ。華美な赤と青の正装に包まれ、優しく温和な顔をしているが、その実は剛毅であり、強気な性格が父モラルに気に入られている。

 そんな二人の見つめる先には、いつもなら国内の美しい峰を望めるのだが、あいにく一日曇りのため山々を照らす月は顔を見せない。

 「クルート、お前は今朝も討伐隊として働いたそうだな。しかし今日は父上の即位10年の記念日だ。今日くらい剣を手放し祭事に興じてはどうだ」

 「即位式で国中は活発になっている。前に言ったメイル山脈の山賊がそこで動く金品を狙うと聞いたからな。チャンスだったんだ。それでお前が将来国の王となったとき、少しでも治めやすい国に近づいたんだ。むしろ俺はうれしいんだ」

 「ありがたいが、その、なんて言えばいいのか・・・死なないでくれよ。クルートは数少ない俺の信頼できる奴だからな」

いつも強気なヤークが言葉を選んだ。

「大丈夫だよ。俺の剣の腕は知っているだろ」

クルートは微笑みながらそう言った

クルートは、ヤークが幼少より同い年の同性と互いに成長できるようと国が用意した子であり、各名族の子らよりふさわしいと選び抜かれ引き合わされた。

 これらの風習は代々国内で行われており、ヤークの妹君シャータにもこの幼馴染は用意されている。この制度で王族の男子に選ばれる者は聡明であることが必須であり、王宮作法は無論、兵を率いる軍事学、馬術、学術、さらには容姿にも優れているものが相応しいとされる。

 青年クルートはこれら全てを満たした。ヤークともウマが合っており、ヤークは全面の信頼を寄せていた。クルートもこの期待に応えるべく日々研鑽を重ねている。

 「だけど死なないでくれなんて、珍しく弱気じゃないか」

 「ここ最近嫌な予感がしてな、何もかも失うような」

 「その予感を振り払うために俺がいるんだ。杞憂だよ」

 やがて大広間からヤークを呼ぶ声がした。ヤークはそれに応え「ありがとう」とアルスに伝え。室内へ戻っていった。

 そのころ月のない城下では、着々と国家を覆そうとする準備が整っていた。

 城にある庭園が燃えており、煙は上の城内まで上っており、煙の臭いが漂っていた。

 やがて剣の交じり合う音がして、誰かが反乱者がいると叫び周っている。

 式典はすぐに中止となり、城内は阿鼻叫喚となった。

 その中をクルートは駆け抜けていた。焦りからかただヤークの名前を叫びながら駆け回ったいた。

 (ヤーク生きていてくれ・・・)

 クルートは次期国王であるヤークではなく唯一無二の親友ヤークとして心配していた。

 (何が死なないでくれだっ、こっちのセリフじゃないか)

 ヤークの残した言葉に憤りを感じるクルートだった。

 そこへもの影から何者かが奇襲を仕掛けてきた。

 クルートは奇襲をかわし、腰の剣を手に取った。

 「何者かっ、ヤーク様近衛兵のアルスと知っての奇襲か」

 アルスは奇襲者の顔を見た。既視感のある顔がこちらを睨んでいた。

 「無論知ったうえよ」

 再び襲ってきた。剣を横に、続けて縦に振るう。クルートはそれら全てをかわした。

 (この顔は、確かアルクレイド将の幕僚の・・・)

 元々記憶力に優れていたクルートは奇襲者の顔が一致した。

 「貴様、アルクレイド将の手の者だなっ」

 アルスが叫ぶと、奇襲者は攻撃を止めた。

 「・・・なぜ分かったのだ」

 「アルクレイド将へ軍学の教えを乞うた。その時貴様がわきに控えていた。名前までは知らんが、顔はしかりと覚えているぞ」

 「恐ろしい記憶力。さすが王子の付き人に選ばれる者は自頭が良いな」

 「貴様を捕え査問会へ突き出してやる。」

 クルートは剣を突き出した。

 (近衛隊には一人では勝てぬ・・・)

 奇襲者はクルートの剣技を受け流し後退していった。

 「逃がすか」

 追いかけようとした折、ふと足が止まった。いま奇襲を仕掛けた物陰はヤークの妹君シャータの部屋だった。

 クルートは冷や汗をかいた。シャータ君ともヤークの妹ということもあり、よく仲良くしていた間柄だった。

 クルートは奇襲者の追跡を止めシャータの部屋へと入っていった。

 

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