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life over life -僕は死ぬたびに強くなる-  作者: 柊梨/しゅうり
第1章 鏡は遷らない
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1p-2 : 異世界なんかは程遠い

「ぉぃ……おぃ……おい、どうした? 体調でも悪いのか?」


「気絶したふりなんて許しませんからね」


「はっははは、彼ならやりかねませんな」


 その二つの声色が違う会話を聞いて、俺は絶句と期待が同時に襲ってきた。

 一つはこれは異世界にでも転生したんじゃ?という淡い期待。

 今一つはお決まりの面倒くさいストーリー展開。


「おっ、目を覚ました。気絶したんじゃなかったんかね」


 俺は意を決して目を開ける。そして、絶望する。

 目の前には、筋肉隆々の男性と、黒髪ショートカットのメイクが微妙に噛み合っていない女性だった。

 そして二人とも首からカードをぶら下げていた。


 この状況を最大限に見積もって、無事だったってところだろう。

 つまり……。


「パラレルワールドに転生ってとこか」

「バカなこと言ってんじゃない」


 ぴしゃりと男性の方から言いつけられる。

 そんなのは無視して思考を続ける。


 さて、ここはどこだろう。


 俺は帰り道の道路で撃ち抜かれた。これは間違いない。

 その後……救急搬送でもされたのだろうか。

 いや、搬送されたとして、助かる見込みはないだろう。だって心臓プッシャーだったし。


 大体、あそこには人っ子一人いなかった。

 運よくほかの人に見つかって、救急車で搬送されたとして、その間に輸血で生き抜いたとしても死は避けられなかっただろう。


 だが、生きている。


 凄腕の外科医にでも掛かったかな。

 と、ドラマで見たオペ室を搭載したバス型の車に自分が乗せられるシーンを想像すると。


「で? お前、本当にやったん?」


 机を置いていたお茶を揺らすほど叩きつけ、


「な、なにが?」


「お前、その口の利き方はなんだ!」


「いやだって、知らないことにお前が犯人だ!みたいなこと言われても意味わからんでしょ。今俺は混乱してるんだ、第一あんたら誰だよ」


「んだと……大体な、俺たちはお前のことを思って言ってやってるんだぞ? 少しは感謝したらどうだ? あ?」


 出たよ、大人の常套句。『お前のことを思ってる構文』。

 これ使ってくるやつは大体信用できないんだ。


「……じゃあ、分かった。そんだけお前が現実から逃げてぇ―って思うんなら今からお前がやったことを読み上げてやるよ」


「言ってみろよ。上等だ」


 乗せられた男性はルーズリーフを取り出して視線を落とす。


「じゃあ、言うぞー!! お前は女子生徒のカバンから水着を! 一着盗み、逃走した! どうだ!!覚えはあるか!?」


「そんな、シーズンでもないのに盗むやつがどこにいるんだって」


「ちっがーう!! お前はやったんだ! 先生、証拠もう一回見せてやってください」


 今まで影の無かった女性が待ってましたとばかりにタブレットを取り出す。


「しっかり見ときなさい?」


 再生ボタンを押すと、確かに制服を着た男性が、形状から見て女子生徒のカバンをなにやら漁っているのが見れた。

 だが、俺じゃない。体形が違うじゃないか。俺はこんなに太っていない。逆に痩せている方だ。


 そして、なにか見つけたのか、これ喜びとばかりに顔をにやけさせて、黒い物体を持って、外に飛び出していった。

 映像はそこで終了し、画面は暗転した。


「…………えっ」


「どうだ!? お前だろ?! さっさと自白してくれよ、先生たちも成績つけるの今日で最終日なんだから」


 それはお前らが悪いだろう。


「は」


 そんなことは置いておいて、衝撃的な風貌を俺は目にした。


 ………俺じゃない。


「……誰だ、お前」


「なぁ、そろそろ先生たちをおちょくるの、やめないか?」


 違う違う。本当に誰だ。


 暗転した画面に映ったのは反射した俺であるはずの顔。

 なのに、

 俺、じゃない。


 画面には映像と非常に類似した人間がいた。

 顔じゅうにはニキビが、

 全体のフォルムは丸の形を超えた何かに、

 目元は死人以上の目つきに、俺は変貌していた。


 変貌したって言うより、別人だ。


「……怖いんだけど」


「俺達だって怖い。こんなに豹変したんじゃな」


 もう一度、疑問を口に出す。

 ほっぺたに手を当てる。ざらざらしていて、所々体液のようなものが皮膚の一部を濡らしている。


 ――ああ、そうか。


 本当に、助かったんだ。

 誰かが偶然にも撃たれた直後に立ち会って、すぐに救急車を呼んでくれて、救急車もちょうど近くを巡回していたからすぐに病院まで直行出来て、なんとか助かったんだ。

 それで、長期入院でもして、意識重篤で何か月も過ごしたんだろう。もしかしたら、容態は安定して植物状態になっていたから気が付かなかったけど、暴飲暴食しちゃって、こんな体形になったのかもしれない。



 ――ンなわけねえだろ。


 冷静な声がお花畑の思考を止める。

 もはや、目の前の二人は意識を消していた。



 ――本当はもうわかってるはずだ。


 これはアレだ、今話題の別人転移か、本当のパラレルワールドに転生したかの二択だ。

 現実的なところで言ったら、前者だろう。

 前者と仮定すると、いろいろ納得いく。


 なんちゅータイミングで転移させやがったな。

 恨むぞ。



 誰がやったかは知らないけど。




「さっさと白状しろやァ!!」


 うるさいな、今考え事してるんだ。







 やっと状況を飲み込んだところ(?)で、俺はこの場から脱出することにした。

 この説教は誰かが仕込んだとしか思えないし、第一当事者意識のないまま説教されるのはそうでないのとは話が違う。


 足を動かすと、鞄があることに気が付いた。

 結構重い。


 俺はそれを先生たちにバレないように手でつかみ、脱出の機を待とうと思ったが、やめた。

 経験上白状しないといけないやつだ。


「ちょっとトイレ行ってきます」


 快諾の返事を待たずにおもむろに立ち上がり、清々しいほどに扉を開け、開けた瞬間にバッグを引き寄せ、素早く扉を閉めた。


 瞬間にドタバタし始めたので、僕はその場から逃走しました。




ーーーー




 俺は青年期から異世界、というのに憧れを抱いていた。


 ひょんなところでザコ死して、容姿端麗の女神さまにチートみたいな能力を与えてもらって、新しく生まれた世界でバカみたいに大成して、あわよくば美少女とあんな事いろんな事してみたいと結構渇望していた。


 現実はそう甘くはない。受験期の真っただ中でそれに気が付けたのは僥倖だっただろう。

 多くの男子が想像するように、女の子からキャーキャー言われるのは、ほんの一握りの限られた男性、言ってみれば希少種のみだ。


 俺は最限以上の努力で勉学に励んだ。いくら法律が変わったとて、学歴社会なのは依然だったからだ。

 おかげで偏差値が60後半の高校入学できてから9ヵ月、常に上位5位以内に君臨していた。


 人生勝ち組だと言われた。

 生徒会に入らないかとも言われた。

 将来安定できるよ、と。


 だが、俺はそれを蹴った。


 理由は明快。目の前の欲に溺れたからだ。

 そんな古臭い委員会より目の前の好きな人と話すことの方がよっぽど人生勝ち組だ、と思っていた。


 結局は自分の中の自分に負けたのだ。


 その末に手に入れたのがこんな結末なら、甘んじて受け入れるしかないのかもしれない。

 だが、偶然にも俺は良心がある。人を殺したくない願いがある。

 ついでに言えば、もうちょっと生きてみたい願望もある。


 この不思議でイカレてる世界になんだか好奇心があふれている。




ーーーー




 さて、ここはどこだろうか。


 見た感じは学校だ。

 近くには保健室のような場所があって、女子数人の談笑が聞こえる。


 聞いていた話だと、俺は水着を盗んだ犯罪者に転移したらしい。

 この学校に長居するのも良くないと思う。


 まず、この体の名前を調べよう。上履きで外に出たら変人に思われる。

 それに、別人の靴を履いてしまったら、また不名誉を着せられるかもしれない。

 それは勘弁願う。


 道なりに進んでいくと、トイレがあったので誰も追跡していないことを確認して、個室のロックを掛けた。


 そしてバッグの中からこの体の持ち主の個人情報になり得る書類を探してみよう。


 ほら、誰かが言ってたじゃないか、為せば成ると。


 恐怖で震える手でファイルの中身を逆さまにしながら探す。見つからない。

 『保護者必読』と書かれた書類にも書いていない。


 教科ごとに色分けされたファイルも見てみる。


「ば、坂東、康太?」


 見つけた。


 「坂東康太」というのが()の名前のようだ。

 数字の大量羅列から見るに、数学のテストだろう。


「なつかしい……」


 自然と震えは止まっていた。


 紙にはグラフが、公式を伴って綴られていた。

 直線が、原点を通ったり、通らなかったりしている。


「一次関数ってことは……中学二年生ってとこかな?」


 この勤勉さから盗みを働くとは、到底思えないのだが……。


「なにこれ」


 俺は巾着袋を見つけた。

 答えは9割がた分かっているが、一縷の望みにかけてきつく縛られた袋の中身を空けた。


 …………。


 答えはご想像の通り、水着でした。


「なーにしてるんだよ」


 俺は誰ものぞき見していないことを確認して、もう一度きつく巾着袋を閉じた。そして、バッグの奥深くにしまい込んだ。これはどこかで捨てておこう。


 思春期だなぁと思いながら捜索を再開する。

 同じ思春期男子として不思議と共感を呼んでしまった。女子の付けている物全てがなんだかいやらしく感じてしまい思わず手に取りたくなってしまったのだろう。

 大丈夫だ、俺もそんな気持ちになったことがある。やってはないけど。



「…………」


 おもむろに、腹あたりをさする。

 この体から康太君が康太君足りえる資格を失わせてしまった。人殺しに近いことを無自覚のうちにやってしまった。


 誰だか知らないけど、転移しちまったのは俺だ。

 なんとか(きみ)が、やりたかったことを成し遂げてみせるよ。


「……任せろ、後は俺が引き継ぐ」


 誰もいやしない個室で偉そうに呟いてみる。



 ……だが、


「もうちょっとイケメンであってほしかったよなぁ……」


 鏡を見る限り、寝ぐせはつき放題、そしてまるで手入れすらしていないような肌環境。身長はかろうじて170センチ近くはありそうだが、それでも小太りなのは拭えていなかった。


 そうこうしているうちに生徒手帳を発見した。中を開いて確認すると、学校までの地図が丁寧に記されていた。



 俺はバッグに荷物を全て詰め込み、先生が追跡していないことを確認して、下駄箱まで駆け出した――。

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