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『良くなって来ましたね。少し外を散歩なさるといいでしょう』


 医者の言葉を受けて、ザイドは花が咲き誇る庭を散歩していた。そしてザイドの横には、少しだけ顔色が良くなったシェリー。

 一緒に眠ったあの日、目を覚ましたシェリーは、ザイドのベッドで眠ってしまった事実に可哀想なほど動揺していた。謝罪するシェリーに慌ててザイドも謝り、互いにベッドの上で謝り続けて、朝食の準備をしに部屋に来た執事を驚かせた。

 結局、お互い悪かったと無理やり結論付けたあの日から、ぎこちなくではあるが二人の距離は縮んでいた。

「シェリーはどの花が好きだ?」

 ザイドが訊くと、シェリーは少し迷って、近くに咲いている小さな花を指さす。

「あの白い花が綺麗だと思います」

「そうか」

 可憐な花はシェリーに似合う、とザイドは心の中で呟く。

 ザイドが診察の際に、シェリーも医者に診てもらった。医者によると、シェリーの体調不良は、やはり精神的なものが大きいらしいのだが、それだけではなく、魔界の濃い『気』に慣れていないせいもあるらしい。

 無理をしない程度に食べさせて、運動もして体力をつけさせ、尚且つ楽しく過ごせるように気を付けてあげなさいと、非常に難しいことを医者に言われたザイドは、そう言われてもどうすればよいのか……と少々頭を悩ませていた。


 そうだ、せめてこの白い花を一輪贈ろうか。


 そう思い付いたザイドは跪き、大きな体を丸めて花に指を伸ばす。ところがその時――、コホコホと咳が出て、破壊光線が花に当たった。

「あ……」

 無惨に散った花々を前に呆然とするザイドの背中を、シェリーは撫でた。

「すまない……」

「いいえ」

 肩を落とすザイドに、シェリーは破壊光線から免れた赤い花を一輪手折り差し出す。

「…………!」

 ザイドは驚き目を見開いた。


 なんて大胆な……!


 そう思ってからハッと気づく。シェリーは知らないのだろう、この花を贈る意味を。

 己の浅ましさに、顔に熱が集まる。チラリとシェリーを見ると、シェリーは微かに笑んだ。

「あり……がとう」

 平静を装いながら、花を受け取る。

 シェリーのこの行為に深い意味は無い、意味はないのだ。だが……。

 ザイドは立ち上がり、手を差し出した。不思議そうなシェリーに呟くように言う。


「手を繋ぎたいのだが……。いや、強制ではない」


 ザイドはシェリーから視線を逸らす。

 駄目だろうか。

 ドキドキとしながら待っていると――掌に小さな感覚。

 嬉しさに叫びたい気持ちを抑えてザイドは視線をシェリーに戻し、力を込めないように注意して、そっと手を握る。

 ザイドはシェリーの手を引き、ゆっくりと歩き始めた。



◇◇◇◇



 執事がヤスリを手に、戸惑った声を出す。

「本当に宜しいのですか?」

「ああ」

 迷いのないザイドの様子に、執事は漏れそうになった溜息を飲み込んで頷いた。

「分かりました」

 執事がザイドの頭にある二本のツノの右側を掴み、鋭く尖った先端をヤスリで削り始める。


 ゴリゴリゴリ。


 静かな部屋に響く音。

 ツノは魔人の力を表すもの。それを削るなど、常識では考えられない。しかしザイドは、その先端を丸くするよう執事に命じた。

「これくらいでよろしいですか?」

 執事がヤスリをツノから離し、ザイドに鏡を渡す。渡された鏡で状態を確認したザイドは、首を横に振った。

「もっと丸く」

「しかしザイド様、これ以上削れば周りから……」

 ザイドのツノを見たものは、きっと驚くだろう。馬鹿にする者もいるかもしれない。だがザイドは執事に命じる。

「もっと丸くしてくれ」


 シェリーが触れても怪我をしないように。


「……はい」

 執事は諦めた表情で、再びヤスリでツノを削り始める。やがてツノは少し短く、そして尖端が丸くなった。

 ザイドが満足げに鏡の中の自分を見つめる。

「これでいい」

 これで、うっかりツノでシェリーの胸を刺し貫きそうになることもない。

 丸くなったツノの先を確認するように掌で撫でるザイドに、ヤスリを片付けながら執事が訊いた。

「お茶になさいますか?」

「ああ。シェリーにも声をかけてくれ」

「はい」

 執事が部屋から出ていき、ほどなくしてシェリーが部屋に来た。


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