エピローグ
ザイドの怪我が癒え、人間界も魔王が上手く処理をしてくれた。明日からザイドは、また仕事に戻る予定だ。
「シェリー」
朝食後のお茶を飲みながら、ザイドは目の前に座るシェリーに微笑む。
シェリーはまだ、悲しみの中にいた。やつれたその姿に、ザイドは己の胸の決意を固くする。
「これから庭を散歩しないか?」
「……はい、ザイド様」
ザイドは立ち上がり、シェリーを連れて庭に出る。以前シェリーと散策した時と同じように、庭には色とりどりの花が咲き誇っていた。
シェリーの歩幅に合わせて歩きながら、ザイドは話す。
「この庭の花も素晴らしいが、ここからずっと西に行った野原には、もっと沢山の花が咲いている。今度一緒に行かないか?」
「はい」
小さく返事をしてシェリーが頷く。
「弁当を持って行こう。草の上で昼寝をして、湖に寄って水遊びをしよう」
これでも泳ぐのは得意なのだ、とザイドは笑った。
「そうだ、買い物にも行こう。新しいドレスと靴と、それから髪飾りを買おう」
シェリーが顔を上げてザイドを見上げる。
「ザイド様、それは――」
シェリーの言葉を目で制してザイドは続けた。
「友人も紹介したい。見た目は恐ろしいかもしれないが、とてもいい奴ばかりだ。きっとシェリーも仲良くなれる」
「ザイド様……」
困惑するシェリーに笑い、ザイドは立ち止まった。
「それから――」
ザイドは屈んで、花壇に咲く花を一輪手折る。それはいつか、シェリーがザイドに渡したのと同じ赤い花だった。
「シェリーが好きだ」
真っ直ぐ目を見つめて告白すると、シェリーが動揺して視線を泳がせる。
「ザイド様……わたくしは……」
シェリーが己に対し、罪悪感を抱いていることは分かっている。出ていきたくても出ていけないことも、もうここ以外に居場所がないことも。それにつけ込むことはしたくない、が、溢れる思いは止められない。ならばいっそぶつけてみようか、嘘偽りのない気持ちを。
「私は魔人だ。人間とは姿形も考え方も違う。すぐには受け入れられないだろうが――」
ザイドが花をシェリーに差し出す。
「まずは、お友達から始めてはくれないか?」
何年でも待とう。辛い経験が、その心に未だ住み着く者が、過去となるまで。
一生を捧げよう。どこにも行けないのではなく、どこにも行きたくなくなるように、思い切り甘やかそう。
「ザイド様……わたくしは……、わたくしにそんな資格は……」
シェリーの瞳から涙が流れる。
「受け取ってほしい」
「ザイド様……」
「お願いだ、シェリー」
どうか受け取ってくれ。
「…………」
シェリーはザイドの顔をじっと見つめ――ゆっくりと、白く細い指が花に触れた。
「ありがとう」
ザイドがシェリーの頬を伝う涙を指で拭う。
「そろそろ部屋に戻ろうか」
「はい」
頷くシェリーに手を差し出す。
「手を繋ぎたいのだが。その、友達として。だが強制ではない」
そしてドキドキしながら待つが、シェリーは動かない。
少し強引だったか。
性急すぎたとザイドが反省し始めた時、シェリーが小さな手をそっと乗せた。
緑色の肌にシェリーの白い肌が美しく映え、嬉しさが溢れる。
ザイドが牙を剥き出して笑うと、シェリーも涙に濡れた目で微かに微笑んだ。
永遠に変わらぬ愛を贈ろう。そしていつかは君と――。
二人はゆっくりと歩き始めた。




