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もう止めたほうがいいのかもしれない――そんな考えが一瞬よぎる。リアを取り戻すだけなら簡単だった。全員を叩きのめせばいい。
だが、それだけでは、なんの解決にもならない。理不尽を壊すというのは、力で叩き伏せることではない。
だからこそ、リアを傷つけると分かっていても言葉を続けなければならない。蒼瀬源二が少しでも変わる可能性があるのなら。変わってくれるのなら。
そう祈りながら、願いを込めながら……紅耶は言葉を続けた。
「自分の娘と……妻をも実験体にして、なにをしたかったの?」
「っ!?」
蒼瀬源二の後ろで、リアが身体を震わせた。
できれば外れてほしかった……だが、病死となっていたリアの母親の死には不審な点が多かったことから確信もしていた。
そして、そのことからもう一つのことがわかった。
普通の人間なら実験対象にはしない――つまり、リアの母親も魔法使いだったことを。
「あなたが正しいというのなら、教えてよ。そこまで魔法使いを嫌悪して、何を求めていたのか」
正しいという言葉を聞いて、蒼瀬源二の表情に少しだけ変化が起きた。
科学者の性ともいうべきことかもしれない。自分が正しいことを証明しろといわれれば、反応せざるを得ないのだろう。
「……人類は今まで科学で成り立ってきた。そして、これからも科学で成り立っていく。魔法などという、非科学的なものは不必要なのだよ。魔法が科学を上回ってはならない」
続けて、蔑むように蒼瀬源二は吐き捨てた。
「お前は魔法使いではないだろう? なら分かるはずだ。何もないところから火や水や雷を発生させるという異様さを。このおかしさを認めてしまえば、今までの科学は全部壊れかねない。科学で成り立った世界を壊しかねないのだ」
「――だから魔法使いを恐れた」
紅耶の一言に、蒼瀬源二の瞳に再び憎悪の光が灯った。
「……なんだと?」
「自分の信じてきたものが崩れるのを、科学万能という自分の思想が壊されるのをあなたは恐れた。だから、魔法を憎んだ」
「黙れ」
「認めれば簡単なのに、認めてしまえば自分の生きてきた道が全て否定されてしまうような気がして認めることができなかった」
「黙れ、子供が」
「でも、それで人体実験してもいい理由にはならない」
「黙れといっているだろうが!」
蒼瀬源二は声を張り上げた。
「子供は黙っていろ! 私の正しさなど分かりもしないのに、知った風な口を聞くな!」
「あなたの何が正しいのよ」
紅耶は、静かに……本当に静かに囁いた。




