19②
前話と連結予定です。
そんな今回をよろしくお願いします!
ヴァンディットが手ずから飲ませてくれた水で喉を潤したヤヤは、目を逸らすなと言われた手前、ヴァンディットの顔を見つめて礼をいった。
「陛下…、ありがとうございます」
喉を潤したお陰か、幾分声の出が良くなる。掠れてはいるが、話せないことはない。
ヴァンディットを見つめながら、ヤヤはヴァンディットは自分の何が気に入ったのかを考えた。
容姿は並。器量もいいとは言えない。他の貴族令嬢に比べれば、身なりに気を使っているわけでもない。
考えれば考えるほどに謎が深まるばかりで、ヤヤは早々に思考を放棄した。
(…いつまで目を合わせてなくちゃいけないのかしら)
目を合わせたはいいが、視線を外すタイミングの掴めないヤヤ。ひたすらに、ヴァンディットの瞳に映る自分を見ながら、溜息が出そうになるのを堪える。
今だ身体は痛みを訴えている状態なのだ。身体を横たえたいのを必死で我慢している身にもなって欲しい。そんな思いを抱きながら、ヤヤの顔には徐々に困惑へと変わっていった。
一方、ヴァンディットはヤヤが飲み終えたグラスをテーブルに戻すと、ヤヤの黒い瞳に自分の顔を見た。
ここ十年ほどで、異様に悪くなった目つき。その目つきが自分を見返している。
(…俺は何をさせているんだ?)
困った顔で見つめてくるヤヤに、ヴァンディット自身も困惑していた。
はたから見れば、男女が見つめ合い、お互いに夢中になっているような図だが、ヤヤの瞳にはそんな甘さは感じられない。
そもそも、ヤヤにはこれから行うある事に協力してもらはなければならないのだ。その事に普通の恋人や夫婦のような甘さはいらない。
そのはずなのに、ヤヤの瞳にその色を浮かべてみせたいと思う。だが、何故そんなことを思ったのかがわからない。護衛の事といい、視線の事といい、ヤヤに会ってから、ヴァンディットは自分の何かが変わっていっているのを感じていた。
しかし、いつまでも見つめ合っていても仕方がない。ここでの主導権は、ヴァンディットにあるのだ。そして、ヴァンディットは口を開いた。
「動けるようになったら、対の間に連れて行こう。それまでは、ここで休んでおけ。対の間に入ってからだが、お前の新しい護衛と侍女、対の間を担当する警護兵の紹介をする。それから、腹が減っているようなら、そこのベルを鳴らせ」
そう言って、水差しの近くにあるベルを顎で指す。
「わかりました。数々のお気遣い、本当にありがとうござます」
ヴァンディットが話だし、あからさまにホッとした様子のヤヤは、少しだけ顔に笑みをのせ、軽く一礼する。
そんなヤヤの頬を、ヴァンディットは軽く撫ぜ、執務に戻ると告げ、立ち上がり、ヤヤに背中を見せた。
「お気をつけて、いってらっしゃいませ」
ヤヤがその背に声をかける。ヤヤにすれば、当然のことをしただけだったが…。
扉へと歩き始めていたヴァンディットが、振り返り目を見開いている。
(…な、何か変なこといったかしら?)
にわかに焦り出すヤヤを尻目にヴァンディットは、ニヤリと笑うと、あぁ。と声をかけて扉の外へと消えた。
パタンと扉が閉まると、ガクッと身体の力が抜け、ヤヤは身体をベッドに沈ませた。
(なんだったのかしら?)
ヴァンディットの反応の意味がわからないヤヤは、馴染みのない天井を見上げながら、溜息を吐いた。
ヴァンディットはというと、手酷く抱いたヤヤが自分に気遣いを見せたことに驚き、どこか胸が暖かくなるのを感じていた。
寝室から出たヴァンディットの顔は、何処か柔らかさを感じさせるものになっていたのだが、本人はこの後、イセルに会うまでそのことに気づかないのだった。
…お、お気に入りが4000件突破Σ(゜д゜lll)
読者様方、ありがとうございます!
なのに、この作品を書き続けられるか、不安になっている私はただのヘタレですorz
頑張って参りますので、このヘタレと作品を今後もよろしくお願いします(ーー;)