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やっぱり出ました訂正がorz
この作品は読者の皆様の暖かい訂正で支えられているのかもしれません…(>_<)
努力はしているのですが、なかなか実を結びません(;´Д`A
一回くらいは、訂正なしにしてみたい(´Д` )
皇帝即位の祝いの夜会が会った次の日、丁度ヤヤが皇帝の私室で目が覚めたぐらいの頃ー。
城のある一室では、男が五人ほど机を囲み、何やら話し合っている。
一人はこの国の皇帝、ヴァンディットであり、その隣は宰相であるセリウスが立っている。その前方に左右に分かれて座っているのは、この国の要人たち。
左手に座るのは、帝国の軍部最高峰である、大元帥の地位にあり、鷹の先導者と呼ばれるドルドー伯。既に高齢の身でありながら、しっかりと背筋を伸ばて座っている。
その隣には、すこし締まりがない顔だが、騎士団を纏め上げている騎士団長のイセル=サラヴィーダ。
そして、彼らの向かいに座るのは、常に顔の左側を隠す仮面を被っている法務を司るシス候である。
彼らが話し合っているのは、勿論昨夜の夜会での反乱についてだ。
本来ならば、議会を招集し、話し合わなければならないのだが、生憎大半の貴族が反乱軍を支持していたため、そういうこともできない。もとより、独裁者であるヴァンディットには議会を招集する気はなく、側近ともいえる彼らのみを招集したのだった。
その日のヴァンディットは、朝から、いつもの様に厳めしい顔をしているのに、その鋭い榛色の瞳が僅かに穏やかさを見せていて、セリウス以外の者は不思議に思っていた。
しかし、目下の問題はヴァンディットの機嫌ではなく、昨夜の反乱の終息であるため、法務大臣であるシス候を主として、昨夜捕まった者たちへの処罰を決めていた。
罰則が軽減されぬよう慎重に話し合いは進められていたが、死亡してしまった貴族や騎士もいたため、それらの処遇について頭を悩ませていた。
仮に個人で、反乱に加担していたのであれば、故人の財産を没収の上、身分の剥奪だけで済むのだが、これが反乱に参加していなくとも協力者がいた場合には徹底的に叩くためにあらゆる情報を必要としていた。
朝から行われていた会議だが、独裁者のヴァンディットには支持してくれるものが少なく、洗い出しには捕まった者たちがあっさりと白状しない限り、多少の時間がかかることが予想された。
「時間がかかれば、取り逃がす可能性が出てくるな…」
渋い顔で、そう言うヴァンディットだが、彼の脳裏には今朝のヤヤの少し疲れたあどけない寝顔がちらついていた。
「そうですね…。もし取り逃がしたとしても、二度とそのような気が起きないようにする必要がありますね」
そう応えるのは、セリウスだ。
彼はすべてを捕まえられると思うほど、驕りたかぶってはいない。人が万能ではないと知っているのだ。
時間がかかり、彼らに逃げ道を与えるようなことになれば、また同じようなことになる可能性も出てくる。運良く逃げ切ったとしても、二度とそのような気にならないような措置を取らなければならないとヴァンディットに進言する彼の目は何処となく生温い。
事情を多少知っているためにヤヤのことが心配される。
「暗部は既に放ってある。しかし、末端になればなるほど逃げやすかろう」
少し嗄れた声のドルドー伯は、軍部の諜報兵を動かしたことを告げ、その限界を明らかにした。
ドルドー伯はいつもと僅かに違うヴァンディットを、事情は知らないものの面白いと思った。
「取り敢えず、予想される関与別に、罪状を作成しておきます。そうしておけば、次の対処は少しでも迅速に対応できると思いますよ」
そう答えたのは、仮面の男、シス候。彼は顔の片側を隠す仮面と同じような無表情だ。
彼の脳内には帝国の法令が本を捲り眺めるように思い出されていた。
彼は、法律以外に興味はなく、ヴァンディットの変化に気がついていながらも興味はなかった。
「そうだな…。シス候には手間をかけさせるが、そうしてもらうと有難い。引き続き、北の塔も任せる。セリウス、シス候のサポートを頼む。ドルドー伯は、暗部の情報が入り次第、裏を取りシス候に報告、執行部を動かせ」
ヴァンディットの言葉に三人が一礼をした。
「…ところで、陛下。何かいいことでもあったんですか?」
今まで厳かに続いていた会議に水を指すように口を開いたのは、会議に参列しているものの、特に発言をすることがなかったイセルだった。
ガルディナ帝国で騎士団といえば、城の警護と皇族の護衛をする者の集団であり、それこそ騎士の称号を持つものしかなれない。
しかし、ガルディナ帝国は軍部があり、その中に騎士団が所属しているため、騎士の称号を持っていても騎士団にいるとは限らないのだ。
ただ、城の警護と皇族の護衛という特殊さから、騎士団は軍部の中でも別格であり、騎士団団長であるイセルは重要な会議などの際には必ず呼ばれるのだった。
この男、空気は読めるが読む気はなく、平気で雰囲気をぶち壊すのが得意である。しかし、タイミングを外すほどの馬鹿では騎士団団長を勤め上げることは出来ないため、今まで黙っていたに過ぎなかった。
イセルはヴァンディットの幼馴染であり、彼の変化が朝から気になって仕方がなかった。
実はヴァンディット、血の匂いを嗅げば、性的欲求が高まるという厄介な性癖の持ち主であり、その興奮を抑える為に幾人の女性を抱き潰そうとも、翌朝はすっきりとしたことがないのを幼馴染のイセルは知っていた。
そういう日のヴァンディットは常に不機嫌さが滲み出ているのだが、それが今日はないのだ。
今まで満足という言葉を知らないのではないかと疑っていた幼馴染の変わりように、イセルは激しく違和感を覚えていた。
昨夜血を浴び、普段なら今日は不機嫌であるはずのヴァンディットが、今日に限ってそれかないのを、今朝まで反乱の収拾に駆り出されていたイセルには知り様がなかった。
気になればそのままにしておくことが出来ないイセルは聞く機会を窺っていたのだ。丁度、話も途切れたとばかりに、ヴァンディットに問いかけたのだった。
「イセル…」
そんなイセルに呆れた顔をするヴァンディットを始め、以下三人。
イセルはきょとんとした顔をすると、
「だって、気になるだろ~?いつもなら、今日みたいな日はドス黒いヘドロみたいな空気背負って、会議もピリピリしてんのにさ。今日に限って、普段通りってどうなのよ?」
幼馴染の気安さからなのか、軽くヴァンディットを貶すイセルに、鋭い視線を送る彼。それを肩をすくめるだけで、流してしまうイセルはただの能天気ではない。それで済むと思わなければ、そもそも、質問すらしていないのだ。
だから、今日のヴァンディットを見ている限り、幼馴染の勘とやらでいけると思ったに過ぎなかった。
「儂も多少、気になるの」
ニヤリとヴァンディットを見やるのは、ドルドー伯。それに舌打ちをして、視線を逸らすヴァンディットは罰の悪くなった子供のようだった。
彼がまだ、幼かった頃より剣術を師事していたドルドー伯は、皇帝となった今でも、唯一頭の上がらない存在だ。
「大元帥も気になりますよね!?…セリウスはなんか知ってるみたいだし。ってかシス様、視線が痛いっす」
仲間を得たとばかりに喜び勇むイセルをシス候が呆れた視線を送る。しかし、彼にはなんの興味もないことなので、その脳内では今後の予定が箇条書きに展開されている。
「…シス様、別のことを考えながら見つめるのはやめてくれませんか?」
シス候の思考を的確に読んだイセルの抗議に、シス候はふんと鼻を鳴らすと、その視線をヴァンディットに移した。
そんな中、セリウスは事情を知っているとあって、イセルに視線を向けることなく、自分に被害が及ばないようにしている。
「まあいい。皆にも報告しておこう」
このままはイセルにしつこく聞かれると思ったヴァンディットは、各々の顔をゆっくりと眺めると口を開いた。
「近々、正妃を迎えるかと思う」
不敵に笑うヴァンディットの声に続き、城内にある神殿の鐘が静かに窓の外から聞こえたのだった。