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life over life -僕は死ぬたびに強くなる-  作者: 柊梨/しゅうり
第1章 鏡は遷らない
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1p-4 : セカンドコンタクト

有楽(ゆうらく)愛夢。転染対策警察、警視を命ずる」


 やや黄色がかったケント紙が差し出される。礼をして、そのまま近づき、受け取る。


 私は、この古臭くて、時代遅れな儀式なんていらないと思うのだ。

 ただ、『君、今日から昇進ね』と言われた方が仕事に割ける時間が多くなるし、その分発病者を逮捕(殺害)する時間が多くなるのだ。

 それに、いま私は大型の事件を追っている。これがもし逮捕できれば転染症の感染メカニズムが分かるかもしれない。

 そんな希望を胸に出勤したら途端にこれだ。朝早くから張り込みでもしようと思っていたのにこんなのが税金の無駄に使われてしまった。




「はぁ……」


「なんですか、そんなに昇進が嫌なんですか?」


 署長室を出てから、私は肩を落としていた。

 見上げれば、私よりも随分と身長のデカい女が纏わりついていた。多分、163センチはあるのではないだろうか。

 対する私の身長は147.5センチ。平均よりずっと下だ。


「……朝から張り込もうと思ってたのに」


「いいじゃないですか、血の朝より平和な朝を過ごしましょうよ!」


 ぐぅーっと伸びをして帽子を被り直した。そして、私の髪の毛を撫でた。


「……なに?」


「いやー、センパイは日本人なのになんでこんなにも銀髪なんだろうなーって」


「しょうがないでしょ、遺伝なんだから。潜性遺伝が出てきただけだよ」


「それいつも言ってますけど、本当ですか?」


「想像に任せるよ」




 素早く帽子を取り返して、支給の携帯を見る。反応アリの連絡が来ていた。


(思ったより早いな)


 時計を見ると、6時半に容疑者(発病者)は家を出たようだ。以前の住民とは全く違う生活リズムをしている。

 速足で自分のデスクに到着して、昇進賞を乱雑に机の上に置く。

 制服に内蔵された識別キーで金庫から銃を取り出す。

 本来なら銃刀法違反で即刻逮捕案件だが、MCPはそこら辺は優遇されている。


 超法規的措置ってやつだ。



「行くよ、みゆ。()が動いたらしい」


「はい、あいむセンパイ」




ーーーー




 身分、というのはとても脆いものだと思う。


 現場に直行する(マシ―ナ)の中でそう考えた。


 例えば、未成年という身分がある。どうあがいても抜け出せない身分だ。

 ところが、ドロップアウト、という単語を足してしまうと途端に社会不適合者のレッテルを張られてしまう。


 これは今の情勢にも通用する。

 一般住民という身分が転染症の感染を経由して危険住民というレッテルを張られてしまう。

 これは当人にとっては受け入れがたい事態だろう。許せない事だろう。

 だからMCPという組織が必要なのだ。


 つまり、言葉次第でどうとでも人をけなすことが出来るってことだ。




「センパイ、今回の追跡対象って本当に”発病者”なんですか?」


 みゆがハンドルを独特な持ち方で運転しながら聞いてきた。


「たぶんだけど、間違っていないんじゃないかな。()の生活リズムから考えてこんなに早くして起床するのはちょっと割に合っていない」


「でも、早起きぐらいみんなしません? 異様に目覚めがいいときとか」


「……だって、彼の平均起床時間は午後6時だよ?」


「それって単なるニートなんじゃぁ……」


 この地域周辺の住民情報が詰まったファイルをペラペラめくる。


 五十嵐大登。46歳。職業不定で現在生活保護の申請中。日雇いで何とか食いつないでいるようだ。

 両親は4年前に他界。親戚にも絶縁されて現在父方の祖父が遺した畑付き住居で生活中。しかし、再開墾の形跡は見られていない。


「ま、まあちょっと貧しい人なんだよ。きっと」


「そうですかね……? ちょっとそのファイル見してください」


 片手ハンドルで寄越せと手招きされたので渡す。


「うーん……この様子だと凶悪事件を起こす資金力さえ無いような気がするんですけど……」


「でもいきなり10時間も早く起きると思う?」


「とうとうお金が無くなったからしっかり働こうと心に決めたからじゃないですか?」


「わかんない。けど取り合えず話を聞いてみようか。”逮捕”はそれからだ」


「ですね」




ーーーー




 車は農地が広がる道に入った。

 国道23号が直列している隣には自衛隊の駐屯地が存在する。


 そんな田舎で車は停車した。




「……あれですか? センパイ」


「たぶんそうだよ。実にボロイ家だね」


 貸与されたオートマチックのマガジンをガシャ、と装填しながら感想を漏らす。

 先に退車していたしていたみゆが周囲を警戒している。良くできた後輩だ。


 車に2重のロックを掛けて逮捕令状をその手に握りしめて私たちは歩き始めた。


「しっかしこの服短か過ぎません? 走ったら下着見えそうなんですけど」


 今私たちは股下12センチぐらいのミニスカを着ていた。

 私より体格が良くて肉付きもいいみゆにはバストサイズピッタリの半袖を着させている。



「動きやすくて秋の気候にぴったり。おまけに男性を欲情させられる。これ以上適任な服はないよ」


「たしかに合理的な判断ですけど、もうちょっと後輩の心情ぐらい考えてくれませんかねぇ……」


 彼には婚姻歴ゼロ。学校時代は知らないが、風俗に行っていない限り間違いなく童貞だ。勝機は十二分にある。


 対象防衛関係施設に指定されている明野の飛行場がある以上、発病者と疑われる人間は全員逮捕が絶対だ。



「……よし、行こうか」


「はい」





 げに恐ろしきは乗り移った人格だ。


 次々と農地を耕しているその現場を見てそんな感想が浮かんだ。


「俺が感染? はは、冗談はよしてくれよ」


 乾いた笑いで汗をぬぐった。


 今見たところ、どう見ても”いいおじさん”という感想しか持てない。


「第一、感染してたとしたらこの瞬間に大爆発でも起きてるんじゃねーのかって」


「まーたしかに大体そうですからね」


 そして、さっきからおじさんの目は話し相手のみゆからすこし下に向かっていた。

 作戦通り……。


 会話はみゆに任せて、私は周囲を観察する。

 雑草に、掘り返された土。それと植物の種。

 どうも、働かずに衣食住をここで完結するつもりだろうか。


 畑の隅に置かれたトラクターも見てみる。

 燃料タンクの不自然な漏れも無し。トルクに手を加えた形跡も無し。


 本当に潔白なのかもしれない。



「どうだ、そこの小さい警官さん、うちでお茶でもしていかんか」



 おっ。

 合法的に家の中を見れるチャンスだ。


「あ、じゃあお言葉に甘えて、頂きます」




 家に入るとまずヒノキの匂いが鼻腔を満たした。ぼろっちいけどいい木を使ってるようだ。


「おじゃましまーす」


 何やら上機嫌なみゆが明るい声であいさつした。

 どうやら彼と仲良くなったらしい。


 彼への対応はみゆに任せるとして、やるべきことは家の捜索だ。

 捜索令状も裁判所から出されているから、やろうと思えばすぐにできるが、


「二人ともレモンティーでいいかい?」


「それでおねがいします」


 もし一般住民だった場合、犯罪者予備軍というレッテルを張られかねない。

 本来、発病の可能性のある者抹殺すべしの精神なのだが、不思議と彼には撃ってはいけないような気がした。

 そのような理由から、強権発動は控えることにした。お茶飲んでとっとと帰ろう。


「さあさあ、できたよ。あ、そこ座っていいからね」


 私が部屋を探索しようとしたその瞬間に邪魔が入ってしまった。

 心の中で薄く舌打ちしてから、席に座った。


 出されたのは、ティーパックで作ったごく普通のお茶。

 同人誌なんかだとここに強烈な睡眠剤が入ってるとかなんとか。


 そんなことは置いといて、



「これおいしいですね」


「でしょう? これで感染したっていう疑いは晴れたかな……?」


「ええ、晴れるわけないじゃないですか」


 冷たい声で言ったのは私じゃなかった。

 みゆがすばやく銃を引き抜き頭に突きつける。


「え……なんでだい?」


 素朴な疑問だ。だが単純でもある。


「お前、”わざと”自首しなかったな?」


 善意型にもいくつか分類がある。

 平和を求めて自首をして、監視下に置かれる1類善意型。

 念入りに計画を立てて事件を起こす2類善意型。


 今回の場合、後者だろう。もしくはテロリスト。

 犯行道具はあそこの植物の種子といったところか。


「……なあ、あそこの白いビニール袋の中に入ってるやつ、なんだ?」


 指をさしながら問い詰める。


 おかしいとは思っていたのだ。証拠があまりにもなさすぎると。

 従来型に多く見受けられる大量殺戮兵器はこの家には大きすぎる。

 化学兵器類も見当たらない。


 これだと偵察に行っていた同僚が嘘を報告したことになる。

 仲間は信じる、それが組織だ。


「しっ、しらない!」


「しらないじゃないだろ? 言ってみろよオラァ!」


 みゆが襟元を掴み、恐喝をする。彼の顔が羞恥に染まる。


 一瞬仲間だと思った美人の女が突然裏切るのは男にとっては辛いものがあるだろう。

 実によくできた後輩だ。



 だが、私は彼の左腕がナイフのようなものを握りしめているのを見た。

 名前は忘れてしまったが、東南アジアのナイフ術のように見えた。

 肩から捻り、その遠心力で相手を確実に突き刺す結構危ないやつだ。


「死ね女ぁ!」


 雄叫びを上げて、ナイフを振りかぶった。


 片手で銃を構え、左手の甲を撃つ。


 パシュン。


 乾いた音と、金属が落ちる音がズレて聞こえた。


「ぐわぁ……!」


「……で、あの種はなんだ?」


 喘ぎ声をあげる男にもう一度、聞く。


 次答えなかったら命はない。


 目配せだけでみゆと意思疎通をする。


「くっ、クワズイモだっ……!」


「やっぱりか」


「センパイ知ってたんですか」


「まあね」


 クワズイモ。九州から中国南部まで、温帯、亜熱帯にかけて幅広く群生するサトイモ科に分類される植物だ。

 シュウ酸カルシウムを含み接触するだけでも軽い中毒症状をもたらす危険な植物だ。

 それがビニールいっぱいに詰め込まれていたということは、あちこちに植え、やがてこの市全域に被害者を出そうとしたのだろう。


 それも年単位の計画だ。常人ならこんなの考えつかない。

 第一、遅すぎる。とても狂気に満ちた人だったのだろう。


 私は録音機をひそかに起動させ、握りしめていた逮捕令状を突きつける。


「五十嵐大登。転染症関連三法および危険者特例法に基づき強制行政執行をこの場で下させてもらう」



 銃を構えて、引き金を絞ろうとしたとき、感染者は大きく足を振り上げて、机ごと蹴りあげた。


「うわっと」


 それが窓に激突し、大きな音を立てて割れる。

 その大きな音を囮にして私の方に拳を入れようとする。


 確かに音に気を取られていたので、素早い射撃をすることが出来ず、側転でそれを躱す。

 今度は軸の腕を足蹴で壊そうとしてきたので自分の足が付くよりも前にバックフリップでこれも躱す。


 だが、計算違いでフリップした先の着地点が窓の外に行ってしまった。

 すでに空中にいる状況で手に取れる頑丈なものは無かったのでおとなしく受け身をとって地面に落ちる――


「っと、センパイ後ろには気を付けてくださいよ?」


「ごめん」


 すでに外に出ていたみゆが全身を使って支えてくれた。

 素早く彼女から降りて、銃を構える。


「みゆ、危険物取扱班に連絡して」


「は、はい!」


 時刻は午前7時過ぎ。もうすぐ通勤通学の人たちが出てくる頃だ。今すぐに事を終わらせなければ。

 パニックを起こさせてはならない。


 照準を定め、もう一回片手で構える。教場で習った基本的なスタイルだ。


「ヴヴゥ。ヤリヤガッダナ警官ヨォ」


 どこか、外国人を思わせる口調で窓から出てくる。


 その手には火のついた松明。……種子を燃やして有害ガスを発生させるつもりか。


 まず、股間に向かって打つ。

 その時に生じる反動を使い、心臓にも一発。

 またその反動で脳髄を撃ち抜く。


 こうかはばつぐんだ。声も出せずに倒れこんだ。


「午前7時13分、狂暴化した2類善意型感染者の排除を完了」


 マイクに向かってそう告げた。







そして、処理をしっかりしているか、みゆの方を見ると、昨日の少年がいた。




ーーーー




「「あ」」


 目の前には明らかに場違いの服を着た、昨日のツインテールポリスがいた。しかも銃を構えている。

 その奥にはなにやら赤い液体を漏らしながら倒れこむおじさんが見えた。


 大きく息を吸い込んで、目をつむり、現実逃避のため、昨日のことを思い出す。




ーーーー




 紙束を片付けた後、俺は異臭を放つ洗濯物を洗濯機に放り込み始めた。

 その中から、一つの紙切れが出てきたのだが、その内容が、


『お前みたいな臭いキモデブは学校に来ない方が身のためだよ、引きこもりでもして、Xでも見てシコってたら世のためになるから』


 いじめの教科書じゃないか。


 そして、俺は思いついた。


 そいつらをギャフンと言わせてやろう。人格が変わった今、俺ならできる気がする。


 そのためには彼ら(クラスメイト)の情報が必要だ。よし、明日は先生への警戒も込めて早めに起床して、家族たちにばれない様に登校しよう。


 そこまで考えて俺は一つ重要なことに気が付いた。


「……登校時間っていつなんだ?」




ーーーー




 こんなことで現実逃避なんかできるはずがなく、むしろ興奮感が高まってきた。


 彼女はやはりMCPだった。

 本当に人殺しをしているんだ。

 窓が割れているから戦闘力も相当なものみたいだ。


 そんな感覚である。



「ね、ねえ。君? なんでここにいるの?」


 そんなことを考えていたら、どこに隠したのか、銃器など持っていないような風貌の銀髪ロリが話しかけてきた。


「あ、いや、学校に早めに行こうかなって」


 もしかしたらと思って事前に用意しておいた言い訳をついた。

 嘘は言っていない。



 「あー」と額に手をやりながら、


「そっかー、じゃあちょっとお願いなんだけど、このこと忘れてくれない?」


 「お願い!」と手を合わせながら懇願してきた。

 こんなとこで反抗しても意味がないので二つ返事でオーケーする。


 そして、少しの逡巡の後に、


「実は私は今日から君と同じ桜中に転校生として行くんだ。これ、私の裏の仕事みたいなやつで、バレたら大変なことになるのっ。だから、おねがい。見なかったことにしてくれる……?」



 …………。


 やってくれるじゃん。


 アニメとか漫画でよくある展開を現実でも起こすことで、中二病真っ盛りの男子中学生の口を封じる手を使ってきた。

 それと、自然に言っていたけど、もう俺の通ってる(正確には通っていた)中学割れてんのな。

 すごい情報力だ。俺もこんな情報量が欲しい。


「う、うん。まあ、いいよ」


「ホント!? ありがとー!」


 露骨に喜んで、抱き着いてきて、ない胸をわざとらしく擦り付けてきた。

 こんなデブった今の俺に躊躇なく抱き着けるとはとんだ胆力の持ち主だ。

 だが、男の人とは全く違う肌の感触が遺憾にも気持ちいい……。


「ほらほら、あいむちゃん最初の友達作れたからってそんなに抱き着かないの」


「あ、ごめん、お母さん!」


 奥からはこれまた男子を脳殺に掛かってるとしか思えない服を着た若いお姉さんが出てきた。

 彼女の裾には隠しきれていない血が付着していることからやはりMCP関係者と考えていいだろう。

 つまり、コンビ揃って演技をしている、と。

 しかも今の数秒の間に掛け合いを完璧にしてしまうとは、とんでもなく息の合ったコンビだ。


 あいむ、と呼ばれた銀髪少女は彼女の自称母に手を取られて車に乗り込んだ。

 そして、俺の隣を通り過ぎる瞬間、「ばいばーい、またあとでねー」と身を乗り出して告げた。


 そして、一気に飛ばして、一瞬で視界から消え去った。


 さっき血が流れていた場所を見ると、窓さえ割れているものの、赤色と遺体は完全に姿を消していた。


 とても嫌な予感が全身を襲った。

 彼女らは並大抵の人間じゃない、と。

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