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「ねえ、教えてよ。あなたのやっていることが正しいというのなら、何が正しいのか教えてよ」
その紅耶の雰囲気に気圧されながらも、大人の威厳の為か精一杯背を伸ばしながら蒼瀬源二は笑みを浮かべた。
「全てだ」
「…………」
「私は全て正しい。無知な子供にはわからないだろうがな」
紅耶とシリスは俯き――震える身体で拳を握った。
「……妻が死に、子供を滅茶苦茶にしておいて、何が正しいってのよ」
「違うな。あいつらは人間じゃなく魔法使いだ」
「…………」
「感謝してもらいたいものだな。人間じゃないと分かっていながらも、父として科学への材料に『してやったんだ』。これ以上の愛情がどこにある?」
「……そう」
――少しでも心を動かしてほしかった。全てを話せば、どれだけのことをしているのかを自分で気づいてくれると思った。
それが、いかに子供染みた発想かも分かっていた。でも、子供だからこそ信じたかった。最後の最後まで、人は善い方向へ変わるものだと信じたかった。
でも、変わらなかった。
――子供の叫びは、いつも大人には届かない。
「――――」
拳を握り締め紅耶は思う。
昔ならこの場の全員を皆殺しにしていただろう。そうしてはならない理由はなく、我慢する必要もなかった。
爪が肉に食い込む。痛さすら感じないその拳――殺す準備はいつでもできていた。
後は一線を越えればいい。簡単なことだ。それだけでいい。
――だが、
「――――」
奥歯を噛み締めシリスは思う。
昔ならこの場の全員を消していただろう。例えではなく、塵と燃やすことさえできた。
一言でいい。口を開けば、言葉が力を鮮明にし具現化する。自分の望むとおりにできる。
後は一線を越えればいい。簡単なことだ。それだけでいい。
――だけど、
それでもわたしたちは殺意という衝動に逃げることはしない。




