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life over life -僕は死ぬたびに強くなる-  作者: 柊梨/しゅうり
第1章 鏡は遷らない
5/11

1p-5 : 信用のつかないもの

微グロ注意

 市立桜中学校。

 ただっぴろい校庭に、単調な校舎を構える学校。

 自室から回収した全ての書類に目を通して置いて正解だった。


 近年の異常人口減少により、市の収入が減り、各学校に配分できる予算が減ったため近隣の全ての公立中学校を統合した経営難の学び舎であること。

 また、十分な指導が行き届いていないため凄惨ないじめ事案も発生しているようだ。

 それに伴う死者もかなりの数がいるらしい。


 閉校にしようにも改正教育法に基づく指定義務教育学校であるから、それもできない。


 人材供給施設である学校の民度が崩れることで自然と街全体の民度も低下する、


 MCPも目を付けるわけだ。


 そして、先ほどの『愛夢』と名乗った幼女の警官は、”死人が出ている=感染者がいる”と判断し行動を開始したのだろう。

 少なくとも、俺は彼女の初めての友達という(てい)だから、そうそう殺されはしないだろう。

 無慈悲でない限りは。




ーーーー




 朝早いということもあって、生徒の数も少ない。

 少ない彼らも顔が暗んだ表情をして一人で歩いている。




ーーーー




「なんか、転校生になった気分だな」


 彼の部屋に乱雑に置かれていた書類に再三目を通し、情報をなんとか掠め取る。


 それによると、彼は1組に配属されているようだ。


 物陰に隠れながら教室の中をそっと盗み見る。誰もいない。

 やはり、問題児学校だから遅刻ギリギリに登校してくるとか……?




 静かに持ってきたバッグを置いて、教卓の上の名簿表を見る。そしておもむろにノートとシャーペンを取り出す。

 残念ながら、今の俺には坂東君のスマホのパスコードを知る由もなかった。

 ゆえに筆記で写しを取る。


 大きな長方形を描き、縦線と横線を追加して、その空白に名前を呼び方は分からなくても書き込んでいく。

 一心不乱に書いていると、俺はもう一つの大問題に対処しなければならないことを思い出した。


 昨日の先生たちが来たらどうしよう。


 である。


「ま、なんとかなるか」




 5分もかからないうちに写しが完成したので、ノートから切り離して自分の席を帰り見る。

 窓側の中間列。それなりにいい席を持っていたようだ。


 席に腰を下ろし、クラスメイトの名前を脳に流し込む。

 やはり、受験期間中に鍛えた暗記能力はいまだ健在だった。

 分からない漢字は飛ばし飛ばしで読み、その人の性別がどちらか推察する段階まで持ってこれた。



ーーーー



 生徒たちの談笑が聞こえ始める頃、俺は廊下の隅にあったトイレに籠城をしていた。

 朝飯を食べれないような時間帯に出発したため、坂東母に二食分を作ってもらったのだ。


 それを今食べている。

 余り物のカレーは匂いが広まるから昼食時に食べるとして、鮭の切り身の入った弁当に箸を突っ込んでいた。


 まず、考えうる事象は以下の三つだろう。


 1、先生たちが俺に対して犯罪をしたという証言を吐かせに来るということ。

 そもそも日記の時点でやっていないことが確定しているのだから、ここは徹底抗戦だ。


 2、クラスメイトによるいじめ。

 どのような過激さかは分からないが、所詮は3個年下のガキンチョである。

 何とかわからせてやろう。昨日までの坂東君とは違うのだ。


 3、MCPの介入。

 今のところこれが一番不安要因が大きい。なにせ、初めて渡り合う人殺しだ。

 潜入してくるのは一人だろうが、事件が起これば必然的に大量に流入の可能性がある。


「……スマホが欲しい」


 スマホさえあれば、もっと広く情報を入手できるというのだが。

 どこかに彼のパスコードは載っていないだろうか。

 そう思う時間だった。




ーーーー




 チャイムが鳴った。

 俺はやや速足で教室に向かう。

 先刻とは打って変わって、やけに騒がしくなっていた。


「………すいません、おくれ、ました」


 後方のドアから控えめな声を出して入室する。

 俯きながらもさっき暗記した名前を顔と照らし合わせる。

 そして細心の注意を払いながら指定の席に座る。


 すると、チッ、と舌打ちの音が後ろから聞こえる。



「あーあ、来ちゃったんだ。せーっかく豚がいない日になるかもしれなかったんに」



 思わず、後ろを振り向くと「おぉ」とあふれんばかりの声が出てしまった。

 

 白ギャルである。


 ご自慢の爪を触りながら「見んな、カス」と暴言を吐かれる。

 中学二年生でこの風貌ってどうなんだ……。


 前を向き直しながら考える。そして周囲を見渡す。俺なんて見向きもされていないようだった。

 誰からも興味をされないのはちょっと心にクルものがあるな。


「あー、えー、っと。みんなー、聞いてくれ」


 教師が呼びかけるものの、静かなやつら以外は全員見向きもしない。

 学級崩壊の典型例だな。

 教師も教師とて教卓をバンバン叩くが、そもそも彼らには教師の存在なんて見えてないのではないだろうか?


「転校生が、きます」

「それは女ですか」


「いやはっや」


 思わずツッコむ。

 そんなのは関係ないとばかりに男子生徒が俺をきつい目で睨んできた。


「ウルサイぞ、そこのデブ豚」


「やっば、デブ豚だってよ」


「太ってるのに太ってるの掛けてなにがでてくんだよ」


「キャハハハ! いっかれてるゥ!」


 ここに人権はないようだ。



ーーーー



「失礼しまーす、転校してきた有楽愛夢でーす。よろしくお願いします」


 いや分かってたけどね?


 ドアをお淑やかに開けて入ってきたのはツインテールではなく編み込みのポニーテールを腰辺りまで伸ばした清楚感あふれる美少女だった。いや、正確には美幼女といったところか。


 ここまで絵にかいたような美女が現れると、さっきまで胸の大きさがどうとか言っていた下世話な後方の連中とか、そもそもクラス全体が静かになりきっていた。


「東京からお父さんの仕事の都合で、ここまで来ました。色々話しかけてくれると嬉しいです」


 キャピッとでも効果音が付きそうなほど瑞瑞しい顔をして、席はどこですかと聞いた。

 教師が指をさしたのは俺の隣だった。


 いや何となく察してたけどね?

 やっほーと気軽に話しかけてくる素振りを見て、何を思ったのかクラスのやつらが、


「あー、そいつと関わったらお前もいじめるから」


 俺とは反対側の席に座っていたいかにもヤンチャそうに髪の毛を上げに上げまくった男が言った。


「構いませんよ? どうぞいじめてくださって」


 きりっとした視線で彼を睨みつける。


 こいつは正気か。

 まさかの許容発言に教室がしんと静まり返る中、愛夢は構わずこちらに振り返って、


「やっほー、さっきぶりだね!」


「う、うん。さっきぶり……」


 白い歯を見せながらにこやかにしゃべりかけてきた。

 後ろからは「こいつ正気かよ」という驚愕混じりの声が聞こえる。

 これから協力関係に持ち込む計画がこの会話で上下関係に変わってしまった。

 辺りを見回せば、男子たちが殺意の目を向けていることに気が付いた。


 くそう。







 愚痴が絶えないクラスだ、と思った。

 先生の一言一言に「そうやって格好つけるのカッコ悪いんだよな」だとか、「本気出せば先生より頭良いんで、授業受けないっス」とか。

 簡単に言えばクソガキの集まりだった。

 なるほど、これはストレスが溜まるのも分かる。

 思わずぶん殴りたくなる衝動を感じる。


 落ち着け……落ち着け……。


「……ね、ねぇ……」


 ここでムカついてたら殺されてオジャンだ……。


「……ねぇってば」


 そこで、俺はようやく俺に話しかけていることを認識した。


「ん、なに?」


「君ってさ、名前なんて言うの?」


 そういや、相手の名前しか知らなかったな。


「しゅ……康太、だよ」


 思わず本名を言おうとしてしまい、言い換える。

 こりゃ、名前言う練習しとかないと。


「ふーん、康太、君ね……」


 含みの笑みを浮かべて、こちらの反応を観察するような目をした。

 鋭く、熱い目だ。獲物を狙う鷹のように。


 もしかして、転移した事バレてたり……?


「いい名前じゃない。これからは康太君って呼ぶね?」


「そっ、そう。分かった」


 なぜかわからないが、喋り方がどうも落ち着かない。

 いつもならもう少し長文を吐き出せていたはずなのに。一節文しか喋れない。

 呪いにでも掛かったのだろうか。


 と、その時。



「はーい、じゃあ授業おしまい、あとは自習にするから、下校時間来たらちゃんと家帰るんだぞー」



 せかせかと授業道具をまとめ、すたすたと足早に先生は立ち去った。



 驚くべき速さで立ち去った先生とは対称に、教室の中は実に静かだった。

 それこそ、毎日の状況を知らない俺から見ても異常なほどに静かだった。



「――で? そこのデブと美少女はどんな関係?」



 口火を切ったのはさっきと同じ髪の毛を限界まで上げた男子だった。

 名を坂本風太。机周りの散らかり具合から相当な短気者だと推察。


「どんな、と言っても私たちは互いに初めての友人ですけど?」


「あー、はいはい。そーゆー系ね。転校して初めて会った同級生だからかばってんだ? イタイねー」


 こいつ、もしぶちのめせたら最高に気持ちいいぞ。

 立ち上がって反論しようとする体を小さい体が押し込める。「私が解決するから、康太君はそこで座ってて」と小声で言われる。


「なんですか、さっきから。いじめたいならどうぞ私をいじめればいいじゃないですか。なんで口からでしか言えないんでしょうか? やると言ったことをやらないほうがよっぽど痛くないですか?」


 丁寧すぎる反論もちょっと痛いと思うんだ。


「あっ、そう。――んじゃあ拳でいじめてやるよ。おい、銃持ってこい」


 銃

 なんてもの持ってんだ。。法律違反だろ。

 てか、拳って言っておきながら結局道具に頼んのな。


 同級生がまるで、王様の側近のように恭しく銃を差し出しそれを本人は荒々しく取った。


 ――銃つってもエアガンみたいなやつか。


「これで俺の新しい女のおもちゃができるぜ。このクラスのやつら全員、おもちゃにしたけどいまいちブスだったり、反抗的で嫌だったんだよな」


 その声を聞いて愛夢は殺気立つような空気を見せた。

 そして、背中に手を伸ばし、何かを手に取る。



 その瞬間、


「――っ!」


 俺は見てしまった。

 一生で一度は見てみたいものだったが、この状況だと絶対に見たくないものだった。


 銃である。

 下着じゃないよ。


 背中にどういう原理か、くっついていた。


「……そうだな、お前は特別可愛いから、顔だけは避けてやるよ」


「どうぞ、お構いなく」


「見てろよ、これが俺の奴隷の作、り、方、だっ!!」


 隣の配下に呟いて、引き金を引いた。


 バシュン、と重い音が響いた。

 愛夢の反動を見る限り、肩に被弾したようだ。


 それでも愛夢は空気でも触れたのかというような感じで、


「……それがあなたの”拳”とやらですか?」


「ああん? そそそんなわけねえだろ! 見てろ、今に屈服させてやりゃー!」



 もう一度構えた。そして引き金を二回ほど、引く音が聞こえた。

 そして同時に、カン、カンと素早く金属片に当たる音がした。


「――は?」


 少年よ、俺も同じ感想だ。

 こいつはヤバい。直感的にそう感じ取った。

 なぜなら、こいつ、背中から取り出したナイフで弾を真っ二つに切ったのだ。



「……へっ」



 不穏な笑い声を出すと、


「目には目を、だよん」


 どこかで聞いたアニメヒロインのような声を出して言い終わりざまにこちらを振り向いた。


 そして、愛夢はまず、椅子の上に立った。

 間髪入れず、机に駆け上がり、その遠心力で後ろ向きに大きく跳躍。蛍光灯の金網に片手でつかみ、一本目のナイフを正確に風太の机に向かって投げた。


「……へっ?」


 笑い声ではなく、こちらは疑問符だった。

 刺さったナイフが木とぶつかって鈍い音を出す。


 俺が目で追えたのはここまで。

 次の瞬間には風太を椅子に押し倒し、二本目のナイフを首元に押し付けている様子だった。





「こんどは鎖骨かあばら、どっちがいい?」


 随分と物騒な脅し文句だ。

 こうゆうのは胸か腹のどっちかの定石ってもんじゃないのか。


 愉快な笑い方をする愛夢とは対称的に、現在進行形で寿命を削られている当人は、


「あ、あう、うううう」


 見事に幼児退行していた。

 すごいな、面子丸つぶれだ。


「返答がないならほんとに刺しちゃうよ?」


「いいいいいやあああ……!」


 周囲は何か言える空気じゃなかった。逆にむしろ、救われたような顔をした人も散見される。


「三秒数えるから、答えてね? さーん、にー、いーち……はーい、刺しまーす」


「いやぁああああああ!!!」


 恐怖でまるで喋れない人間に三秒は酷だろ。



 ぐしゃり、という肉を貫通した音と、バギッという骨を突き刺したであろう音が同時に聞こえた。

 怖いより、切れ味良すぎだろ、という感想が出てきてしまった。

 ポタポタという液体の流れ出る音を聞きながら、”俺たち”は図らずとも身を寄せ合って震えていた。


「「「何してんの、転校生……」」」


 全く同意見だ。





 その2分後――


「あ、もうみんな目を開けても大丈夫だお」


「え、え、え」


「絶対大丈夫じゃないでしょ!」


 目を背けながら一同は吠える。


「だいじょーぶ、だいじょぶ。片手切っただけだし、出血もそんなに多くなかったし。それより彼は生きてるから、ね? グロくないよ?」



 「失神はしちゃったけど……」と小さくつぶやいた。



「「グロいよ!!!」」


 片手切るってなんだよ。怖すぎだろ。


 ポト、と肉片の落ちる音がさらにみんなを恐怖に陥れる。


 登校初日目、俺は関わったらあかんやつと関わってしまったらしい。



 もしかして、この学校ではこれレベルの猟奇的事件が起きてるってこと……?

 いやいや、さすがに閉校案件だわ。全員少年院行くやつだろ。


 しばらく、俺は愛夢のことが本当に転校生か疑ってしまった。

 MCPなんかじゃなくほかのクラスから移動してきた本当のキチガイなのでは、と。


「あ、でもちょっとグロくなってきたから、みんな先帰った方がいいと思うー」


 なんとも投げやりな指示。そしてグロくなってきたってなんだ。もともとグロいだろ。

 だがPTSDになりかけの俺たちの心は一つだった。


 今すぐ帰ろう、と。


 極力その周辺を見ないようにして、各々バッグを手に取り、彼の近くに席がある人たちは何も持たずに教室から飛び出した。




ーーーー




 土日を挟んだ月曜日、恐る恐る学校に登校すると、彼の席は移動させられていた。

 というか、抹消されていた。

 まるで、神隠しにでもあったかのように。


 そのくせ、愛夢はその綺麗な銀髪を揺らしながら「おはよー」と話しかけてくる。

 一体どうゆうことだ。


「――それではホームルームを終わるまえに一つだけ。みんなが気になっているであろう坂本君に関してだが――」


 こ、殺された?

 隣を見ると「へへ」と不気味な笑みを立てた愛夢がこちらを何というか、実に愛おしそうに見ていた。



「ちょっと、家庭の都合で転校することになった」

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