―― シリス・フィル・レイティーナ 一年前 ―― 1
『化物の女王』と呼ばれるのも慣れてきた――というより、気にしなくなったのはいつ頃だろうと思う。
(というより)
気にしなくなったのはいつ頃、なんて思い浮かぶほどには退屈になったのだろう。一年前くらいまでは、そんなことを気にする余裕など微塵もなかった。
それほど忙しい日々を――周りの人間は『忙しい日々』で片付けられるような日常ではなかったというだろうが――そんな忙しい日々を過ごした結果、化物の女王と呼ばれるようになったことは、
(おかしなものよね)
と、納得はしつつも多少の不満もある。
自分はなんとも厄介な立場にいる。魔法使いを化物と見ている人間からは『化物の女王』と言われ、化物と言われている魔法使いからも『化物の女王』と呼ばれていた。
ただ、呼び方は同じでも、それぞれの立場によってその名の意味は違っていた。魔法使いじゃない人間の場合は単純に魔法使いの中で――化物の中で一番上だからという意味で呼ばれ、魔法使いからは本当に化物じみているという理由で化物の女王と呼ばれている。
(どれだけよ、わたしって)
そんなに真正の化物なのかと思ってしまう。自分で意識したことなどないし、望んだことでももちろんない。そもそも今いる場所は自分が選んだ道でもない。
それでも、
(おかしなものよね)
呼び名に不満はあっても、自分が立っているこの場所に不思議と不満はない。
やることがある。やらなきゃいけないことがある。そう思えた時、自分の居場所に不満はなくなった。
(どこにいたって、わたしはわたしの生き方をするだけだからね)
化物の女王と呼ばれるのなら、もちろんその役目と責務は化物たちを統率し守ることにある。大いにそうしてやろう。
(やれるだけ戦ってやろうじゃない。愛しき『化物たち』を救う為にね)
すでに行動は起こしている。後は、どれだけ人が集まり、人を育てられるか――
「――失礼します」
思索を止め、空を眺めていた窓から振り返る。
「政府から研修生の資料が届きました」
「そ。ありがとう」
研修生については何度も話し合って――自分は賛成だったのだが、市役所の人間が無駄に延々と話し合ってやっと決まった話だった。ということで、今更驚きはしないし新鮮さもない。
ただ、どんな子が来るのかは興味はあった。どうあれ同じ学園の仲間になるのだ。純粋に楽しみでもあるし嬉しくもある。




