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お待たせしました!
ヴァンディット、相当ヤヤに戸惑っています( ̄▽ ̄)
が、結構人気のリンクスが…可哀想な方向へ行ってます(;´Д`A頑張れリンクス~ヽ(´o`;
黙々と書類に目を通しているつもりのヴァンディットだったが、一向に書類の束は減っていなかった。
それもそのはず。頭に全く入ってこない書類の文字に苛々としては、思い出すヤヤと護衛の姿。
ヤヤの部屋を訪れた際の護衛の行動には感心するが、己がヤヤと食事をするはずが、よもやその護衛ととっていたなどとは許し難い。
しかも、己の馬鹿な発言で見つめあっていた際も、(今思えば甘い雰囲気は皆無だったような気もしなくはないが)何やら通じ合っていたのも気に食わなかった。
ちっと舌打ちをすると、徐に立ち上がり、扉へと向かう。このまま執務を続けていても、今日はやはり手に付きそうになかった。
執務室を出て、苛々と気の赴くまま歩けば、たどり着いたのは己の私室。
ーこの中に己の感情を乱す女がいる。
無意識の内に連れてきて、閉じ込めた女だったが、こんなにも感情を乱すならいっそ、帰してしまえと思わなくもない。しかし帰したとして、あの護衛と再び一緒になるのかと思うと、腹わたが煮えくり返りそうだ。
そんなヴァンディットの不穏な空気を察してか、私室前の警護兵たちが心配そうに視線を扉とヴァンディットの間を行き来している。
「なんだ?」
底冷えのしそうな低い声が、警護兵たちにかかった。
「いえ…」
「何も…」
口々にそう言った警護兵たちはそれでも明らかに中の心配をしていた。
「ちっ!」
その様子に不快感が湧き、それ以上扉の前に意味もなく立ち尽くすのも馬鹿らしく、ヴァンディットは乱暴に扉を開け、部屋の中に滑り込んだ。
外に残された警護兵たちは、お互いに見つめ合い、それから疲れたように肩を落とした。
私室に入ったヴァンディットは、ソファーに広がる幾重に重なる布の塊を見つけて、唇の端がヒクリと動くのを感じた。
その塊は、どう見ても己が連れてきた女が着ていたドレスのそれ。
ソファーの背に立ち、中を覗けば、幸せそうに眠る女がそこにいた。
自分はこんなにも、いい知れぬ感情に乱されていると言うのに、相手の女は呑気に昼寝をしているとは思いもよらなかった。
(…この状況で寝れるのか?)
最早、怒りを通り越し呆れ果てるヴァンディット。
では、ヤヤがどんな態度でヴァンディットを出迎えればよかったのか。
少なくとも寝ているというのは、予測していなかった。あからさまに寵愛を受けたいと望み、待っているヤヤは想像出来なかったが、神妙な面持ちで出迎えるくらいはするだろうと見当をつけていただけに拍子抜けだ。
全くヤヤの思考が掴めないヴァンディットは、眠るヤヤを見つめながら、小さく溜息を吐いた。
何も言わずにここまで連れてきて、期待や戸惑い、或いは恐怖か。ヤヤが起きていてなんらかの感情を浮かべていれば、己の胸の内にある感情に少しは近づける気がしたが、そこに見えるのはただ睡眠に安らぎを感じているヤヤの姿だけだった。
* * * * *
日も暮れ、辺りに夕闇が忍び寄る頃になっても、ヴァンディットの私室からは物音一つしなかった。
扉の前の警護兵たちも神殿の鐘の音を聞いて、交代している。
ヴァンディットは薄暗い部屋の中で、ヤヤが寝ているソファーの向かい側にある一人掛けのソファーにその背を預けていた。
ソファーに眠るヤヤを飽きもせず、ひたすら眺めていたのだが、その間、誰も私室を訪れることがなかったのはセリウス辺りが気を効かせたのだろう。
ヴァンディットの見つめる先のヤヤが軽く身じろぎをした。そろそろ目を覚ますのだろうが、その時に自分とヤヤがどんな反応をするのだろうかと、ヴァンディットは予測のつかない先に不思議な高揚感を覚える。
今までは、大抵思い描いた通りにことは進んでいたのに、ヤヤに関しては自分すらも予測不能なのだ。
ソファーに寝ているのは、どう見ても普通の女なのに。確かに自分は昨夜、ある程度ヤヤの身体を貪ったのだ。でなければ、ヤヤがここまで深く眠る意味がわからない。
ただ、ヤヤは一度目が覚めてから後宮に戻っている。自分の書き置きは読んだ筈なのに。ベッド脇のサイドテーブルの水差しの水は減っていたので、すぐにそれは理解出来た。
そして、今はヤヤの前のローテーブルに置かれたヤヤの書き置き。短く書かれたそれに、あまり自分に対しての好意は見られなかった。
初めての女が大丈夫でいれるほど、自分は優しい抱き方は出来ないと自分でわかっている。それでもなんとか手加減をして、己に宿る熱をやり過ごした昨夜。翌朝は、まだ熱が燻ってはいたものの、隣で眠るヤヤを見て初めて感じる充足感があった。
ーこの女は自分のモノだ。
そう感じただけに、ヤヤが後宮に戻ったことに対し、どこか裏切られた気になった。
その上、書き置きに書かれた大丈夫とはどういうことなのか?ヤヤの眠りの深さからして、どう考えても大丈夫ではなかったようにしか見えない。
(わからん…)
ヴァンディットが眠るヤヤを見ながらわかったことといえば、ヤヤを後宮に戻す気が自分にはないことと、ヤヤの護衛が気に食わないこと。そして、今日もヤヤを抱くであろう自分だけだった。
嫌がられても抱くだろう。だが、昨夜は流されるままに抱かれたヤヤの真意が少しばかり気になるヴァンディットであった。
「う…ん…」
薄暗い闇の中で、ヤヤの掠れた声が漏れる。
(やっと…か)
ヤヤの目覚めを感じたヴァンディットは、少し安堵する。このままヤヤが起きなければ、やることは出来ないし、この不可解な己の感情も平行線を辿ってしまうと危惧していただけに、ヤヤの目覚めは喜ばしかった。
本当は待ちくたびれたと言いたいところだが、ヤヤの寝顔を見ながら思考に浸るのはそう悪くなかった。
ヤヤは寝そべりながら、身体を伸ばした。薄っすらと開けた瞳には、闇に沈んだ見慣れぬ部屋が映る。
(…?どこかしら)
ゆっくり身を起こすと、あちこちが凝り固まっているようだった。
身体の凝りを解すため、両手を組み合わせ、腕を頭上で伸ばす。そのまま、腰を左右に傾けるとバキバキと小気味いい音が室内に響いた。
ヴァンディットは一連のヤヤの動作をぽかんとした顔で眺める。
(何をしているんだ?)
皇帝である自分が目の前にいるにもかかわらず、淑女らしからぬ行動をしたヤヤに唖然とするしかない。
ヤヤは凝りを解すと腕を降ろし、ぼーっと正面を見据えた。ヤヤの瞳には、目の前の人影こそ映っているのだが、それが誰だとかここがどこだったのかなどと考えるほど頭は働いていないのだ。
見つめあっている二人だが、しっかりと相手を見据えているのはヴァンディットのみ。
(………なんだ?)
(………リンクス?…にしては、身体つきが違うような?)
ヴァンディットは、見つめてくるヤヤに居心地の悪さを感じたが、ヤヤは人影が己の護衛とは違うような気がして首を傾げる。
「………」
「………」
沈黙だけが部屋に横たわる中、窓の外の日はすっかり沈んでしまい、部屋は闇に呑まれた。
ただ、場内のあちこちに点在している篝火の僅かな明かりが、微かに窓の影を揺らしていた。
ってことで、次回は少しお時間を頂きたい(ーー;)
なるべくお待たせしないよう頑張ります!