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「くそっ! くそぉっ!!」
いくら銃を撃ち続けてもシリスまでは届かなかった。見えない風の壁に阻まれ、弾は宙に数秒止まってから力なく床へと落ちていく。
「――輪舞の空、天使の吐息は緩やかに奏で、安息のゆりかごを撫でる――」
シリスは言葉を紡ぎ謳い続け、風の魔法を制御していく。
魔法といっても、漫画や小説であるようなやり方があるわけではなかった。つまり統一の呪文を唱えれば、魔法が使えるわけではない。そもそも魔法の原理さえ今だ解明できてはいないのだ。
では、どうやって魔法を使っているかといえば、今のところ具現化したい力をイメージし集中するしか方法がなかった。その力のイメージをより鮮明にするため、ほとんどの魔法使いは言葉で力を形容していたのだが、考えてみればこの言葉の形容が後に統一され呪文というものになっていくのかもしれない。
そんなことを頭の隅で考えながら、シリスは風の魔法を言葉で紡いでいく。銃弾を防ぐくらいの風の障壁なら、それほど集中しなくても制御できた。とはいっても、これもシリスだから出来ることではあるのだが。
(――さて)
ただ、このまま防いでいてもしょうがないのは分かっていた。シリスは胸中で掛け声をかけると、ゆっくりと左手を上げていく。
「――暗雲の空、疾風の響き、協奏曲は乱舞し戦の調べを轟かさん!――」
ゴォオッ!!
「――ぁがっ!!」
「ぅぐっ!!」
風が荒れ狂い、銃弾を防いでいた空気の壁はそのまま衝撃波となって一階で銃を撃っていた四人の男たちを壁に吹き飛ばした。
「っ! この!」
二階にいた三人は風の衝撃をまともに受けなかったため、再び銃を構えなおす。
――だが、シリスはもとより男たちに向かって風を放ったわけではなかった。二階の男たちにそれほど衝撃が行かなかったのは、二階の床を下から狙った為からだった。
「っ!?」
ピシッという分かりやすい音に、二階の男たちはようやく異変に気付く。
その瞬間、
ドゴォッ!!
二階の床は崩れ、先に気絶していた男たちも合わせて一階へと落ちていった。なんとか下敷きを逃れた一階の四人の男がその光景に驚愕の表情を浮かべる。
「あまり派手なことはしたくなかったんだけど、銃を避けながら魔法を紡ぐのは少し大変だから。ま、でも落ちただけだし死にはしないでしょ」
軽く言ってのけて、シリスはゆっくりと残った男たちへと向き直った。
「こ、この化物がっ!」
「じゃあ、わたしを殺そうとするあなたたちはなんなの? 正義の味方?」
呆れたように肩をすくめてから、シリスは視線を鋭くした。
「人を化物呼ばわりできるほど、正しい人生生きてるの?」
歩き出す、男たちに向かって。
「こ、この、このぉ!!」
カタカタと震えながら、四人の男が銃を構えた。だが、その時にはもう魔法は完成していた。
「――蒼き雷光、贖罪の光りよ――」
――瞬間、音もなく貫いた光が男たちを床に倒れさせた。
「牢屋で人生を見直すことね」
気絶した男たちを見ることもなく、シリスは背を向けて反対方向へと歩きだした。




