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脱字訂正しました。
ヤヤとリンクスの背中を見送るセリウスは妙な気持ちになっていた。
先程のソルディー公とヤヤの行動をじっと見つめていた彼は、ヤヤの側室としての十年を思い出す。棒にもかからないその日陰っぷりは、ともに側室である幾人かの女性と共に思い出された。
日陰を歩く側室は、自ら望みそうなるものと、寵愛争いから転落したもの、そして、集められた時点で弾かれたものと三者三様だ。ヤヤは最後の集められた時点での脱落者だった。
皇帝即位の際に集められた側室は、十年立った今では半数を割り三分の一程しか残っていない。
皇帝により下賜される、或いは実家に呼び戻され他家に嫁ぐ側室が大半だったが、中には無駄に寵愛を争い、命を散らす側室たちもいた。
現在残っている側室は、未だに皇帝の寵愛を求めてやまないものか、家に帰れない理由があるものかのどちらかだ。
ヤヤはそのどちらとも言えず、惰性で後宮に残っているのだが、そこまでの事情をセリウスは知らない。
ヤヤの十年を振り返ってみても、これと言って特質したところを見つけられずに、セリウスの妙な気分は高まるばかりだ。
彼は、帝国において宰相の地位に若くしてなった。その手腕は皇帝の陰日向となり、現在も存分に振るわれている。今夜もこの後、膿の一掃を図るため大忙しとなるだろう。
帝国の美神とは、容姿のことだけでなく、その類稀なる頭脳に対しても畏敬の念が込められていた。
「セリウス」
背後からかけられる声に、今までの思考を打ち切り、ゆっくりと振り返る。
「陛下…」
振り返った先には、今夜の主役であるガルディナ帝国皇帝ヴァンディットの姿があった。その姿は返り血を浴びて血に塗れていたが、自身には傷一つ付けさせてはいなかった。
「今宵は後宮に赴こう」
セリウスはその言葉に眉を顰める。
「よろしいので?」
「ああ、すぐ戻る。対の間を用意しておけ」
それだけ告げるとヴァンディットは踵を返し、事後処理に檄を飛ばす。
セリウスはその背を見ながら、ヤヤのことを再び思った。
(厄介なお人に見込まれましたね、ヤヤ様)
きつく瞳を閉じ、それを開いた時には今宵の閨の準備をすべく、聖光の間を後にした。