18
「…………それでも」
紅耶の胸に顔を埋め、リアは小さく、それでもはっきりと囁いた。
「それでも……パパだから」
紅耶は優しく強くリアの全てを受け止め抱きしめる。
リアは、紅耶の胸に顔を埋めながら続けて口を開いた。震える声で、祈るように願うように……。
「パパのこと好きだから……」
それは、別れの言葉。心の中でずっとずっと叫んでいた言葉だったのに、初めて口にだして父に伝えた言葉は、別れの最後の言葉だった。
「リア……」
胸の中のリアを強く強く抱きしめる。
殺人の衝動に逃げるつもりはない。だが、もし、リアが「もういい」と一言いったのなら、信じることをやめるのなら――それが、正しくなくとも紅耶は蒼瀬源二を殺すつもりでいた。怒りという問題ではない。許してはならない、絶対にしてはいけないことに対しての行動と選択。もし、許されざる者を消すという選択を選ぶのであれば、紅耶は一人ここに残り殺人の責を負うつもりでいた。
それでも、リアは父が好きだといった。震えながら泣きながら好きだといった。
殺されそうになっても、父だからといった。
――この強さと優しさに、わたしも応えよう。
紅耶は顔を上げると蒼瀬源二に視線を向けた。
「リアはパパの事が好きだといった」
「…………」
蒼瀬源二はなにもいえない。目を見開き、ただ震えている。
何かを求めたわけじゃない。何かを言ってくれることに期待したわけじゃない。
「あなたの事を好きだといった」
ただ伝える。親が好きだという子供の気持ちを、好きだというただそれだけの気持ちを伝える。
「…………」
蒼瀬源二は呆けたようにこちらを見ているだけだった。
――それで終わりだった。
ヒュオ――
紅耶は、リアを強く抱きしめたまま、右腕を横に振りぬいた。
縄の先の鉛が飛んでいき、蒼瀬の鳩尾に突き刺さる。
「――――」
そして、何の言葉も発しないまま蒼瀬源二はその場に倒れた。
「――なんで、わかんないのよ」
紅耶の呟きと父の姿を見て、リアは大声を上げて泣いた。
紅耶の服が破けるほどぎゅっと握り、今までの全てをぶつけるようにずっとずっと大声で泣いた。




