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お待たせしました。
上手く書けませんでしたorz書き直しありかもです(;´Д`A
ヴァンディットの言葉に、一番驚いたのは他でもない、最初の言葉を投げかけたイセルであった。
ぽかんと口を開け、目が点になったかと思うと、
「はぁぁぁあああああっ!?」
と、大声でため息とも聞き直しとも取れる声を発した。
それに折り重なるように響くのは、ドルドー伯の豪快な笑い声。
なかなか面白いことになったとその顔には満面の笑みを浮かべている。
シス候といえば、片側の仮面と同化しそうな無表情で、結婚に関わる法律を脳内検索している。
そんなシス候を羨ましそうに見ているのはセリウスだ。彼だけは、多少の事情を知っているだけに、ものすごく驚くことも、かといって無関心でもいられない。しかも現在、後宮は彼の管轄下にある。
彼はヤヤの姿を思い出し、軽い溜息を吐くのだった。
「では、例の計画の始動かの?」
ドルドー伯が、今度は意味ありげな笑みを顔に乗せて、ヴァンディットに話しかけた。
「ああ、徹底的に潰す。幸い、昨夜の件で残りの大半は整理できる」
それに、口の端をつり上げて答えるヴァンディット。
「いやいや、ちょっと待ってよ!例の計画は外から正妃を迎えてからじゃなかったっ!?セリウスが知ってそうな辺り、もしかして…って、もしかしなくても、後宮からなんてことはないよなっ!?」
ヴァンディットの衝撃の発言から、立ち直ったのか、イセルが声を張り上げた。その声に賛同するかのように、シス候も静かに口を開いた。
「陛下、後宮からとなるといろいろ問題がでてきますが?」
暗に、それは貴方も知っているでしょうと告げるような眼差しで、シス候が言葉を切る。
「ああ、大丈夫だ。相手は処女だった。なんならシーツのその部分を切り取って額に入れて進呈するが?」
面白そうに返すヴァンディットに、シス候は眉をしかめるわけでもなく、変わらぬ無表情で、入りませんと答えた。
「陛下の確認済みであれば良いのですが、シーツ如きでは他の者を黙らすことはできませんよ?何故現在の後宮に男がいるのかわかっていらっしゃいますよね?」
シス候のもっともな言い分をヴァンディットは、鼻を鳴らし一蹴すると、ニヤリと不敵に笑った。
「俺は独裁者だ。俺が確かめさえすれば、それでいい。煩い者は、昨夜自滅した者がほとんどだ。それに、何処から女を連れてこようと揚げ足を取ろうとするのは変わりない。…探す手間が省けただけのことだ」
最後の言葉は明らかに昨夜を思い出しながら言っているのに、彼らが気づかないわけがなかった。
ここでかの女性が、どの様な女性なのか気になるのが約二名。セリウスは当然省かれ、シス候はどんな女性でも、法に触れてさえいなければ気にしない。
「で、どんな女なのよ?まさか、ムキムキのマッチョじゃないよなっ!?」
ヴァンディットの意見が変わることのない様子から、イセルは急激に相手の女性が気になり出す。絶倫と思われるヴァンディットの相手をできるなんて、余程体力があるのかテクがあるのか…イセルは容姿よりも、そちらの方が気になるのだった。
イセルの下世話な想像に気がついてか、ヴァンディットはイセルを睨みつる。
「儂も気になるの。どうじゃ、セリウス。主は何か知っておろう?」
イセルのように下世話な考えからではなく、純粋にヴァンディットの興味を惹いた女性が気になったドルドー伯がセリウスに尋ねた。
セリウスもその女性、ヤヤをよく知るわけではない。一応、後宮内の側室は把握しているものの、ヤヤは目立つ所がなく、今回の反乱についても名前が上がらなかった貴族だ。特に注意する人物でもないため、関わることになるとは露ほどにも思っていなかった。
軽く息を吐き、ドルドー伯を見据える。イセルの興味津々の視線が痛い。
その前にと、一度ドルドー伯から視線を逸らし、ヴァンディットに問いかけた。
「陛下にお尋ね致します。…正妃とお考えのお方は、側室であられるヤヤ様でよろしいのでしょうか?」
憶測で事を語るわけにはいかないので念のため、ヴァンディットに確認をとる。ヴァンディットがイセルを睨みつけたまま、軽く頷くのを見て、視線をドルドー伯に戻した。
「かの女性は、後宮におります側室の一人でヤヤ様と申します。特に目立つところもない普通の女性と思われます」
セリウスの言葉に、おやっと眉をあげるドルドー伯に対し、疑心暗鬼の目を向けるのはイセルだ。
「信じられん…!」
思わず零れたイセルの呟きに、漸くセリウスがイセルに視線を移す。
内心はイセルと同じセリウスであるが、昨夜のヤヤを思い出し、普通だがどこか違和感を感じたことを思い出した。
「しかし、普通の女性ならば今頃動けず辛いじゃろな」
ぽつりと呟くドルドー伯の言葉に、皆は口には出さないが渦中の女性に同情の念を送る。
ーちなみに、その頃のヤヤはストレッチに励み、体をほぐしていた。
「…手加減はしてある」
自分の性癖を理解しているヴァンディットは、面白くなさそうに誰に言うでもなく、言葉を吐いた。
「…はっ?て、手加減?」
信じられないものを見たかのようにヴァンディット見るイセル。セリウスも思わずヴァンディットを凝視する。ドルドー伯は面白そうに笑みを浮かべ、シス候に至っては片眉を上げるのみ。
(ヴァンが…手加減!?)
もう一度だけ、己の中だけで先程の言葉をリフレインするイセルは、もっとも長くヴァンディットの性癖を隣で見てきていた。そんな彼は今まで一度としてヴァンディットがその手のことに関して手加減をしたことがなく、尚且つ満足したことがないのを嫌と言うほど知っていた。
「…ちなみに、手加減ってどの程度?」
ヴァンディットの相手をした女性は最低でも一日半はベッドから起き上がれないことも知っているイセルはヴァンディットの手加減具合がどの程度なのか気になる。
「夕刻には動ける。…夜まで潰れていてもらっては困るからな」
イセルの質問に鼻を鳴らして答えるヴァンディットは、今夜もヤヤを抱く事を匂わせるとニヤリと笑う。
その笑みを見た彼らは、心からの同情をヤヤに向けるしか出来ない。
「質問は以上か?…それでは解散。各々、後を頼むぞ。セリウスはついて来い」
これ以上余計な事を聞くなとばかりのヴァンディットに彼らは頷くしかなかった。
彼らを満足そうに眺め、セリウスを伴い席を立つヴァンディットの姿は、どこか浮き足立っている。
そんな彼を見送る三人の心中は様々だ。
イセルは、ヴァンディットに変化をもたらした側室に同情を感じつつも、ますます興味が湧くばかりだし、ドルドー伯はこれから楽しくなるなと笑みを深める。シス候は無表情ではあるのだが、彼もヴァンディットの性癖を知っているので、早いに越したことはないとばかりに、育児に関する法律を思い出していた。
* * * * *
セリウスを伴い、部屋を出たヴァンディットは、その足を自らの私室へと向けた。
セリウスは冷静を装いつつも驚きを隠せず、ヴァンディットの背中を見つめながら、ヤヤの事を考えた。
いつもなら夜にならなければ私室に戻ることのないヴァンディットが、今日に限って私室に戻るという、その原因と思われるヤヤ。イセルのようで嫌なのだが、下世話な想像が頭を過る。
同時に、ヴァンディットが言っていたように、ヤヤが男を知らなければ、いくら手加減をして身体には相当のダメージがあるはずと、ヤヤの身体が心配にもなる。
しかし、セリウスも手加減をしたヴァンディットも知らなかった。
ヤヤが一般的な女性よりは体力があり、しかも部屋に戻っているということをー。
私室に戻り、部屋の前にいる警護兵にヤヤの不在を知らされたヴァンディットは、信じられずに荒々しく扉を開けると寝室へと早足で向かい、愕然とした。
手加減をしたといっても相手は処女で、夕刻までは動くことは出来ない程度には抱いたはずだった。それが、ベッドはきちんと整えられており、まるで誰もいなかったかのような有様になっているのだ。
思った以上に身体の相性が良く、今宵も楽しもうと手加減をし、その上身体を気遣い見舞いにきた結果がこれだ。
ヤヤにすれば、自分勝手で迷惑極まりない話なのだが、この時のヴァンディットはヤヤに対して暗い欲望と怒りを覚えていた。
その様子は、周りを震え上がらせた西国の黄昏を呼ぶ鷹と呼ばれる時と同じであった。
ヴァンディットは素早く寝室を見渡し、己の書いた手紙がなくなっているのを確認し、踵を返した。
扉の前で警護兵と話すセリウスの所へ行く途中、ソファーの前にあるテーブルに紙があるのに気がつく。
それを手に取り、文字を追って、更にヴァンディットの凄みが増す。彼の異様な雰囲気に気づいたのか、警護兵とセリウスが扉の外から、彼の様子を窺っていた。
ヴァンディットはそれを気にすることもなく、口を開くとセリウスに告げた。
「後宮に行く」
ヴァンディットの異様な雰囲気を前に、口出すほどセリウスは馬鹿ではない。そんな馬鹿はイセルだけで充分だとさえ思っている。軽く一礼すると、さっさと部屋から出るヴァンディットを追いかけた。
そんな彼らの背中を見送るのは警護兵は二人。彼らの脳裏には先程、この部屋から出て行った側室の姿があった。
そして、どちらともなく思うのであった。
ーあの時、引き留めておけば!
彼らの顔は僅かに青ざめていた。
次回はヤヤサイドですが、その前に閑話を投稿する予定です。
閑話は読んでも読まなくても、本編には関係ないです。