閑話 とある副部隊長の歓喜
ババーンッ!とビビーンッ!!
特に意味はなく言ってみました。うん、気分の問題です。今はそんな感じの気分なんです。はい。
さてさて、今回は本編とはあんまり関係ない、いらないっちゃ、いらない閑話です。
ペペ的に息抜きは必要だよね?そうだよね!となった結果、書いて載せてみました。
後半、ちょっぴりめんどくさ…じゃなくて自分で書いていてわけがわからなくなり駆け足な感じになってますが、暇な方は覗いてみてください。
閑話なんていらねぇよ!早く本編書けよっ!!と言う方はスルーしつつ、もうしばらくお待ちください。
尚、この閑話に関しては、動物虐待になりかねない表現や人格を疑うような表現があり、不愉快になられる方がおられるかもしれませんが、自己責任でお願いします。
最後に長い前書きですみませんorz
ガルディナ帝国のドルドー伯率いる軍は、近隣諸国を見比べても傑物揃いだ。
その中でも異色なのは、暗部と呼ばれる諜報部隊と特殊部隊といわれる一芸に秀でた部隊だ。
暗部にも『番犬』とよばれる特殊部隊があるが、ガルディナで特殊部隊と言えば、通常一芸に秀でた方のことを言った。
そんな特殊部隊の部隊長は爆薬マニアで、副部隊長は毒薬マニアとして軍では有名だ。
皇帝の即位十周年の祝いの席では活躍することが出来なかった彼らだが、地味に色々な所で活躍していた。特に副部隊長が。
反乱の収束後、服毒自殺を図る貴族に対し、解毒剤を飲ませたり、身分の高い反乱者に対して、痛みのや苦しみの少ない毒を調合して、判決後に飲ましたりと副部隊長は意外と忙しかった。
しかし、副部隊長は最近そんな仕事につまらなさを感じていた。
帝国を流通している毒薬はもちろん、特殊部隊副部隊長という権力を使い、暗部にお願いしまくって集めた外国の毒薬も人体実験を繰り返しまくり成分を分析し、ほとんど自らの手で作れるようになっていた。
最近は専ら新しい毒薬の開発をしているが、効果が似通っていたり、おいそれと人体実験など出来ないグロい効果の毒薬ばかり出来て行き詰まっていた。
そんな時、皇帝の右腕『帝国の美神』と呼ばれる宰相に呼び出され、副部隊長は人体実験のし過ぎを咎められるのではと冷や冷やしながら宰相の元へと向かった。
(一応、重罪囚人使ってたんだけどなぁ〜…)
しょぼしょぼ歩くその姿は、熊が背中を丸めて落ち込んでいるようにしか見えなかったー。
軍の特殊部隊の副部隊長メイデンは、幼い頃から薬師である親の影響を受けてか、薬に妙に詳しいところがあった。それが薬だけに留まれば良かったのだが、薬と毒は紙一重、少しの誤差が毒になるということに興味を持ってしまったのが運の尽き。そこから彼は毒の魅力に取り付かれ、両親に隠れて薬をパクっては、鼠や小動物を捕まえて実験するというかなり危ないお子様に育ってしまっていた。
それなのに、犯罪を侵さず軍に入隊しあまつさえ特殊部隊の副部隊長にまで登りつめることが出来たのは、単に彼の祖父のお陰と言えた。
今は亡きメイデンの祖父は、忙しい彼の両親に変わり彼に教育を施していたのだが、その教育方針は独特で、普通は学び舎に行かすところを昼間スラム街に放り込み道徳や命の尊さをシビアに教え込み、夜はスラム街では無理のある文字の読み書きや計算を教え込んだ。そして、十を越える頃になると武器を持たせ山に置き去りにし、サバイバルを無理やり体に覚えさせた。
結果、彼は命の尊さを身を持って学び、人生の厳しさを知ることになった。
普通ならば逆にぐれそうなものだが、実にうまく彼の祖父は学ぶ時以外は飴をやり、彼は見事な超現実的な青年になることが出来たのだった。
しかし、大人になればなるほど彼のあくなき毒への探究心は高まり、動物実験では物足りなくなる。
なんとかして人体実験が出来ないものか考えた末、軍の特殊部隊を思いつき入隊することにした。
軍の入隊時、彼は幾度となく特殊部隊ではなく、一般部隊ではないのかと聞かれ、危うくそちらに入れられそうになる。
それもこれも、祖父の教育のお陰で無駄に逞しくなってしまったせいと、体に脂肪より筋肉がつきやすい体質のせいであった。
今では比類なきほどに毒に関する知識を軍に披露してきたために間違えるものはいないが、メイデンは一般的に想像する研究者のようなひょろりとした体に憧れているのだった。
そんなメイデンがしょぼくれながらも使いの警護兵に連れられてきた場所は、宰相の執務室なんかではなく城の奥に当たる皇族が住まう場所で、プライベートで使用する部屋であった。
メイデンは皇帝直々にお叱りを受けるのかと、陰鬱な気分に拍車がかかり、とりあえず生きて帰れますようにと祈るしかない。
しかし使いの警護兵により中へ案内されると、皇帝はおらず冷ややかな目をした美しい宰相と怯える護衛兵や侍女、それを取り囲む警護兵がおり、仕事が舞い込んできたのだとホッと胸を撫で下ろした。
「お呼びに預かり馳せ参じました、特殊部隊副部隊長メイデンです」
「あぁ、わざわざお呼びたてしてすみませんね。貴方にはそこのスープに仕込まれた毒の特定をして頂きたいのです。急を要するので、特定出来次第解毒剤の用意もお願いします」
メイデンの挨拶もそこそこに、宰相はテーブルに並んでいた食事を指し示すと、再び護衛兵や侍女に向き直った。
メイデンは特に怯えている護衛兵や侍女には目もくれず、指し示されたスープのある皿に向かって歩き出す。
後ろから侍女の泣き叫ぶ声や警護兵の声、それを一喝する宰相を尻目にメイデンは懐から独自に開発した手袋を嵌めると、スープの検分に入った。
まずは臭いから特定しようと匂いを嗅ぐが、香りはしない。味を確かめる方法もあるが、あまりにも危険なためそれは出来ない。
そこで役立つのがメイデンの開発した手袋だ。水分を肌に通さないその手袋は肌に対して危険な薬物を使用する際に多いに役立つものだ。
スープに浮いていた鼠の尻尾を持ち上げ、目立つ症状がないか探すが特に見当たらない。
特に思い当たる毒物がなく、首を捻りながらスープと鼠を見比べていたメイデンだったが、ハッと何かに気付くと、上着から小さなナイフを取り出し鼠の短い毛を刈るようにその刃を滑らせた。
途端に目をキラキラと輝かせ、満面の笑みを浮かべるメイデン。
鼠の毛を刈った部分から覗く花のような赤い小さな斑点に、メイデンは今まで求めていた最高の毒物に歓喜した。
(『幽界』!!)
メイデンも噂には聞いてはいた『幽界』と言う名の毒物は、暗部にお願いしても手にいれてもらうことの出来なかった最も危険な毒物だ。
この毒に侵された人を見てみたいと思ったメイデンではあったが、城の奥に案内されるような人物においそれと会えないと思い、なんとかこのスープと鼠を持って帰ろうと決意する。
一応、他の食事も毒物が混入していないか調べたが、他には何も出なかった。それでも念の為にしっかりと検分するため自室に運ばせる手配をして、メイデンは宰相のもとへと向かった。
「セリウス様、初見での検分は終わりました。結果、スープに混入されていたのは『幽界』と言う名の毒薬でした。これに関しては、残念ながら解毒方法はございません。あのスープをお召しになった方が、まだ生きておいでなら毒薬を口にした可能性は低いですが、そうでない場合は申し訳ありませんが、私にも手立てはありません」
鼠を再びスープに浮かべてそれを抱えながら話すメイデンを訝しげに見る宰相だったが、最後の言葉に天を仰いだ。
「そうですか…。ご苦労様でした。後の方はお任せしますので、他に何かありましたら報告をお願いします」
宰相がメイデンに視線を向けた時には辺りに冷気が流れ出ていた。
「はい、了解しました。あと、個人的なお願いですが…、こちらのスープを頂いてもよろしいですか?今後のためにも研究をしておきたいのですが」
宰相よりも背の高いメイデンだったが、ついつい上目遣いで窺ってしまう。
それを気持ち悪いと思いながらも、宰相は顔には出さずに快諾すると、メイデンの顔がパーッと華やく。
許可を得るといそいそと一礼をして、部屋を後にするメイデンの頭の中は既に『幽界』のことでいっぱいだった。
その足は真っ直ぐにメイデンの仕事場とも言える研究室に向かい、先に運ばせていた食事の検分を早々に済ますと、『幽界』の調合方法を探るための研究に乗り出すのだった。
メイデンが寝食を惜しんで研究に励んだ『幽界』は、成分を事細かに分析されたものの、ただ一つどうしてもわからない成分が発見される。
メイデンはその成分が何であるかを探るための、またも寝食を忘れるのだった。
「面白いっ!面白いぞ、『幽界』!!そう、俺はこんな毒を求めていたんだっ!!」
その日から彼の研究室からは謎の雄叫びが聞こえるようになり、城の七不思議に数えられるようになる。
特殊部隊副部隊長メイデン、またの名を熊のマッドサイエンティスト。彼は寝食を惜しんで研究しても、そのムキムキマッチョな体が憧れの病的なひょろい体になることはなかった…。