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研修生と化物の女王  作者: shio
第四章 たった一つの気持ち
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「――ん」


 後ろから抱きついている両手にきゅっと力が入り、紅耶はおんぶしている片手を外して背中で寝ているリアの頬に触れた。


「かわいい寝顔ね」


 シリスの言葉に紅耶も頷き微笑んだ。自分の肩に乗っているリアの寝顔は、穏やかで優しかった。本当に――本当に、こちらが安らぎを覚えるくらい。


「リアは優しいよ」

「そうね」


 紅耶の言葉に、シリスは頷いた。

 夜の道を二人歩いていく。周りには誰もいない。それはそうだろう、今は夜中で、しかも、普通の人間ならまず用がない特別魔法対策課本部の敷地内だ。本心ではすぐにでも古城学園に帰りたかったが、そうはできない事情があった。自分たちは大人ではなく、大人扱いしないくせに、大人たちは大人の事情を突きつける。

 今に始まったことではない。それでも、リアまでそんな大人の事情に付き合わなければいけなかったことに紅耶は内で息をついた。自分たちだけ――自分とシリスだけならいい。できうるなら、リアや生徒会のメンバー、学園の誰にも関わらせたくはない。大人の事情なんかに。


『――紅耶、わたしは大丈夫だよ』


 対策課本部に着いた時、リアは紅耶を見上げそう言った。一番辛く、苦しかったはずなのに、強く、そして、優しい瞳を向けて。

 蒼瀬源二の一件。当然、その中でリアは重要な人物だった。事情聴取は紅耶とシリスの二人だけで話をつけるつもりだったのだが、リアは自分で話をすることを決めた。自分たちと離れることも怖かったはずなのに、一人で大人たちと向き合った。


「――んん」


 リアの頬を撫でると、かわいい声と一緒に顔を寄せてきた。そのことに、紅耶は微笑む。


「……ねえ」


 そんな二人の姿を見ながら、シリスは静かに呟いた。独り言のように、答えてくれなくてもいいように。


「あの時、蒼瀬源二を殺すつもりだったんじゃない」


 その言葉に、紅耶は――笑った。


「まあね。でも、リアが助けてくれた」


 少しの悲しみと、少しの苦しみを宿して――笑った。


「救ってくれた」

「そうね」


 シリスも紅耶に視線を合わせず前を向いたまま、笑った。


「助けられた」


 二人歩いていく。澄んだ空は雲一つなく、皮肉なほど暗闇の月は綺麗だった。白く淡い閃光は優しく、そして、冷たく二人を照らす。

 シリスは瞳を閉じ、俯き苦笑して、そして、呟いた。


「あなたは人を殺したことはある?」

「あるよ」

「そう、わたしもよ」


 それ以上の言葉はなく、二人並んで歩いていく。別に告白というほどのことでもない。言わなくても互いにその事は知っていた。

 ただ、知っていても言葉に出したのは、確認する為だ。事実ではなく、決意を。

 だから、それ以上の言葉はいらない。必要はない。決意なら、もうとっくに定まっている。


 二人並んで歩いていく。二人だけで歩いていく。

 リアが二度と悲しい思いをしないように――他の人間が同じ道を歩まないように、たった二人だけで。

 紅耶とシリスは歩みを進めた。暗闇の中、ただ一つの月の閃光だけに照らされ。


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