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――あの時の事を思い出しながら、紅耶は机の前に立って捜査報告書を読んでいた。何故思い出したのかもわかっている。リアの事件で組織の裏の部分が見えたからだった。
あの時となにも変わっていない。おかしなことは、今だ数多く存在している。
「わかったわ。ご苦労様」
全ての報告を聞き終ってピッという音とともに電源を切ると、紅耶の前にある机の椅子に座っている女性――綺麗なショートの黒髪にスーツ姿の詩凰翠はふぅと溜息をついて携帯を机に置いた。姉と会うのは久しぶりだが、少し痩せたかなと思う。組織に属し、課長という立場にいると気苦労が耐えないのだろう。『今回』みたいなことがあるから特に。折角美人なのに陰りがあるのはもったいない。
「ごめんね、翠姉。急なお願いしちゃって」
自分と違って真面目すぎるのだ――そんなことを思いつつ、謝りながらもまったく悪びれた様子もなく、紅耶はあははと笑った。
「まったくよ。できれば、行動する前にこちらに連絡してほしかったわ」
笑う妹に翠はもう一度溜息をつく。言っても聞かないことはわかっているが、ついつい心配して口を出してしまう。それが無用な心配で紅耶なら大丈夫だと分かっていても、銃を持った男に平気で立ち向かおうとするのを心配するのは当たり前だろう。
「ごめんってば。できるだけそうするようにするよ」
「できるだけじゃなく、魔法使いが関わるときはちゃんと連絡して。そのための『特魔』なのよ。紅耶も分かっていると思うけど『特魔』は別に魔法使いを取り締まるだけの機関じゃない。魔法使いを守るための機関でもあるんだから」
「分かってるって、詩凰第一課課長殿」
「……馬鹿にしてる?」
「とんでもない。本当に感謝してるよ」
紅耶は微笑んでからお礼をいった。
「ありがとう、翠姉。リアを古城学園預かりにしてくれて」
その微笑を見て、翠は頬を緩ませた。この妹の笑顔には敵わない。
「いいわ。シリス生徒会長や紅耶の気持ちは分かっているから。そういえば、蒼瀬さんは?」
「リアなら休憩室で待たせているよ。……もう、難しい話なんて聞かせることはないでしょ」
「そうね……」
翠は机にある書類に目を落とした。
――リアを助けた後、紅耶の連絡で警察が動き、蒼瀬源二の違法な研究が白日の下にさらされた。
蒼瀬源二は捕まり、実験体となっていたリアも重要参考人として連行されそうになったのだが、古城学園の生徒の管理は生徒会長にあるというシリスの力技で無理やり引き取ることにし、翠の働きもあって連行は無くなった。
紅耶やシリスにしてみれば、これ以上何をリアに聞くのだろうと思ったのだ。蒼瀬源二が犯罪を起こしたことは明白で、今更経過を聞いたところで何にもならない。やる意味がない。




