24
お久しぶりでございます…。月に一度と宣言したもののこの体たらく…orz
どうも、ぺぺです。感想の返信が追いつかず溺れそうになっております。
どちらに関してもすみませんorz
ようやく更新となりました今回は本編に戻りますが、ご感想等に関しては返信が限りなく未定であることをお伝えしておきます。ほんとすんません(;´Д`)
それでも感想を書いてやんよ!!という心の優しいお方は、基本的にドMで、傷つくと遥か彼方に逃亡しがちな放置プレイをこよなく愛す生物だとご理解していただければなと思います。誤字脱字に関しては、どしどし受け付けておりますので、ご協力していただければなと思います。
クロノスとの対面後、口の中の苦味とすぐにはよくならない胃痛をやり過ごしているうちに、いつの間にか再び眠りについていたヤヤが目を覚ましたとき、ヤヤの状況は一変していた。
見知らぬ侍女たちが水を差し出し、甲斐甲斐しく身を起す手伝いをしてくれる。己の加減を聞いて、行動するはじめて見る侍女たちに薄ら寒いものを感じて、ヤヤの顔は引きつった。
(今度はなんなの…?)
たかだか一ヶ月程の間の中で、ころころと変わる自分の状況に嫌気が差し始めるヤヤは、また新たな環境に慣れるために胃を痛くするのかと思うとげんなりする。
侍女たちに礼を言い、差し出された水をちびちびと口に含ませながら、ヤヤは軽く己の腹をさすった。
起き抜けのヤヤを他所に、対の間を任された侍女たちはきびきびとした動きで自分のなすべき仕事を淡々とこなしていた。
突然セリウスに召集されたものの、事前に移動を示唆されていたために大きな混乱はおきなかった。とはいえ、ここ一ヶ月程で有名になった対の間の主のことは噂でしか聞いたことはなく、その人物に対して不安がないとは言えなかった。
仕事にプライドを持ち、出自に左右されない侍女をセリウス自身が選び抜いていたが、侍女たちも個人としての感情がある以上は得体の知れない部屋の主に必要以上近づくことは出来ないでいた。
親近感の湧くような噂がヤヤにあるわけでもなく、むしろ下世話と嫉妬や憎悪に塗れた噂しかないのは明白で、侍女たちは業務をこなしながらも密かにヤヤを観察していた。
普段ならそんな気配にどこかしらの異変を感じて、少しは過ごしやすいように侍女に気を使うヤヤであったが、臓腑をやられた上に起き抜けではすべてが異様で何をどうすればいいのかちらりとも思いつかない。しかも、ここ一ヶ月気の休まる時なんてものはほぼ皆無だったため、余計に過敏になりすぎてすべてが嫌になっていた。
だからといって、ただベッドに身を起こしてじっとしていることも出来なかったヤヤは、侍女たちの邪魔にならないようにベッドから降りて着替えでもしようかとすると、さすがはセリウスが選んだ精鋭かその気配を瞬時に察して侍女たちがヤヤの側に身を寄せる。
「どうかなさいましたか?」
お互いに距離のあるヤヤと侍女たち。互いに相手の出方を窺うような空気にヤヤは心底ため息を吐きたくなった。
「いいえ、ただ少し着替えたいと思ったもので…」
もともとうまく表情を隠せないヤヤの顔はどこかぎこちないもの。それにおやと眉を上げつつ侍女たちは手伝いを申し出で新しい主とも言えるヤヤに尽くすのだった。
着替えの最中になんとか自分でわかる範囲で現状を把握し、すっかり着替え終えたヤヤが次にとった行動は、まずは対の間にいる侍女を自分の下に呼び寄せることであった。
もともと人を使うことに慣れていないせいか、若干及び腰で集まってもらった侍女は総勢四人。己の自己紹介を軽くした後、侍女たちにも自己紹介をお願いする。互いに距離のある関係なので、侍女たちもそこそこの挨拶と自己紹介だけで終わった。
それでわかったことといえば、侍女の名前と年齢ぐらいなのだが、人見知りのせいか人の顔と名前を覚えるのが得意ではないヤヤはそれだけで十分に感じていた。お礼を言って解散させると、侍女たちはそそくさと各自の仕事を始める。それを尻目にヤヤはソファーにかけたまま、侍女たちの名前を必死に覚える。
まずは、金髪に大きな瞳を持つレイラ。その次に、栗毛で侍女たちの中で一番背の高いリズ。さらにリズと同じ栗毛ではあるが、一番背の低かったアネーシャ。最後に、黒髪でつい口元の黒子に目がいってしまうレダ。これを繰り返し繰り返し頭の中で復唱するヤヤであったが、すでに年齢に関してはあやふやになっていた。皆が大体22から16の間の歳であったとしか思い出せず、自分の記憶力の低さにそっとため息を吐くのだった。
ヤヤとの挨拶と自己紹介が終えてから、しばらくは忙しく動き回っていた彼女たちは一通りの作業を終えたのか、ヤヤが名前を頭の復唱している間に部屋の隅に控えていた。ヤヤがなんとか覚えたかなと意識を部屋の中に戻した時、部屋の隅には行儀よく一列に並んで控えている彼女たち。それまでいた侍女たちとあまりにも違う完璧な侍女としての姿に、人間めいたものを一切感じられず、ヤヤは人知れず身震いしてしまう。
(…気持ち悪っ!)
完璧な侍女など生まれてこの方、ついていたこともなければ見たことないヤヤ。仕事は完璧だったとはいえ、ツンツンとしながらも人間味に溢れていたサリが急に懐かしく思え、つい遠い目になったのは仕方のないことかもしれない。
部屋に流れるなんとも言えない雰囲気に侍女たちは仕事と割り切っているためか平然としていたが、当の部屋の主は再び痛み出しそうな腹を擦りつつどうすればいいのかと頭を悩ませた。
そんなヤヤを救ったのは、対の間の扉の外から聞こえるノックの音であった。
すっと流れるような動きで扉の前に立ったのはレイラだ。軽く扉を開け、ノックをした人物を確かめると、また扉を閉じてソファーに座るヤヤの前に立った。ヤヤが前に立つレイラを見上げると、レイラは軽く頭を下げ、
「陛下とセリウス様並びにイセル様がお見えです。いかがなさいますか?」
と、扉の外の人物が誰であるかを告げた。
それを聞いて少しだけ顔が引きつってしまったヤヤであったが、対の間にいるとはいえ自分より身分の高い彼らを体調が悪いからといっておいそれと追い返せるわけもなく、
「そうなの。お通ししてくださる?」
ぎこちない笑みを浮かべながらレイラにそう告げると、まだまだ思わしくない重い体を奮い立たせて、ヴァンディットたちを迎える態勢をとる。
それに倣い、控えていたレイラを覗く三人の侍女がヤヤの後ろに回ると、扉の前に戻っていたレイラが恭しく扉を開けた。
侍女たちが一斉に頭を下げる中、対の間に現れたのはレイラの言った透りの三人組み。先頭にセリウス、間にヴァンディット、最後にイセルの順で仰々しく部屋に入った彼らにヤヤはそっと頭を下げた。
「陛下、並びにセリウス様、イセル様、わざわざおいで下さりありがとうがざいます。この度はご迷惑をお掛けいたし、申し訳ありませんでした」
頭を下げつつヤヤが思うのは、ここ一ヶ月とクロノスのこと。大事になってしまったのはいろいろなことが重なり、それがあの時には発現してしまったせいだ。身の回りが慌しくなることを好まないヤヤは、これからの自分を思うと意識が飛びそうになった。
「ヤヤ様どうぞお顔をお上げください。此度のことはこちらの落ち度、ヤヤ様に置かれましては大変怖い思いをされたことでしょう。こちらこそ本当に申し訳ありませんでした」
頭上から、涼やかな声が降りてきてヤヤはゆっくりと顔を上げたものの、発言者であるセリウスの顔を見てぎこちなく視線をずらす。
(…ああ、眩しい。こちらのくたびれた姿とは雲泥の差ね)
悲しいかな、吐血までして、見る間でもなく具合の悪そうな己の顔を想像すると、とても美神に例えられるセリウスの顔を見続けることなど出来ない。
「それでは、今回のことはお互い運が悪かったというこで…。それより、どうぞ皆様お掛けください。ただいまお飲み物の準備をいたしますね」
そろそろ立っているのも限界になりつつあるヤヤは、そそくさとヴァンディットたちに席を勧める。実際辛いのはヤヤ一人なのだか、ヤヤのあっさりとした発言に周りはヤヤを気遣うことも忘れ一瞬息を呑んだ。
「レイラ、飲み物の準備をお願いできますか?」
それに気づかないヤヤは視線をレイラに向け、客をもてなす準備を促す。
きついヤヤを置いて、周りはそうのんきに構えるつもりはなかった。今回のことがただ単に運が悪いという一言ですむわけがない。ヤヤは自身の体とクロノスのせいで状況を多少なりと把握しているとはいえ、ヴァンディットを含む城の重鎮たちはことが起こることは予想していても、ここ数年噂すら消えていたとはいえ悪名名高い闇組織『冥風』が出来て、城の内部に侵入されるという不祥事を起こし、目の前で対の間の主を暗殺されそうになったのだ。とても『運が悪かった』の一言ですむ問題ではない。しかも、被害者はヤヤ自身。周りがあっけにとられ、微妙な空気が流れる中、吐血したせいか立っていると血の気がどんどん下がっていいているヤヤはそれどころではなかった。
冷や汗を掻きながらふらつきそうになる足を、必死で踏ん張る。
(まずいわ…)
目の前をチカチカと星が瞬きだし、ヤヤが二度目の失態を覚悟した時、ゆっくりと傾いでいくヤヤの体を支える人物がいた。
「運が悪かっただと…?それは俺が無能だと言いたいのか?ヤヤ」
ぐっと腰を支えられ、倒れるという失態から免れたヤヤの耳にねっとりと流れ込んできたのは、とても同じ人とは思えない低くて甘い声。まるで愛しい人に囁くようなその声は、甘さでは隠し切れない濃い毒を含んでいる。
「…へ、陛下っ」
無駄に色気を発しながらヤヤの耳元で囁いたヴァンディットはヤヤの腰を支えたまま、半分ほど魂の抜けた無抵抗の体を軽々と持ち上げ、ソファーにどかりと腰掛けた。その隣には倒れこむように座らせれたヤヤが腰を抱き寄せられたままぴったりと張り付いている。それを、皮切りにか、各々が自分のやるべきことを無意識に行動しだしたのだが、皆の内心はありえないの一言で埋め尽くされていた。
ただ一人、ぽかんと口を開けて目の前の現実を受け入れずにいたイセルだけは、顔を片手で覆いヴァンディットとヤヤの向かいのソファーに腰掛けると頭を抱えるように蹲るとカタカタと細かく体を揺らした。