図書室の魔女
南風龍彦は誰もいない放課後の教室で本を読んでいた。
ふと窓の外を見てみるとひとりの人間が落下していた。
鈍い音が響き渡り、グラウンドで練習をしていた女子部員の悲鳴があがる。
飛び降りて死んだのは恋人の亜美だった。
「どうしてだよ!亜美」龍彦は柩の前で泣き崩れた。龍彦の父が龍彦を慰める。
「どうして俺をおいていくんだ!」龍彦は涙を止めることができなかった。
高校1年の時に出会って2年間付き合ってきた。受験を控えたこの年に亜美は自殺してしまった。
翌日亜美の葬式が行われた。参列している先生や生徒はあまり驚いた顔をしていない。
この学校で5回目の自殺だったからだ。5人目の犠牲者。5人目の死者。
4月から7月までの3ヶ月間のあいだに4回の自殺があり、昨日5回目の自殺が起こった。
これは明らかに異常だ。
おかしい。
こんな短期間のあいだに5回もの自殺が起こるなんて。何か裏がありそうだ。
亜美は明るく、いじめも受けていなかったそうだ。
龍彦は5人が自殺した理由を探ることにした。亜美のことについてもわかるかもしれない。
野球部の部員が有力な情報を提供してくれた。
「俺の親友2人が自殺で死んだんだけど、2人とも死ぬ前に必ず図書室に行ってるんだ」
自殺をする前に図書室に行っている。
何か共通点があるかもしれない。ほかの3人もそうだったのか親しい人に聞いた。
女子生徒の証言
「そうよ。貴子は図書室で調べ物があるって言って図書室に行ったわ」
男子生徒の証言
「ああ。高見が図書室に入るとこ見たぜ」
2人とも自殺をした生徒の名前だ。
そして亜美が図書室に入るところも目撃した人物がいた。
自殺した生徒たちは死ぬ前に図書室に行っていた。
自殺した原因は図書室にあると踏んで龍彦は別棟の図書室に向かった。
暗い、雨の日だった。
雨を見るといつも思い出す。
龍彦の母は雨の日に自殺した。
十年前、龍彦が7歳のときだった。いつも編み物をしている優しい母。
あの時から龍彦は雨が嫌いだった。
図書室がある棟は別段暗かった。電灯が壊れているので時々付く明りに驚く。
図書室には司書の成海と言う女の人がいるが、あまり話したことがなかった。
すると図書室に入っていく人影が見えた。
同じクラスの田山洋香だ。本を読むことが嫌いだったはずの洋香がどうして?
ドアのガラスから覗いてみると、洋香は司書の成海のところに近づいていく。そうすると成海は笑顔で語り始めた。
「洋香。よく来たね。お前を待っていたんだ」成海は確かにそう言った。
「お兄ちゃん・・・」洋香は泣き始めた。
お兄ちゃん?
女の成海がお兄ちゃんだっていうのか?龍彦はわけがわからなかった。
「さあおいで。俺は洋香が大好きだ」成海が男の口調で言った。
「洋香・・・嬉しい」洋香は成海のそばに行った。
怖い・・・。
龍彦はその場から逃げ出していた。
翌日、洋香が死んだ。
亜美と同じ方法で屋上から飛び降りて死んだ。
「そんな・・・」龍彦は頭を抑えた。
どうにかなってしまいそうだった。
6回目の葬儀が行われた。
生徒たちはさすがに平静を保ってはいられなかった。この学校は呪われているのではないかと。
次は誰の番なのかと。
これで確実にわかった。自殺の原因はあの図書室だ。
魔女のような司書、成海が生徒たちを自殺に導いているのだ。
亜美の敵をうってやる。
洋香が死んで1週間が過ぎた頃、龍彦は図書室に乗り込んだ。
中には鳴海以外だれもいなく、外で降っている雨のせいでお化け屋敷のようだ。
「あなたですね。この学校の生徒を自殺に追い込んでいるのは」龍彦は成海に言った。
成海はしばらく黙っていたが口を開いた。
「何を言っているのたっちゃん。母さんを疑うの?」成海は母と同じ喋り方をした。
龍彦は混乱した。
「なんでその呼び方で呼ぶんだ!」龍彦は怒鳴った。
「たっちゃんはたっちゃんよ。さああなたの好きな杏仁豆腐買ってあるわよ」成海は微笑んだ。どこからどこまで母だった。まるで蘇ったようだ。
「なんで知ってるんだ。やめろ!」
「やめろ!やめろ!やめろ!母さんは死んだんだ」必死で叫んだ。
成海は龍彦に近づき、抱きしめた。
それは母が死ぬ前に、雨の中で抱きしめた時と同じだった。
「やめろ!」龍彦は振り払い、図書室から出て行った。
(もう少しで危なかった。一瞬成海を母さんだと思ってしまった)龍彦は自分が嫌だった。
次の日も、その次の日も図書室に行ったが同じことの繰り返しだった。
あの女には不思議な力があった。
あの女には勝てない。
そう思いながらも図書室に脚を運んでしまう。
母さんに会いたいから。
「母さん。俺もうここにはこないよ」成海に告げた。亜美の二の舞にはなりたくない。
亜美の分まで生きなければ。
「母さんは悲しいわ。たっちゃんに会いたいのに」成海は泣き始めた。
心が痛かったが仕方がなかった。
龍彦は図書室を走って逃げ出した。
夏休みに入り、自殺者も出ず、平和な日々を過ごしていた。
友達数人と山へキャンプに行ったとき、怪談話で奇妙なことを聞いた。
「何十年も前、俺たちの学校で自殺した生徒がいたんだって。その生徒が自殺した理由は母親が死んじゃったからだったらくて、それ以来家族をなくした生徒を仲間にしようとあの世に引っ張るらしいんだ」
その話を聞いて衝撃を受けた。
その魂が成海に乗り移って家族をなくした生徒を自殺に導くのか!?
亜美も父親をなくしている。
9月から学校が始まった。
あれから図書室に行くこともなくなった。
その日は久しぶりに雨が降っていた。
「俺ノートとってくるよ」友人にそう言って龍彦は教室に向かった。
すると、教室の前に死んだはずの母がいた。
「母さん」
母はにっこりと笑って階段のほうに向かった。
「待って!」龍彦は成海だと思いながらも追いかけた。
「母さん!俺をおいてかないで」成海を追いかけて階段を上った。
亜美を自殺に追い込んだ張本人だとわかっていても、憎んでいても追いかけてしまう。
やがて屋上にたどり着いた。
曇り空から大量に雨が降っている。
「おいで。たっちゃん」成海は柵の向こう側にいる。
龍彦は一歩ずつ柵に向かって歩く。
「待って」
龍彦は柵を乗り越えた。
雨が肩に当たる。
大嫌いな雨が2人を包み込む。
龍彦はそっと空中に足を踏み出した。
体がふわっと浮き、落ちていく。
「母さん」
雨は降り続く。
久しぶりの短編です!
ここのところあまりネタが思いつかなくて・・・。
今回はかなりホラーチック?に仕上がったいると思います。
幽霊とか亡霊が話に関係していますからね。
僕はそういうのを感じたことはないんですが、怪談話などが大好きです。
また話を思いついたら書きたいと思います。
感想、アドバイスお待ちしています。
ではでは。