―― 詩鳳紅耶 一年前 ―― 6
「わたしは……」
決意する。結局、こうすることしかできない自分の無力さを噛み締めて、覚悟を決める。
「特別魔法対策課の人間よ」
「っ!? おい、てめえら、『潰すぞっ』!!」
男の言葉と共に不自然な風が空から地面へと吹き始めた。魔力なるものがどういうものかは分からないが、感覚なら知っている。この感じは魔法を発動する前兆だ。
ぐっと奥歯を噛み締める。この男たちは、たった一人の女の子に向かって魔法を使おうとしている。殺しはしないだろうが、傷つけるくらいの。
そういう心理状態になってしまっているのも理解できないことはない。『ここ』に居る限り、魔法使いじゃない人間は全て敵になる。一度魔法を使ってしまったその時点で、もう逃げ道はない。
それは分かる。それでも――
「そうだよね。でも」
少女はふっと力を抜くと、そのままふわりと微笑んだ。
「人の命は守る。単純でしょ?」
「黙れっ、お前は!!」
「同じ人間よ。だから、あなたたちが殺されるようなことはさせない。魔法で人を傷つけるようなことはさせない」
魔法を使えば殺される理由を作ることになる。
(もう二度と殺させない――殺さない)
だから、
「絶対に守る」
少女はもう一度『守る』という言葉をいった。伝わらなくても、何度でも。
そして――
「……聞こえる?」
捨てた無線を拾いイヤホンを付けると、少女は普段通りに口を開いた。
「終わったよ」
『あれぇ? 早いね~、もう終わったの~~」
「うん、終わり。だから、雑音消してくれる?」
『は~~い。んしょ……と』
声がクリアになり、いつもの間の伸びた緊張感のない声が綺麗に聞こえてくると、そのまま続けて尋ねてくる。
『にしても、早かったねぇはんちょぉ~~。相手弱かった~~?』
「ん、まあ、いつも通りだったかな」
『何人~?』
「八人。って資料見てなかったの?」
『だって、はんちょぉなら何人いたって大丈夫じゃん~~。八十人くらいでもいけるよぉ~~』
「いいから、報告しといて。もう終わったって」
『やだ、嫌味いわれるもん~~。はんちょぉよろしく~~』
あっさりと断られ、無線が切れる。そのことに苦笑し、少女はイヤホンを外した。
班長なのに班長扱いしないのは、上司を上司とも思っていない自分に似たのだろうかと思ってしまう。まあ、自分としてもそのほうが楽なのでいいのだが。
(どうせ、連帯責任で嫌味言われるだろうしね)
そんなささやかな仕返しを心で呟きながら、もう一つの無線のスイッチを入れる。
「こちら、研修生第三班。魔法による傷害の容疑がかかっている八人を拘束しました」
「おいっ、どうなっているんだ! きちんと説明を――」
言葉の途中で無線のスイッチを消す。
どうせ後で嫌味を聞くなら、少しでも減らしておいたほうがいい。そんな多少の満足感を得て、後ろを振り返る。少女の後ろには、気を失い倒れている八人の男たちがいた。
この男たちは『助けられた』などと思っていないだろう。反対に、恨みに思っているはずだ。
(それでも)
傷つけられることはなかった。殺されることはなかった。今はそれだけでいい。生きているからこそ、恨みも思える。死ねばそれで終わりなのだから。
人を助けたいとか思ったことはない。正義の味方だとも。
ただ、命を守ろうと思った。恨まれても、憎まれても。




