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おらぁ、頑張ったよ!…調子に乗ったとも言うんだけどね(;´Д`A
昨日、暖かいお言葉をたくさん頂きまして、早め更新であります!
皇帝をお待ちの皆様、ヘイお待ちっ!!
後半が上手く書けなくて書き直しありかもですが、とりあえずどぞ!
サリはとても頭の回転が早い見習い侍女だ。見習いとなっていながらも、こなす仕事は侍女以上。故に、目立ち過ぎて上に上がりたくとも他の侍女の妨害に合う。
そんなサリは先程帰ってきた部屋の主が、噂されているようなことがないのを理解していた。
しかし、どのような理由であったにしろ、己の担当の部屋の主が犯罪者扱いされれば、自ずと自分が巻き込まれるのはわかっていた。
昼食をとりに行った際に投げつけられた言葉は、部屋の主のことと共に己のことも貶めるものだった。
サリは腹が立ったし、飛びかかって痛い目に合わせてやりたくて仕方なかったが、今は勤務中であり、嫌いではあるが部屋の主が待っているのでぐっと堪えて、受け取った食事をワゴンに乗せ、主の待つ部屋へと急いだ。
扉をノックすれば、いつものように主の護衛が扉を開ける。サリはこの護衛もあまり好きではなかった。
主の前では、ヘタレのように見えるのに、その気配はいつも周囲を窺い抜け目ない。それでいて、色恋沙汰に鈍いとくる。護衛の年齢を考えればイイ歳こいてと思うのだった。
「ありがとう、サリ。…何か嫌がらせをされなかった?」
サリの担当する部屋の主、ヤヤは、淡々と食事の準備をするサリに話しかけた。サリは一瞬だけ目を細め、特にはと答えた。
サリの気持ちは、ヤヤの気遣いで余計に下がっていくばかりだ。
食事中は飲み物を継ぎ足したり、空になったら皿を下げたりと仕事があるので、サリはソファーの前のローテーブルに食事のセットを終えると壁の方に下がり、姿勢を正した。
「…ディディの腸詰め」
ヤヤがボソリと呟く。
(よりによって…腸詰めなんて)
昨夜の光景が脳裏を掠め、がっくりと肩を落とすと、リンクスが慌てて話しかけてきた。
「どこかお加減でも悪いのですか!?」
その必死な形相に、思わず笑みが溢れる。
「大丈夫よ。さ、リンクスもお腹が空いたでしょ?一緒に食べましょ」
普通であれば、護衛が主と共に食卓を囲むことは無いのだが、この十年、ヤヤとリンクスは昼食と夕食は共に食事をとっていた。
サリも心得ているのか、リンクスの分までしっかりと用意されている。
最初は実家を離れ慣れない後宮生活でヤヤの食事の量が減り痩せてきたため、それを解消する為に同席していたのだが、気づけばこの部屋のいつもの光景になっていた。
ヤヤとしては、サリも同席すればと思うのだが、嫌われている手前、同席しても美味しく食べられないだろうと口を出さないでいた。
ヤヤの座っているソファーの斜めにある一人掛けのソファーが、リンクスの定位置だ。
共に食前の祈りをあげ、静かに食事が始まった。
ディディの腸詰めを嬉しそうに頬張るリンクスを余所に、ヤヤはそのパリッとした食感に、
(ソルディー公じゃ、やっぱりまずそう)
と、神妙な顔つきで考えている。食事中に考えることでは無いのだが、思い出しても昨夜のような恐怖感は湧き上がってこず、不快感だけがもやもやと心の底を擽る。
(いろいろあったしね…)
フォーク刺さったディディの腸詰を眺めながら、その目はどこか遠くを見ていた。
カツカツカツ…
食事中のヤヤの部屋の外からやけに大きな床を蹴る音が近づいてくる。
最初に気づいたのはリンクスで、さっと扉に視線を走らせ、ヤヤを庇う様に扉の方へ身体の正面を向け立つ。
次に気づいたのは、サリ。彼女はちらりと扉を見やると、そのままもとの姿勢のままでいた。
ヤヤの部屋は後宮の隅っこ。この先には部屋はなく、手前で止まらない限りは、この部屋に用があるのだと容易に知れる。
バンッ!!
予告もなしに開かれたヤヤの部屋の扉の音に、ビクリと身体が跳ねるヤヤ。漸くディディの腸詰とソルディー公のはみ出した腸の違いを考えていたヤヤの思考が打ち切られた。
扉を見ようとすれば、リンクスの背中しか見えず、その手がいつも帯剣している剣の柄に触れているのがわかった。
「…?」
「呑気に食事か?」
リンクスの背中越しに聞こえたのは淡々とした低い声。それなのに、その声に怒気を感じ、一気に嫌な予感が身体中を駆け巡った。
横目にサリが膝を付き頭を下げる様子が目に入る。申し訳ありませんと慌てたリンクスの声が聞こえると、リンクスの背中が横に移動し、視界の隅に消えた。
(な、なんで…?)
目に飛び込んできたのは、鋭い鷹の目をした皇帝だった。
後ろに控えるセリウスも目に入ったが、射すくめるように皇帝に見られているため視線を外せないヤヤ。
視線を外さなければと思うのだが、そうさせてくれない何かが皇帝から溢れ出ている。
(見つめ合うなら、こんな視線で殺すみたいなのじゃなくて、後ろの美形がいいよぅっ!)
半泣きになりそうなヤヤが思うのは、そんなことだ。
「…手加減は不要だったか」
地を這う様なその声に、ヤヤは弾かれた様に首を横に振る。
(あれで手加減はおかしいって!!)
昨夜の情事を思い出し、ヤヤは青褪めた。良くなかったとは言わないが、破瓜の痛みは今まで感じたことのない痛みであったし、何より体力が違いすぎる。その上、普段は使わない筋肉を使わされたおかげで、本当にボロボロなのだ。
狙う者と狙われる者の無言のやりとり。そんな二人を見兼ねたように声をあげる者がいた。
「ヤヤ様、突然の訪問をお許しください」
捕食者と被捕食者のただならぬ空気を払拭したのは、皇帝の後ろに控えていた帝国の美神だった。
すっと、一歩前にでたセリウスは儚げでありながらも、存在感はたっぷりだ。漸く、視線を外すことの叶ったヤヤは、セリウスを崇め奉りたくなるのだった。
「構いませんわ」
視線を下げ、そう言うヤヤの目に映ったのは、ディディの腸詰。ヒッと息を呑む音が出るのを必死で堪え、フォークに刺さったそれをそっとテーブルに置き立ち上がる。
「陛下、セリウス様。この様なお出迎えの仕方で申し訳ありません」
立ち上がり一礼をするヤヤの姿は、先程の動揺など見えない。しかし、脳内は何をどう考えればいいのかわからないくらい真っ白でパニックになっていた。
「いえ、それはこちらが悪いのですからお気になさらずに。ところでヤヤ様、体調の方はどうですか?」
セリウスの涼やかな声が、昨夜の情事について匂わせると、ヤヤの頬に赤みが差す。
「…とりあえず、なんとか動かせましたので」
恥ずかしいが答えないわけにもいかず、だからと言って大丈夫ですとは言い難い身体の痛みに、ボソボソと小さくなる声でそう言うヤヤ。下ではリンクスが、ヤヤをその様な状態に追い込んだ皇帝を責めたい気持ちと、その様な状態になってしまった原因を思い、百面相をしかねない顔の筋肉を引き締めるのに精神を削っている。少し離れたところにいるサリに至っては、我関せずの境地にいた。
「随分と元気そうで何よりだな」
感情の籠らないその声にビクリと肩を揺らすヤヤは、とりあえず皇帝への恨み言を脳内で連ねた。
その皇帝ことヴァンディットは、ヤヤが自分から視線を外した瞬間から、部屋の様子を抜け目なく観察すると、再びヤヤに視線を戻していた。
「護衛と随分仲がいいようだな。…まさかと思うが、そう言う関係か?」
口にしながら、不快感に口元を歪ませるヴァンディットはヤヤが清らかであるのを確かめた張本人なのだが、ともに食事をするというその行為に邪推せずにはいられなかった。
胸に渦巻く、初めての感情を持て余しながらも、それが何を意味するのかはわからないヴァンディット。
そんなヴァンディットの発言はヤヤだけでなく、リンクスの度肝も抜いた。
ーあり得ない。
二人は自ずと見つめ合い、視線だけでお互いの気持ちを見抜いた。
ヤヤはリンクスとのことを想像したが、全く発展せずに微妙な顔つきになり、リンクスはヤヤの裸を想像してしまい、まるで年頃になって母や姉妹の裸を見てしまったかの様な罰の悪さを感じて、視線が軽く泳いだ。
ぐいっ
「っ!?」
ヤヤの左手が突然引っ張られたか思うと、見つめ合っていたリンクスの瞳が驚愕に彩られる。
そのまま浮遊感を味わうヤヤの右手はリンクスに伸び、その手をリンクスが掴む前にセリウスの背中に阻まれた。
「なっ!?」
「ヤヤ様っ!?」
何が起きたのか全くわからない二人。ヤヤは予期せぬ身体の動きに痛みが走り、力が抜けそうになる。いつの間にか、視線が反転し、鳩尾に鈍い圧迫感を感じた。
(何っ!?)
一連のことにヤヤの思考が追いつかない。
リンクスはヤヤとの間に滑り込んできた、セリウスを呆然と眺めた。
ヤヤの手を引っ張っていたのは皇帝で、自分が止める権利は全くない。何故皇帝がその様な行動に出るのかも理解できないでいた。
ただ、己の主の扱いが雑過ぎて怒りを覚えるのを感じているのは確かであった。
「…貴方はここで待機しなさい」
セリウスがリンクスに静かに告げる。
同情を浮かべるセリウスの顔は美しかったが、リンクスの目にはヤヤの差し伸べていた手の残像がちらついていた。
そんな中、サリだけは静かに膝をつき頭を下げたまま、先ほどから部屋の中で起きている出来事を客観的に聞いていた。
ーとんだ茶番ね
それがサリの感想だったが、その茶番にこの先巻き込まれるとは露ほどにも思ってもいなかった。




